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ANOTHER REALITY  作者: マンドラゴラ
第二章 善悪が交差する口
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第三十二鐘 波乱の戦い

 ミッションが送られて来た翌日、ハイトとロゼは祭りに参加する為、舞台の前に足を運んだ。ロイドから祭り開始の言葉を聞いている内に、ハイトはこのゲーム世界を観察しているであろう神について思いを馳せる。ロイドが祭り開始の宣言をした後、ハイトは村人達によって舞台の上へと運ばれた。

「さあ、皆さんお待ちかねの“森幸祭しんこうさい”がスタートしました! 栄えある最初の遊戯は、恒例の腕相撲ですッ! 一体誰が優勝の座に君臨するのか? 審判役の私もワクワクドキドキしています! さて、第一試合の選手の紹介をしていきましょう! 赤コーナーからは煌めく肉体美、ガトさん! 青コーナーからは期待の旅人、ハイトさん! お互い全力を尽くしてください!」


「……どうしてこうなった……」


 俺の姿は今、村人全員に曝されていた。

 舞台の上には何十人の村人(♂)が立っていた。全員筋肉質で力自慢な外見をお持ちだ。

 舞台の中央には一席のテーブルが設置されており、そこに俺は座っていた。

 そして、俺の反対側に対戦者が座っていた。

 筋骨隆々な身体をしているこの男、考えるまでも無く、


「運がなかったなあの少年、まさか一回戦から優勝候補に当たるなんてな」


(ですよねー)


 まあ、誰だろうとわざと負ける俺にとって関係ない話だけどな。


「悪いな小僧。負ける理由が無いもんでな。全力で勝たせてもらう」


 指の間接をポキポキと鳴らしながら、対戦者は余裕の表情で笑った。


(どうぞお構い無く)


 さっさと負けてさっさと舞台から降りよう。


「準備はよろしいでしょうか?」


 試合の審判役が俺達に訊ねて来た。


「いつでも良い」


「同じく」


 そして、俺達は手を握り合った。


「では、始めます!」


 審判役は一歩後ろに下がり、片手を挙げた。


「ハイト〜!」


 ぼおーっとしていると、ロゼの声が聞こえた。

 対戦者其方退けでロゼの方を見ると、手を振っている彼女の姿が見えた。恐らく、ロゼは俺が勝つと信じているのだろう。


(悪いなロゼ。俺はこんな下らない事に興味は無いんだ)


「レディー……――」


「負けたらもう料理作ってあげないからね〜!」


 ……何ですと?


「――ファイトッ!」


 ゴンッ!


「――何……だと……」


 静寂に満ちる中、驚愕に満ちた声が響いた。

 無論、それは俺の声じゃない。俺の眼の前に座る対戦者のものだ。彼は俺の手によってテーブルに叩きつけられた自分の手を見て、唖然としていた。


「悪いなおっさん。負ける理由を失ったからな。全力で負けてもらう」


 俺はそっと手を離した。


「こ、これは……! この結果を誰が予想していたでしょう! 勝者は青コーナーのハイトさん! 見事優勝候補を討ち破りました!」


「「「おおおおおおおおおおおおぉぉぉ!?」」」


 審判役が俺の勝利を宣言すると、周りが湧いた。


「凄え! 前回準優勝のガトを負かしやがった!」


「何者だアイツ!?」


「あんな筋骨のどこにあれほどの力が!?」


 群衆の視線が全て俺に集中した。


(あー、鬱陶しい)


 これ程の注目が集まったのは、本当に久しぶりだ。


(さて……)


 この状況をどう打開しようか。


(何時までもこんな所に座っていたくないな)


 思案していると、一つの案が思い浮かんだ。


(更に悪目立ちになるが……仕方無い)


