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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第二章 狂信者
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第二十二話 偽りと狂気の館

日が落ち夕方になった頃、セトたちは武器屋から装備を受け取りシェレグ城に戻っていた。

セトは新しい防具の試着をしてみる。サイズはピッタシ、父の形見である防具もちゃんと装着されていた。

全体的に少し赤みを帯びた色合いで黒い防具がセトを包む。

アズラもメンテナンスしてもらった手甲をはめてみて感触をチェックしていた。

こちらもいいフィット感のようだ。


今日の予定はもう終了だが、セトは確認したいことがあった。

ツァラトゥストラ教ベスタ公国支部への支援拒否についてだ。

セトは、どうしても納得できなかった。彼の神官たちのイメージが人格者として教えを説く者だからかもしれない。

リーベを救ってくれたからかもしれない。

理由は何にせよ聞かなければならなかった。

アズラとリーベにちょっと用事と言い残しフローラの部屋に向かう。


「やっぱり、ちゃんと話さないといけないよね」


どんな回答が得られるか分からないが、黙って無理矢理見なかった聞かなかったことにするのは彼には出来なかった。

メイドに案内され、騎士に許可をいただくしばらくすると対面の許可が下りた。

扉をノックし騎士がセトを部屋に招き入れる。

フローラは椅子に座って、付き人の男と何やらチェスのようなゲームをしていた。フローラが苦い顔をしているので劣勢なのだろう。


「姫、客人が来ましたね」


「そのようね。続きはまた後で。・・・さて、セト、昼間の続きですの?」


来た理由を言い当てられて、セトは言葉が出てこない。

やはり、わざわざ聞きに来るのは失礼だったろうか。


「・・・まあ、いいですわ。マルク、資料を」


「はい、姫」


マルクは盤を机の上からどけて紙の資料を広げた。

店の名前と購入した物、金額などが詳細に記録されている。


「セト、これを見て何を思いますかしら」


「えっと、食べ物とかをたくさん買っているし、お酒もあるからパーティーか何かしたのですか?」


資料には、数十人分の食料と酒が明記されている。セトには酒の価値は分からないがかなりの値が張るものばかりだ。


「そう、その通りですわ。彼らベスタ公国支部の者たちは集めたお金で贅沢の限りを尽くしているのですわ」


「え? そ、そんな! 仮にも神官を務める方々ですよ何かの間違いでは」


「いいえ。証拠も掴んでるのですわ」


セトはショックを受け、椅子に座り込んでしまう。

セトが倒れないようにマルクはさりげなく椅子を支えていた。


「でも、こんなのどうやって?」


セトの目の前に二枚の通貨が置かれた。カラグヴァナ王国圏で流通している通貨。

カラグヴァナ金貨、通称、王国金貨。

二つとも同じように見えるが、一枚だけちょっと汚れていた。


「ベスタ公国で流通している通貨はわたくしたちが管理していますわ。なら彼らに渡す通貨に目印を付けるのも容易いですの。後は、実際にそこで取引をしたか物はあるのかが分かれば証拠として十分ですわ」


