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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第三章 王都市場参入
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第五十二話 意思を継ぐ

ピント商会と王都商会連盟の交渉は続く。

市場の共同管理をいったいどのように行うのか。

どれだけの権限を有するのかの駆け引きが繰り返される。

この交渉で市場の管理権限の範囲が決まるのだ。

ピントから交渉を代理しているアズラと王都商会連盟代表のリチャードは互いに妥協点を探して交渉を進める。

時間があるのならゆっくりと話し合えばいいが、残念ながら時間は無い。

ここでモタモタしていると事態を知ったフェアカウフェン商会に介入されることを許してしまう。

リチャードは市場での優位性を手放してたまるかとアズラを言いくるめようとしていく。


「対等な関係を求めるお気持ちは分かります。しかし、それは市場での責任が伴うもの。不正がない様に見張り、商人たちをまとめ上げる必要がある。今のピント商会にその責任を果たせるのでしょうか?」


「果たせるわ。規模の違い過ぎる商会が同じルールの下で管理されたらそれは平等とは言わない。押し付けというのよ。違い過ぎる両者を平等に対等にするにはそれを考慮したルールが必要なはず」


「それは、甘え、ではないではないでしょうか? 優れた者にそうでない者のワガママを妥協させるということと同じでは」


リチャードが強い言葉でアズラの考えを否定しに来る。

彼はここに妥協点を設定した。

アズラはこの妥協点をどれだけ動かせるかが重要になっている。


「優れているとはそれは規模のこと? それとも商人をしてきた年月のことかしら? 商人もそれぞれ優れている所は異なるわ。現に私たちは商品で、あなた方、王都商会連盟を上回っている」


「・・・それは認めましょう。この交渉も騎士アズラ様が優れているからこそ実現したもの。だが、それと市場の管理は関係が無い。管理はその知識と経験が無ければできないのですから。なら、その技術と経験を持つ王都商会連盟が中心となり管理する方が正しいと思いませんか」


「その考えだと話が戻ってしまうわ。市場のルールを掌握すると聞こえてしまう。リチャードさんは他の商人を管理に参加させたくないの?」


「そんなことはない。みなで管理するのだ。積極的に参加してもらうつもりです」


「どう参加してもらうのかしら?」


「共同管理の際は、参加した商人たちに意見を述べてもらい、我々王都商会連盟が責任を持って精査、実行する流れとなります」


アズラは彼の考えを聞き出すことに成功した。

そこがリチャードいや王都商会連盟の達成目標。

市場のルールを決定できる立場に収まること。なら。


「共同管理ではなく、あなた方の庇護下といった方が正しいわね。私たちには精査も実行もさせてもらえないのですか?」


「相応の責任を果たせる商会であるなら問題はありません」


「その判断は王都商会連盟が下すのよね? 一つ疑問なんですけど、何故私たちが責任を果たせないと思われてるのかしら?」


「・・・そんなことは」


「ないと?」


「・・・」


「ないと思われるなら、全ての商人が精査そして実行に関与しても問題ないわよね?」


「どう関与されるのです?」


まず一つ関門をクリアした。

妥協点を動かすならどれだけ動かすかの交渉に入ったのだ。

ここからは失敗が出来ない。妥協点を動かすとは何も自分に有利な条件になるばかりではない。

相手に有利な方へ動くこともあるのだから。


「相応の実績を証明できる商人が全員で市場のルールの提案、精査を行えるようにすればいいわ。そうすれば一つの商会がルールを決めてしまうことは防げる」


「決定権を全ての商人に分散してしまっては利害関係の衝突で何も決まらなくなるのでは?」


「多数決で提案されたルールを絞り込めばいいわ」


「それはどれだけ優れた提案でも妨害しようとする一派が生まれて候補に残らないと思いますが」


「その妨害しようとする一派が多数派の時は、市場の求めるルールが彼らの側にあるということよ」


「うっ、むう・・・」


リチャードは反論しようとするも口を閉ざす。

下手に反論しては妥協点が不利に傾くと判断したのだろう。

ゆっくり確実に反論できる言葉を探す。


「では、仮にその方法を取るとしてどうやって市場の価値を維持し続けるのです? ルールの決定権が全ての商人に分散すれば能力の低い商人が多数を占めるのは分かり切っている。もし、彼らが優れていたのならフェアカウフェン商会に独占状態を許すなどあり得ない。彼らが自身の権利に気付けば市場の秩序は崩壊する」


「商人の能力や商会の規模に応じた人数調整をすれば解決するわ」


「・・・つまり?」


「参加する全ての商人の規模に応じて参加できる人数を割り振るの。例えば100人で精査する場合、規模の大きい王都商会連盟は5人、小さいピント商会は1人みたいに。対等に発言し合えるだけでなく実力の高い商会の人数を増やすことで市場の価値を維持できるわ」


「・・・確かにそれなら、提案されるルールの質が下がることはなくなる。実力のある商会が常に多数派となれるのか。しかし、それではピント商会の決定権が弱くなるが構わないのですか?」