 長時間我慢するよりはマシだと判断した俺は、その案を実行した。


「そこに突っ立っている選手達。俺の話を聞け」


 俺は席を立ち、傲慢な声色で選手達に話しかけた。


「今ので俺の実力が分かった筈だ。勝つ自信の無い奴は、今すぐ降りろ」


 俺は舞台に架けられた階段を指してそう言った。


「それでも勝つ自信のある愚か者は、此処に座れ。俺が全員捩じ伏せてやる」


 ドカッと大仰な勢いで椅子に座り、俺は腕を組んで不敵に宣言した。

 この行為には二つの意味がある。

 前者は選手を減らす為。優勝候補を倒した光景と自信に満ちた姿を見せ、選手達の戦意を消す事によって無意味な勝負を削る。

 後者は残った選手達を早く舞台から落とす為。村人同士で戦われるよりも、俺が一瞬で決めた方が時間短縮に繋がる。

 結果、この試合が早く終了する。


「ほらどうした? さっさと己の身の振りを決めろ」


 俺が煽ると、


「図に乗るなよ小僧」


 選手達の中で一番体格の良い男が前に出た。


「さっきのはまぐれか、もしくは何か小細工をしたかのどちらかだ。貴様に敗北の味を堪能させてやる」


 男が俺の前に座った。


(紛れねえ……)


 後者はともかく、あの光景を見て何を考えたら紛れだと判断出来るんだ? 脳筋かコイツ。


「その台詞は俺に勝ってからにしろよ。恥をかくのはアンタなんだからな」


 鼻で笑うと、対戦者は顔を赤くして歪んだ。


「減らず口め……。その曲がりに曲がった性格を叩き直してやる」


「へぇーすごいなーそれはたのしみだなー(棒)」


 俺が動じない態度で腕相撲の体勢になると、対戦者は俺の手を力強く握り締めた。端から見れば痛そうな光景だが、対戦者の力の数値が、俺の守備の数値より下回るのか、全く痛くなかった。


「そ、それでは始めてもよろしいでしょうか」


 審判役が引き攣った顔で俺達に訊いて来た。


「とっとと始めろ」


「同じく」


「では……。二回戦、赤コーナーからは前回優勝した王者、ゴークさん! 青コーナーからは期待の旅人、ハイトさん! このままゴークさんは優勝の座を守り切れるのか? それとも、ハイトさんが王者を蹴り落とすのか? 緊張の一戦です! レディー……――」


(コイツ前回の優勝者だったのか)


 これは好都合だ。コイツに勝てば、俺に挑もうなんて考える者はいなくなるだろう。


(これで終わりだ)


「――ファイト!!」


 ゴンッ!

 派手な音が響いたが、誰が勝ったかなんて言うまでも無い。


「話にならんな」


 俺はテーブルに叩き付けた手を離し、椅子から立ち上がった。


「――止まれ!!」


 後ろからの怒号に。俺は振り返った。


「貴様……何をした!?」


「は?」


 顔全体を真っ赤に染めた男は、意味の分からない事を言った。


「とぼけるなッ! 小細工でもしなければ俺に勝つ事なんて不可能だ! 正直に白状しろ!」


(なるほどな……)


 コイツは俺に負けた事が信じられないのか。


(あーあ、面倒臭い奴に捕まっちまったな)


 俺は嘆息しながらも、律儀に答えた。


「俺は何の小細工もしていない。アンタが弱かっただけだ」


「俺が……弱いだと……!?」


「ああ、アンタは弱い。潔く認めてさっさと消えな」


 俺は追い払うように口調を強めて言うと、脳筋に背を向けた。


「――ふざけるなあああぁぁぁぁぁぁッ!!」


 そんな馬鹿声が聞こえたと思ったら、

 ガッ!

 頭に何かが直撃した。


「ハイトさん!」


 審判役の人が俺の身を案じた声を言うが、大した痛みでは無い。精々、手で軽く叩かれたような感じだ。

 俺の頭に当たった物の正体を確認しようと上を見上げると、脳筋が座っていた椅子が宙を舞っていた。


(あぶねーな。俺以外に当たったらどうすんだ)


 何気なく宙を踊っている椅子の落下地点を見ると……。


(しまった……!)


 回転する木製の椅子。

 その着地地点には……小さい男の子がいた。


(あんな物が当たったら、最悪死ぬ!)


 こうしている間にも、椅子は男の子に迫っていた。


「メルっ!!」


 メルと呼ばれた男の子の元に、母親らしき女性が駆け寄り、護るようにメルを抱き寄せた。


(間に合うか……!?)