「その取引の証拠が・・・」


目の前の資料だった。ベスタ公国支部が贅沢品を購入したかどうかを一度、支援金の名目で細工をした通貨を渡し使わせ、彼らが入った店を調査した。

結果はこの通りだ。テテトは孤児の生活費といっていたが、実際は自分たちの欲のために使用していた。

嗜好品、風俗、高級品。とても孤児のために必要とは思えないものばかりだ。

これは、もう教えの解釈などの問題ではない。善悪の判断が出来ているかの話だ。


「彼らに支援金名目で通貨を渡すのもリスクがありましたがね」


「そうね。わたくしたちから通貨を受け取ってからは、ベスタ家も支払ったと国民への徴収も過激化しましたから」


「い、今はどうなっているのですか。まさかまだ続けているんじゃ」


セトは騙されたショックと彼らを信じてしまった恥ずかしさで、頭が混乱してきていた。

マルクがそっとハーブティーをセトの前に差し出す。フローラもお代わりとマルクにカップを渡した。

セトはハーブティーをググッと飲み干し、一息つける。

彼が落ち着いたのを確認して、フローラは続きを語った。


「今は、孤児の生活に掛かった費用関係の書類を提出させて、内部調査を進めている最中ですわ」


「それだけじゃ、やめないのでは」


「やめないでしょうね。内部干渉だと突っぱねられましたからね」


そういいながら、マルクはフローラにハーブティーを渡す。

ただの新興宗教や詐欺師なら衛兵で一網打尽にするのだが、ベスタ公国支部のバックはツァラトゥストラ教そのものだ。

下手に事が大きくなると帝国との関係も悪化する可能性があった。


「彼らにいくら証拠を見せても効果がないのなら、見せる相手を変えるだけですわ。そのために、調査依頼を出し、あなたがその解答を持ってきてくれたのですから」


「僕が? ・・・! 親書ってそういう」


自分が何を配達したのかが分かった。ツァラトゥストラ教からの親書というから友好を深めるとかそんなもんだと、セトは思い込んでいたが。

ベスタ公国支部の悪行に対する対応への返答だった。

マルクがその親書をセトに見せてくる。


「読まれますかね?」


「ううん、大丈夫です」


もう確認するまでもなかった。そして、納得もできた。セトは、世の中の汚い部分を見てしまい悲しい気分になってしまう。

そんなセトを見てフローラはこんなことをいった。


「実際に彼らを見てみるのはどうかしら? セトなら支部にも問題なく入れると思いますもの。うまく彼らの証拠が手に入ればすぐにでも解決できますわ。この依頼受けてくださる?」


「姫! 客人にそのような危険は」


「いえ、フローラさん、その依頼引き受けます」


フローラは少し嬉しそうに微笑んだ。セトが協力的だからか? セトが自分を信じてくれたからか?

