4話 こわくない
けっきょく、梔子に図書室の騒動の真実を訊くことができず、一年が過ぎた。
二年になる前の春休み。
ジーンズにパーカーという格好で出歩くにはまだ肌寒い季節に、俺は学校の近くの遊園地にきていた。友達と遊びだとか、ましてやデートだとかではない。四歳離れた妹にせがまれて多忙な親の代わりに連れてきただけだ。小学校の卒業祝いも兼ねて、どうせヒマだったので、たまには遊園地もいいかと気分が乗ったのだ。
天気は文句のない快晴だ。
妹は絶叫マシン系すべての身長制限にひっかかり「がびーん……」とわざとらしくショックを受けていた。
「ほらよ、これでも食え」
空中ブランコ前のベンチに座る妹――歌音に、俺はチョコ苺クレープを差しだした。
歌音は両手でそれを受け取った。重ね着したシャツにホットパンツ、白と青縞のニーソックスに、裾広がりのニットカーデを羽織っている。先週まで小学生だった歌音は、猫のような丸い瞳でまじまじとクレープを見つめ、それを口に運び、ようやく破顔した。
俺はほっと一息。
「よしよし。機嫌治ったみたいだな。クレープうまいか?」
「べ、べつに歌音、落ち込んでないし! こんなのふつーだし! 美味しいけどふつうだし! 機嫌治ってないもん!」
小柄な歌音は慌ててクレープを俺に押しつけた。
「そんなので歌音をなだめようだなんて、まったくもって心外だよ! 歌音はもう中学生なんだから、そんなので騙されることないもん! そのクレープも、薄力粉と牛乳と卵と砂糖と塩とバターと生クリームとチョコと苺が、ぐうぜん合体しただだけじゃん! それにちょっと魔法がかかって美味しくなっただけだもん!」
しかし視線は恨めしそうに俺に預けたクレープに注がれていた。
俺は咳払いをしてから、
「……そうか。でも俺はクレープいらないから、歌音が食べてくれるか?」
「しょーがないなあもう!」
歌音はにこにこしながらクレープを受け取った。
ただの照れ隠しだった。
「そういえば、おまえ、むかしからクレープ職人になるのが夢だったっけ」
「そうだよ。歌音はね、いつか日本一のクレープ屋さんになるんだ」
「そっか。なれるといいな」
「クレープ職人になるのは夢だし、その場合ちゃんとブルターニュに行って修行したいと思ってるし、だからね、中学からはフランス語の勉強もしようと思うんだ。クレープのノウハウもそうだけど、フランス料理の技術はすべての料理にも転用できるっていうしね、とにかく歌音はいつかフランスに行くの」
「へえ。そんなこと考えてたのか」
まさか小学生を卒業したばかりの妹が、具体的な目標を視野に入れてるとは思いもせず驚いた。俺が中学生になるころは、あしたの予定すら立てていなかったのに。
「だけどね、そうなった場合ね、ひとつだけヤなことがあるんだ。フランスって遠いでしょ? 日本からどれくらい離れてるんだっけ?」
「たしか九千六百キロくらいだったと思うけど」
「うわ、なんで知ってるの?」
感心する歌音。俺は苦笑した。
「このまえ白々雪がさ、ここから走って凱旋門をくぐるために必要な労力を概算してたんだよ。あいつ、そういう無駄な計算とか好きだからな。ほかにもエベレストにトンネルを掘るための金額とか、マントルに到着するまでの時間とか、月を壊すかめはめ波のエネルギー総量とか、ヒマさえあればそういうネタばっか考えてるやつだなんだよ。面白いだろ」
「……白々雪さんって、あの押しかけ女房の?」
歌音は頬をぷっくらと膨らませる。べつに女房と揶揄されるほどつきまとってはこないけど、たしかに図書委員になったことといい、中三からいっしょにいる時間が長いのは間違いない。
「……とにかくさ、それくらい離れてるって白々雪が言ってたんだよ。それで、フランスとの距離がどうかしたのか?」