 全力で跳んで椅子を弾き飛ばそうと脚に力を込めた時、


「<ファイアーボール>!」


 凜とした声が響いた。

 親子に当たる前に、横から飛んできた炎の玉が椅子を弾いた。


「大丈夫ですか?」


 親子を助けた人物は、俺の仲間であるロゼだった。


「は、はい……ありがとうごさいます」


「おねーちゃん、ありがとう!」


 母親は安堵した声で、メルは元気な声でロゼに感謝の言葉を述べた。


(危なかった……)


 ホッと溜息をつく。流石ロゼだ。頼りになる。


「落ち着いて下さいゴークさん!」


 審判役の大声に誘われて後ろを振り向くと、審判役を含めた数人の男が脳筋を取り押さえていた。


「邪魔をするなッ!」


 脳筋は脳筋らしく、我を忘れていた。


「そうはいきません! これ以上暴れたら、周りに被害が及びます!」


「知った事か! 離れろ貴様らッ!」


 正論を無視した脳筋は、その逞しいだけが取り柄の身体を使って、取り押さえていた男達を振り払った。


「小僧……タダで済むと思うなよ……!」


 鼻息荒く脳筋は俺を睨みつけた。


「……はぁ」


 俺はさっきとは違う溜息をついた。


「アンタらもう良いよ。離れていてくれ」


 また取り押さえようとしている審判役達に、俺は制止の言葉を投げた。


「ですがハイトさん……」


「これは俺が蒔いた種だ。俺が何とかするさ。それに……」


 俺は視線を脳筋に移す。


「アッチもそれを願っているようだしな」


「許さん……俺をここまでコケにした事……泣くまで後悔させてやる……!」


「…………」


 俺は脳筋を無視して、周りを見渡した。

 皆、恐怖に怯えていた。


(こんな事になる為にしたんじゃないのにな……)


 これは俺のミスだ。俺が責任を持って解決しなければならない。


「俺が憎いか」


 俺は脳筋にそう訊ねた。


「ああ……憎くて憎くて気が済むまで殴りてえ!」


 脳筋は握り締めた拳を震わせて言った。


「そうか……ならば、“ウェイジャー”をしよう」


「“ウェイジャー”……だと?」


 俺が放った言葉に、脳筋は面食らったように返事をした。

 “ウェイジャー”とは、このゲーム世界にあるシステムの一つだ。

 簡単に言うなら、これは賭け事だ。

 “ウェイジャー”を申し込む方がそのルールを決め、申し込まれる方がその“ウェイジャー”を受けるかどうかを決める。

 申し込む方、申し込まれる方は、お互い何かを賭ける。勝者は賭けた何かを手に入れる事が出来る。敗者はそれを拒否する事は出来ない。

 “ウェイジャー”は申し込む方、申し込まれる方、審判役と、最低三人は必要。

 審判役は“ウェイジャー”が公平に進行するように動かす。

 ルールは絶対である。不正が発覚した場合、そこで敗北になる。

 これが、“ウェイジャー”のルールだ。


「こんな状況でも祭りは現在進行形だ。だったら、祭りらしく“ウェイジャー”で決めようじゃないか」


 そう、特に俺は忘れてはならない。

 これはまだ、祭りの最中だと。


「……ルールは何だ?」


 怪訝な表情を俺に見せながらも、脳筋は俺の話に興味を抱いたようだ。

 それを確認すると、俺は右手の人差し指の先を時計回りに回転させた。

 すると、その軌跡を辿るように円形のアイコンが現れた。現れたアイコンは順に回り、それらが一つの円を作るようにして宙に止まった。

 これが、このゲーム世界での通常のメニュー表示方法だ。ケータイでも同じような事は出来るが、NPCの前で曝して良い代物ではない。

 俺は複数現れたアイコンから迷わず選んでいき、目的の“ウェイジャー”のアイコンを押した。


「さっきアンタが言ったのを採用する。つまり――殴り合いだ」


「なッ……!」


 審判役が驚いた声を上げた。おそらく、皆も同じ心境だろう。

 ただ一人を除いて。


「ルールは簡単。お互いにぶつかり合い、先に倒れた方が負け。シンプルイズザベストだろ? そして――」


 言葉の途中で、俺は左手の人差し指を立てた。


「勝者は敗者に一回だけ、どんな内容でも命令する事が出来る。アンタが勝てば俺を奴隷にする事だって出来る訳だが……」


 俺は左手を下ろし、


「さて、受けるか?」


 脳筋を見定めた。

 脳筋の眼の前に、小さなウィンドウが現れる。そこには、俺が言ったルールが最適化されて表示されている筈だ。

 脳筋は数秒、それを眺めて、


「……面白い」


 獰猛に笑った。


「この勝負、乗った」


 躊躇わずにウィンドウの了承アイコンを押した。


(予想通り……コイツ本物の脳筋だ)


