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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第二章 狂信者
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第十八話 白い城の公女

国境を越えベスタ公国領に入った。

ミズラフ地方の端にある山岳地帯から帝国領を抜けると、乾いた風がセトたちを包んだ。

山道の下には川が流れているが水量が少ない。木々も少なく全体的に少し岩肌が多い感じだ。

ここがベスタ公国。

本来は温暖な気候なのだが今は干ばつの影響で熱帯地方のような気候になっていた。


ゴクゴクと水がすごい勢いで減っていく。

そのたびにアズラが水の術式で新たに水を用意してくれるが、暑さに慣れていないセトたちには全然足りなかった。

馬車を引く馬も暑さに堪えているようだ。


「まいったわね。こうも暑いとすぐに参ってしまうわ」


これは、どうにかしないといけないとアズラが対策を考える。

とりあえず、水の術式で馬車に水をかけて温度を下げようとするも、すぐに蒸発してしまう。

もう少し手を加える必要がありそうだ。


「暑いよー」


「暑い・・・。涼しい風吹かないかな」


「それよ! セト」


「?」


アズラは、術式で水を生み出しそれを風の術式で舞い上げて馬車の周りを巡回させていった。

水で冷えた風が馬車の温度を下げていく。涼しい風は日干しにされてしまいそうになっていたセトたちを快適な旅に誘った。


「おお! すごい! 涼しい」


「アズ姉さんは何でもできるんだよ!」


何故かリーベが、ドヤァ! と威張っている。大好きな姉は凄いんだぞとセトに見せつける。

大丈夫だセトも知っているぞ。


アズラが生み出した風は暑さを遮断し、馬車の移動効率を格段に向上させている。

彼女は、知らず知らずのうちに混合術式と呼ばれる上級の術式を使い始めていた。

普通の術者は一つの術式を制御するのに精一杯だが、上級者は二つ三つと同時に制御ができる。同時に制御できてこそ複数を合わせた混合術式を扱えるのだ。

アズラはまだ気づいていないが彼女には術式の才能がある。

その才能が開花するのはいつになるか、まだ先のようだ。


ベスタ公国は帝国領と国境を接している国だ。

故に、人の往来も盛んで友好的な関係が続いている。

山道を降りて街道に戻ると荷台を運ぶ馬車が何台か見えてきた。


ベスタ公国の首都ウェスタに向かっているのだろう。

セトたちの目的地もそこだ。やはり首都というだけあって物の往来も多いのか、たくさんの荷物を載せた馬車が目に付く。

木箱を載せているもの、大量の穀物を運んでいるもの、後は、乗員室に人をギュウギュウに乗せているものもある。

頭に耳があるから亜人のようだ。

あんなに乗せては狭い上に暑苦しいだろうにとセトは思うが、よく見ると手に枷が付けられている。

なんか服も小汚い感じだ。


「セト! 頭を引っ込めなさい」


アズラから注意が飛んできた。セトは素直に頭を引っ込めてリーベの隣に座る。


「あれは奴隷よ。ジロジロと見るものではないわ」


奴隷。

人や亜人を物として扱う悪習。

帝国では50年ほど前に禁止された制度だ。

帝国が禁止でも他国では異なる。

ここベスタ公国では今も奴隷制度が社会の一部として機能しているのだ。

奴隷商人も堂々と道を歩き商売をしている。


「奴隷・・・」


価値観や文化の違いがあるのは分かっているが、セトは同じ人間なのに物として扱われることが理解できなかった。

ジグラットでは他国の文化までは教えてくれなかったから。

教えられても知識として覚えるだけで、理解はできないだろう。

嫌なものを見た。

そんな気分がセトの胸の辺りをギュッと握りしめていた。

