第27話 吾郎丸さんはスパイ?
天飛さんと自宅に帰ると玄関を入ったところに暁刀さんと愛斗さんが待っていた。
「リンリン! ケガなかった?」
「凛子さん。身体は大丈夫でしたか?」
もう、私が襲われたことを暁刀さんも愛斗さんも知っていたのか。
ヤクザさんって情報が回るのが早いんだね。
「私は大丈夫です。擦り傷ぐらいでしたから」
心配してくれる二人にたいしたケガはしていないと伝える。
しかし暁刀さんと愛斗さんの目つきが鋭くなった。
「擦り傷……僕のリンリンに傷つけるなんてどこのモンよ! 許せないわ! 絶対、沈めてやるわよ!」
「私たちの大事な義妹に傷つけた落とし前はきっちりとつけさせてもらいます!」
なぜか暁刀さんと愛斗さんはかなりお怒りの様子。
もしもし、擦り傷なんてケガしたうちに入らないと思うんですけど。
襲われなくたって転んだりしたらそれくらいのケガをするでしょうが。
だが今にも目の前の二人は私を襲った犯人たちを殺しに行きかねない表情だ。
自分の義兄たちが殺人をして逮捕されても困る。
「ほ、本当に、大丈夫ですから。そんなに怒らないでください」
「凛子を襲った奴らは雨海藤組の奴ららしい。いずれ奴らとは決着をつけなければなんねえ。だが、まだ証拠が吾郎丸の目撃情報だけだ。それだけで戦争は始められねえからお前らも自制しろ」
私が怒らないで欲しいと伝えた後に天飛さんが言葉を続ける。
すると暁刀さんと愛斗さんが溜め息を吐く。
「タカ兄がそういうなら今すぐ奴らを沈めるのは勘弁してあげるわ」
「私も天飛兄さんの指示に従います」
どうやらすぐに天昇火風光会と雨海藤組の抗争が始まるのは回避できたようで私は胸を撫で下ろす。
「雨海藤組の奴らへの対応のことで暁刀とは話があるから暁刀は俺の部屋に来い。凛子と愛斗はもう自分の部屋で休んでいろ」
そう言って天飛さんが自分の部屋に向かうと暁刀さんもその後ろをついて行ってしまった。
う~ん、雨海藤組との抗争を回避できたと思ったんだけど違うのかな?
でも私はこれ以上、口は出せないし。
「凛子さん。部屋まで送ってあげます。後は天飛兄さんと暁刀兄さんに任せておけばいいですよ」
「え? あ、はい……でも自分の部屋はもう覚えているので自分で戻れますから送ってもらわなくて平気ですよ、愛斗さん」
「いえ、そうはいきません。凛子さんの情報が漏れたとしたら敵は身内に潜んでいる可能性もありますから」
愛斗さんはメガネを指でクイッと上げて真剣な顔をする。
それって天昇火風光会の内部に雨海藤組のスパイがいるってこと?
でも今日、私が天飛さんのいる組事務所に行ったのは天飛さんにお金を返そうと急に思い立っただけなんだけどな。
その情報が漏れて私が襲われたなら予定変更したこと知ってるの運転手の吾郎丸さんだけじゃん。
え? まさか吾郎丸さんがスパイってこと?
でも吾郎丸さんもたんこぶとはいえ一応ケガしてまで私を助けてくれたしそれはないか。
それにスパイってもっと頭の良さそうなイメージあるし。吾郎丸さんみたいなお気楽ヤンキー犬には務まらないよね。
あ、そうだ! 天飛さんにお金を返しに行かなきゃ。
「すみません、愛斗さん。私、天飛さんに渡さないといけないものがあるので天飛さんに渡して来ます!」
「あ、凛子さん!」
愛斗さんの声が聞こえたが私はそれを無視して廊下を小走りで天飛さんの部屋に向かう。
天飛さんの部屋は屋敷の奥の方にある和室だ。
ここが天飛さんの部屋だって吾郎丸さんが案内してくれた時に言ってたよね。
暁刀さんも部屋の中にいるのかな。
天飛さんと暁刀さんは雨海藤組への対応で話し合いをしているはずだがそれがいつ終わるか分からない。
私は明日は大学に行かないとなので話し合いが終わるまで待って夜中になったら朝起きるのが辛くなる。
二人には悪いが少しだけお邪魔して天飛さんにお金を返させてもらおう。
そう思った時に天飛さんの部屋の中から声が聞こえた。
「なるほどね。タカ兄は吾郎丸のことも疑ってるのね」
声の主は暁刀さんだ。
え? 吾郎丸さんを疑うって、やっぱり吾郎丸さんがスパイだと天飛さんも疑っているの?
私は思わずその場で動きを止めてしまった。