両方だ。命令でなく自分の意思でフローラに協力してくれている。彼女はそれが嬉しかった。

セトとならもしかしたら、友達になれるかもしれない。そんな思いが沸き上がってきた。

そう、結局、セトたちへの行いも呼び名のこだわりも全部このためだったのかもしれない。

だが、やはり彼女はセトたちとは少し違う世界にいる、立場も考え方も、今もセトを試して友達たり得るかを判断しているのだから。

そこに気付けるかは彼女しだいだろう。



----------



セトは、フローラからの依頼をアズラに説明していた。

アズラはセトが厄介なことに首を突っ込んだと分かりため息を付く。

引き受けてしまったものは仕方がない。さっさととこなして報酬でも頂こう。

アズラは早速、装備を身に着け出かける準備をしていく。


「アズ姉、今から行くの」


「そうよ。あなた、あの神官に信用されてたみたいだから彼がいる間に中に入るのよ」


「明日でも大丈夫じゃ」


「明日には向こうもこの依頼のこと知っていると思うわ」


いくらベスタ公国支部が腐敗しているからといっても信者はいる。それも首都中に、この城にもだ。

なら知られる前に行くのが効果的だ。もうすぐ夜だが、この時間帯も効果的かもしれない。


「リーちゃん。しばらくお留守番お願いするね」


「ぶー。一人はヤダよ」


「お土産買ってくるから」


「むー分かった」


セトたちはリーベを残しベスタ公国支部に向かう。荒事の予定はないが万が一のこともある。

しっかりと装備を確認し出発した。

ベスタ公国支部は第三の城壁の区域にある。

途中まで馬車で移動し第四の城壁を出たら徒歩で向かう。


ベスタ公国支部は普通の館を間借りしているため、特に目立つ特徴はないが。

ツァラトゥストラのシンボルである樹を象った装飾をでかでかと設置しているのですぐに見つけることが出来た。

帝国のジグラットと異なり、自分たちの存在を主張するようなそんな感じをセトとアズラは感じていた。


入口に近づき、警備の者に声をかける。


「すいません。神官テテト様はいらっしゃいますでしょうか?」


「ん? テテトかちょっと待っとけ」


すぐに神官のテテトが姿を現した。何やら作業をしていたのか汗を掻いている。


「おや、これはセトさんではありませんか。そうですか。わざわざ来ていただいたのですか」


「テテト様、中を見学したいのですがよろしいでしょうか」


「もちろんですとも。自分が案内いたしましょう」


特に疑われることなく中に入れた。問題はここからだ。ただ見学しただけでは意味がない。

途中で隙を見て部屋を調べないといけないのだ。

ベスタ公国支部の中は、一言でいうなら芸術品だ。

壁の至る所にツァラトゥストラ教神話に登場する獣たちを模した壁画を飾っている。

見るものを圧倒する緻密に計算された芸術たち。

セトとアズラには芸術の何たるかは分からないがかなり力を入れて作られたのだろう。

ジグラットとはまるで異なる空間。

そう、まるで別の宗教施設に来たと錯覚しても不思議ではない。


「どうぞ。セトさんは洗礼の儀はお済でしょうか? こちらが、祭壇となります。ジグラットのある王都アプスに行くこと叶わない人々のために用意しました」


「洗礼の儀はジグラットで行う決まりでは?」


「我らベスタ公国支部は、ジグラットと同等の権利を有していますので問題ありません」


いきなりセトの知る教義と外れたものが飛び出してきた。洗礼名を許可のない者が勝手に授けては滅茶苦茶になってしまう。

帝国ではその人の人生にも影響する。セトは、問題を指摘したい思いを飲み込み次へと案内されていく。


「こちらは、神官の任命を行う所です」


これは、


「ここは、神官の修練所です」


間違いなく


「まだ準備中ですが、各専門の神官への儀を執り行う場所になります」


反乱だ。アズラはそう結論付けた。

下部組織が本部の機能を獲得する理由などそれ以外に考えられない。

セトのいっていた、徴収した金の使い道もダミーの可能性がある。

そして、堂々と自分たちに紹介したということは近いうちに事を起こすということだ。

現に支部に入ってから何人かにつけられている気配を感じる。


テテトとセトたちの会話を快く思っていない者が一人、彼らの後ろからゆっくりと近づいていた。

神官ワントはペラペラとしゃべっていくテテトに苛立ちを覚えてしまう。

このままでは、計画のことまでしゃべってしまうのではと、焦りが積もっていくが、変にやめさせては余計に疑われる。

このまま様子を見るべきか? ワントは通路の角に隠れて様子を窺う。


「テテトめ・・・、何を考えている」


少しづつ包囲を狭めていく。そもそも彼らをあっさりと中に入れてしまったのが問題だ。

二人はテテトの解説を聞いていてこちらに気付いていない。


「セトさん。そういえば、あの聖女のような妹さんは来られないので?」


「リーベは留守番です。もう日も落ちていますし」


「来られないですか。そうですか、次はぜひ一緒にお越しください。赤毛の少女はまさに我らに遣わされた聖女ですから」


「そんな大げさな」


赤毛の少女。

ワントはテテトが何をしようとしているのかを理解した。計画に欠けているものを見つけたようだ。

なら、自分も手を貸そうとワントはセトたちに声をかけた。


「赤毛の妹がいらっしゃるので? それは我らが主の祝福を大いに授かっているに違いない。ぜひ一度お会いしたいですな」


「聞いておられたのですか? そうですか、まあ、もう遅いのでリーベさんには後日来てもらうとしましょう」


「・・・」


アズラはこの支部の雰囲気が変化したのを感じ取った。


(雰囲気が変わった?) 


我慢して我慢して、堪え切れなくて少し味見をしようとした。そんな時の感覚。

優しい振りをしていたが欲望を抑えきれずに毒牙にかけようとその牙を口からゆっくりと出そうとする感じ。


(公爵の関係者なら厄介だったが、ただの子供なら問題ない。赤毛の少女を迎え入れ、後は奴隷商人にでも売り払えばいい)


