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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第二章 狂信者
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第十九話 最初の報酬使うのは

アズラは読書に耽っている。

読んでいるのは、ベスタ公国とカラグヴァナ王国との関係を歴史から紐解いた考察書だ。

歴史から考察するのは当たり前と思うだろうか?

当たり前だからこそ重要な書物なのだ。


本にはベスタ公国とカラグヴァナ王国の関係をこう記している。

王と騎士。

宗主国のカラグヴァナ王国が王。

属国のベスタ公国が騎士だ。

騎士は王に絶対の忠誠を誓い、あらゆる敵から王を守り抜く。

王は国のさらなる発展のためにその指導力を振るう。

そうベスタ公国は完全にカラグヴァナ王国の一部であるのだ。

昔、独立国であった名残として公国になっているに過ぎない。


アズラはさらに読み進めていく。この考察書は客観的に二国の関係を考察している。

普通は褒めたたえるものが置いてそうだが、ウィリアム公爵は思想にも優れているようだ。


気になる内容が書いてあった。カラグヴァナ王国による文化的侵略。

ベスタ公国にカラグヴァナ王国の文化、習慣を長い年月をかけて根付かせ完全に取り込んでしまうという見方。

持ち込まれた文化は様々だ。祭りや宗教、食べ物。そして、奴隷制度。

良いものも悪いものもまとめて属国に根付かせている。

カラグヴァナ王国がいないと立ち行かなくなるように国を作り替えているのだ。


ベスタ公国はもうそこまで取り込まれてしまっているのだろうか。アズラは思案する。

アズラの故郷であるディユング帝国にも属国は存在するが帝国の傘下といった所だろう。

一つの国として取り込もうとするのではなく、手下として扱っている。

ある一定の条件を呑むのなら帝国の庇護下に置く。帝国はそうして勢力圏を拡大してきた。

この辺りもカラグヴァナ王国とディユング帝国の文化の違いなのだろうか。


「侵略国家ね・・・」


侵略をしない国などあるのだろうか?