リーベが少し心配そうにセトを見上げている。納得できない嫌な思いはリーベにも伝わっていた。



----------



首都ウェスタの城門が見えてきた。天然の岩盤を削り出しそのまま敵の侵攻を防ぐ壁となっている。

城が山の頂上に建てられており、その白い城壁がふもとの城門からでも見ることができる。


白の壁、シェレグ城。

数多の戦争の中で一度も陥落したことのない城。

王族に先立たれ、主を失った城。


そう呼ばれていた。

城門をくぐるとラガシュと同等かそれ以上の街並みが広がっていく。

城壁が城までに5箇所もあり、町をドーナツ状に分割していた。

城に近いほど高貴な者たちが住んでおり、最も外側が下級市民が住む住宅街でスラムなどもあちこちにある。

2番目は市場を中心に町が構成されてり、旅人や傭兵などが滞在する。

3番目は上級市民が住んでおり高級な店も多数並んでいるようだ。

4番目が貴族たちが暮らす場所だ。ここからは許可がないと通行できない。

そして、5番目がこの国の中枢、シェレグ城であり国の支配者ベスタ家の住まう所だ。


セトたちの向かう先は、その国の中枢シェレグ城。

ベスタ家の人物に渡すツァラトゥストラ教からの親書を預かっている。

まずは、手続きだ。許可を貰わないと中に入ることができない。

馬繋場に馬車を止め、セトたちはベスタ家に謁見を求める人たちの列に並ぶ。

この親書を見せれば一発で許可が出そうな気がするが、ちゃんと手順を踏んだ方がいいだろう。


「なんか、元気がないな・・・」


そんな感想がセトの口から出てきた。

ウェスタは確かにベスタ公国の首都だが、現在は干ばつのせいで国全体が食料難になっている。

町の人々から元気が感じられないのもそのせいだった。

それでも首都は首都。目まぐるしく新たな物資が運び込まれ町へと飲み込まれていく。

食料難対策だろうか、穀物を積んだ馬車が多いような気がする。

セトがぼんやりと馬車の荷台を眺めていると穀物の正体が分かった。クル豆だ。

セトの故郷アクリ村で毎日のように食べていたあのクル豆だ。

確かにクル豆なら乾燥にも強いしどこでもよく育つ。


「最近、クル豆食べてないな・・・。リーちゃん、クル豆食べたい?」


リーベから返事が返ってこない。セトが思わず周囲を見回す。

すると、住宅街の方に消えていく赤毛の女の子が見えた。


「リーちゃん! どこいくの!」


セトはリーベを追いかける。一人で探検にでも行くつもりかもしれないが、知らない所で下手に動くのは危険だ。

首都といってもこの辺りにはスラムもある。リーベのような子供が一人で居ては人攫いに目を付けられる可能性が高い。

リーベが住宅街の奥に入ってしまった。見失うとそう簡単には探し出すことは出来ないだろう。


「ちょっと、最近元気過ぎないかな」


ため息をつきながらセトは愚痴をこぼす。

初めて会った時は脅えていて町に着いてからも大人しかったが、実は、リーベは物凄くお転婆だったようだ。

人の評価は第一印象で半分決まるほど決まってしまうが、これは評価を下方修正しないといけない。

アズラに頼んで躾けて貰おうか。

セトはそんなことを考えながら住宅街に踏み込んでいった。


「リーちゃん! リーーちゃんどこー!」


まずい。見失ってしまった。呼びかけているが返事は帰ってこない。

気付けば道端に寝転がる浮浪者がそこらかしこにいる。さらにまずい、スラムに入ってしまっている。

普通の町とスラムには目に見える敷居はない。一角曲がったらスラムに入っているなんてのはよくあることだ。

何人かの浮浪者がセトをジッと見てくる。スラムに身なりのいい人が入ってくるのは珍しい。

物好きか迷い込んだか。新しい住人か。

だが、今回は迷い込んだと決まっていた。セトは人を探していますと大声で名前を呼んでいたから。


(やばい。囲まれたら逃げられなくなる)


