第七十話 回想・まだ彼女と平和があって
ルフタは語っていく。
かつての若く何も知らなかった自分を。
ヴェヒターはそれを黙って聞いていた。
ルフタの青年時代は丁度、カラグヴァナ王国が亜人弾圧を行っていた時期。今は行われていないが、それは弾圧すべき対象が奴隷となったからだ。
それだけ、当時は酷かった。
自分たちの存在以外を認めない王国の姿勢、人の思想。
亜人にとっては悪魔と同じだった。
その中で、ルフタは彼女と出会った。
「その時である。川で黄昏ていた吾輩に彼女が、師匠が声を掛けたのだ。ノネ・デカダンス・メーディウム。神官長を務めた偉大な人である」
ノネのことを語るルフタはそれは嬉しそうに彼女のことを話していく。
彼女は、花が好きで、散歩が日課で、そして、亜人と人の違いに興味を持っていたと。
その姿は尊敬する姉を語るセトに似ているだろう。
それだけ、ルフタは彼女のことを尊敬していた。
「そうである! 師匠は元気にしておるだろうか? ジグラットを去ってからしばらくは手紙のやり取りはあったのだが、今はさっぱりなのだ」
「神官ノネは神官長を辞退したのち、行方を眩ませています。目撃報告はあるので生きておられると思いますが、今どこで何をしているかはこちらも分からない状態です」
「そうであるか。いや、生きておられるのならいい。生きていれば、また会える」
生きていればと口にするルフタはとても悔しそうな顔をしていた。
生きることができなかった仲間たちを思い出したのだろう。
「続きを話そう。吾輩が師匠に会ってからであるな・・・」
ルフタは再び過去の記憶を思い出していく。
辛い結末が待っている話を語っていく。
ノネという人物は、変わった人だった。
亜人を人扱いしないこのカラグヴァナ王国で、人と同じように接し語り掛けてくる。
当時のルフタは後で知ることとなるが、彼女は帝国出身で亜人に対して偏見を持っていないとのことだった。
ノネは鬱陶しいぐらいにルフタにあれこれと尋ねて来る。
「ねえ、君の名前を教えてくれないかな?」
「訳の分からん女に名乗る名など無い」
「まだ、若いのにおじいちゃんみたいな喋り方ね」
「博識なのである! おじいちゃんみたいではない」
「うふふ。博識なんだ? じゃあ、私の役職は何でしょう?」
「か、からかうな! それぐらい分かるのである」
挑発に乗ってしまったルフタは、全く知らないのに意地を張ってしまう。
彼もまだ若かったのだ。
「うふふ」
「うむむ・・・、し、神官殿であろう?」
「神官の?」
「うむむ・・・、し、神官の一番偉い奴である!」
「あら、正解」
「ふ、ふん!」
たまたま正解し胸を撫で下ろすルフタ。
対するノネはまだまだ引き下がる気はないようで。
「正解したからいいことを教えてあげる・・・」
ノネはルフタの耳元に口を近づけ優しく囁いた。
甘い吐息がルフタの耳にあたり、とろけるような声が耳から脳に達して。
「今はいているパンツは白だよ」
「ブフォ!!?」
白!? 白なのか!!
