第四十鐘 決着
紫紺の矢の不意打ちに一気に不利に立たされるハイト。待っているロゼの為にも気力を振り絞り打開策を練ろうとするが、ウィルの放った強力な槍スキルと紫紺の矢のコンボで地に伏せてしまう。最後の一撃を放とうとするウィルの前で、ハイトは一つの答えを導き出す。瀕死の身体に鞭を打ち、ハイトは立ち上がる。最後の一撃がハイトを襲い掛かった。
「な……そんな……」
ウィルの震えるような声が、眼を閉じている俺の耳に入って来た。
「これが正解だったようだな」
俺は眼を開き、見ている光景が信じられないような表情をしているウィルに、何事も無かったかのように言った。
そう、俺はダメージを受けていない。1ドットも減っていないHPバーを見れば明らかだ。
背中には確かに紫紺の矢が当たっている。が、それだけだ。服を貫く事すら出来ていない。
やがて、それはちゃんと消滅した。
「有り得ません! “リターンアロー”が効かないだなんて……そんな事が……」
「言っただろ。これが正解だと」
現実を拒絶するかのように首を横に降るウィルに、俺は平然と言い放った。
「…………。一体何をしたんですか、君は」
まだ納得がいかない様子で俺に種明かしを要求して来た。
「質問を質問で返す事になるが、アンタは古事記を知っているか」
「ふることふみ……? いえ、聞いた事もありません」
「まあ、そりゃそうだ。知っていて役に立つ知識では無いしな」
俺の年代で知っている奴は、俺みたいに時間に余裕がある人間だろう。
「古事記と言うのは日本で最古の歴史書だ。その歴史書の一つに葦原中国平定と言う日本神話がある。これは天津神が国津神から葦原中国の国譲りを受ける話だ」
「……兎に角古い話だと言う事は分かります」
「その程度の理解で良い。今後の種明かしの為に解説をするが、良いな?」
「……長いですか?」
「うんざりする程長くなるな」
「……仕方無いですね。聞きましょう」
ウィルが長話を覚悟したのを確認して、俺は解説し始めた。
「天照大神と高天原にいた神々は『葦原中国を統治すべきは天津神、とりわけ天照大神の子孫だ』と述べ、何人かの神々を出雲に使わした。大国主神の子である事代主神と建御名方神が天津神に降ると、大国主神も自身の宮殿建設と引き換えに国を譲った」
「…………」
ウィルは真面目な顔をして聞いている。ちゃんと頭の中に入っているかどうかは知らんが。
「天照大御神は『葦原中国は私の子である正勝吾勝勝速日天忍穂耳命が治めるべ国だ』と天降りを命じたが、正勝吾勝勝速日天忍穂耳命は天の浮橋から下界を覗いた後、『葦原中国は大変騒がしく手に負えない』と高天原の天照大御神に報告をした」
「……………………」
頭を抱えだした所を見ると、頭には入っているが理解が追いつかないと言った感じか。詳しく解説するのも面倒だから、このまま続けるが。
「高御産巣日神と天照大御神は天の安の河の河原に八百万の神々を集めて、どの神を葦原中国に派遣すべきかを問うた。思金神と八百万の神々が相談した結果、天穂日命を大国主神の元に派遣するのが良い、と言う結論になり、高御産巣日神と天照大御神は天穂日命に大国主神の元へ参じるように命じた。しかし、天穂日命は大国主神の家来となり、三年経っても高天原に戻る事は無かった」
「……あの、お話の途中ですみませんが、その話まだ続きますか?」
どうやら、理解する事を諦めたらしい。
「ああ、まだ続く。と言っても、今までの話は前座だ。これからのを真剣に聞いてくれれば良い」
「そ、そうですか……。まだ続くんですね……」
