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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第四章 王位継承者
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第八十三話 惨い現実の後

巨大王城、グレーステ・シュテルケの中層部分より、地平線に向けて赤黒い光が突き抜けていく。

進路上にあるありとあらゆるものを破壊して灰にしてしまうその威力は、もはや一個人が放った術式とは思えないほど。

発射地点にいたらどうなるかなど考えるまでもない。

空と大地の間に穴を空けるようにその光がねじ込まれていく。


鉄仮面が一人佇むその区画には、もう彼に抗う者は見えず。

魔装・銃剣ザイテンゲヴェールを向けられていたセトたちの姿はどこにもない。

鉄仮面は思う。

終わったと。

自分に仇名す存在は全て消え去った。


後は、転がっている雑兵の始末とライブラ王子の首を取れば自分を知る者は、アズラともう一人だけ。

二人とも居場所は分かっている。こちらから出向いて始末するだけだ。

蹴散らされ、息絶える雑兵を見下ろしながら呟く。


「終わっテみレバ呆気なイ、二個小隊近く殺したか? クク、エールたちとゼヴが羨まシがるナ」


地面に転がる死屍累々を踏みつけ、鉄仮面は本来の目的であるライブラ王子を探す。

周囲を見回すとすぐに王子の姿を見つけた。

まだ息のある騎士たちに癒呪術式を施している。

あの歳で三導系の術式を扱えるということは、英才教育を施されそれに見合う才能をライブラが持ち合わせていたのだろう。

それだけ優秀な王族。

だが、そんなことは鉄仮面にはどうでもいいこと。

むしろ、優秀であればあるほど殺す価値が出てくる。


エネルギーを使い果たした魔装・銃剣ザイテンゲヴェールの代わりに、魔装に変質した剣を構える。

もう止める敵のいない道を堂々と歩きながら、ライブラの目の前に立ち

7人目の首を祖国に捧げるため、ライブラの首に狙いを澄ました。

もう逃げようともしないライブラは諦めてしまったのか、鉄仮面をジッと見てピクリとも動かない。

傷つき倒れ伏す騎士たちが逃げてくれと懇願するように呻く。

それはもう敗者の声だ。

剣を振り上げ首を斬り落とそうとしたその時。


「・・・いナイ。アノの手駒が消えタ」


ある騎士がいないことに鉄仮面は気付く。

魔装・銃剣ザイテンゲヴェールで瀕死にしたとはいえ。一撃で死ななかった敵。

そいつがいなくなっている。

すぐさま周囲を警戒し気配を探る。

空間を魔力で満たしていきいぶり出していく。


「驚いタナ、半数近くガ生き残ってイる」


魔力による感知によりまだ生きている人数を正確に知った鉄仮面は多少だがライブラ王子の連れてきた者たちの評価を上昇させた。

すぐに死ぬ命だが。

そして、その中に一際大きな反応を放つ存在が一つ。


「ソコか」


魔力の斬撃がその反応のあった場所に飛び直撃する。

土煙と土砂が舞い散り反応が途絶した。

だが、土煙が僅かに動く。

その揺らぎを鉄仮面は見逃さない。

魔力の斬撃と無数の土の槍を徹底的に叩き込む。

数百という土の槍が土煙をかき消し、より大量に新たな土煙を生み出しながら、攻撃を激化させていく。


徹底的に。

徹底的に。

完膚なきまでに。


もう正体はバレている。なら、出し惜しみする必要がどこにあるとその魔力による攻撃を最大限に叩き込んでいく。

それだけの徹底された攻撃に対して。


彼は。

ファルシュは。

剣術一つで防ぎ切り、反撃に出た。

傷を闘気で塞ぎ、気配を消して逆転のチャンスをひたすら待っていた。

だが、事態はチャンスどころかさらに悪化し敗色濃厚となっている。

だから、彼は残しておいたライブラを死守するための力を今ここで使う。

勝つために。


土煙から飛び出したファルシュは一直線に鉄仮面に接近し激突した。

剣と剣が激しく火花を散らし、両者の目が交差する。

剣術と術式。

その両極端の技が激しくぶつかり合う。

同じ剣でも行使されるその全てが異なる戦い。

魔力の切れ味と鉄のしなやかさが競い合っていく、それは誰も見たことのない戦いだ。


