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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第二章 狂信者
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第二十三話 狂った計画

開けた場所にベスタ公国支部の神官たちが手足を縛られて集められていた。

全員一撃で意識を奪われ、抵抗出来る状態ではない。

そんな彼らを見ながらアズラは意識のある一人に質問をしていた。


「あなたたちの目的は何? 何故私たちを襲ったの?」


「・・・主の敵め!」


「それはあなたのことじゃないの?」


「!? き、貴様!! 私の信仰をッ、侮辱するかぁあ!」


アズラに挑発された、神官ワントは声を荒げて激昂する。

彼らにとって信仰心とは、精神の要ともいえるものだ。

それを否定されれば怒りもする。否定を否定で返すために。

理論ではなく感情で否定しようとしていく。


「何か間違っていたかしら?」


「主に仕えし我らに刃向かったのだ! その罪の大きさを知れ!」


「主の役に立てなくてよくそんな口が効けるわね」


「ッッ!!」


信仰と教義がねじ曲がった彼らにとって、主は絶対である。そう、自分たちの主が絶対なのだ。

自分たちの主の役に立てない自分たちは、さて何なのだろうか?


「わ、我々を殺しても、エウクレイデス様が必ず貴様らを滅してくださる! 主の敵がのうのうと生きているなどあってはならない!」


(バカね・・・)


ワントは激昂の余り、口を滑らせて主犯格の人物の名をいってしまった。

アズラはさらに情報を引き出そうとワントを刺激する。


「エウクレイデスなら、もう死んでるんじゃないかしら?」


「フッ、何も知らない愚か者め。あの方が殺されるなど」


「そう? 私の魔晶石には始末したって報告がきているけど」


嘘を並べながら、それを真実のように振る舞っていく。ワントに市場で買った通信用魔晶石をチラリと見せる。

さも意味ありげに魔力で点滅させながら。


「あ、あり得ない・・・、あり得ない! あってたまるか!! 施設の防御は完璧なのだ。そもそも場所が知られるはずが」


ワントにはもう嘘と真実を区別する思考の余裕もないみたいだ。

なら後は、嘘を否定するための真実を喋らせていけばいい。


「施設がすごくても殺されたら意味ないわね」


「嘘だ! 貴様、嘘をついているだろ!! そうじゃないとおかしい!!」


「・・・制圧が完了したそうよ。ほかの所も制圧に向かうけど仲間に死んでほしくないなら、早く情報を言うべきね」


「・・・う・そだ」


ワントに絶望が広がる。自分たちは終わりだ。害虫を駆除するように根こそぎ駆逐される。

目の前の女は、ここにいる自分と仲間もろとも平気で皆殺しにするだろう。

喋らなくては、今は命を繋がなくてはいけない。


「わ、わかった。は、話す。すべて話すから、殺さないでくれ」


完全に心が折れワントは抵抗の素振りを見せなくなった。

ずっと見ていたセトは、アズラがなんか悪魔のように見えてきた。

あんなにスラスラと嘘をつけるものなのだろうか。

知らない間にセトも嘘の一つや二つつかれているかもしれない。


「さすがですね。このマルクが手を貸すまでもないとは」


いきなり男の声が部屋に響いた。アズラとセトが声の方を向くと、一人の男が立っていた。

色の抜けたボサボサの金髪で青い瞳。白衣を身に纏ったこの男は、そうフローラの付き人。

マルクだ。


「ベスタ家の犬! そういうことか、クソ」


ワントがマルクを見て何か勝手に納得したようだ。ハッタリはまだ効いている。

バレる前に聞き出せるだけ情報を収集するべきだろう。


「あなたはフローラさんの、近くにいたのなら助けてくれても良かったのに」


「すいませんね。お姉さんの方が凄まじく強かったので大丈夫だろうと」


セトは文句をいうが、この依頼を引き受けたのはセトだ。

荒事も覚悟しておかないと今後やっていくことは出来ない。


「さて、では全て話してもらいましょうかね。何をしようとしていたのかを」


「わ、わかっている。だから、頼む」


「話すのならね」


ワントの口からその全てが語られた。


「エウクレイデス様は、ツァラトゥストラ教の真の信仰は我らにあると考えられ、ジグラットからの独立を目指していた。そのために、支部を拡張して儀式を受ける施設を増設していた」