「高木神と天照大御神が八百万の神々に『今度はどの神を派遣すべきか』と問うと、八百万の神々と思金神が相談し合って『天若日子が適任だ』と答えた。天若日子に天之麻古弓と天之波波矢と与えて葦原中国に遣わした。だが、天若日子は大国主の娘である下照比賣と結婚し、自分が葦原中国の王になろうと目論み八年経っても高天原に戻らなかった。天若日子が戻らない為、天照大御神と高木神がいずれの神を遣わして理由を訊ねるべきかと問うと、八百万の神々と思金神は『雉の鳴女が適任だ』と答えた。天津神は鳴女に『葦原中国の荒ぶる神々を平定せよ』と言ったにも係わらず、何故八年経っても帰らないのかを天若日子に聞くように命令した。鳴女は天より下り、天若日子の家の木にとまって理由を問うと、天佐具賣が『この鳥は鳴き声が不吉だから射殺してしまえ』と天若日子を唆した。そこで彼は高木神から与えられた天之麻古弓と天之波波矢で鳴女の胸を射抜き、その矢は高天原の高木神の所まで飛んで行った。高木神は血が付いていたその矢を、天若日子に与えた天之波波矢であると諸神に示して『天若日子の勅に別状無くて、悪い神を射た矢が飛んで来たのなら、この矢は天若日子に当たるな。もし天若日子に邪心あれば、この矢に当たれ』と言って、天之波波矢を下界に投げ返した。矢は天若日子の胸を射抜き、彼は死んでしまった。鳴女も高天原へ帰らなかった」
俺は長い昔話を一通り言い終えて、一息ついた。
「以上が、葦原中国平定の一部だ。前座はともかく後半を覚えているか?」
「……何とか……」
頭痛にでもなったかのように頭を抱えたまま、ウィルは弱々しく応えた。
「最後まで聞いて何ですが今の話と“リターンアロー”の関係はあるんですか?」
「あるから話したんだろうが。俺も目的無しに長々と口を動かしたく無い」
溜息をついて、俺は本題を切り出した。
「古の伝承に従いしき神の矢を欺き、儀式の洞窟に赴く巫女ミリアを死守せよ。これが、俺達が受けたミッションの内容だ」
「古の伝承……それで、このミッションに何かしらの神話等が関わっていると判断したんですか。ですが、神話は世界中に幾つもありますよ? どうやってその……ふることふみ、でしたっけ? それを特定出来たのですか?」
「それはロゼが此処に着く前に俺に言ってくれた言葉のおかげだ」
――大体伝承って古くから伝わっている話でしょ? わざわざ書く必要なんてあるのかな?――
「伝承と言うものは大体昔から伝えられている話だ。わざわざ古と表記する必要が無い。これは、昔と言う意味では無く古事記にある古そのものだ」
「理屈は分かりますが……それだけで?」
「まさか。まだあるが、それは後に話す」
「後のお楽しみ……と言う訳ですか」
「楽しめる雰囲気ならな」
冷たくあしらい、俺は次に移った。
「古事記がこのミッションに関わっているのなら、あの紫紺の矢が神の矢、つまり天之波波矢になる筈だ。天之波波矢について覚えているか?」
「それは何とか。確か、高木神が天若日子に与えた矢で、天若日子は天佐具賣に唆されて雉の鳴女を撃ち殺し、その矢は高木神の元まで届き、不審に思った高木神はその矢を投げ返した結果、その矢は天若日子に当たってしまった……ですよね?」
「よく覚えられたな」
「記憶力には自信があるので」
「その割りには頭を抱えていたな」
俺がそう指摘すると、ウィルは眼を逸らした。
「その通り。天若日子は邪心があったから天之波波矢に射抜かれた。逆に、邪心が無ければ紫紺の矢に射抜かれる事は無い」