とろける声にルフタの頭の中はノネの白いパンツで埋め尽くされた。
一撃で彼の心の壁を破壊し洗脳することに成功だ。
さらに畳みかけるように。
「名前・・・、教えてくれたら、こっちも」
「ブハァ!!?」
ノネはその体にある二つの丘をさすりながら誘惑する。
神官がこんなことをしていいのか疑問であるが、いや、いいのだ。
エロいから許される。
「わ、吾輩は、ルフタ・・・。ハッ! ま、惑わされんぞ。邪な術を使いおって!」
「うふふ、ルフタ君ね。よろしくルフタ君」
「はっ・・・、うむむ・・・、わ、分かった、お前さんの要件は何であるか。話を聞くのである。・・・後、先ほどの件は内密に頼む」
「ふふ、いいわよ」
ルフタは早速、彼女に弱みを握られる形となった。
まあ、言いふらされてもルフタも男だと思われるくらいだ。大丈夫。威厳は地に落ちるが。
「聞きたいのはね、貴方たちの生活とか、考えを知りたいの。村に入れてもらえないかな?」
「それはダメである。よそ者は村に入れない掟なのだ」
「そこをなんとか」
「ダメなものはダメである。村の話ぐらい吾輩がするのである」
「パンツが好きなルフタ君が? し・ろ・い・パンツが好きなキ・ミ・が、お姉さんに、ナ・ニ・を教えるの?」
「グフゥ!!? ま、まて、内密にと」
「あ! こっちがいいのかな?」
「ゴフゥ!! わ、分かった。何とかしてみよう。だから、その・・・、クネクネ体をよじるのを止めんか!」
彼女は自由な人でもあった。
ルフタの立場などお構いなし。
自分の意見を押し通してくる。だが、それがなぜかイヤではなかった。
からかわれているルフタも、彼女に対しては不快な気持ちにはならない。
この感覚は。
心が癒されていると言った感覚なのだろう。
ノネには他者と軽く話すだけで信頼を得るようなそんな雰囲気があった。
ノネはツァーヴ族の村に到着するとルフタの制止を無視して自由に村の人たちと話し出す。
ツァーヴ族の村は、木造の家が十数件程度あり中央の調理場を囲むように並んでいた。
調理場と言っても原始的で焚き火と丸焼きにされたラット種が、ツァーヴ族の女たちの手で斬り捌かれている。
男は狩り、女は家事とこの辺りは人間と余り変わらない。
ノネのことをみな最初は警戒していたが、数回言葉を交わすうちに徐々に打ち解けすぐに仲良くなっていた。
これには、ルフタも驚いた。
奴隷狩りが頻発しているため、亜人のツァーヴ族は人に対して異常に警戒心を持っていたはずなのだが。
ノネはあっさりとその警戒心を解いてしまったのだ。
神官という職に就く人物は人と接し信頼を得るのは当たり前としている。
信頼がなければ教えを説くことは出来ないから。
ノネも神官として当たり前のことを当たり前のようにこなしているのだ。
ツァーヴ族のおば様たちと雑談ばかりするノネにルフタは目的を忘れていないかと心配し。
「お前さん、こんな雑談ばかりでなく早く目的のことを聞いたらどうだ?」
「ん? もう聞いてるよ? こんな雑談が目的なの」
「雑談がであるか」
「ルフタ、あんたもこんなしっかりしたお嫁さんを早く貰いなさい。同じ日に孵化したもんはみんな、お嫁さんをもらってるよ」
「吾輩はまた今度・・・」
おば様に結婚はまだかと聞かれたるルフタは言葉を濁しつつ退散する。
ノネは話を切り上げルフタの後を追って来た。
「ルフタ君、結婚しないの?」
「吾輩にはやらなければいけないことがあるのである」
「それはどんなことなのかな?」
「・・・男の誓いである。他人には言えん」
「あー、カッコつけちゃって」
ノネはツンツンとルフタの脇腹をつっつきからかう。
くすぐったい所を突かれたルフタは変なポーズを取りながら逃げ惑っていた。
その光景はルフタの誓いなど必要ないくらい平和だ。
そして、日が暮れはじめ。
ノネが村に来て一日目はすぐに終わりを迎える
「もう帰るのであるか、お前さんなら村に泊まって行っても誰も文句は言わんのである」
「ありがとう。でも、戻ってジグラットに報告しなきゃいけないから。また明日来るね」
「うむ。ではまた明日」
ノネは何度も振り返りながら手を振って去っていく。
明日も来るなら別れ惜しそうに帰ることないだろうにとルフタは思うのだが、これも彼女の良い所なのだろう。