 嘲笑したいのを堪えて、


「んじゃあ、審判役はと言うと……」


 俺は一人の人間に視線を止めると、無言の指名をした。


「わ、私ですか?」


 腕相撲の審判役が顔を強張らせて言った。


「俺はこの中で一番適役なのがアンタだと思う。巻き込んで悪いが、頼まれてくれないか?」


 審判役は脳筋を見た後、俺に視線を移した。

 俺の眼を見る事数秒。


「……分かりました。引き受けましょう」


 決意した表情で務める事を約束した。


「礼を言う。アンタの名前は……」


 ウェイジャーを申し込む場合、相手の顔と名前を知っている事。対象者が視界に入っていなければならない事。この二つが必要となる。


「トセです」


「そうか。トセ、アンタをこの“ウェイジャー”の審判役に任命したい」


 俺がそう言うと、カナスの前にも大きさが同じようなウィンドウが現れた。

 トセはそれを承諾するアイコンを押した。


「これで準備は整ったな」


 脳筋が待ちきれないと言わんばかりに、腕を大きく回した。

 俺はトセの方を見る。彼は緊張した表情しながらも、何か理解しているような顔をしていた。


(流石に気づくか)


 恐らく、トセ以外にも俺の意図に気づいている奴はいるだろう。残念ながら脳筋は気づいて無いようだが。


「では、始めます」


「覚悟しろよ小僧」


「…………」


 しん……と静まり返る空気の中、脳筋のやる気の音だけが聞こえた。


「レディー……ファイト!」


 “ウェイジャー”がトセによって開始されても、俺は何もせずに立っていた。


「……何故、何もして来ない?」


 俺の様子を窺っていた脳筋は、怪訝な表情で俺に訊ねて来た。


「俺が何もしないのが怖いのか?」


「ぬかせ。貴様など怖くも無い」


「そうか。じゃあ質問の答えだが、アンタさっき俺に言ったよな? 気が済むまで殴りたい、と」


「……ああ、確かに言ったが、それがどうした」


「察しが悪いな。つまり、その通りにしてやると言ってるんだ」


「何……?」


 脳筋と周りの観客から驚きの声が出た。


「……小僧、何を企んでいる?」


「何も。アンタの言う通りにしてやるんだ。ここは喜ぶべきだろう?」


「…………」


 脳筋は俺の発言に、何か裏が無いかと探るように見ていたが、


「……考えていても仕方がねえ。正面突破だ!」


 威勢良く脳筋は俺に向かって突進して来た。


「危ないっ!」


 観客の誰が悲鳴のような声を上げる中、


「おらッ!」


 脳筋の拳が俺の顔面に命中した。


「ひっ……」


 あまりの光景の為か、短い悲鳴が聞こえた。


「ふッふッふッ……どうだ痛いか?」


「アーイタイイタイナイチャウヨー(笑)」


「……ッ!?」


 驚愕に満ちた顔をして、脳筋は一歩下がった。


「どうした。これで気が済んだのか?」


 自分のHPバーを確認すると、一しか減ってなかった。


「くッ……まだだ!」


 意気込むように脳筋は、拳の連打、更に脚まで使って俺を攻撃した。


「もう……降参したいんじゃないのか?」


「さて、どうだろうな」


 攻撃され続ける事数分、


「ぜえ……ぜえ……ぜえ……ッ」


 遂に、脳筋の動きが止まった。


「もう終わりか?」


「ぜえ……ぜえ……ぜえ……ッ」


 俺の問いに脳筋は答え無かった。


「なら、俺の番だ」


「くッ……」


 脳筋は顔を歪ませて俺を見た。


「安心しろ。押すだけだ」


 俺は脳筋の胸を右手で押した。


「ぐわッ!?」


 驚いた声を出しながら、脳筋は後ろに吹っ飛び、テーブルに打ち当たった。


「「「………………」」」


 その光景に唖然とする観客の中、


「俺の勝ちだ」


 俺は一人呟いた。

 しかし、何時まで経っても審判役から勝敗決定の宣言がされない。