「そうですね。伝承通りなら――って、あれ? 何か可笑しくありませんか?」
どうやら気づいたらしいウィルに俺は答えた。
「ああ、可笑しいな。何故疚しい事をしていない俺に当たったのか」
ミリアを助けようとしたあの時は、それ以外の事を考える暇が無かったので、邪心を持っていなかった。ウィルと戦っていた時も、そんな事を考える余裕は無かった。俺が射抜かれる要素は何処にも無い。だが、実際に俺は3回もあの矢に貫かれている。
「天之波波矢なら俺を射抜く筈が無い。しかし、現に俺は何度もあれに射抜かれている。矛盾が生じているんだ」
「何かのバグとかでしょうか?」
「俺もそう考えたんだが、仮にも神が創ったゲームにバグ等があると思うか?」
「……可能性は低いですね」
完全に言い切れないのを見ると、ウィルもあの馬鹿を信じ切っていないのだろうか。まあ、当然か。
「バグじゃ無ければ、あの矢はシステム通り動いていると言う事だ。なら、この矛盾は何なのか。此処で鍵となるのが、ミッションの表現だ」
「ミッションの表現……ですか? 別に可笑しな表現は無かったような気がしますが」
ウィルが思い出すような素振りを見せて言った。
「確かに、変な表現はしていない。だが、よく考えてみろ」
――古の伝承に従いしき神の矢を欺き――
「此処に神の矢と表現しているが、何処にも天之波波矢と明記してないだろ」
「え……いや、確かにそうですが、ふることふみの伝承に従っているなら、明記していなくともそれは天之波波矢と定義しても良いのではないですか?」
「普通はそうだろうな。しかし、相手はあの捻くれ者だ。そんな優しい事をしてくれると思うか?」
「そ、それは……」
「当てずっぽうだと判断するか? それでも良いだろう。俺はその考えで生き残る事が出来た。つまりはそう言う事なんだよ」
俺も本当にそれで合っているかは知らない。それでも、生き残れたならそれで良い。捻くれ者の思考は捻くれ者にしか分からないのだろう。
(……嘔吐が出るな……)
「あの矢が天之波波矢で無いなら、ハイト君はあの時どうやって背中への一撃を防いだのですか?」
「それはな、俺があの矢に貫かれないと信じきったからだ」
「……はい?」
想像の斜め上を行く解答だったのか、ウィルは呆けた顔をした。
「えっと……つまり、どう言う事です?」
「言葉の通りだ。あの矢に貫かれないと言うイメージを頭の中で反芻し、自分に暗示のようなものをかけただけだ」
「いえ、そう言う事では無く、何故それで“リターンアロー”を防げるのかを知りたいのです」
「前に紫紺の矢は天之波波矢とは違うと言ったが、あれは全てそうでは無い。あれは所謂レプリカ、つまり天之波波矢に似た性質を持つ矢だと言う事だ」
「似た性質の矢……?」
「ああ、天之波波矢の性質は相手に邪心があればその身体を貫くと言う物。だから、邪心さえ無ければ貫く事の無い安全な矢となる訳だ。此処までは良いな?」
「はい」
「さて、此処で一つ例を挙げよう。ある人間Aが別の人間Bの事を見た目で犯人だと思い込み、警察に通報した。しかし、Bは犯人では無かった。アンタはAとBのどちらが悪いと思う?」
「それは、勘違いをしたAさんの方ですね」
「ああ、そうだ。悪人でも無いのに勝手に犯人と決め付けた方が悪い。ソイツがどんなに危険な外見をしていてもな。その後、Aは警察に怒られたよ。外見で善悪を判断するなってな」
「ははは、そうですよね。見た目で勘違いをした挙げ句に迷惑をかけたんですからね――……ちょっと待ってください。まさか、それって……」
