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僕と姉の神話遭遇記  作者: 暁0101
第二章 狂信者
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第十七話 みんなと別かれて旅立って

お昼真っ盛りの時間に一組の馬車が街道を通っていく。

木々に囲まれた街道は森の中を進んでいきもうすぐ帝国領を超えるところだ。

馬車には、セトとリーベ、そしてセレネが乗っており、アズラが御者台で馬の手綱を握っていた。

セトは普段着の白い服と緑のズボンをはいている。リーベはセレネに貰ったちょっと高級そうな青いシルクの服を。

セレネは赤いシルクの服だ。アズラは、緑色の綺麗な服をローブのように白い上着の上から纏い黒いズボンをはいている。

手には防具の付いた手甲を装備していた。

馬車の乗員室に乗るセトたち3人は、ワイワイと楽しそうにラガシュでの最後の日々を話し合っている。


「ハンサさん最後号泣しちゃって、僕どうしようかと思ったよ」


「セトとアズラ先輩がハグしてあげようなんて考えるからですよ」


「ハンサさんはそれが一番喜ぶんじゃないかなって」


「喜び過ぎてましたです」


「ハンサ泣き虫だったね」


「違うよリーちゃん。ハンサさんは嬉しくて泣いてたんだよ」


「やっぱり泣き虫」


「えーと・・・」


風の団と別れるとき、セトとアズラは一番お世話になった? ハンサにあるプレゼントをした。

可愛い髪飾りと、二人からのハグだ。

何故ハグになったかって? 別れの挨拶で泣いてばかりのハンサを元気付けようとしたセトが、今までのハンサの行動から彼女の喜ぶことを考えた結果そうなった。

セトのために断っておくが彼に下心はない。ハンサが巨乳だからといって夢中になってしまうほどスケベではない。

むしろ自身の行動がもたらす周囲の評価をもう少し考えるべきだった。

セトは一人だと恥ずかしいので姉のアズラを巻き込んだ。


泣きじゃくる風の団紅一点ハンサ23歳、そんなとっくに大人な彼女を元気付けようと、セトとアズラは彼女の目の前で、


「「ハンサ先生!!」」

 

と呼びながら腕を目一杯広げて、ちょっとぐらい甘えてもいいよと、ハンサにお礼の気持ちを伝えたのだった。

二人を見たハンサが感激のあまり、大号泣しつつ二人に抱き着いてしまい、ハンサの豊満な丘に二人とも埋もれてワタワタとしていたが、頻りに泣きながら、ありがとうというハンサを見て二人とも上手くいったと思うのだった。


「ハンサさん、喜んでくれていましたですけど、もうちょっと周りのことも考えてほしいです」


「やっぱり、気まずかったかな」


「見ず知らずの人からの視線が痛かったです!」


「う・・・、ごめん」


(あわわわ、ちょっと言い過ぎてしまいました)

「で、でも! ハンサさん本当にうれしそうでしたですよ」


「ごめんねセレネ、あなたも一緒にできれば良かったんだけど」


アズラが何だか不満そうなセレネに気を遣う。


「ち、違いますですよアズラ先輩! 決してぼくもハグがしたかった訳では」


「うふふ、冗談よ」


(アズラ先輩、さらりとぼくを手玉に・・・)