俺が話を戻すと、歌音はあきらかに不機嫌な様子で低い声を出した。
「……あーあ。フランスやめようかなぁ」
「なんでだよ?」
「だって、九千六百キロだよ? メートル換算したら九百六十万メートルだよ。センチメートル換算したら九億六千万センチメートルだよ。ミリメートル換算したら九十六億ミリメートルだよ。マイクロメートル換算したら――」
「もういいもういい。とてもつもなく離れてるのはわかってるから」
「ほんとにわかってる? 歌音の身長が、いま百四十センチでしょ。九億六千万センチだったら、ええと……歌音がだいたい六八五万と七一四二人分だよ? 東京都民の半分が歌音になって手を繋いでも、まだフランスまで届かないんだよ? 果てしなく遠いんだよ」
「そりゃ遠い。東京の半数がおまえになることはないけどな」
しかしこいつ、計算速いな。
「もう! それくらい遠いってたとえだよ。それに時差も八時間あるの。同じ時間に生きてるとは言えないんだよ? 八時間あれば、歌音はよゆうでツムギ兄ちゃんの部屋のエロ本ぜんぶ見つけられるよ」
「……そ、それはどうかな……」
「むしろもう見つけてるけど。えっとね~、ベッドと布団の間でしょ、椅子のクッションのなかでしょ、本棚の裏でしょ、クローゼットの天板、あとはテレビの下。ママの目をかいくぐるためにママが掃除しないところばかりだよね」
「……ちょっとまて。なんでおまえが知ってるんだ?」
「だって学校が終わってからツムギ兄ちゃんが帰ってくるまでやることなかったし、ママも家にいないんだもん。ヒマつぶしするところなんて限られてるしね。でも、兄ちゃんってばちょっと趣味変わってるよね……。歌音もそーゆーことはあんまり博識じゃないけど、あれはさすがにびっくりしたよ」
「…………。」
妹に性癖がばれるなんて、さすがにショックだった。
「でもだいじょうぶ。歌音は、兄ちゃんがどんなでも気にしないよ。それにツムギ兄ちゃんが望むのなら、歌音は、歌音はあんなことやこんなことの練習相手になっても――」
「おい冗談でもその先は言うな」
「てへ」
歌音は悪戯っ子のように笑った。
「てへへ」
歌音は悪戯っ子のように笑った。
「てへへへ」
歌音はペコちゃんのように笑った。
「……ペコちゃんは悪戯っ子だったのか……」
「なかなか奥が深いよね、あのキャラ」
「味も深いぞ」
断然ミルキーはノーマル派な俺だった。
「……で? フランスとの距離について憂いてたみたいだけど、それがなんだ?」
「ツムギ兄ちゃんはいいの? 歌音が修行のためにフランスに何年も行って、寂しくないの? 歌音はヤだよ。ママや兄ちゃんと離れるなんてまったく死んでもごめんだよ」
「おまえはほんとに大袈裟だな。死ぬくらいなら数年くらいどうってことないだろ」
「どーってことあるの!」
歌音は唇を尖らせる。
「とにかくフランスは遠いから、それだけは我慢できないの!」
まあ、その気持ちをそのときになるまで維持しているかは甚だ疑問だが。
それでも俺は、優しい兄として、可愛い妹の気持ちには応える。
「……じゃあそのときは、俺がついていくよ。おまえの夢が叶うためならお安い御用だ。一緒に行っておまえのクレープをいっぱい食わせてくれ」
「ほ、ほんとっ?」
「ああ。約束だ」
「じゃあゆびきりね!」
俺たちは指切りをした。
「嘘ついたら針千本を喉に突き刺すからね!」
歌音は満面の笑みでバイオレンスな約束を取り付けた。
「指もぜんぶ切るからね!」
「あー……はいはい」
「ゲンマンするからね!」
「一万回も殴ったら、たぶん俺死ぬ」
「それくらいの約束だってことだよ!」
歌音は指切りげんまんをフルコンプリートする気だった。