セトは一旦その場を後にした。リーベを完全に見失ってしまった。早く戻らないと自分も迷いそうだ。

リーベが心配だが、アズラを呼びに戻って一緒に探した方がいいかもしれない。


「なら、急がないと」


アズラを呼びに戻ろうとしたその時、裏路地から出てきた人とぶつかりそうになる。


「わっ! ごめんなさい」


「あ、セトこんなとこに居た。ダメでしょ迷子になっちゃ」


「リーちゃんこんな所に。・・・その人は?」


「町を案内してくれた人」


「・・・」


「うちの妹がすいません。迷惑をかけてしまったようで。さぁ、リーちゃん帰るよ」


「私を見ても怖がらないのだな」


「?」


そう聞いたこの人物は、亜人だった。セトも亜人と話すのは初めてだが同じ人なのだ。特に怖がる必要もなかった。

スラッと背が高く、緑色の鱗に覆われた体。トカゲの顔をしたツァーヴ族という亜人だ。


「この辺りは人攫いも出る。こっちだ出口まで案内しよう」


言われるままにセトたちは彼についていく。少し歩くと元の城門前に戻ってきた。角を2回曲がっただけだ。後は直進。

スラムは町のすぐそばにあるということがセトにはよく分かった。


「ありがとうございます」


「おじさん、ありがとう」


「次からは気を付けなさい」


ツァーヴ族の男と別れを告げ、アズラの下に戻った。

優しい人で良かった。もし彼が人攫いだったらセトでは対処しきれなかっただろう。


「どこ行ってたの! 心配したんだから!」


「ごめんなさい」


「セトがね迷子になってたんだよ」


「リーちゃんも!」


「う、ご、ごめんなさい」


二人に説教が飛ぶ。いきなりいなくなったら誰だって心配する。

今回はリーベとちゃんと見ていなかったセトが悪い。


アズラが手続きを済ませてくれていたので、馬車に乗り込み、シェレグ城を目指す。

住宅街を真っすぐ突き抜けていき、第二の城門をくぐる。

似たような景色が広がるが、こっちはまだ活気があった。

市場を通り過ぎると、人々の商いが聞こえてくる。

隅の方にあるのは武器屋だろうか?