自身の国が安定し脅かされる心配がなくなるまで侵略は続けるだろう。

結局、国とは人の集合体だ。その行動も人の総意で決まる。

総意を得られやすいものは何か、満足できる餌が手に入る意見だろう。


「む、リーちゃんありがと。もう大丈夫」


「セト、平気? あの人なんかしたの?」


「何もしてないよ。僕が緊張で参ってしまっだけ」


セトが復活した。リーベはセトの腹の辺りにまだ抱き着いている。リーベはほんとセトに懐いた。

アズラが見てもビックリするぐらいに懐いている。会ったばかりの頃は自分にベッタリだったというのに。

ちょっと寂しいと思うアズラ。


「起きた? 私も読書に飽きてきたから市場にでもいかない?」


「市場か、いいよ。市場に行くなら武器屋に寄っていい?」


「セトって武器見るの好きよね。村ではそうでもなかったのに」


「ちゃんと行く理由もあるよ。防具の新調だよ」


セトは遊びで行くのではないと告げる。セトもセトで考えている。


「あ、そうね。新しいの買わないと」


「アズ姉さん、わたしも行っていい?」


リーベはアズラに確認を取る。勝手に出歩いて怒られたため、許可を貰おうとしているのだ。


「もちろんいいわよ。一緒に行きましょ」


「うん!」


「あ、でも出ていったら宿を探さなといけないんじゃ」


「余るぐらい部屋があるんだから大丈夫よ」


一応、セトたちは使用人に確認を取る。首都ウェスタを出るまで泊まっていいそうだ。宿代もいらないとのこと。

さすがベスタ公国一の金持ちといったところか。しばらく滞在してほかの仕事をしてもいいかもしれない。

セトたちは公女の厚意に感謝し市場に出かけた。


さあ、人生二度目の市場。ラガシュの市場より大きくいろんな物が売ってそうだ。

今回は食べ物が目的ではない。今後の旅に必要な物資を下見に来たのだ。

店に色とりどりと並ぶ品々、長期保存が利きそうな乾燥肉、術式の補助に使用する魔晶石、これは使用方法が分からないので後で調べる必要がある。

生活の必需品となる着替え用の服や靴。裁縫セットも置いてあった。

セトには全部いるように見えてくるが、旅は身軽に動けるように最小限がいい。

アズラは手慣れたように店の者に商品の説明を求めていた。


「この乾燥肉、どれくらい持ちますか?」


「乾燥したままなら一月は大丈夫だ。湿っちまったらその日の内に食うべきだな」


「こっちの木の実は・・・」


「リーちゃん、ここはアズ姉に任せて他のとこ見に行こうか」


「セト、約束覚えてる?」


「ん? 約束?」


「ぶーー!」


おっと、リーベが拗ねてしまった。セトは何の約束だったか必死に思い出す。

ダメだ思い出せない。こんな時はリーベの好きなものを食べさせてあげれば機嫌は直る。

とりあえず甘いものでも食べに行こう。

セトは奇跡的に約束の品にたどり着いた。リーベもよくそんな約束を覚えていたものだ。


セトとリーベは近場の飲食店に入っていく。

リーベは約束を覚えていてくれたと感激しながらメニューを見ていた。

そんなことにセトは全く気付かず小腹満たしにパンを注文する。

もちろんリーベはデザートを注文だ。


注文された品が二人の前に運ばれてきた。

オレンジ色のパンとこれは砂糖でコーティングした豆にミルクをかけたものだろうか? なんとも甘い匂いが香っていた。

セトが一口パンを頬張る。はむっと柔らかいパンがセトの口で押しつぶされプルっと弾けるように千切れた。

すると口の中のパンから果物の風味と味がほのかに広がる。


「ん、甘い! このパン甘い。お菓子のパンだ」


「モグモグ。しょれおひしいの?」


甘いパン。それはぜひとも食べてみたいとリーベが興味を持つ。セトたちは今まで主食としてパンを食べて生きてきた。

そのためか、パンは味の薄いものが多く。味が濃いものも豆などが入っている雑穀パンが主流だ。甘いパンなど初めてだった。


「リーちゃんも食べてみて。おいしいよ」


「はむ。・・・んー!」


リーベも甘いパンにほっぺが落ちそうになる。柔らかくて口の中を優しく包むようだ。

砂糖で固めた豆を噛むのに疲れたのかリーベは貰ったパンを砂糖が溶けて甘くなったミルクにつけて食べ始めた。


「あ、それはおいしいかも」


ミルクを吸ってヒタヒタになったパンをはむっと頬張る。ミルクでトロトロに溶けてしまいそうになっているパンを口の中で完全に飲み物のようにしてしまう。

これはもう、噛めるジュースだ。噛むたびにジュワッとミルクが溢れ出てきて香る甘さと絡みつく甘さのダブルパンチを口の中で味わっていく。

セトも一口貰いそのおいしさを味わう。たしかに、このおいしさを味わえるなら女の子が甘いもの好きになるのも頷けると、セトは一人納得していた。


「もう、また二人して勝手に行って! 今度から私にちゃんということ分かった?」


「「はい」」


セトとリーベはまたアズラを心配させてしまった。

ちゃんと行先を伝えるべきなんだが、ちょっとその辺の意識がセトには足りないのかもしれない。