「ファルシュみんなの仇を!!」


ライブラが叫ぶ。

セトたちが殺された今、鉄仮面を倒せる可能性があるのはファルシュだけだ。

彼に全てを託していき勝利を祈る。

だけど、もう託すしかないのに、ライブラはまだ諦めきれなかった。

セトが、エリウが、みんながやられてしまったなんて。

この目で見た今もまだ信じられない。


赤黒い光が直撃し、青白い光に包まれ消滅してしまったセトたち。

その光景がまだハッキリと目に浮かぶ。

絶望が押し寄せてくるのが感じ取れるほどの光景。

そんな光景を見てもライブラは何故だか諦めがつかない。


最初にあの攻撃を見た時と違う気がするのだ。

何かが違う。

何かが。


ライブラの疑問を余所にファルシュと鉄仮面の戦いは激しさを増す。

ファルシュが剣で突こうものなら、鉄仮面は魔力の壁を生み出し相殺してくる。

互いに一歩も引かぬ攻防。

そんな中、ゆっくりとそして確実に魔装・銃剣ザイテンゲヴェールのエネルギーが溜まり始めていた。


「ヌンッ! 余り時間がないか」


「クハハ、 心配ごトカ? 余裕だナ」


魔装の先端から白いエネルギーが周囲の魔力が取り込まれていく。

この魔装・銃剣ザイテンゲヴェールは周囲の魔力を根こそぎ吸い取ることで、自身の最大魔力を遥かに上回る破壊力を生み出すことができる。

極小の制御で極大の破壊を行使できるのだ。周囲に魔力がある限り何度でも。


その魔装を剣との連撃に織り交ぜる


「グウッ!!」


赤黒い光の玉がファルシュの胴体を掠める。

ほぼ勘でかわしたファルシュは体勢を立て直そうと後ろに跳躍した。

今まで、チャージに時間がかかる攻撃だと認識していたが、それはフェイク。

チャージ時間は威力の増減に影響するだけで、直ぐにでも攻撃できる。

ファルシュは、皆は、まんまと騙されていた。


胴体から血を流しながら地面に着地するが、すぐに鉄仮面が動く。


「キサマほどノ騎士なら避けルト思ってイた。ダカら、そこニ罠を用意シテおいた。大量ニナ」


地面から白い光が漏れだし、ファルシュを取り囲んでいく。

ファルシュの飛んだ位置。ここは、そう鉄仮面が土の槍を大量に撃ち込んだ辺りだ。


「・・・ッ!!」


ファルシュは防御ではなく、攻撃態勢を取り鉄仮面に向けて突撃する。

それと同時に地面が起爆した。

足元からの攻撃。剣術でも対処のしようがない。

地面が抉れ、瓦礫が吹き飛び、剣が落ちて地面に突き刺さる。

それはファルシュが剣を離したことを意味する。


「クク・・・」


体の底から笑みが零れる。


「クハハッ!」


それは暴虐と破壊の限りを尽くした邪悪な笑い声。


「クハハハッ! ハハハハハッ、アーハハハッハッ!! 上位騎士モ、神官も、王宮術式も、全テ! 全て無駄! キサマはワタシに殺さレるノダ。ライブラ王子」


全てを葬り、鉄仮面が迫る。

ライブラは立ちすくんだまま逃げ出すこともできない。

・・・いや、しない。

逃げ出したりなどしない。

だって、まだ終わっていないから。

鉄仮面の真正面で青白い光が集まり、それは飛び出した。


「ヤァァァァアアアッ!!」


剣が紫と黒の闇のような鎧の中心、狼の横顔と盾の紋章のど真ん中に突き刺さる。

鉄仮面の真正面から堂々と超近距離で、最大速度の最高値で駆け抜ける。


「キッ、キサマは!!? バカな!! ドコから現れタ!?」


剣を捨て、自分の胸に突きつけられた剣を握り締める。その必殺の一撃をなんとか押し止めるが。

彼の。

セトの勢いを止めることができず足が地面を滑っていく。


「ガッ!? ぐ、キサマ・・・、キサマが! キサマがワタシの敵!!」


魔装・銃剣ザイテンゲヴェールをセトに向けゼロ距離攻撃を仕掛けようとする。

暴発の危険を無視し目の前の敵をすぐにでも消すことに全力を注ぐ。

だが、それを彼女が許しはしない。


「ウニャァアア!!」


エリウが鉄仮面の左腕にしがみつきそんなことはさせないと全力で阻止する。

両腕を防がれた鉄仮面は迷わず魔力の刃を生み出した。

セトとエリウ目掛けて殺到する死の雨を障壁の神術で食い止める。


「これで終わりだ」


神官ヴェヒターが青白い光から現れる。

それを見た鉄仮面が驚愕の表情をした。