ルフタは家に戻り床に就いた。
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次の日、村は騎士の足音で目覚めた。
村にいきなり騎士団がやって来たのだ。村の男たちはついにカラグヴァナ王国が攻めてきたと武器を手に取り騎士の前に立ちはだかる。
ルフタも手に槍を持ち、他の者たちに続いた。
「カラグヴァナが我らの土地に何用か!」
ツァーヴ族の男たちが声を上げ威圧する。
騎士団は、そんなツァーヴ族に対し涼しげに要件を伝えてきた。
「カラグヴァナ王の命により、今日を持ってこの平原地帯をカラグヴァナ王国領土に加えることとなった。その土地に住む者はいかなる種族であろうとカラグヴァナ王国の民として忠誠を誓い、その証として月1000王国金貨を納めよ」
「何を・・・、何勝手な事を言ってやがる!!ここは我らの土地だ。よそ者は今すぐ帰れ!!」
「亜人に拒否権はない。そもそも薄汚い亜人の分際でカラグヴァナ王国の民になれるのだ、感謝される覚えはあっても非難される覚えはないな。なぁ?」
「フフフ」
「ハハハ」
騎士はツァーヴ族を見下すように答える。おかしいのはお前たちだと。
亜人は黙って従えばいいと突き付けてくる。
その態度にツァーヴ族のみんなが激怒するなか、ルフタは冷静だった。
騎士の狙いが分かったからだ。
理不尽な要求に激怒し、騎士団に攻撃を仕掛けたツァーヴ族を王国の敵やら反乱者やらで罪状をでっち上げ一網打尽にする気なのが。
だから、ルフタはあえてこんなことを聞いてみた。
「そうか吾輩らはもうカラグヴァナ王国の民なのであるな。なら安心だ。みんな何を拒む必要がある」
「ルフタ!? 何を言い出すんだ」
「まぁ、聞くのだ。吾輩らはもう民として扱われるのだな?」
「そうだ。月1000王国金貨を納め続ければな。ククク・・・」
「では、騎士殿にお願いがあるのだ、騎士は王国を民を守るのが仕事であろう? 平原にいるシュタッヘルの群れに難儀していてな、早速、退治してくれ」
「ああ? たかが亜人如きが騎士に命令だと!? 殺されたいのか?」
「確かに亜人であるが、民である。キッチリ仕事をして吾輩らを守ってもらおう。今日の昼までに済ませてくれ。でないと狩りに出れんのでな」
「そいつを連行しろ。侮辱罪にしてやる!」
ルフタから予想外の返しに騎士は怒鳴るだけで言い返せない。
民が困っているから助けろと言うのは当たり前だ。
そして、騎士が要求した月1000王国金貨を確実に納入させるには、ルフタの頼みを聞くのが正しいプロセスとなる。
よって。
「そうだな。騎士団が退治してくれるまで昼寝でもするか」
「仮にも騎士なんだ。特別指定個体になったシュタッヘルでも問題ないだろ?」
「は!? 特別指定個体!?」
ツァーヴ族の男たちは次々に引き返し、騎士の狙いであった偶発的衝突が完全になくなった。
みんなルフタの狙いに気付いたのだ。
月1000王国金貨を納めたいが、騎士が魔獣を退治してくれるまでそれは不可能だと。
騎士が、亜人だけで何とかしたらいいと言えば。
なら、自分たちだけでやっていけるからお引き取り願うと返せるのだ。
武力で無理矢理奪うことはカラグヴァナ王国にとっては造作もないことだろうが。
それでは、自分たちが正義になれない。
他国との外交に影響が出るような手段にはでれないのだ。
なにより、今はその外部からの目がある。
「では、今日の昼までに頼むのである。できなければこの話は無しだ。民を守れない国に納める物はないのでな」
「こっんの、クソトカゲが!!」
激情した騎士が剣を抜きルフタに突きつける。
ルフタも槍を構えそうになるが、反逆罪をなすりつけられては堪らないと両手を上げる。
抵抗する意思はないと伝えるが。
「亜人が民なんかになれる訳がないだろうが! ムカつくことをペラペラと!!」
(どうする! 反撃すれば相手の思うツボである! どうすれば)
「はい、どーん」
「ぐひゃぁぁあああああああああッ!」
剣を抜いた騎士が突如現れた青白い体の魔獣? に吹き飛ばされる。
その傍らにはノネが佇んでいた。
そう、青白い体の魔獣はノネが召喚したセフィラ。
昨日言った通り、今日も彼女はやって来たのだ。




