表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第二章 狂信者
30/326

第二十八話 甘い悪意は死の味で

菓子店フルーティフルールで甘くみずみずしいフルーツのデザートに舌鼓を打ち。

店を出た所で、リーベとマルクは貴族たちに囲まれていた。

マルクはベスタ公国の公女フローラの付き人なのだ。

その彼がフローラ以外の人物をエスコートしていたら目立ってしまったらしい。

今は貴族の者たちにリーベとフローラはどういう関係なのか、公爵の隠し子か、など全然的外れな質問をされていた。

あることないこと言いたい放題といった感じだ。


貴族たちにとって、リーベが何者かなどどうでもよいのだ。

ベスタ家に近づくきっかけになれば何でもいいのだから。

リーベがまだ何も言っていないのに、縁談の話までしだす者もいる。おそらく下級貴族だろう。


「むー、お菓子が食べられないよ」


「少し待って下さいね。ほら! 道を開けないかこんな小さな子に失礼だと思わないのか!」


マルクが貴族たちを追い払おうとするがまるで効果がない。


「せめて、お名前だけでも教えてもらえないだろうか」


「ぜひ、美味しいお菓子を振る舞わせてください。きっとお嬢様のお役に立てます」


ピクッ!


リーベの耳がある言葉を聞き逃さなかった。

それはぜひ振る舞ってもらいたい。


「わたしに飛び切りおいしいお菓子食べさせてくれるなら考えてあげてもいいよ!」


「な、なにをいいますかね。早く次へ行きましょう」


マルクがリーベの話をなかったことにしようとするが、ずる賢い貴族たちの耳はリーベの声をハッキリと聴いていた。


「今の話は本当か! なら我が家に伝わる飴細工を」


「名菓子店を貸し切ってお迎え致します。ぜひ、私どもの話を」


貴族たちが食いついてしまった。

何とか誤魔化して落としどころを見つけないと批判材料にされかねない。

マルクは口約束だけで済ませて乗り切ろうとすることにした。


「この方は、フローラ殿下の大切な客人だね。菓子を持ってくるのは後にするんだ。ちゃんと意見に目を通そう」


「・・・ねぇ、マルク」


「ん? なにかね」


リーベは必死に自分との接触をはかる貴族たちを見てあることを感じた。

貴族たちは自分を見てはいない。その先にいる人物を見ているとその目が告げているのがリーベには分かった。


「この人たちはフローラに会いたいの?」


「そうだが、気にすることではないね」


リーベはその幼さで何かを考えている。

マルクにはそれが何か分からないが彼女は貴族たちの気持ちが分かったようだ。


「みんなフローラに会いたいの? わたしはフローラの友達だから合わせてあげられるよ。でもね、会いたいなら一つ約束してほしいの。フローラね、今とても忙しそうなの。食べ物が無くて、お水もないっていってた。だから、フローラに会いたいみんなには食べ物とお水をいっぱい、いーっぱい持ってきてほしいの。あ、後、お菓子も」


リーベは悩んでいるフローラを昨日の夜も今日の朝も見ていた。

だから、フローラに会いたい彼らはきっと協力してくれると思ったのだ。後、お菓子もくれるかもと。だが。


「フン! 結局ベスタ家の回し者か!」


「やはり公女殿下とお会いするには相応の対価が必要か・・・」


「我らに要求するのではなく、こちらの意見を聞いてもらいたいのだ。そもそも、食料と水は今は貴重。首都に回せる分はない」


「みんな、わたしにお菓子あげようとしたくせに・・・」


リーベの気持ちなど無視して貴族たちは自分の主張を続けていく。お菓子という高級品は渡せるが、食料と水は渡せない。

量が多いからか? 量の問題ではないだろう。

自分たちのために備蓄した分を国民に渡したくないのだ。

自分たちがのし上がるための対価としては、お菓子という高級品をいくらでも渡せるというのに。


「ぶー。いいもん。いらないもん。フローラからもらうもん」


リーベが不機嫌になってしまった。

当たり前だろう。言いたいだけ言って、気に食わなければ批判されたのだ。

みんなのためにと思って提案したお願いを批判されれば不機嫌にもなる。


「行きましょう」


「うん」


貴族たちを放っておいて、貴族街を歩いていく。

馬車にでも乗ろうとしていた時。


「お待ちください。いやー、赤毛のお嬢さんの話、感動いたしました。食料支援の話承りたいのですが、どうでしょう? あちらで話でも」


何やら、話をしたいという男が出てきた。

マルクはうんざりしているが、リーベは話を聞いてくれたのが嬉しかったのか、少し彼の申し出を聞いてみる気のようだ。

男は近くの喫茶店に入っていきリーベたちも続く。店の中は下級貴族たちが商談などによく利用している所のようだ。


「それでは改めまして、私は貴族のルーズェンツァンと申します。先ほどのリーベ様の演説見事でした。欲を満たす前に下々に分け与えるその優しさ、まさに我らに欠けていたものでございます」