ベスタ公国支部は、神官エウクレイデスにより統括管理され聖地アヴェスタとジグラットから独立しようと準備を進めていたようだ。


「では、あの大量に購入した嗜好品などは?」


「戦力を蓄えていることを誤魔化すためだ。武器だけ集めたらすぐにバレてしまうからな」


独立時に予想される武力衝突に備えて武器を買い集め、そのカモフラージュとして嗜好品や贅沢品を目立つように購入していたということだ。

ツァラトゥストラ教の規模を考えると支部一つで反乱とは無謀のように思えるが。


「だが、すぐに問題が浮かび上がった。独立しても信者がついてこないと意味がない」


「それで、リーベを!」


「ヒッ!、そ、その通りだ。聖女に祭り上げるつもりだった」


独立時に信者を奪い去るためにツァラトゥストラ教の象徴の一つである、聖女をそこらの子供で仕立て上げることも考えていたみたいだ。

丁度、リーベの外見が適任だったということだろう。

アズラは怒りが込み上げてきた。大事な妹を自分たちの勝手な目的のために利用しようとしていたなんて。

事前に分かっていたらリーベをこんな奴らと接触させるヘマもしなかったと自身の失態を恥じる。


知ってしまえばなんてことはない。自分たちが特別になりたかっただけだ。

正しさと信仰がいくらこちらにあると叫んでも、その叫んでいる理由が欲を満たすためでは正しさと信仰は成り立たない。

狂信者とは、そのことにも気づかないほど盲目的になる。


「セトとアズラは城に戻ってくださいね。後は、私に任せてください」


「分かりました。マルクさん気を付けてください」


「ご心配なく。これでも戦闘経験はありますのでね」


そういいながら、マルクは白衣を少し広げた。その内側に何やら金属の部品を組み合わせたものが見える。

おそらく、彼の武器だろう。剣や弓ではないようだが鈍器に見えなくもない。

セトたちはこの場をマルクに任せて城に戻っていった。



----------



シェレグ城の一室である応接室で、初めて会う二人が対面していた。

話の内容は非常に重要らしくピリピリとした緊張感が漂っている。

その二人の様子をフローラは息をのんで見守っていた。

公女であるフローラが口を挟めない。

この会談は一国と未来を変える可能性のあるものだ。


一人は、ウィリアム・ノルマルナ・ベスタ公爵。


青と白のスーツを着こなし、ライオンのような髪型をしてその蓄えたひげをピンッと整えて座っていた。

このベスタ公国の現支配者だ。だが、ウィリアム公爵は自分が王ではないと思っている。

それは、自身の配下にも徹底させている。決して王のように扱わないと。

彼は公爵であるため王が座るための王座を使用しない。

ましてや、謁見の間を使用することもない。せいぜい、パーティーを開くときに使用するくらいだ。

彼は、自分の立場をよく分かっている。王座も謁見の間もカラグヴァナ王国の王が使用するのだから。


ウィリアム公爵と対面するのは、ツァラトゥストラ教の聖地アヴェスタから来た男。

今回、フローラが送った書類のベスタ公国支部について対応をしに来た人物だ。


ヴェヒター・デカダンス・ホーエンツォレルン


腰まで伸びる長い白髪、女性と見違えるほどの白い肌と美貌、その突き刺すような目はすべてを見抜いていると思わせる。

白の神官服に赤が追加されており、彼が特別だと一目で分かった。

役職は神官であるが、神官長への任命を拒否した驚きの経歴を持つ。

神官長とは、ツァラトゥストラ教の神官たち全てを束ねるリーダー的存在だ。

その役職に付けば教皇に次ぐ権力を手中に収めることができるほど。

それほどの評価をされている男が、ウィリアム公爵の眼前に身動き一つせず座っていた。


「では、ジグラットの見解を聞こうか。こちらの調査でほぼ黒だと判明しているがどうするお積もりかな?」


「・・・そろそろ連絡がくるのではないでしょうか」


「ん? 何のだ?」


神官ヴェヒターがフローラに目線を投げた。フローラはヴェヒターと目が合い足が硬直してしまう。

あれだけ、優雅にそして妥協せず自分を高めていたフローラが、見られただけで動けなくなった。

フローラのように生み出し維持しているカリスマではない。

何もしなくても人々を魅了するカリスマを彼は持っている。


数秒もしない内にフローラのドレスから光が漏れた。

通信用魔晶石に連絡が入ったようだ。

フローラの通信用魔晶石は、アズラのものよりも高機能だ点滅で連絡するのではなく文字を出力することができる。

数百という小粒の魔晶石を引き詰めて文字を点灯させていた。表示される文字はこうだ。

ベスタ公国支部の制圧と計画の全容判明と。


「・・・父上」


フローラは小声でウィリアム公爵に耳打ちをする。

ウィリアムは、少し顔を顰め内容を聞いていく。


「今確認が取れた。ベスタ公国支部はジグラットに反乱を企てていたようだ。そちらの内乱に我が国民が巻き込まれた訳だが」


「こちらの非を全面的に認めましょう。そして、今決めるべきは事後の保証ではなく公国内に潜む犯罪者の確保です」


「非を認められるのですな?」


ウィリアム公爵は確認を取る。

途中で自分たちには非はないなどと主張されたら、ジグラットとベスタ公国の間でシコリが残ってしまう。

故に、ここは慎重に進める。


「ええ、心配でしたら先に保証の契約書を交わしておきましょう。補償内容は後日、被害内容に合わせれば良いかと」


「分かった。ヴェヒター殿を信用しよう。ベスタ公国支部の残党確保だが、ジグラットからも人員を貸してもらいたい。同じ神官なら分かることもあるだろうからな」


「お言葉ですが彼らは神官ではありません。聖職者を名乗る犯罪者です。間違えることの無いようお願いします」


「ああ、そうだったな。すまんかった」


ウィリアム公爵はどうにも会話の主導権を握り切れないでいた。ヴェヒターは下手に出ているが、何か芯の通ったものを感じる。

そう、例えるなら自分たちは絶対正義であり間違いはないという自信の表れのような。

今回の件もヴェヒターにとっては一国の支部に犯罪者が紛れ込んだ程度に思っているのかもしれない。


「人員の件ですが、私が担当いたしましょう。追加の人員を待つ必要はありません」


「よろしいのですか? あなたは犯罪者たちの格好の標的でしょうに」


「問題ありません。なにより、これ以上関係のない人々を巻き込むのは許されない」


そう告げた目は、とても冷たかった。そうだと決まっていると、それが出来て当たり前だと告げている。

ウィリアム公爵は、寒気のような悪寒にも似た感覚が体中を駆け巡るのを感じた。

ヴェヒターという男は、本気で正義を体現できると信じているのだろう。

いや、確信なのかもしれない。彼の正義は主への信仰で証明されているのだから。

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