雨の日・2
オタクなので好きなネタは何度も擦るやつですすみません(記憶喪失でもやったネタです)
クラウドにとってカリンは誰よりも、いやなによりも優先すべき大切で最愛の存在だ。
そしてエリアスもまた同じくらいクラウドにとっては大切な相手となっている。
そんな二人が真剣に頭を悩ませている。叶うことなら、その悩みを解消する手助けをしてやりたい。
「殿下も一緒に考えてくださる?」
カリンがそう乞うてくる。当然二つ返事で了承する――はずだった。
何事にも限度というものがある。いや、この場合は理解の限度についてだが。
「雨に濡れて増えたお姉様を、どう分配すればいいか答えが出ないの」
クラウドが遠い目をしたところで、一体誰が責められようか。
突っ込みが追いつかない。
予想などできようはずもないカリンからの問いだ。いっそ冗談であってくれればクラウドも悪ノリできたものの、カリンの表情は至極真面目である。エリアスも同じように真剣に考え込んでいる。軽く眉間に皺を寄せ、口元に片手を当てるのは思案する時のエリアスの癖だ。
おかげでこの問いが兄妹なりの冗談、などではなく、丸っと全部本気も本気の問いかけであるのが嫌でも理解できてしまう。
クラウドの妹、第二王女のジュディスのドレスの採寸でレナはこの場にいない。
レナを待つ間、カリンとエリアスは兄妹水入らずで別室で小さな茶会をしており、そこへ先に政務を片付けたクラウドが訪ねてきたわけなのだが。
うっかり一人で来てしまったことをクラウドは悔やむ。ああでも万人が認める頭脳明晰で眉目秀麗なシュナイダー兄妹の、こんな残念な姿を見られずにすんだのは僥倖かもしれない。犠牲になるのはクラウド一人ですむ。
「まずはお姉様の実家に一人でしょう? その次はヘルガとルカ。お店にも一人……ううん、二人くらいいた方が、それぞれのお姉様が交互に仕事を休んでゆっくりできると思うの」
「レナのことだから、二人で別の仕事を引き受けてきそうな気もするけど」
「じゃあもう一人必要ね! 誰か一人は絶対お休みする役で、その役目を順々に交代していけばいいわ!」
「あとはモニカにも?」
「……モニカがどうしてもって言うならあげてもいいと思うけど……でもモニカは隣とはいえ国が違うもの……お姉様が遠くに行ってしまうのはイヤ」
「じゃあモニカにこちらへ来てもらうようにしよう」
「そうね、それならモニカにも一人あげましょう!」
互いに向かい合って微笑み合う兄妹はとても楽しそうだ。全くもって話の中身は理解できないが。
まずもって話の前提から理解できない。なんだ「雨に濡れて増えたレナ」とは。
近付こうにも近付けず、クラウドは兄妹から少し離れた位置にあるライティングデスクの椅子を引きそこに腰かける。
「殿下? どうしてそんな所にいらっしゃるの? こちらに来て一緒に考えてくださらないと!」
我が儘と呼ぶにはあまりにも可愛すぎるカリンの言葉だ。普段であればにやけそうになるのを耐えるのに必死になるクラウドだが、今に限っては眉間に皺を寄せないようにするのにその力を割いている。
「……殿下もお姉様が欲しい?」
「いや、その気持ちだけで充分だ」
話の中身を理解する前に反射的に言葉が口から飛び出た。
カリンは一瞬きょとんとした顔をするが、すぐに嬉しそうに顔をほころばせる。
ああ、とクラウドはこれは即座に理解した。
レナの分け前が減らずにすんだと喜んでいるのだということを。
「あ゛ー……の、な……二人は一体なんの話を……しているんだ?」
突っ込んだら負けだと分かっていながら、それでもこのまま放置していてはずっとこの話が続くだけで、それは即ちクラウドの気力がゴリゴリと削られていくことになる。
できればそれは避けたい。とても避けたい。全力で避けるしかない! ということで、泣く泣くクラウドは話を振った。
「お姉様が雨に濡れて、増えたらどうしましょうって話です」
やっぱり微塵も理解できない。
眉間に皺が寄る代わりに、クラウドは堪らず溜め息を吐く。その反応にエリアスは苦笑を浮かべた。
「すみません殿下。ちょっとした与太話なので、聞き流していただければ」
言われるまでもなく与太話なのはクラウドだって分かっている。
けれども、そうクラウドに言った身でありながらまたしてもエリアスは真剣に考え込むし、カリンにいたってはテーブルの上に広げた紙になにやら書き綴っている。
おそらく、いや間違いなく、現時点での配分を確認しているのだろう。雨に濡れて増えたレナの。
誰か助けてくれ!! という、そんな切実すぎるクラウドの祈りが天に届いたのか、ここで救いの主が姿を見せた。
「二人とも待たせてごめんなさい……って、殿下もいらっしゃったんですか!? 殿下までお待たせしてしまって……」
「俺も今来たばかりだから気にしないでくれ」
謝罪をいれるレナを制して、クラウドは疲れ切った笑みを浮かべる。
そんなクラウドにレナも異変を察したのか、チラリと兄妹へ視線を向けた。
「……二人ともなんの話をしていたの?」
おそるおそる問うレナに、カリンは花の綻ぶような笑顔とともに剛速球を投げつける。
「お姉様がね、雨に濡れて増えた時の話よ!」
「――まだそれ諦めてなかったの!?」
ライティングディスクに肘を突いていたクラウドだが、レナのその突っ込みにズルリと机上から肘が滑り落ち、盛大に腕をぶつける。
「だってその話、二人がうちに来て一年くらいしてから……え、五年!? もう五年くらい経ってるのに、今もそんな話してるの!?」
「お姉様の実家と、ヘルガとルカと、工房に三人、あとモニカまでは決まったんだけど、他にどこかあるかしら? あ、殿下は大丈夫ですって」
「でしょうね!」
「これで六人だから……この辺りが限度かな?」
「じゃああとはお兄様とわたしで半分でいいかしら?」
「そうだね、俺とカリンで半々にしようか」
「待ってそれ私一体どれだけ分裂してるの!?」
突っ込むべきはそこじゃない、と叫ぶ気力すら最早クラウドにはない。
痛む腕をさすりながら、デスクの上に額をのせてひたすら脱力感に耐えるしかなかった。
本日2巻が発売です!オール書き下ろしのハピエン中のハピエン話です!
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