後で寄って見ようとセトは心のメモに書き残した。


第三の城門を超え第四の城門で許可証を見せると衛兵の方がすっ飛んでいってしまった。

何か悪いことでもしただろうかと不安になっていると、案内役の騎士をわざわざ連れてきてくれた。

ベスタ公国の騎士は、青を基調とした鎧を身に着けておりとても鮮やかだ。

貴族の町を進んでいく。

上級市民の町もそうだが、貴族の町は何だか小奇麗な印象だ。家も道も見た目にこだわっているのが感じ取れる。

そうこうしているうちに、騎士に案内され遂にシェレグ城に到達した。


「・・・すごい」


「私もこんな建物を見たのは初めてよ」


「真っ白だね」


間近で見るとその迫力に圧倒されそうだ。

白い壁とはよく言ったものだとセトたちが関心していたところ。

第五の城門がシェレグ城の城門が開いた。中から新しい騎士が現れセトたちを案内していく。

馬車から降りた三人は騎士の後をついていった。


石造りの立派な城だ。左右対称に内部が構築されており、石の通路の上に青い絨毯がひかれ騎士の銅像がズラッと並べられている。

よく見ると等間隔で本物の騎士も並んでいた。許可なく通る者を排除するためだろう。

威圧されているようで気分が落ち着かない。


さらに奥に進むと、人が生活している空間に出た。行事や会議などの仕事をする場所と生活スペースは別々にまとめてあるようだ。

メイドたちがせっせと仕事をしている。この光景はラガシュの領主ロレンツォ卿の館でも見たが、こちらの方が規模は上だった。

騎士がある部屋お前で立ち止まった。


「こちらでしばしお待ちを」


騎士に促されセトたちが部屋に入っていく。中には高級そうなソファにテーブルが置かれていた。

座っていいのか迷ってしまう。リーベは躊躇いなくソファに座った。その驚きの座り心地にリーベが目を見開いている。

貴族の生活初体験だ。

セトたちもソファに腰かけ寛ごうとするが、もうすぐ、この国のトップと会うと考えるとそんな気分になれない。


「アズ姉どうしよう。緊張してきちゃった」


「そんなこといってると余計に緊張するわよ」


セトとアズラは互いに緊張を解そうと会話を続ける。30分は待っただろうか。

コンコンと部屋にノックが響きわたった。

騎士が最大限の礼儀と心遣いで部屋に入ってくる。そして。


「フローラ・ウィリアルナ・ベスタ公女殿下がお見えになられました。くれぐれも失礼のないように」


そう言い残し騎士が後ろに下がった。セトたちも立ち上がり公女殿下が現れるのを待つ。

扉が開き、金髪のキリッとした顔立ちの少女が入ってきた。年齢はアズラと同じぐらいか。

深紅のドレスを優雅に纏いながら、セトたちに強烈な印象を植え付けてくる。

お付きの男が公女のすぐ後ろに控えた。


「お初にお目にかかりますわ。わたくし、フローラ・ウィリアルナ・ベスタと申します。フローラとお呼びくださいませ」


透き通るような聞き心地の声が返ってきた。セトはその声を聴いた瞬間、一気に緊張が来てしまう。


「あ、え、えと、セ、セト・アプフェルと申します。このたびは、ジグラットより親書を賜って参りました」


セトは緊張の余り、洗礼名を名乗るのを忘れてしまった。

しかし、フローラはそんなことなど気にも留めず。


「初めましてセト様。一月前に成人されたばかりとか、おめでとうございます。わたくしからも祝福を贈らせてもらいますわ」


「あ、ありがとうございます」


「そちらの、お美しい方々は?」


「フローラ殿下、お初にお目にかかり光栄です。アズラ・アプフェルと申します。セトの姉にございます」


「フローラ殿下、初めまして。リーベ・アプフェルといいます。セトとアズ姉さんの妹です」


リーベもちゃんと挨拶が出来た。まだ、敬語が上手くできていないが、リーベの年齢なら許されるだろう。


「セト様の御姉妹でしたか。アズラ様はセト様と特に似ておいでで。リーベ様は腹違いでしょうか?」


「いえ、母は同じでございます。リーベは父に似ているのです」


これは、リーベを家族として迎えるときにセトとアズラで決めたことだ。リーベは自分たちの本当の妹。

故に、誰かに聞かれたらそう答えると決めていた。


「そうですか。きっと赤く逞しいお父上なのですね。あら、そうですわ。セト様。親書の件なのですが、我が父ウィリアム公爵に代わりわたくしが親書を受け取りますがよろしくて?」


「は、はい。これが親書です。どうぞお受け取りください」


セトはガチガチに緊張したままフローラに親書を手渡した。フローラが自分でいったため、セトは気付いたがベスタ公国のトップであるウィリアム公爵が来ていない。

やはり国のトップというのは忙しいのだろう。噂では高名で民から広く慕われているとのことだ。

自分が会えないからと、娘である公女が出迎えてくれたのだ。歓迎されているとセトは感じていた。

と緊張が解れてきたセトの手をフローラが唐突に握りしめた。


「!?」


「セト様。お顔がよろしくないですわ。長旅で疲れたのでしょう。すぐに部屋を用意させますので旅の疲れを癒してくださいませ」


セトの眼前にフローラの顔が近づく、甘い吐息が感じ取れる距離。

緊張しているセトに配慮して部屋を用意してくれたようだ。だが、セトはそれどころではない。目の前にもの凄い美人がいて手を握り締められている。

恥ずかしくて視線を落とすと、開けた胸元が目に飛び込んできた。

緊張と恥ずかしさでセトの思考は停止した。


「お、お言葉に甘えさせていただきます」


アズラが慌てて、固まってしまったセトを救出する。あの女わざとだ。セトがどんな男かわざと試したんだとアズラに警戒心が芽生える。

フローラは少し楽しそうな目をして


「それでは皆様ごきげんよう」


フローラが優雅にお付きの男と去っていった。アズラたちは騎士に案内され客室に入っていく。

高貴な人物を泊める部屋なのかとても豪華だ。アズラたちがそう思っただけでこれが普通かもしれないが。

セトはまだ固まったままだ。癒しのリーちゃんが必要だ。


「リーちゃん、セトを助けてあげて」


「うん、ギュッ」


「ムギュッ」


しばらくセトはこのままだろう。一仕事終えたアズラは本棚に置いてあった本を手に取る。

暇つぶしに丁度いいだろう。セトが起きてからどこか出かけようと考えるのだった。

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