「決定権は相応の実力に沿って得るものよ。私はそう考えるわ」


アズラは自身の考え、思いを告げた。

これにリチャードが納得してくれれば交渉は成立する。

リチャードは顎に手を当て考えている。

この妥協点で正しいのか、僅かな沈黙が続く。

そして、


「分かりました。騎士アズラ様、あなたの提案を受け入れましょう。詳しいことはまた後日決めるとして今回の内容で契約を致しましょう」


「ありがとうございますリチャードさん。これでこの市場もより大きくなりますね」


アズラとピント、そしてリチャードが固い握手を交わし、用意された契約書にサインをしていく。

今回決まった内容が記された契約書。

王都市場の管理組織の誕生であり最初のメンバーとなるのはピント商会と王都商会連盟だ。

このままでは、二つの商会が勝手に決めたことになってしまうが、参加人数が市場の商人の半数以上になれば正式に組織として成り立つ。

もっとも、王都商会連盟の傘下は100を超える商人がいるので、彼らだけでもかなりの人数が組織に加盟したことになる。

アズラはすぐに使用人たちを公女殿下の推薦書を持っている商人たちの所に向かわせ、管理組織への参加を説得した。


王都商会連盟と対等に話せるという組織への参加はすぐに了承されていく。話を聞いた商人たちが集まり、加盟人数は瞬く間に増えていった。

そして、市場の商人の半数以上がその日の内に加盟することとなったのだ。

ここに王都市場管理委員会が正式に発足する。

そこで、最初に決められたルールは、”商品価値は王都市場管理委員会が決定しその保証を行うものとする”となった。

このルールが決まり全会一致で了承された瞬間に、商品価値証明書と公女殿下の推薦書はその効力を失うこととなったのだ。

代わりに王都商会連盟の証明書とピントたちの推薦書がついた商品は、新たに王都市場管理委員会公認を受けた商品として生まれ変わった。

これは、優れた商品を平等に評価するための処置。

フェアカウフェン商会のような市場の独占を防ぐためのものでもある。



----------



市場が新たに発足した王都市場管理委員会に完全に掌握された1日後にフェアカウフェン商会は戻って来た。

セトたちの護衛たちが王都商会連盟の代表たち以外を逃がさずに抗争を続けたおかげと、フェアカウフェン商会代表のフェア自身が抗争を楽しんでいたこともあって大幅に時間を稼ぐことが出来たのだ。