まあこんな約束三日で忘れるだろう。俺は適当にうなずいておいた。
とにかく、それで満足したのだろう。
「そじゃあツムギ兄ちゃん、あれ行こう!」
歌音はクレープを口に詰め込んで、正面にあったホラーハウスを指さした。
廃病院を装った大袈裟なほど不気味な建物。
「…………おまえにはまだ早い」
「そんなことないよ。歌音はもう中学生なんだよ。あれくらい楽勝だもん」
「いや、あれは中学生でも荷が重いって話だけど」
「そんなの行ってみなきゃわかんないよ。それに荷が重くても力には自信あるし」
歌音は力こぶをつくってみせる。
たしかに運動神経には期待できる妹だが、それ以前に話が違う。
「腕力の問題じゃない。それに、荷だけじゃなく気分も重くなるんだぞ?」
「だいじょーぶ。もともと歌音は心も羽根みたいにふわふわだし。軽くないのは女としての節操だけだよ」
「そりゃお兄ちゃんも安心だ」
「けど兄ちゃんにならお尻も軽くなるかもよ? 最高級羽毛より軽く」
「なるな!」
「てへ。冗談に決まってるじゃん。歌音はツムギ兄ちゃんの知らないところで知らない男の人と知らない穴に知らないものを知らないことしても知らないからねっ!」
「……なに言ってんのおまえ」
「このまえの体育の授業でも、先生に『それはアダルトすぎてもはや柔軟体操とは言いません』って怒られたんだからね。それくらい歌音はもう兄ちゃんには未知の世界に足を踏み入れてるんだから。てへへへ」
「お兄ちゃんはおまえの将来が怖い」
エロ本のことといい、思っていたより思春期な妹に、げんなりする俺だった。
「……それで、ほんとにホラーハウス行くのか?」
「あたりまえだよ! じゃないと、歌音なにしにきたのかわかんない」
「メリーゴーランドで死ぬほどはしゃいでたくせに」
「あ、あれは準備運動なの! 楽しむ練習! そんなこともわかんないなんてツムギ兄ちゃんはそれだから彼女ができないんだよ! まったくもうしょうがないなぁ!」
「それはいま関係ないだろ……」
落ち込む俺だった。
「そんなことよりはやくいこうよ!」
ぐいぐいと俺の腕をひっぱってくる。俺の落ち込みはそんなこと扱いなマイペースっぷりを見るに、歌音は本気だった。
「……後悔するぞ?」
「あのねツムギ兄ちゃん。この世界には後悔すらできないひともたくさんいるんだよ。その権利すら放棄するなんて、ツムギ兄ちゃんはいよいよ平和主義者をとおりこして停滞主義者だよ! まったくおろかなことだよ!」
歌音はぷりぷり怒っていた。
「いいじゃないか。平穏好きは俺の個性だろ。いまは個性の時代だって誰もが言ってるくせに没個性が溢れるなかで、俺はむかしから初志貫徹してるだろ」
「まったく解釈が自分勝手だよ兄ちゃんっ。個性主義なんて建前だけで、どこ見てもまかりとおってないんだよ。あいかわらずサラリーマンは社会の歯車だし、学校は受験体質だし、うちのママは厳しいしっ! なのにツムギ兄ちゃんってば楽観的すぎるんだから、ほんとにまったくだね!」
「いや、だけど――」
「あ、もしかして」
歌音は口に手を当てて、ムフフと笑った。
「ツムギ兄ちゃん、お化け屋敷こわいの?」
「そんなことはない」
俺は毅然と答えた。
もちろん嘘だった。
「いいよ無理しなくて。それなら歌音だけで行ってくるから。臆病者はここで待ってて」
「おいおいおまえは兄に向ってなんて口をきくんだ」
「こわいんでしょ? 正直になりなよ」
「いつだって俺は正直だ。ほら見ろ、膝なんて楽しそうに笑ってやがるぜ!」
「それは泣いてるんだよ」
歌音にツッこまれた。
「そんな弱虫でビビりな兄ちゃんは太陽の下がお似合いだよ! 太陽が似合うさわやか男子だよ! 夜が似合わないナンバーワンだよ! もはや吐血鬼だよ!」
吐血鬼?