「そう言う事だ」
閃いたらしいウィルに、俺は同じであろう解答を言う。
「元々安全で神聖な神の矢を危険な物として捉えたんだ。そんな愚か者に神罰が下っても可笑しく無いだろう?」
「…………!」
そう、これが紫紺の矢のからくりだ。天之波波矢の事を知っていても、その裏に隠された偽物のシステムを看破しなければ対処出来ないと言う罠を仕掛けていたのだ。
(キツすぎるだろ……)
これからもこんなミッションが送られて来るのだろうか。そう思うと否応無しに溜息が出る。
「……本当に凄いですね、ハイト君は」
ウィルは感嘆を通り越して呆れたような笑みを浮かべた。
「あの短時間でよく解明しましたね。どう言う頭の構造をしているんですか?」
「人間死ぬ気でやれば何とかなるもんだ。色々ヒントがあったしな」
それでもキツイものがあったがな。
「ヒントと言えば、前に言うのを先延ばししたのがあったな」
「そう言えば。伝承をふることふみと決めたもう一つの理由。一体何ですか?」
「先延ばししたが、大した事じゃ無い。あの矢は“リターンアロー”って言う名前だろ?」
「はい」
「“リターンアロー”を和訳すると、返し矢と言うだろ。天之波波矢には別称があるんだが、それも返し矢と言うんだ」
「なるほど……そう言う事でしたか」
不可解な名前の意味の真相を知る事が出来た為か、ウィルの表情は穏やかなものだった。
「謎は解けたが……これで終わりじゃ無いんだよな」
俺は忘れ去られていた“イロージョンナイト”を再度握り、剣先をウィルに突き付けた。
俺の目的はミッションの謎を解く事じゃない。そんなものは過程でしかなく、ウィルを殺しミリアを護り抜く事だ。まだ、終わっていない。
「……一つ訊いても良いですか?」
剣先を向けられているにも拘わらず、ウィルは巨槍を構えようとせず俺に質問して来た。
「……何だ?」
戦闘が中断しているとは言え、まだウィルとは敵対関係だ。また何か罠を仕掛けてくるかもしれない。俺は警戒したまま次の言葉を待った。
「どうして諦めずに絶望的な状況に立ち向かう事が出来るんですか?」
「そんな事を訊いてどうするんだ?」
「答えて下さい」
ウィルは理由を語らずに催促して来た。
普段の俺なら無視する所だが、ウィルの真剣な表情に俺は自然と口を開いた。
「俺はロゼと約束したんだ。必ず二人で生き残り、あの世界に帰ろうと」
そうだ、俺は――。
「俺は二度と約束を違える訳にはいかないんだ」
断固たる決意を言葉に乗せてウィルに答えると、
「そうですか……」
何か吹っ切れたような表情を見せた。
「…………?」
俺はその顔に何か嫌な違和感を覚えた。
「おい、アンタ――」
「なら、人生の先輩として此処は譲るべきですね」
俺が声をかけている途中に、ウィルが変な事を言って、
ザスッ――。
その身体からあの紫紺の矢が突き出していた。
「……は?」
俺は突然訪れた光景に、気の抜けた声を出すしかなかった。
(何だ……何が起こったんだ……?)
眼の前の光景が嘘のように見えて、俺は何もせず呆然と立ち尽くす事しか出来なかった。
「……ッ」
紫紺の矢が消滅した後、ウィルが微かな呻き声を上げて俯せに倒れる音を聞いて、ようやく俺は我に帰った。
「な、何やってるんだアンタは!?」
慌ててウィルに駆け寄りその身を抱える。紫紺の矢が残した傷痕は――丁度心臓がある辺りにあった。
(…………!)
心臓が凍りそうな感じを抱きながら、俺はウィルのHPバーを見た。全体が真っ赤に染まっているが、まだ残っていた。
(今なら助けられる!)