「おじさんはフローラを助けてくれるの?」


「はい、可能な限り援助をさせていただきます。その折には、ぜひルーズェンツァンの名をフローラ殿下に」


マルクはこの会話に少し違和感を感じていた。

何かが引っかかるような。


「よろしければここで契約書をお願いできますでしょうか? もちろん、私どもが援助をするという内容です」


「うん、いいよ」


「では、こちらへ。契約書は重要な書類なため奥に用意しております」


男がリーベを連れて奥に行こうとする。


「そういえば・・・。このマルクとしたことがとんだ失礼を。まだ、自己紹介もしていないとはね。申し遅れましたがそちらが・・・、何故名前を知っていたので?」


「いやですね。演説の時に名乗られたではないですか。さあ、こちらへ」


「待て! 貴族たちの前でも名乗っていないぞ。どういうことかね!」


マルクが立ち上がろうとした瞬間、店にいた客が全てマルクの周りを取り囲んだ。


「マルク!! いや、離して!」


やられた。

マルクは素直にそう思う。こちらからつけ入る隙を敵に与えてしまった。

ここにいる客も、ルーズェンツァンとかいう貴族も、この店も全て。

エウクレイデスの配下。

リーベが店の奥に引きずり込まれていく。


「警告する。その方はフローラ殿下の、姫の大切な客人である。連れ去るというのならお前たちを排除しないといけないね」


マルクは白衣の内側より武器を取り出した。その隠されていた実力を発揮する。

その武器は剣ではなかった。

剣というよりは防具に見える。

だが、防具でもない。

拳大の魔晶石が取り付けられており、空気か何かを排出する管が周りを覆っている。

その管の先は全てこの武器の特徴ともいうべき、機構に接続されていた。

一言でいえば、モータ。

そうエネルギーを供給することで回転運動を生み出す機構、それが彼の武器。

それを右手に装着した。


「警告はしましたからね!」


魔晶石が明滅を開始する。武器の内部でエネルギーが増幅されていく。

増幅されたエネルギーは管を通り、回転機構を駆動させていった。グォン! グォン! と駆動音を鳴り響かせる。

エウクレイデスの配下たちが道を塞ぎ攻撃に備え武器を構えた。


「お見せしましょう!! このマルク・ジョージルナ・スガンの研究成果! 新方式・術式駆動機械・姫壱号ぉぉぉぉぉおおおおお!!」


術式駆動機械・姫壱号の先端に白いエネルギーが収束する。そう、それは魔力だ。

機械により生み出された魔力が回転機構を通して、破壊のエネルギーへと変換されていく。


「発射ぁぁああああああああああああ!!」


マルクが左手でレバーを引いた直後、圧縮された魔力が回転機構より解き放たれた。

配下の敵どころか店ごと吹き飛ばし、奥に逃げたルーズェンツァンをリーベごと壁に叩き付けてしまう。

魔力の嵐が町のど真ん中で発生した。魔力の嵐は竜巻すら発生させ、周囲のものを空へと舞い上げていく。


「で、デタラメな!?」


「リーベ! 今すぐ助けますからね!」


「ここでしくじる訳には・・・、やむを得ないか」


「む! 貴様何をする気だ」


ルーズェンツァンと彼に捕まっているリーベが青白い光に包まれた。

光はすぐに受肉するかのように脈動し二人を取り込んでいく。


「マルク!!」


「リーベ! くそ!」


マルクは二人に飛びついた。

このままでは間に合わないと判断し、敵の行動を阻止しようとする。


「は、離せ! 3人は無理だ! 体を引き千切られたいのか!」


「お前が離せば問題ないね!」


マルクは姫壱号ルーズェンツァンを無理矢理引き剥がそうとするが、彼も剥されるかとしがみつく。

二人が争っている間に、青白い光に完全に包まれてしまった。ルーズェンツァンの胴体を分断する形で。


「ごがぁあ・・・・」


彼の叫び声が聞こえた気がした。

マルクはもの凄い虚脱感が全身を突き抜けていくのを感じる。

まるで、体と精神を分けようと引き延ばしたような感覚。

その感覚はすぐに消え、青白い光はすぐにマルクとリーベを開放し空間に溶けるように消滅した。

視界が開ける。

暗い所だ。店ではないようだが。傍らにはリーベが腕にしがみつき、地面に上半身のない死体が転がっていた。


「リーベ、無事かね?」


「うん」


「ここは?」


マルクたちは、暗い洞窟のような所にいた。洞窟というよりは、地下施設。

丁度、城の地下牢などにありそうな石造りの施設。


「もう聖女を連れてきたのか? 仕事が早いじゃないか・・・! 誰だ貴様!」


「それは、こっちの台詞だね」


マルクはいきなり現れた神官服の男を警戒する。

聖女を連れてきたのかと聞いたということは、ルーズェンツァンたちの仲間だろう。