……ああ、吸血鬼の逆って言いたいのか。
「まあそう褒めてくれるな歌音。そもそも、俺はお化け屋敷にビビるようなさわやか男子じぇねえんだよ」
「なら、たおやか男子だね!」
「体はかたいぞ」
「ささやか男子だね!」
「それは悪口になるな」
「なごやか男子だ!」
「にこにこしてればいいのか?」
「あざやか男子だ!」
「ちょーかっこいいな。俺じゃねえよ」
「あでやか男子!」
「それはもはや男じゃねえな。歌音、ちょっと黙ろうか」
はい終わり。
これは遊園地でする遊びではない。
「とにかく、俺も行ってやる。でもほんとうに後悔するぞ」
「だいじょうぶ。こうみえても歌音はきょうで十二歳だもん。おとなの余裕あるもん」
えへん、と胸をはる歌音。
「……そうだな。誕生日おめでとう」
「それにツムギ兄ちゃん。歌音はね、思うんだよ」
「なにを?」
「お化け屋敷の恐怖っていうのはエンターテイメントの延長上の恐怖でしかないんだよ。だからどれだけ怖くても、しょせんお遊びの怖さなんだと思う。ここは噂どおりにすっごい怖いとこかもしんないけどね、それでも、歌音たちが楽しめるレベルなんだよ。そうじゃなきゃ営業していけないよね? 遊園地なんてどこも営利団体なんだから。怖すぎてお客さんが寄りつなかくなるなんて本末転倒でしょ? ホラー映画もお化け屋敷も同じだよ、観客がいることが前提なんだから」
なんてドライな視点なんだ。まるで子どもとは思えない。
我が妹ながらゆくすえ恐ろしい。正論すぎて言い返せなかった。
「……そうだな。そうだ。怖すぎるなんてことは考えられんよな」
「うん。ママのほうがまったくもって怖いよ!」
「そうだな。あの鬼母より怖いもんなんてないよな」
「だから楽しもうよツムギ兄ちゃん!」
「おう! 楽しもう楽しもう!」
戦慄の館と銘打たれた日本有数のホラーハウスに、歌音は舞踊でもおどるかのような軽やかさで向かって行った。俺もつられて駆け出した。
そうだ。歌音のいうとおりだ。
どうせ、楽しませるための恐怖なのだ!
「ぴぎゃああああっ!」
違った。
ぜんぜん楽しませるためじゃなかった。
ものすごく怖い。
暗い通路、不気味な内装、点滅する赤いランプ、生ぬるい風にまじって聞こえる赤ちゃんのすすり泣く声。それは、まだマシなほうだ。
お化けそのものが異常に怖い。
落ちついて考えれば、それはただのゲテモノ化粧をした人間だってことは理解できるだろうけど、心臓がバクバク高鳴っているときにそんな冷静になれるのは仙人か修行僧くらいなもんだ。絶妙なタイミングで飛び出してくるお化け、グロテスクを体現した動き、そして喉が腐っているような声。すべてが怖かった。
それでもなんとか俺が平静を保っていられるのは「ぎゃあああ!」「にゃがあああ!」「びょえええええ!」と絶叫しまくる歌音のおかげだった。歌音が俺にしがみついていなければ、つい走って逃げだしているところだった。
薄暗い部屋を進むごとに、毎度毎度お化けが出てくる。いっそ気絶すれば楽なんじゃないかと言いたくなるほどにビビる歌音だった。
噂以上に怖いホラーハウスがあるなんて思いもしなかった。
膝をがくがくふるわせて泣いている歌音をひきずりながら、歩いていく。
「なーみょーほーれーげーきょーっ! なーみょーほーれーげーきょーっ!」
歌音はそうつぶやきつつ耳を両手で塞いで、目と精神を閉じていた。
後悔すらできない状態だった。
……言わんこっちゃない。
しばらく進むと、広間のようなところに出た。