ゆっくり、ゆっくりと逃げ道を塞いでいく。まずは居場所を聞き出さないといけない。


「そうだ。もし都合がよろしければ明日お迎えに伺います。妹は今どちらに?」


「・・・今は、宿に泊まっているわ」


アズラは、支部の者たちが異常にリーベに執着していることに気付いている。

リーベに手が及ぶ可能性が高い。今すぐにでも出ていった方がいい。だが、まだ証拠を押さえていない。


「・・・神官様、そろそろ帰らないといけないのですが、妹に何か良いお守りでもないでしょうか? きっと喜びますので」


「それなら、奥の倉庫にいいのがありますよ。帰りはお送りしますので、どちらの宿まで?」


「自分が取りに行きましょう。セトさんも倉庫を見られますか?」


「いいのですか?」


「もちろんです」


「! わたっ」


「さあ、私たちはこちらで待ちましょう」


セトがテテトと共に奥に入っていく。セトは自分たちが置かれた状態に気付いているのだろうか?

アズラに焦りが出てきた。証拠を確認するため陽動をかけたが逆に利用されてセトと引き離された。

目の前の神官は、アズラが追いかけられないように道を塞いでいる。

アズラは気付かれないように魔力を高めていく。


「そういえばまだ、宿の名を聞いていませんでしたね」


「そうでしたね」


テテトの案内でセトは倉庫の中を見ていく。

大小様々な木箱が置かれているが、お守りとやらはどこにあるのだろうか。

木箱の中は宗教用の道具や小道具、奥に堂々と置いているのは山のような多量の武器だ。


「テテト様。この大量の武器は何に使うので?」


「それは、そうですね、主の敵を滅するためにあります」


フローラが見せてくれた資料の品が開け放たれた木箱の中に転がっている。すでにカラだ。


「テテト様。一つお伺いしたいのですが、・・・神官様も酒を嗜まれるので?」


「その酒は主の敵をいぶり出すためにあります。我らの信仰を疑う、愚か者ッをッねぇ!!」


セトの顔めがけてナイフが飛ぶ。いきなりの攻撃にセトは木箱でよろめきその場で尻もちをついた。

信じたくはなかったと今でもセトは思う。しかし、これで確定だろう。証拠としても十分だ。

ベスタ公国支部は完全に暴走している。


「どうっして、こんな!」


「主の敵は我らの邪魔をしたがるものです。神官が堕落していると耳にすれば足を引っ張ろうとやってくるっぅうう!!」


ブンッ! とテテトが剣を振り回しセトを追い詰めようとしてくる。

目が血走り、その顔には狂気が浮かんでいた。

先ほどまで親切だったテテトと同一人物とは思えない。

剣が空を斬りながら、セトを殺そうと迫ってきた。


「死ねぇ! 死ねぇええ!!」


「クッ!」


だが、セトは懸命にテテトとの距離を保つ。

そうしていれば当たることはないからだ。

その振り回し方は完全に素人のそれだ。狙いも定めず、斬り方も知らず、鈍器のように振り回すだけ。

ブンッ!ブンッ!と剣に振り回されながら、テテトは狂気を振りまいていく。


「ッ! ごめんなさい。テテトさん」


セトが動く。

剣に慣れていないテテトは剣の重さすら支え切れていない。

テテトが剣を振り上げその重さにふら付いた一瞬の隙を突く。

一気に懐へ。

ドスッとみぞおちを肘で思いっきり突いた。


「フグッ!!?」


テテトが白目を剥きその場に倒れ込んむ。

意識を失いピクピクと痙攣した。


「アズ姉!!」


テテトを無力化したセトは大急ぎで戻っていく。

アズラが一人で取り残されている。今すぐ助けに戻ろうと全力で走り。

通路を一気に走り抜け、もといた場所に飛び出した。


「アズ姉! どこ!」


アズラがいない。まさか連れ去らわれたのか。


「アズ姉ぇぇ!!」


「うるさい! 聞こえてるわよ」


「・・・あれぇ?」


よく見ると、神官たちが全員白目を剥いて倒れていた。

どうやら、アズラがすべて叩きのめしたようだ。

セトは思う。アズ姉を守ってあげるのは至難の業なのではないかと。

守る必要がない人を守るのはどうしたらいいんだろうか。

たぶん、アズラより強くなるしかないだろう。

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