「そ、そうですよね」


そんなこんなで、彼ら、風の団と別れセトたちは次の仕事に向かった。

現在、セトたちは、次の目的地であるベスタ公国という国に向かっている。

仕事の通知は以外にも早く来た。ジグラットが壊滅したため別の町のジグラットに向かう必要があると思っていたが、向こうから連絡を寄越してくれたのだ。

仕事内容は簡単だ。ベスタ公国にツァラトゥストラ教団の親書を届けるというもの。

セトたちは快く仕事を引き受け、こうして馬車で旅をしている。

ベスタ公国は隣国とはいえ、馬車で一か月近くも掛かる。

本来なら途中で別の仕事を引き受け小遣いを稼ぐ必要があるのだが、セトたちには金があった。


そうラガシュでの一件で報酬を受け取っていたのだ。

自警隊に参加した者が対象で、一人15ヤカル。

セトとアズラは二人合わせて、30ヤカル。

セレネは、一人なので15ヤカルだ。

15ヤカルがどれほどの大金かというと、この世界の住人が、贅沢をしなければ半年は食うものに困らない大金だ。

この資金を元手に旅の準備を済ませ、一直線に目的地まで行こうと早々に決まった。

ちなみに、馬車は領主ロレンツォ卿よりいただいたものだ。


さて、こんな大金を手にしたら、誰でも夢を見たく叶えたくなるだろう。セトたちも例外ではない。

さっそく、大金を何に使ってみたいか、どんな夢を叶えたいかで盛り上がっていた。


「そういえば、セレネは報酬を何か使う予定とかあるの?」


「うーん、そうですね。まずは父上と母上に何か買ってあげたいですね」


「うっ、セレネはちゃんとしてるね。僕は腹いっぱい好きなものを食べたいと思ってたよ」


「! 甘いヤツ! わたし甘いヤツ食べたい」


好きな食べ物の一言にリーベが反応した。ラガシュで食べたあのデザートがよほどお気に召したのだろう。

もう一度食べたい、食べさせてとセトにせがんでいる。


「うん、後でね」


「ふふふ、セト約束だよ」


「甘いものばかり食べていると虫歯になるのですよ」


「大丈夫だよ、セトがなんとかしてくれるから」


「リーちゃん、虫歯はなんとかできないよ」


「リーちゃんはそろそろ甘いものだけじゃなくて、野菜も食べれるようにならないとね」


アズラからリーベの苦手なものが明かされた。

苦手なもの。何でもないただの野菜だ。リーベは不思議な少女だが、趣味や好き嫌いは歳相応なものだ。

12、13歳ほどの年齢だがそろそろ野菜ぐらい食べて欲しいとアズラは思っている。

だが嫌いなものは嫌いなのだ。だって、苦いのだもの。


「えー・・・。ヤダ」


「ダメよ。好き嫌いしちゃ」


「ぶーぶー」


リーベからの嫌だコールが巻き起こる。野菜は敵だ。追い出せ追い出せとアズラにぶーぶーと嫌いだオーラをぶつけていた。

すると、アズラが何も言わなくなった。

おや? アズラの様子が変わったぞ? そう思い、リーベはアズラの顔を見に行こうとする。

御者台に顔を出そうと、ゆっくりと外に顔を出していくがセトに引き戻された。

怖いもの知らずのリーベをセトは大急ぎ引き留める。

リーベはまだ知らない。アズラの仁王立ちポーズの恐ろしさを。

アズラは怒るのを我慢したようだ。よかった。リーベが制裁を受けるところだった。

セレネは苦笑いしながらちょっと場の雰囲気を誤魔化す。リーベはこんなにお転婆だったろうか? 前よりやんちゃになっているような気がする。


「アズラ先輩は、何か買ってみたいものとかあるんですか?」


雰囲気を変えようとアズラに話題を振った。


「・・・夢のために使ってみたいかな」


「先輩のやってみたい夢ですか? 気になります!」


セレネが食いついた。カッコイイ先輩の夢。いったいどんな夢なのだろう。


「そんな大層な夢じゃないけど、小さい頃から世界中の綺麗なものを見てみたいと思っていたわ。私とセトの故郷であるアクリ村はほんとに田舎で、珍しい出来事なんてほとんどなかった。毎日、セトと一緒に遊んでご飯食べての繰り返し、それは幸せだったけど、逆に外を見てみたいと強く思って。そんな時に、村に来た行商人から旅先で仕入れたいろんな物を見せてもらったの。それは小さかった私にとって、とっても綺麗な宝石に見えたわ。そのときからね、世界中を旅してみたいと夢に見たのは」


「アズラ先輩、カッコイイです。ロマンティックです!」


「そ、そうかしら?」


「う・・・、僕と一緒だったのがイヤだったなんて・・・、どうしよう、生きる目的を見失いそうだ」


「セトやだよ。死んじゃやだ」


「リーちゃん、ごめん。ちょっと不貞寝する」


「別にそんなこと思ってないわよセト。今もあなたと一緒にいられて私幸せよ」


アズラが誤解だと伝えたが、セトは凹んでしまった。この弟は姉がいないとダメ人間になるらしい。


「もう! リーちゃん、ギュッとしてあげなさい」


「うん。ギュッ」


「ムギュッ」


不貞寝したセトは、アズラからリーベという癒し効果絶大の少女を授けられた。

安心を与える人肌の温もりに、可愛らしい少女という癒し効果、ほんのりと甘い香りがする。

こんなにかわいい子にギュッとされたのだ1時間ぐらいで元に戻るだろう。

・・・何やら、セレネがそわそわしている。どうしたのだろうか? 