『←進路 リタイア→』と書いた看板を持って椅子に座るお化けがいるが、そこだけすこし明るい。ほかにはなにもなく、ただリアイア出口を教える役割のお化けなんだろう。
中間地点のようだった。
「……おい、大丈夫か?」
「ゔゔ……むり……」
鼻水をだらだら流して、歌音はかぶりを振った。
「もうやだ……帰りたい……ママのほうがひゃくばい優しい……ごめんなさい、歌音は……歌音はまったくもっておろかでした……」
「リタイアするか? できるみたいだけど」
「うん……うん……りたいあする」
俺は、お化けが座っている横にある、リタイア出口と書かれている扉まで歌音を連れて行った。俺もほっとした。
三十分くらい歩いた気がしていたから、ここで中間地点だとすると、最後まで行けるやつはきっと勇者に違いない。それかマゾだ。
そんなことを思いながら座っているお化けの前を通り過ぎようとして――
つい、足を止めた。
「……………………。」
じっと、お化けが俺を見ているのだ。
無言で。
その視線は、たんなる客に向けられているようなものじゃないような気がした。
俺はお化けを見つめ返す。
見たことがあるような顔つきをしている。
もちろんお化けのメイクをしてボロボロの白衣を着ているから完全にそうだとは言えないけど、そいつは女で、しかも前髪が目の下で切り揃えてあった。
メイクは目の周りを真っ赤に染めて、唇は黒く塗っている。肌にはツギハギと青あざのような模様が描かれてある。それなりに気合いの入ったメイクだ。
だが、脳内でなんとかメイクを取り払って想像する。
童顔で、目つきだけは力強い少女が浮かんだ。
……思い当たるクラスメイトがいた。いまは春休みなので元クラスメイトか。
「……よう」
喋らないことで有名な少女が、こんなところでお化けの恰好をして『←進路』なんて看板を持ってるなんて想像だにしていなかった。
そのお化け――梔子は無言で俺を眺めていた。
ぐずりを上げる歌音を、リタイア出口に連れていく俺を見ている。
じっと目が合う。
とっさに出てきたのは、
「……いや、俺はまだリタイアしないぞ?」
つまらない虚栄心だ。
俺はどうやら、梔子に恰好をつけたいらしい。あまりそういう機会がなかったから自分でも知らなかったが、歌音に怖くないと嘯いたのも考慮すると、どうやら俺はただ平穏が好きなだけの高校生ではないらしい。平穏が好きで、臆病な自分を知られることを恐れ、自分の虚像を守りたいという、並な思考回路くらいはあるらしい。
ちっぽけな自尊心が見え見えだった。たぶんバレていただろう。
だが、梔子は、無言でうなずいた。
そのうなずきは、俺の肝の細さを知りながらも肯定するものだった。去年の梅雨に、図書室で俺のために手を怪我したあのときの梔子と同じ、迷いのないうなずきだった。
「「…………。」」
しばらくお互い無言で見つめ合った。
俺は歌音をリタイア出口から外に出してから、出口付近でしばらく待つように言って、また進路へと戻った。
同じクラスでも、一度しか関わりのなかった無言少女(ゲテモノメイク中)。
そんな少女の前を余裕綽々のふりをしてそのまま進む。
「ケケケケケっ」
と新たなお化けが出てきた。
しかし俺はクールに通り過ぎる。
こんなホラーハウスなんて、俺にとっちゃあ朝飯前だぜ、と言わんばかりに。
「…………。」
だが梔子の姿が見えなくなると、
「うおおおおおおお!」
もちろん俺は逃げだした。
エンジン全開の、全速力で。