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帝国軍

 帝国が21年ぶりに帝国軍を編成してまでポルトヴィク王国に侵攻したのはなぜか。それは、ポルトヴィク王国軍5000人が帝国領のスルヴァール王国に突如として侵攻してきたことに端を発する。これはスルヴァール王国軍によって撃退された。

 これに対する懲罰を目的とした帝国軍の編成が枢機侯会議で可決され、ポルトヴィク王国に侵攻することになった。帝国に手を出せばはるかに大きな打撃を被るということを内外に示さねばならない。それが帝国の安全保障の原則なのである。

 だが、帝国軍の前には小部隊が出現するのみで、ポルトヴィク王国の本隊らしきものは全く見当たらない。こうして、帝国軍はポルトヴィク王国の深くに引きずり込まれていった。

 大公らは、この状況を是としていない。敵地深くに侵攻することが愚策なのは明らかである。だが、帝国軍を編成しておきながら決定的な勝利を得ることもできずに撤退するのは沽券に関わる。


 沽券か危険か。

 「斥候が戻ったら結論を出す。敵本隊を発見したらこれを全力でたたく。発見できなかった場合は撤退する」

 「いいのか、大公。勝利なく戻れば皇帝の不興を買うぞ?」

 「ポルトヴィク王国の村々は貧しく、食料の確保にも不安がある。この状態で敵国の深くにとどまるのは愚策だ。撤退によって敵の攻勢を誘うこともできるだろう」

 皆あえて口にしないが、そもそもこの遠征には戦略目標というものが存在しない。スルヴァール王国侵攻に対する懲罰として大軍を送り込んだというだけなのだ。「これを達成せよ」という明確な目標は与えられていない。

 これだけの規模の帝国軍を編成するなら、名目上の総司令官に大公を任じるのはよいとして、それを補佐する実質的な司令官を老練な諸侯が務めるものだ。皆、ニークリット公あたりを軍監として大公に付けると思っていた。ところが、帝国軍司令部の人事は20代前半の若手ばかり。

 何よりも不審なのは、結果を重んじる皇帝が侵攻の目的を示さなかったことだ。この曖昧模糊とした遠征軍を率いて何を成してくるのか。皇帝に試されているような気がして、大公らはゲンナリしていた。

 ポルトヴィク王国を滅ぼせるほどの兵力ではない。一定の領土を確保するにしても、敵軍と一戦して領土の割譲を迫らねばならない。結局、会敵しなければ話が進まない。


 日没後も斥候は戻ってこなかった。

 「さすがに遅過ぎますな」とナルファスト公が眉をひそめた。

 「これは何かあると思った方がよいな」とストルペリン伯も同意した。

 「全軍、夜襲に備えよ。夜明けとともに帝国方面への撤退を開始する。まずはカーリルン公が守っているバンフェチャヌ城まで下がる」

 バンフェチャヌ城は複数の街道が交差する交通の要衝にある城である。その東側にはドニエレプル川という大河が流れている。バンフェチャヌ城を抑えれば、ドニエレプル川を自然国境としてポルトヴィク王国の西部を帝国の勢力下に置くことができる。5万を超える帝国軍を出した成果としては物足りないが、最低限の戦果は挙げたと言っていい。




 だが……。

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