エウクレイデスの配下がいて、怪しい地下牢で、リーベを連れてこようとした場所。


「少々、厄介な場所に来てしまったようですね!」


マルクは術式駆動機械を。

姫壱号を構える。

まずは安全の確保、そして、外部への連絡だ。



----------



暗くて知らない牢にセトはいた。

ここに来てもやることは変わらない。

尋問だ。

いや、もはやただの虐待だった。特に聞く内容もなく、ただ時間が来たら暴力を繰り返すだけ。

ここに来てから、回数が異常に増えた。以前の場所は6時間置きだったのに、ここでは30分置きだ。


嬲り、抉り、裂いて、治す。そして、30分だけ精神を休ませる。

この繰り返しだ。

セトはもう息をして生命を維持することだけをこなしていた。


「・・・」


何回、腕を折られたか分からない。

何回、目を潰されたか分からない。

今、腕は目はあるのかが分からない。


「・・・ッ」


時間が来た。セトの体が軽い痙攣を起こす。もう体に染みついていた。

いつ来るのかが正確に分かるようになっている。

ギィィと鉄の扉が開く。


「さあ、続きだ。セト。お前にいい知らせがあるんだ。何だと思う? そう聖女様が御着きになったそうだ」


「・・ッッ!」


「ハハハ! いい反応だ。そうだ! 苦しんでくれないとこっちが詰まらないんだ。いい声で鳴いてくれ、いい表情を見せてくれ・・・ッ!」


そういいながら、黒い神官服の男はセトに赤くなるまで熱した鉄の棒を背中に押し付けた。

ジュウゥゥッと肉の焼ける臭いが漂う。


「ーーーーッ! あッ! あぁあぁぁぁぁぁ!」


「やっぱりだ! お前、熱いのが苦手なんだろ? もっとくれてやるよ。ぎゃははははは!!」


男はその臭いに酔いしれ、さらにセトに熱した鉄の棒を押し付ける。


「ーーーーッ! ーーーーッ!」


「ぎゃはははは! 堪えてるな! 痛いのを苦しいのを耐えているんだろう? そうだそれが見たいんだ。・・・ん?」


気が付くと別の黒い神官が立っていた、横には腕を縛られ鎖に繋がれた奴隷と思しきボロ布を着た少女が一人。

黒い髪に緑の瞳をした褐色の少女。


「なんだもう時間か。じゃあなセト、次が楽しみだ」


黒い神官服の男が去っていき、奴隷の少女がセトのいる牢に押し入れられた。


「ーーーーッ」


「・・・」


黒い神官服の男はセトの傷を治療せずに立ち去った。もう治す必要がないということか。

セトは牢の新しい住人を見ることも声をかけることも出来なかった。

背中の火傷の痛みに体を強張らせうずくまることしかできない。


「・・・」


奴隷の少女はそんなセトをただ眺めることしかしなかった。

傷を治せる訳でもない、助けれる訳でもない。

少女は次は自分がこうなると思っていた。


だが、少女の番は来なかった。

次もその次もセトがその暴力と悪意を受ける。

焼かれ、その次も焼かれた。


「ゼェ・・・ゼェ・・・」


セトの呼吸は荒く、目の焦点も合っていない。非常に危険な状態だ。

今にも死にそうなセトを少女は見捨てることが出来なかった。


「だ、大丈夫ニャ?」


「傷が痛むのかニャ?、舐めれば少しマシにニャるニャ!」


奴隷の少女は、亜人ハトゥール族の少女だった。見た目はほとんど人間と大差ないが、頭に耳とほっぺに六本の長いヒゲ。

そして、尻尾があり手足の先は毛で覆われている。

彼女はセトの傷を癒そうと背中の火傷の部分を舐めた。

だが、それは逆効果だった。


「ーーーーッ! ぎぃいぃぃ!!」


「ご、ごめんニャ! 痛かったかニャ、も、も、もうしニャいニャ・・・」


セトは激痛に耐えながら、初めて彼女を見た。

ビクビクと脅えながら自分もそうなってしまうのではないかと恐怖している彼女を。


「フゥ、フゥ、・・・あ、りがと」


「そんなことニャい。ニャにもできニャくてごめんニャ・・・」


「・・・変わった、喋り方、だね」


「変じゃニャい。もともとこういう喋り方ニャ」


ようやく、初めて会話が出来た。

こんな所で出会わなければ、もっと打ち解けることができたはずなのに。


「・・・あの黒いヤツ来ニャいニャ」


「・・・そう、だね」


「次来たら、あちしが守ってやるニャ。だから、少し休んどくニャ」


「・・・うん」


しばらくすると、カツッ、カツッと足音が聞こえてきた。

あの男が来る。

ハトゥール族の少女は毛を逆立たせ、威嚇の姿勢を取る。

もう数回もセトは尋問に耐えられないだろう。

そうと分かっていて、彼女は黙って見ていることは出来ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