第六十三話 面倒事に首を突っ込み
まだ、朝早いというのにセトとエリウの2人は王都を走り回る。
朝日の日差しが王都の外壁から漏れ出て、隙間より光の線が王都に降り注ぐ。
王都アプスは町が城に包み込まれている。
城の中に町があると言っていいだろう。それだけ城が巨大なのだ。
そんな城壁の中にある町の中を2人は、朝日の雨を受けながらディアを探して駆け回っていた。
ディアは情報取集担当だ。
アプフェル商会に必要な情報を手に入れたり、情報操作でこちらが有利になるようにするのがその仕事。
今はアズラの命令で王位継承者斬殺事件の情報をかき集めているだろうから、事件のあった路地裏か騎士団の詰め所にでもいるだろう。
セトはそんな感じにいそうな場所に当たりを付け探しに行った。
最初に事件現場の路地裏に向かう。
王都は事件の話題で持ち切りのようで、すれ違う人が全員同じ話をしている。
まだ犯人が捕まっていないからか、不安の声が多い。
エウノミアとの紛争中とのこともあって、もうすぐ全面戦争なのではと話が肥大化してしまっている者もいた。
この不安が肥大化していく状態こそが犯人にとって都合のいい展開なのだが、セトたちにはその思惑の片鱗にすら気付くことができない。
恐ろしいことが起こったから、みんな不安になっていると思うだけ。
アズラは感づいているようだが、彼女が事件と自身の関わりを隠しているため、セトたちには知りようもなかった。
走って15分くらいで事件のあった路地裏に到着した。
現場は騎士団が検分を進めている最中で見ることは出来なさそうだ。
「ここにディアはいないみたいだね」
「酒場にでもいるんじゃニャいの?」
「こんな朝からお客さんいるのかな?」
「酔いつぶれた奴がいるニャ」
「その人は事件のことを知らないと思うけど」
「ニャ、ニャハハハハ・・・、分かってて言ったのニャ」
セトとエリウは次の場所に向かう。
情報収集が得意ではない二人には、情報の手に入りそうな場所は見当も付かないが、それでも今は行くしかない。
どうしても彼の協力が必要なのだ。
次に来たのは騎士団の詰め所。
王都の中央にある巨大な柱、城の下層部と言える部分に騎士団の詰め所は置かれていた。
セトたちが詰め所にたどり着くと騒がしい声が聞こえてくる。
詰め所が人で溢れかえっていたのだ。
事件の情報を求めに来た人に門番の騎士が質問攻めにされている。
彼は門番なのだから知るはずがないだろうと思えるのだが、少しでも情報の欲しい彼らは手当たり次第に声をかけていた。
「みんな同じことを考えてるみたい。ディアがいないか探そう」
「分かったニャ」
二人は人混みの中をディアがいないか探していく。
ディアも出ていったばかりだからこの辺りにいそうな気がするのだが。
「いないニャ」
「どこ行ったんだろう? 裏手の方かな?」
「路地裏は危ニャいと思うんだけどニャ」
「それもそうだね。・・・!」
セトが詰め所を離れようとした時、その路地裏に血相を変えて走っていく男の子とそれを追うローブ姿の者たちが目に入ったのだ。
高貴な服とその階級を表しているであろう紋章をあしらった帽子を被っているのが遠目からでも分かった。
セトは思わず走り出す。
「どうしたのニャ!」
エリウも慌ててセトを追いかけた。
「男の子が追われていた。高貴そうな服と帽子を着ていて、変な奴に追われてた」
「それって、貴族か王族が追われていたってことかニャ?」
「たぶん。早く助けないと間に合わない!」
「ちょっと待つニャ!」
エリウはセトの腕を掴んで引き留める。
彼女はあることを警戒していた。
高貴な人物が路地裏で怪しい奴に追われいた?