そわそわしているセレネをチラッと見たアズラは、大体の予想がついた。


「・・・セレネもギュッとしていいのよ?」


「ぼ、ぼぼぼくはいいですよ。ハハ、ハ、アズラ先輩何をいうですか」


いい反応が得られた。これは予想的中かと、アズラがさらに一歩踏み込む。


「・・・お姉さんの私が許してあげるわよ?」


「え? や、ふぇ、ぼ、ぼく」


「い・い・の・よ?」


「・・・きゅーー・・・」


顔が真っ赤になり頭の中が真っ白になってしまったセレネは思考がオーバーヒートしてしまったようだ。

このやり取りでアズラはセレネの恋心を完全に把握した。

アズラはちょっぴり意地悪なお姉さんになって、セレネをからかってしまったが、年下のリーベに嫉妬したセレネが可愛く思えてきた。

彼女にもしその気があるのなら応援してあげようかなと考えてしまう。

もし気持ちを伝えるなら早くしないといけないから。


馬車は、進んでいく。一本道の街道をカラカラと車輪を回して旅を続ける。

セトたちはベスタ公国に向かうため、このまま真っすぐ進むが、セレネは旅の目的地が違った。

セレネは依頼された仕事がセトたちと違うのだ。セレネは帝国の属国へ仕事をしにいく。

仕事内容はセトたちと似たり寄ったりだろう。

ベスタ公国の近くに彼女の故郷であるヴィーホットという町がある。

彼女は一度町に戻り、ラガシュでのことを報告するとのことだ。

そのため、途中までは旅路が一緒になった。


日が傾き、夕暮れ時。

一本道の街道に別れ道が見えてきた。アズラは馬車を止め夜営の準備を始める。

急いでいる訳でもないので、無理をせずに確実に進む。

薪を用意し火の術式で点火する。あっという間に焚き火の準備が完了だ。

セトとリーベは、テキパキとこなすアズラとなんとか手伝おうと奮闘するセレネの二人を眺めながら、焚き火で団を取っていた。


「セト、お腹空いた」


「僕も。ペコペコだ」


二人は早くご飯が食べたいと持っている。手伝えば早くなるのに待っていた。

そんな暇そうにしている二人に、セレネが仕事を持ってきた。


「さあ、お二人さん。このお芋さんの皮を剥いてしまうのです」


「ぶー。ご飯ー」


「リーちゃん。僕たちが手伝ったら、早くできるしおいしくなるよ」


「むー。じゃあ手伝う」


リーベもしぶしぶ手伝ってくれた。今日の晩御飯は芋のスープだ。

コトコトとスープが煮込まれていき、香しい芋の匂いが広がる。

香辛料で味を調えて完成だ。旅の最中は、サッと食べられるものがいい。

盗賊や魔獣に襲われても、対処がすぐにできるからだ。

アズラが3人分のスープを装い、最後に自分の分をお椀に入れる。


「それじゃ、いただきましょうか」


アズラがみんなに食べるのを促していく。真っ先にリーベがスープに食らいつき満足そうな顔を浮かべる。

スープが芋に滲み込み噛むごとにスープが口いっぱいに広がる。

香辛料のアクセントがさらに食欲をそそってくるようだ。

セトは、この旅に出てからアズラの料理の腕が上がっていることに気付いた。

実は、アズラはラガシュの領主ロレンツォ卿の館でお世話になった時、メイドさんから料理に使用している香辛料などを聞いておいたのだ。

おいしい料理は次の丈夫な体を作る。アズラはこのことを良く理解していた。


「アズ姉、明日はいつ出発するの?」


「早朝ね。セレネも早く故郷に戻りたいでしょ」


「ぼくのことは御構い無く。・・・できればもう少しみんなと一緒にいたいですから」


別れるのが寂しい。セレネは心からそう思っていた。今度、いつ会えるか分からない、もう会えないかもしれない。

そう思うとみんなと別れるのがとても辛くなってしまった。

初めての町で初めて出会った友達。

初めて一緒に死地を潜り抜けた親友。

そして、たぶん初めての・・・。


「セレネがそういうのなら、出発を少し遅れせるわ」


「アズラ先輩ありがとうです」


晩御飯も食べ終わり、みんなが寝静まる。