俺は急いで服の内にあるキュアキューブを取り、ウィルに使用しようとした。
「キュアキュ――」
「何をしているのですか、君は」
突然ガッとキューブを持っている腕を掴まれた。掴んだ本人は、口から血を流していた。
「それはこっちの台詞だ! 自分の心臓に自分の切り札を突き刺すなんて、アンタ正気か!?」
「至って正気ですよ。ハイト君こそ大丈夫ですか?」
「何だと……?」
俺が正常じゃないだと? 救命活動が異常だと言うのかコイツは。やはり、頭が可笑しくなったとしか考えられない。
「殺さなければならない敵に情けをかけるなんて、愚考以外の何でもありませんよ」
「ッ……!」
俺はウィルの言葉に反論を出す事が出来なかった。何故なら、それは正論だからだ。
(だからと言って……)
「認められるか! アンタが言ったんだろ、手加減をするなと! 自分で言った事も守れない程の馬鹿なのかよアンタは!」
一呼吸置いて、俺は言葉を続ける。
「それに、アンタの家族はどうするんだ! 見捨てる気か!?」
「勿論、妻や娘の元に帰りたいですよ」
「なら――」
「それ以上に、君とロゼさんに生き延びて欲しいと思っているんですよ」
「なッ……!?」
俺の言葉を遮って言ったウィルの言葉に、俺は驚きの声を上げてしまった。
「ロゼさんとの約束を守る為に、どんな絶望が立ちはだかっても立ち向かうその勇姿に私は感動しました。私では無く君の方に生き残る資格があります」
「…………」
「それに、あの世界に帰るにはこの世界で生き残り続けなければなりません。私よりも君は頭が良いですから、君の方が生き延びる確率が高いのも理由の一つです」
「……―――るな」
「はい?」
「ふざけるなッ!!」
俺は無責任なウィルにありったけの怒号を放った。
「仲間を護る姿が格好良いから、自分より生き残る確率が高いから相手に譲るだと? 寝ぼけた事言ってんじゃねえ! そんなエコイズム極まりない自己犠牲が俺に通用すると思っているのか! ナメるのも大概にしろ!」
自己犠牲。それは俺が知っている単語で一番嫌いな単語だ。俺を助ける為に自分を捨てたあの娘の涙を思い出してしまうからだ。
俺が弱くなかったら、馬鹿じゃなかったら。
俺の方が犠牲になっていれば。
変えられない失敗に拳を握り締めるのは何回目だろうか。
「何でお前らは俺なんかの為に自分を捨てられるんだよ!? 何でお前らは俺なんかより自分を優先しないんだよ!? 理解出来ないんだよ! その考えが、その利点が! 何でお前らは……自分を……大切にしないんだよ……ッ!!」
震える身体を無理矢理押さえ付けて、俺は溢れ出る感情をウィルにぶつけた。自己犠牲を平気で出来る人間こそ幸せになるべきなのに、どうしてコイツらは……!
「優しいですね、ハイト君は」
「…………ッ」
まただ。またあの娘の姿が蘇る。視界に映る二人はどちらも泣きそうな笑みを作っていた。
「そうです。私のやっている事はエコイズム。自分の死を相手に背負わせる愚かな行為です。しかし、それでも私は構いません」
儚げに笑うウィルの顔が心なしか薄く見えるような……。
「もう手遅れですから」
「……――!」
ウィルの遠回しな言葉の意味に気づいた俺は、すぐさま視線をウィルの頭上にある物に向けた。
赤色に染まっていたHPバーが、空っぽになっていた。
「…………」
俺はそれを見た瞬間、酷い虚無感に襲われた。
HPの消滅――それは、ゲームオーバーを意味し、その結末は……。
俺は無力な歯を食い縛った。
「生きて下さいハイト君」
徐々に色素が薄れていく中、ウィルは表情を歪ませずにそう言った。
「生き延びて、あの世界へ帰るまで歩みを止めないで下さい。身勝手な頼みですが、どうか宜しくお願いします」
「…………ッ!!」
「君達の道が明るいものになるように、心から……願って……いま……す……」
言い終えた瞬間、ウィルの身体が光の粒子となって音も無く消えた。
「…………」
天に昇って逝くように光の粒子が上に上がって行くのを、俺は何も出来ずに見守っていた。
前より広くなったような気がする空洞で、俺は膝を折った。
「……畜生」
固く握り締めた右拳を地面に力の限り叩き付けた。
鈍い音が周囲に虚しく響くだけだった。
「……畜生……ッ!!」
俺は共に冒険出来る旅仲間になれたかもしれない人間を見殺しにした。
俺の口から漏れた声は、余りにも小さすぎた。
<ニーアス>
槍スキルの一つ。通常攻撃よりも強力な突きを放つ。殆ど<ストロウ>と同じ。硬直時間は0,4秒。