どう考えても今回の事件と重なってしまうではないか。
万が一、事件の犯人がいたらどうするのかと思ったのだ。
「助けてどうするのニャ。というより、助けられるのニャ? あちしらは姉御を助けるためにディアを探しに来たんだニャ」
「そうだけど、見捨てることなんてできないよ」
セトの人の良さが裏目に出ていた。関わらなくていい面倒事に自分から首を突っ込もうとしている。
エリウは半分諦めたようにため息をついて。
「分かったニャ。付き合ってやるニャ。その代り、終わったらニャでて?」
エリウがセトにおねだりをする。
普段はこんなことはしないのだが、彼女は現在、発情期。
ちょっと甘えん坊なのだ。
「ありがとうエリウ。終わったらいっぱい撫でてあげる」
彼は発情期のことを撫でればいいと勘違いしているのかもしれない。
セトは路地裏へと急ぐ。
少し遅れてエリウも入って行った。
王都と言っても、路地裏は路地裏。
ゴミが無造作に置かれて、人の気配がない薄暗い道。
朝方の時間帯ということもあって、路地裏はかなり薄暗かった。
セトとエリウは、警戒をしながら進んでいく。
ゴミが蹴飛ばされた跡と地面に残る足跡を辿っていく。
エリウにとって追跡など慣れたものだ。
傭兵時代の経験とハトゥール族としての優れた感性が狙った獲物を捉えていく。
その追跡力をディアの捜索にも活かしてほしいが勝手が違うのだろう。
「むむ! こっちだニャ」
エリウが耳をピクピクと動かし、鼻をスンスンとして臭いを嗅ぎ分けていく。
足跡は4人。
一人は幼い。
3人は大の大人だ。走り方から男だろう。
セトはエリウに付いていき、追われていた男の子を探す。
痕跡からしてだいぶ近くまで来たはずだが。
「助けてー!!」
「!?」
悲鳴が聞こえた。かなり近い。
セトは声の聞こえた方に駆けだした。
路地裏の角を曲がり、行き止まりの通路に出る。
そこには、3人のローブ姿の男に追い詰められた男の子がいた。
「助けてッ!!」
「チッ! 子供に見られたか。殺せ! 目撃者を残すな」
「御意」
リーダーと思われる者がセトたちを殺そうと指示を飛ばす。
ローブ姿の男たちが剣を抜き、セトたちに迫って来た
敵意を確認したセトたちはすぐに武器を構える。
セトは短剣を構え、エリウは爪を伸ばす。
「エリウは壁を伝って上から仕掛けて、僕は足止めをする!」
「了解ニャ」
エリウは狭い路地裏の壁を駆け上がり、ローブ姿の男たちを真上から強襲する。
セトは真正面から懐に飛び込んだ。
剣と剣が交錯しガキンッ! と甲高い音が鳴る。
セトが短剣を交えたと同時にエリウも爪を振り下ろした。
剣と打ち合える凶器の爪を男たちに振り下ろす。
「つ、強い!」
ローブ姿の男の一人がエリウに押されて戦意を喪失していく。
セトは目の前の男を突破できないようだが、拮抗したことで釘付けにすることに成功だ。
「その子をはニャすのニャ」
「たかが亜人風情が! 人間に逆らった罪を教えてやるわ!」
リーダーのローブ姿の男が双剣を手にする。
手数と攻撃力を求めた剣。
エリウは相手を睨み付け、壁を蹴って男の真上を縦横無尽に飛び跳ねる。
人間より優れたその身体能力を遺憾なく発揮し翻弄していく。
「あちしを止めらるものニャら止めてみろ!」
「ちょこまかと!」
エリウが壁を利用した3次元的攻撃をお見舞いする。
壁を蹴り上げ、真横から、上から、後ろから次々と爪を振り下ろす。
双剣を構えた男は、辛うじてエリウの攻撃を捌いていくが、徐々に追い詰められていく。
「ぎゃあぁ!」
セトがローブ姿の男を一人倒した。
次に戦意を喪失してうろたえている男とエリウと戦っている男、どちらに仕掛けるか一瞬迷うが、すぐにうろたえている男に剣を向けた。
「ひっ!」
「降伏してください」
セトは降伏を促す。
男は戦いに慣れていないのか、血の付いたセトの短剣を見て顔を青ざめさせていた。
セトの後ろで腕を斬られた男が呻き声を上げる。
その声を聞いた男は何を思ったのか、セトに突進してきた。
「おぉぉっ! 俺だって騎士なんだ!!」
「騎士がこんなことしちゃダメでしょ!」