「転移の神術!? 祭壇ノ補助も無しニ! キサマはッ、ッッ!!?」


その一瞬に鉄仮面の右腕が肩から切断された。

見えない攻撃。姿が消えているのではない。本当に見えない、感じ取れない攻撃が。

鉄仮面を襲い。

そして、セトの剣を止める術を失った鉄仮面の胸に、剣が深々と突き刺さった。


鉄仮面から力が消え、大の字に倒れ込む。

セトは鉄仮面の上から剣を突き刺したまま動けないでいた。

剣を握り締めたまま、動かなくなった敵を見つめている。

セトの心に空白が広がり、目の前の出来事をどう処理していいか脳が誤作動を起こしている。

そんな彼の所に。


「セト勝ったニャー!!」


「わっ!」


エリウがセトに飛びつく。喜びを爆発させてセトに思いっきり抱き着いていく。

喜びを吐き出すと同時に、彼女の目から涙も溢れてきた。

それは、別れを告げる涙。


「勝ったニャ。みんなの仇とれたニャ・・・」


「うん・・・」


「ニャぅ、うう、ぐす、うぅ・・」


長い。

長い殺し合いが終わった。



----------



鉄仮面の死体は鎧の騎士団の別動隊が回収し厳重に保管することとなった。

セトたちと共に戦った隊はほぼ全滅という悲惨な結果になってしまったが。

敵を打ち取ったことがせめてもの手向けになったと思いたい。


ファルシュはあの攻撃で重症を負っていたが、命に別状はないようだ。彼の実力なのか生き残るのに才能を感じる。

ライブラ王子と護衛のファルシュに見守られながら一人の騎士が運ばれていった。

鎧の騎士団総隊長リューベの遺体が丁重に運ばれていく。

セトはその遺体を運ぶのを手伝った。

手伝わずにはいられなかったのだ。

彼が自分を庇ってくれなければ、自分は死んでいただろう。

あの時、セトが生き残るよりもリューベが生き残った方がまだ戦いが楽だったはずだ。

そんな考えが浮かんでは消えていく。


戦いに勝てば嬉しいはずなのに、なぜ、こんな喪失感が広がっているのか。

セトは。

セトは分かっている。

たった一人のために、大勢、大勢の人が死んだのだから。


鎧の騎士団だけじゃない。

セトたちアプフェル商会からも犠牲者が出ている。アプフェル商会の護衛担当から3人もだ。

これは鎧の騎士団がここまで防いでくれたから、この程度で済んでいる。

それでも、セトとエリウ、護衛担当で生き残ったランツェには辛い現実だった。

そんな彼らにヴェヒターが声を掛ける。


「ここで悲しんでいても死んだ者は喜びません。君たちもルフタ殿を見習い未だに傷つき倒れている者を助けたらどうですか?」


ヴェヒターの言う通り、ルフタはまだ傷が完治もしていないのに傷ついた騎士たちの治療に参加している。

亜人の治療は受けないと断る騎士もいるが、ルフタはめげずに治療をしていた。


「ヴェヒター様。僕たち勝ったんですよね? でも、どうして・・・」


「これだけ失った者が多いのか、と」


「はい」


セトは納得できないこの気持ちを吐き出していく。

余りにも、酷い結末だから。

それに納得できないと声を上げる。


「確かにこの結果は惨い。とても勝利とは言えない。戦争で言うならこちらが敗北している内容です。ですが、これが私たちが選択した結果であり、君たちが選んだ未来でもあるのです。それを否定してはいけませんよ」


「でも、やっぱり!」


「この結末の否定は、死んでいった者を否定することになります。それは生き残った君がしてはいけないことだ」


ヴェヒターが語気を強めてセトを叱咤する。

それは彼の耳に響き、脳に理解を促す。

セトはヴェヒターの言葉を反復した。


(生き残った僕がしてはいけないこと・・・)


セトはその意味を考える。

深く、その真意を理解できるように。

これだけ仲間が死ぬのが嫌だという気持ちと、それを受け入れたくないという思い。

でもそれを肯定してはいけない訳。

それはきっと、逃げてはいけないという簡単なこと。

この現実に、仲間の死から逃げてはいけない。


頭の中でセトが理解できる回答に納められていく。

そして、セトはすぐに行動に移した。


立ち上がりルフタの手伝いに向かっていった。

まずは、現実を受け止める。

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