そんなフェアは部下からの報告により、その顔から余裕が消えた。

自分に恐れをなして逃げたと思っていた王都商会連盟の代表たちはこれに乗り遅れまいとしていたのかと、後になってから気付く。


「ゲ、ゲシュ・・・、王都市場管理委員会と交渉はまだできるのか?」


「交渉はもう不可能かと、委員会に加盟できるかどうかも怪しい所です」


「ゲ、ゲ、・・・いくら金を積んでもいい、・・・なんとしても加盟するんだ」


フェアは絞り出すように指示を出す。

その声は敗北感と怨嗟に支配されていた。声を聞いた部下は身の危険を感じすぐにその場を離れる。


王都商会連盟の施設内に設置された王都市場管理委員会本部にフェアはやって来た。

敵の前で頭を下げる日が来るとは夢にも思っていなかったのだろう。

その顔は屈辱に塗れて、いつも連れている奴隷の女たちも今は彼の側にいなかった。


「おやおや、これはフェアさん。何か御用ですかな?」


フェアに声をかけたのはリチャードだ。

入ろうとしていた王都市場管理委員会本部から出てくる彼を見たフェアは、より一層屈辱が強まる。


「な、なに、王都市場管理委員会にフェアカウフェン商会が加盟せねば成り立たないであろう? 入ってやろうというのだ」


「加盟ならあちらで受付をしておりますよ」


リチャードが受付嬢を指さすが、フェアはそれを見れなかった。あそこに行けば敗北が確定する。

ただ単に加盟などあり得ない。組織の基礎構築に介入できなくなる。

フェアは恥と屈辱を押し殺し、リチャードに頼み込んだ。


「あ、あそこではなかろう? なぁ、リチャード、ワシがこの組織に入ればどれだけお前たちに有益か分かるだろう?」


「残念だがもう組織の立ち上げは終わっている」


「組織を運営するルールの構築がまだであろう? ワシの所の人材なら・・・」


「それは、王都商会連盟が担当すること。ここに本部があるのがその証拠だ」


「な、長年、王都で競い合った中ではないか、そこをどうにか」


「刺客を差し向けて殺そうとする奴がいうことか?」


「ッ!!」


フェアは一瞬、リチャードがいったことを理解できなかった。

意味は分かる。昨日の抗争の件だ。だが、それにはリチャードも参加しているのだ。

バレれば追放されかねないことを自分から喋るなどあり得ない。

周りにいた人の視線が集まる。


「な、な、何をいっているのか・・・」


「我々、王都商会連盟代表を暗殺しようと刺客を差し向けたといっている!」


リチャードが語気を強める。

それに怯んだフェアは一瞬たじろいでしまった。それが、彼の醜悪なプライドを思い出させ怒りを湧き起こさせる。


「し、下手にでていりゃいい気になりやがって、貴様も抗争に参加していただろうが! ワシを見くびるなよ・・・、こんな組織潰すぐらい」


「おい、連れてこい」


「・・・なっ!?」


リチャードがそういって部下に連れてこさせたのは、フェアが雇った傭兵とゴロツキだった。

ディアとエリウ、そして、セトの護衛たちだ。

全員縛りあげられ拘束されていた。


「・・・ダメだな。終わった」


「ニャー。こいつ殺したらいっぱい金貰えたのにニャー」


ディアとエリウがそれっぽいことをいう。

彼らを見たフェアは全身から気持ち悪い脂汗を流し、顔面が漂白していく。


「し、知らん! こんな奴らワシは知らんぞ! リチャード貴様ワシを嵌めたな!!」


「先ほど、貴様も参加していたといったがそれはあなたが積極的に抗争をしていたと受け取ってよろしいですね」


「貴様もだろうが!!」


「ニャー、部屋で寝ている所をザシュッと刺すだけだったのにニャー」


「な、何をいっている? おい、そこの亜人! デタラメなこというな! ディア、ワシを助けろ金なら好きなだけくれてやる」


「助けろといわれても、抗争をしたのは事実ですし・・・」


フェアは何がどうなっているのか把握できなくなっていく。

何故、自分だけ抗争をしたことになっている? 何故、部下がこちらが不利になることをいうのだと混乱していく。

もう支離滅裂で辻褄の合わない言葉を発していることに気付かない。

そして、当然ある解答に行き着く。


「き、貴様ら裏切ったな・・・、ち、ちくしょう、ちくしょう!!」


「連れていけ」


王都市場管理委員会本部から締め出されるフェアは、抗争を行った罪で王国に裁かれるだろう。

つまり、それは相手となった王都商会連盟も該当するのだが。

物陰に隠れていたアズラが姿を現す。

そう、フェアカウフェン商会に忍び込んでいた護衛たちに一芝居打って貰ったのだ。

この芝居で抗争をフェアカウフェン商会による暗殺にすり替えリチャードが裁かれるのを回避した。


「終わったみたいね」


「騎士アズラ様。心から、心から感謝を申し上げます。必要なことだったとはいえ我々が犯した間違いの尻拭いをしてもらうとは」


「フェアカウフェン商会の悪事を暴くためだったのなら仕方ないのかもしれない。でも罪は罪だから」


「分かっています。今回の責任を取り私は代表と商人を退きましょう」


「なにもそこまで!」


「いえ、裁かれない罪なら自分でケジメを付けねばなりません。・・・最後までご迷惑お掛けするのですが、私の商会、ヘファー商会をお願いできますでしょうか? 代々一族で経営してきた商会ですが私には子どもがいません。遠からず畳むことになっていたでしょう。ですが、もし引き受けてくださるなら商会の持つ資産をお譲りいたします。アズラ様になら任せることができる、そう思ったのです。どうか、ヘファー商会の歴史を継いで貰えないだろうか」


「い、いきなりいわれても・・・」


リチャードは頭を下げる。深々と自身の全てを懸けたものを譲ると。

それは、代々継いできた老商会の歴史を託したいと。


「・・・・・・一つだけ確認していい?」


「なんなりと」


「名前変えてもいいかな?」


リチャードは満面の笑みで答える。


「もちろんですとも」


「では、これからヘファー商会はアプフェル商会として引き継ぎます。・・・私に任せて、絶対に今より大きな商会にするから」


リチャードの頬に涙が伝う。長い人生の一区切りを終えたと感じたのだろうか。

やり遂げたと感じたのかもしれない。

何より、商会の跡継ぎを見つけれたのが嬉しかったのだろう。

賢く、まだ若い人物を長年探してようやくアズラと巡り合えた。

アズラもまた、リチャードの思いを感じ取っていく。

託されたのはこれまで積み重ねてきた歴史とこれから紡がれる未来。

これからどうなるのかは彼女しだいだ。



----------



全ての仕事を終え、ベスタ公国に帰って来たセトたちはフローラに出迎えられる。

王都市場管理委員会の発足に関する仕事でさらに一週間王都の滞在期間が伸びたが、得たものは大きかった。

委員会の噂はベスタ公国まで広まっていたようで、フローラは友人の活躍に満足げだ。


「お疲れ様ですのアズラ」


「ただいまフローラ、商会の代表になっちゃった」


「わたくしの友人なら当然ですわ」


「はい、これお見上げ。ウィリアム公爵様にも」


「ありがとうアズラ。あ、それと一つ聞きたいことがあるのですけどよろしいかしら?」


「いいわよ?」


「王都で、最強の騎士クラッシャーアズラと呼ばれているのですの?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふぇぇぇぇぇ」


「アズ姉!! ほんっとにごめん! 僕何でもする、何でもするから!!」


アズラの噂はそう簡単には消えそうもない。

第三章終了です。

次の話は、サイドストーリーとなりますので本編の補足説明的な扱いです。

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