ドンッと峰内ちをかまし、セトは男を気絶させる。
男が口走ったことが気になるが今はエリウの援護だ。
エリウとリーダー格の男の攻防は激しさを増していた。
男が何らかの剣術を使用してエリウに痛手を負わせている。
傷は浅いようだが、彼女の目には怒りと警戒の入り交ざった光が灯っていた。
「エリウ!」
「平気ニャ! その子連れて早く逃げるのニャ」
「でも!」
「あちしもすぐ行くニャ」
セトはエリウを信じてリーダー格の男の後ろにいる男の子目掛けて滑り込むように走る。
男が阻止しようとセトに剣を向けるが、その隙を突いてエリウが男の剣を叩き落とした。
「ッーー! おのれ! 覚えてろ!」
剣を失った男はセトたちに背中を向けて逃げ出した。
敵を退けたセトたちは、追われていた男の子に声をかける。
「大丈夫? もう悪い奴はいないから」
「う・・・、ひっく・・・、」
「ほら、泣くニャ。あちしなんて斬られても泣いてニャいニャ」
「ひっく・・・、お前たち、僕の味方なの?」
男の子が尋ねる。味方なのかと。
セトとエリウは互いに目を合わせ頷き。
「うん。そうだよ。君を助けに来たんだ」
「れ、礼を申し渡す。ライブラ・シュピルナ・カラグヴァナ第十六王子はそなた達の忠義に心より・・・」
「まっ、まって! 第十六王子!? 王子様なの?」
「ひっく、そうですが・・・、お前たちは我が派閥の者ではないのですか?」
「???」
何だか話がかみ合わない。
別の何かの話に首を突っ込んでしまったようだ。
エリウの悪い予感は半分的中した。
助けたのは王子様。
王位継承権第30位のライブラ・シュピルナ・カラグヴァナ第十六王子だ。
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ライブラ王子は、まだ、9歳のお子様王子だ。
9歳と言っても王族の一人としてその役割をこなす必要がある。
その役割が何なのかは分からないが、彼はその最中に襲われたのだ。
ライブラ王子は一つ一つ思い出すように語っていく。
昨日の夜、同じ母から生まれた兄と一緒に式典に参加していた所、競合関係にある王位継承者と偶然会って話をした。
彼とは母たちの立場上ライバル関係なのだが、話してみると結構いい奴だった。
そんな彼の使いから広間で話をしようという伝言を伝えられ、行ってみたのだがいたのはあのローブ姿の男たちだったという訳だ。
「ずっと、逃げ回って、ひっく・・・、兄上が心配しているかも・・・、ひっく」
「騙されたってことかニャ?」
「そうみたい。でも、誰がそんなことを」
「ニャ? 腹違いの兄貴じゃニャいのか?」
「彼の使いが伝えて来たんだ。その人が本当に言ったのか分からないよ」
何者かがライブラ王子を連れ去ろうとしたのか、それとも殺そうとしたのか。
王位継承者斬殺事件と関係はあるのだろうか?
今の段階では分からないが、ライブラ王子をこのままにはしておけない。
「一旦宿に戻ろう。アズ姉に相談して王子をどう返すか考える」
「騎士に保護してもらったらダメニャのか?」
「あいつが言ったんだ。俺だって騎士なんだって」
セトは気絶しているローブ姿の男を指さして言う。
あの男は確かに口にした。自分は騎士だと。
「騎士が王子を狙うのかニャ? 訳が分からニャいニャ」
「ひっく・・・、その者はたぶん、僕と競合している派閥側なのだと思う。僕たちは王位継承権の順位を上げるためによく相手をさらって順位を奪ったり譲歩させたりするんだ」
「お、王族は家族が敵ニャのか・・・」
「この人なら信頼できるって人いるかな?」
「信頼できる・・・、兄上の派閥の者なら・・・」
「うん。分かった。アズ姉に頼んでお兄さんの派閥と連絡を取ろう。僕たちがそれまで保護するからついてきて」
「感謝します」
セトはライブラ王子の手を引き宿に戻る。
エリウがチョンチョンと肩を叩き、セトに耳打ちし。
「ディアはどうするのニャ? 姉御を助けるんじゃニャかったの?」
「そうだけど、まずは彼が先だよ」
セトはまだ恐怖に震えているライブラ王子を見て答える。
困っている人がいたら見捨てておけない性格なのだ。




