第四十一鐘 終いの舞
紫紺の矢を防いだ事に驚くウィルに、ハイトはこのミッションと紫紺の矢に隠されたからくりを話す。切り札までも打ち破られたウィルは、自らの身体に紫紺の矢を射つ。突然の奇行に驚くハイトの眼の前で、ウィルは己の意思を伝える。話を聞き終え激昂するハイトに別れの言葉を言い、己の命を絶ったウィルは光の粒子となって消えた。
「おお、ハイト! 戻って来たか!」
重い扉を開けて儀式場の中に入ると、明るい声が聞こえた。
俯いていた視線を上げると、向こうからミリアが駆け寄って来た。
「ハイト……」
その後ろでロゼが安堵の表情をしていた。
「遅かったではないか。流石に待ちくたびれたぞ」
ミリアが頬を膨らませて俺に不満をぶつけて来た。
「ああ……悪いな」
俺は何とかそう返事を返す事が出来た。
「まあ、それは致し方無いな。……む? ハイト、ウィルはどうしたのだ? 姿が見えぬぞ」
訪れるであろう当然の疑問を訊かれて、俺は顔が歪むのを堪えるのに精一杯で口を開けなかった。ミリアの後ろにいるロゼは、悲しそうに眼を伏せた。
「……どうして黙っているのだ、ハイト。何か遭ったのか?」
それまで明るかったミリアの顔に少し影が見えた。
「ミリアちゃん……あのね……」
俺の代わりに事情を説明しようとロゼが一歩前に出たが、そこから先が続かなかった。
「二人共どうしたのだ。私に何か隠し事でもあるのか」
「…………」
「……ウィルは……もういない」
これ以上黙っている訳にはいかないと決意した俺は、その言葉を口にした。
「何じゃと……? それはどう言う事だ?」
ロゼが息を呑むのに気付かずにミリアは俺に返答を迫って来た。
「どうやら、ウィルは何か重大な用事があったみたいでな。ミリアの儀式を手伝うまでの時間はあったのだが、いきなり予定が早まったみたいで、何処かに行ったよ」
俺は扉を開ける前に考えていた嘘を淡々と言った。
失ったHPと血などで汚れたり破けた服は、アイテムを使ってウィルと戦う前の状態にした。これで、争った形跡は消えた筈だ。
そうだ。ミリアは知らなくて良い。ウィルが敵であった事も、俺の手によって殺された事も。知らせない方が良い。
「……そうか。ウィルはもういないのか」
ミリアは予感していたのか、落胆したものの大した驚きを見せなかった。
「知っていたのか?」
「いや、知らぬよ。ただ、ウィルは旅人だから、何時かは“シンベル”を出て何処かへ旅立ってしまうだろうと思っていただけじゃ」
そう言ったミリアは、何かを我慢するような、悲しそうな顔を俺に向けた。俺はその言葉に返答する事が出来ず、眼を逸らした。
「……ウィルにも見てもらいたかったのじゃが、仕方無い。二人に私の神楽を見てもらおう」
寂しそうな表情から一転して引き締めた顔をしたミリアは、俺達にそう言って部屋の中央にある祭壇に向かった。
「頑張ってね、ミリアちゃん」
擦れ違い様にロゼがミリアに励ましの言葉を言い、ミリアがそれに応えるように頷いた。
祭壇を登り、ミリアは深呼吸をした。
「では、始めるぞ」
そう言うと、ミリアはおもむろに踊り始めた。
ゆっくりと、だがしなやかさを失わずに祭壇の上で舞う姿は、言葉に表せない美しさだった。シャラン、と手首に付けられた鈴が出す音が、静かな空間に浸透するように響く。
「…………」
なのに、俺はその光景を無関心な傍観者の気分で眺めていた。この場にいないもう一人の存在がいたら、俺はもっと近くで見る事が出来ただろうか。
ミリアが舞い続ける祭壇の上に、白い文字が浮かび上がった。
『MISSION CLEAR』
この儀式の場にそぐわないデジタルの文字が、自己主張するようにミリアの上で光輝いていた。まるで、俺達の上に立っていると言わんばかりに存在を示していた。
「…………」
右手を固く握り締めていると、不意に柔らかい温もりを感じた。視線を右にずらすと、何時の間にかロゼが隣にいた。
ロゼはミリアの方を見たまま、俺の右手を優しく包み込む。その温もりで自然と開いていく俺の手を、ロゼはまるで恋人にするように優しく指と指の間に絡ませて握った。
(ロゼ……)
護れた存在を確かめるように、縋るように俺はロゼの手を握り返した。
「ありがとう、ハイト」
肩を寄せながら、ロゼは俺に礼を言った。
「……こちらこそ」
(ありがとう、俺の隣にいてくれて)
後の言葉を言わずに、俺は視線をロゼからミリアに移した。
丁度神楽を終えたミリアは息を整えながら俺達を見ると、満面の笑顔を浮かべた。
俺は何時の間にかデジタルの文字が消えているのに気付かなかった。
<ストイスロー>
短剣スキルの一つ。対象へ直線の軌道を描いて短剣を放つ。追尾機能は無いが、一寸の狂いも無く直線に投げられるので、不意打ちで攻撃を仕掛けるのには持って来いのスキル。硬直時間は1,4秒。




