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頼むからあの娘のべしゃりを止めてくれ!  作者: 裏山おもて
1巻 くちなしさんの、コトバナシ 〈下〉

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16話 のろわれない


 ――あの日、梔子詞は見た。


 不吉な陰に包まれた少年の姿。

 神を殺し、平穏を取り戻した彼の姿。


 その話をあのひとに聴いたときは、梔子は彼に会いたいと思った。

 友達のために神を殺す――そんなすごいひとがいるなんて、会ってみたい。喋ってみたい。

 神という存在を創り上げ、それゆえ神にとり憑かれた自分のことをどう思うだろう。哀れむだろうか、それとも怒るだろうか。

 ……怒るだろう。生活のためとはいえ、他人を騙しているのだ。

 でも、会ってみたい。


 だからあのとき、入学式の日、彼の周囲をうごめくものたちをみたとき、梔子は言葉を失った。


 彼の周りにいた、無数の崇り神(、、、)を見た瞬間、梔子は絶句した。

 神殺しは大罪だった(、、、、、、、、、)


 ……なんとかしないと。自分にはほかの神がとり憑いているから大丈夫だし、彼は男のひとだから(、、、、、、、)神の呪いは受け付けないはずだ。

 けど、このままにしていて彼の周囲に影響がないとは思えない。

 梔子詞は、自分の隣に座る彼を盗み見た。


 もしこの彼が……たったひとりの友達を助けることで神を殺し、そのせいでほかの誰かに影響を与えてしまったと知れば、どう考えるだろうか。たぶん自分を責めるだろう。

 梔子詞は、そう考えた瞬間、決めた。

 心の中ですぐ近くにいるはずの神に語りかける。

 名前のない、虚構で創られた個性のない、金を得るためだけに作り出した、からっぽの神に。


 なにを犠牲にしてもいい。

 なにを代償にしてもいい。

 神を殺してまで罪を背負い、友達を助けたこの少年を。

 優しい少年を。

 おねがいだから。

 助けてあげて。


 顔も名前もない神は、ニヤリと笑った。


 ――そして梔子詞は、梔子詞としての個性を奪われた。





 図書室で読書をしていたとき、饒舌な図書委員の女の子が、神という存在の脆さを指摘した。

 それはまさにそのとおりで、反論のしようもない事実だった。

 だからこそ神は怒った。

 ほかでもない、梔子に憑いている神が怒った。

 梔子の個性を――感情を――手に入れた神は怒ることができたのだ。

 だからこそわざわざ彼女に警告を与えようとした。神罰というわかりやすい警告の仕方だった。


 自分に神が憑いているせいで、彼女が怪我をする。

 そんなことはさせない。

 ……なぜ、自分に神が憑いているのかは思い出せないけど。

 梔子は自分にしか見えない神を止めるために、立ち上がった。




 お化け屋敷は嫌いじゃない。

 怖いものを見るのは、むかしから好きだった。

 感情を失ったときに恐怖だけが残ったのは、なぜか。

 それはおそらく『忘れられないほどに強く感じた感情』だったからだ。

 契約のことは覚えてない。でもあのとき、梔子は怖かった。

 ただ、怖かった。

 だからこそ、恐怖だけは強く残ったのだろう。

 ならば。

 と考える。

 ほかにも強く感じる感情があれば、それはまた自分のなかに戻ってくるのではないか。




 ドイツの精霊を見て、ただ可哀想だと感じた。

 報われない恋。

 叶わない想い。

 そんなものは、世界のどこにでもある。

 そう本に書いてあった。その空虚さは理解できる。

 だが、梔子には記憶がほとんどない。

 梔子詞として手に入れた個人的な記憶は奪われてしまったから。

 それに、もともと恋というものを知っていたとは――到底思えなかった。

 それもまた空虚だった。

 あの精霊が感じているものと、私が感じているものは、似ているのかもしれない。




 呪われた。

 それに気付いたとき、まず浮かんだのはある少年のことだった。

 記憶にはないが、知識としては知っている。あの少年はかつて神を殺したこともある。


「なら梔子クン、あの少年に神を殺してもらおうぜ」


 ……そんなことは受け入れられなかった。

 なぜかわからない。わからないが、もう二度と彼に神を殺させてはならない。

 そんな気がする。


「ならどうやって、アタシたちにふりかかったこの災難を乗り切るんだ」


 そこで梔子は思いついた。


 神の加護や呪いを受けることができてしまう(、、、、、、)、あるひとつの条件。

 そして呪われないための、ある対策。



 それは――――



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