明かりを消して、魔獣や盗賊に襲われないよう入念に準備をして。


セレネが夜中に寒気を感じて起きてしまった。被っていたはずの布がなくなっている。

彼女が使用していた布はリーベに巻き取られていた。

セトとリーベは二人仲良く一緒にくるくる巻きになって寝ている。

こうして見ると本当の兄妹のようだと思ってしまいそうだ。


「アプフェルの性をもらったから、本当の兄妹なんですよね」


そう、もう本当の兄妹と思って正しいのだ。血が繋がっていないだけで、リーベはセトとアズラの妹になったから。


馬車を降り、ちょっと用を足しに行こうと草むらに入っていく。

体が冷えてしまったようだ。夜風も冷たい。

誰も見ていない所でちゃっちゃっと済ませようとした時、ボゴッ! とすごく鈍い音がした。

恐る恐る音のした方を見に行くと。


「ッ!」


魔獣の死体が転がっていた。これは群れで狩りを行う狼のような魔獣ミズラフヴォルフだ。

ミズラフ地方全体に幅広く生息している。単体ならさほど脅威ではないが群れに襲われると厄介な魔獣だ。

定期的に傭兵を雇って間引きしているが、すぐに元の数に戻る。

ここにも駆除し損ねた群れが残っていたのだろう。


また、ボゴッ! と鈍い音がした。誰かが魔獣退治をしているのだろうか。

その様子を窺うと、アズラが20匹はいるミズラフヴォルフの群れを蹴散らしていた。

魔力で固めた拳で一匹ずつ確実に仕留めている。

アズラは一人見張り役をしてこの魔獣の群れに気付いたのだ。

セレネたちを起こさぬように一人静かに戦っていた。

体に纏う魔力が光る白い膜のようにアズラが動くたびに優雅に揺れ、白い服と合わさり幻想的に踊っているようだ。


セレネは見惚れていた。踊るように戦うアズラを見て、いつか自分もこんなに美しく戦えるようになるだろうかとアズラに強い憧れを抱いていく。

すべてのミズラフヴォルフを殲滅したアズラはセレネの方に振り向き、優しく微笑んだ。

気付いていたようだ。セレネはちょっと恥ずかしくなる。もう一つ大事な用を思い出した。

早く済まして寝なければ。



----------



次の日。

お昼前、まだ日が昇り切っておらずお昼前の少し涼しい時間帯に3人の若者たちが一人の少女を見送っていた。

セレネとの別れの日。

ラガシュで仕事を受けた時から必ず訪れると分かっていたが、いざその時になると涙はどうしようもなかった。


「みんな、本当にありがとうです」


「元気でね、僕も仕事頑張るから」


「はい、セトも元気で」


「町まで気を付けてね。女の子が一人だと盗賊に狙われやすいから」


「はい。アズラ先輩。リーちゃんも元気でね」


リーベは泣きながらセトの後ろに隠れてしまっている。泣き顔を見られるのが恥ずかしいようだ。


「また、いつか会えるですから。それまでお元気で」


「う、ひっく・・・、セレネ、はい」


そういってリーベがセレネに何か手渡した。これは。


「これ・・・、リーちゃんがセトに貰った髪飾り。リーちゃん、これはリーちゃんのだよ」


「ううん、いいの。セレネ、髪飾り欲しいっていってたから」


リーベはセレネが市場でセトにおねだりしていたことに気付いていた。

この髪飾りはリーベからセレネへのお礼の気持ち。

セレネはリーベの気持ちがこもった髪飾りを頭に付けてみせた。


「リーちゃん、ありがとう。今度、会ったら一緒に新しいの買いに行くです」


「うん」


前髪だけ目元が隠れるほど伸ばしている水色の髪に、銀色の髪飾りを付けて前髪の左側をまとめる。

髪と同じく水色の瞳がはっきりとセトたちに見えた。


「それじゃ、皆さんお元気で」


セレネが立ち去っていく。長いようで短かったが、彼女と出会ってからあっという間だった。

また、いつの日か出会えるだろう。

セトはそんな気がしていた。

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