アズラは目星の物は粗方見てきたようだ。どうやら、一品だけ何か購入したようだ。右手に宝石のような道具を持っている。

金属の板に石が埋め込まれていた。


「アズ姉、それ何?」


「これは魔晶石っていう便利な道具よ。ちょっと見てて」


するとアズラが魔力を魔晶石に込めだした。魔力が見る見るうちに魔晶石に吸い込まれていく。すると魔晶石の石の部分が点滅を開始した。

さらに、もう一つの魔晶石を取り出す。今度は、何もしていないのに勝手に光り出した。


「すごい勝手に光ってる」


「これはね、二組で使用する物で、片方に魔力を注ぐともう片方も同じ効果が得られるの。とても便利よ」


「何に使えるの?」


「お互い離れていても連絡が取り合えるのよ。点滅の仕方に意味を決めておけば伝えたいことがこれで読み取れるでしょ」


「おお! 確かに便利だ」


魔晶石とは魔力に反応する特殊な石だ。大体の魔晶石は魔力を吸収し光に変換する性質を持っている。

照明替わりにしたり、遠い相手への連絡手段にしたりと様々だ。

アズラの購入した魔晶石は二組の魔晶石をセットで使用するタイプで、連絡専用の物となっている。お値段もそれなりだ。


「・・・アズ姉、これ結構したんじゃ」


「大丈夫よ」


「報酬のお金まだあるよね」


「心配ないわ。さあ、武器屋に行きましょう」


お値段を教えてくれなかった。

アズラのことだから相場より高く買うことはないと思うが、それなりに使用したと考えておこう。


市場の隅にある武器屋に来た。他にも武器屋はあるがセトはここが気になって仕方がない。

早速中に入ってみる。どうやらこの武器屋は魔獣の爪や牙を加工した武器も取り扱っているようだ。

単純に金属の組み合わせを追及した武器や防具以外もある。


ここに来た目的はほかでもない。セトの防具の新調だ。

あのジグラットでの戦いでセトの防具は焼け焦げてしまった。父の形見の防具。

失うのは辛いがセトの命を守ってくれたのだ。足の黒い防具はまだ使用できるかもしれない。

この部分を使いまわして服の部分と上半身の防具を新調することにした。

ベスタ公国に来るまでは、アズラに護衛を任せきりだったがいつまでも甘える訳にはいかない。

予算は10ヤカル。一部使いまわすので少し安くなればいいが。


さて、何を選ぼうかと防具を見て回る。

鉄の鎧か、魔獣の皮で出来た防具か、かなり種類があるようだ。

アズラも武器を見ていく。

今、セトたちの装備は、セトが短剣と焼け焦げた防具。アズラが拳闘士用のギム・ゼント甲殻手甲と防刃用の服。

アズラの手甲もかなり痛んでいる。あれだけ殴っていたらこうなるのは当たり前か。

手入れは欠かさずしていたが、修理も兼ねてメンテナンスをしてもらった方がいいだろう。

戦闘中に万が一破損でもしたら命に係わる。


「すいません。手甲のメンテナンスをお願いします」


「ほいな。あらー、結構痛んどるね。400ゾルはするけど構わないかい?」


「はい。お願いします。セトも剣研いでもらいなさい」


「あ、うん」


セトが短剣を手渡す。この剣はギム・ゼント戦以外ではあまり使わなかったが手入れは必要だ。


「こっちは、そんなにだね。50ゾルでいいよ」


装備のメンテナンスを頼んで、セトたちは防具を真剣に見ていく。

純粋な防御力を求めるか、魔獣の特性を取り入れたものを選択するか。

100ヤカルを超えるものには、特殊な魔晶石を埋め込んだ魔力増幅タイプの鎧や、魔獣の感覚器官を使用した魔力感知特性を持つ防具などが置いてある。

とても買えそうにない。


セトはちょっと安めの軽防具を見つめて悩んでいた。

生地に防火性の魔獣の毛皮を少量編み込んだものだ。動きやすく火を得意とする魔獣と戦うのに効果的な防具。

お値段は7ヤカル。防具が胸当てしかないので値段もかなりお手ごろだ。

この防具の注意点は水を吸いやすく重くなること。そのことも影響しているのだろう。


「うん、これにする」


セトは防火性の防具を選び取り、店の者に渡す。


「あの、この防具をつけれますか?」


「サイズを合わせれば大丈夫だよ。ちょっと焦げとるね・・・。まあ、磨けば使えるよ。後、防具の組み合わせ的にちょっと泳ぎにくくなるけど構わない?」


「はい。これでお願いします」


「ほいな。じゃあ、ベスタ式軽防火一式とカスタマイズだね。カスタマイズ一点500ゾルで、計7ヤカルと500ゾルだよ」


お会計担当のアズラが支払いを済ませる。合計7ヤカルと950ゾル。予算内に収めることができた。


「そいじゃ、明日の夕方頃に取りに来ておくれ」


「はい、ありがとうございます」


これで目的は達成だ。セトは明日が楽しみでちょっとニヤついている。

そんなセトを見てアズラは、セトが防火性の防具を選んだ自分の判断に気付いていないと理解した。

そう、セトはあの全身を焼かれた痛みと恐怖を本能で恐れてしまっている。

一時的なものであってほしいけどと、アズラは心配事を一つ抱えるのだった。

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