 不思議に思ってトセの方を見てみると、彼も唖然としていた。


「戻って来いトセ」


「…………は?」


「は? じゃないだろ。何してんだ。仕事しろ」


 俺は倒れている・・・・・脳筋を指しながら、トセにそう言った。


「……こ、この“ウェイジャー”の勝者は、ハイトさんです!」


 審判役が勝者を宣言しても、辺りは静まり返ったままだった。


「……何が起きたんだ?」


「俺には、ただ突き飛ばしただけのように見えたんだが……」


「馬鹿言え。突き飛ばしただけで、人をあそこまで飛ばせるものか」


 様々な意見が飛び交う中、突然現れた白光が俺の眼の前で収束していった。

 そして、巻かれたままの小さな羊皮紙へと変化したそれを、俺は片手で掴んで開いた。


『契約書


 勝者ハイトは、敗者ゴークに一つ命令する事が出来る

 

 この契約書は、上記の内容が合意の元で決められ、正当である事を証明する』


 今、俺が読んでいる羊皮紙は、“ウェイジャー”による契約を証明する為のアイテムだ。これは勝者と敗者、どちらも入手し、はぐらかすのを防いだりするのに利用する。

 俺は契約書を片手に持って、脳筋に近づいた。


「何時までそうしているつもりだ?」


 俯いたまま動かない脳筋に、俺は言い放った。

 横には俺が持っているのと同じ羊皮紙が転がっていた。


「……嵌めたのか」


「は?」


「勝つ事が決められた勝負に誘い込んで、俺には嵌めたとしか思えん」


 その言葉には何も篭っていなかった。


「俺には負け惜しみにしか聞こえないな」


「……答えろ。貴様は俺を嵌めたのか」


「嵌めようと考えるほどの脅威はないな」


「……貴様」


「なら、己の敗因は俺だと言いたいのか、アンタは」


 顔を上げた脳筋の眼に怒気が再燃するのを見て、俺は冷たく口を開いた。


「勘違いするなよ。アンタが負けたのは俺のせいじゃない。アンタの敗因は、己の実力を考えず、相手との力量の差を測れなかった痴がましいほどの過信だ」


 俺の言い分に、脳筋は反論しなかった。


「……さあ、とっとと命令しろ。何が望みだ? 俺を奴隷にするか?」


 微かに笑いながら、脳筋は言った。


「安心しろ。アンタの処分はもう決まっている」


 俺は親指で後ろを指しながら、


「あの二人に懇請いっぱい謝れ」


 そう命令した。


「……は?」


 脳筋は呆気に取られたような顔をした。


「何してるんだ。速く行ってこい」


「……そんな事で良いのか?」


「阿呆かアンタは? 未遂とは言え、アンタはあの二人に危害を加えるところだったんだ。謝罪をするのが当然の行いだろう」


「それはそうだが……」


「拒否する権利は無い。行け」


 俺が口調を強めて指図すると、脳筋は不思議な表情をして俺の顔を見ながら、俺の後ろにいる親子に歩み寄って行った。


「……悪かった」


 短いながらも、謝罪の気持ちが篭った言葉が聞こえた。

 脳筋が言った瞬間、俺が持っているのと、床に放置されている契約書が仄かに輝き出し、光の粒子となって消えた。契約書は記された内容が完了すると、このように消滅する。


「さて……」


 俺はその光景を見届けた後、正面を観客の方へと向けた。


「これで今回のいざこざは終わったが……俺からも言う事がある」


 親子と脳筋に向けられていた村人の視線が、一斉に俺へと移った。


「今回の件はこの俺に非がある。だから、この場を借りて皆に謝罪したい」


 俺は頭を下げて、


「年に一度の祭りの雰囲気を壊してしまい、申し訳ありませんでした」


 村人全員に詫びた。


 <?/グルト> ※現実/ゲーム

 性別:男

 姿:黒髪黒眼/赤髪茶眼

 スタイル:大学生/格闘家


 クリフとラナ同様、ロゼの過去に登場した『天弧の遊楽団』の団員。クリフとラナとは親友の関係で、幼い頃から知り合った仲である。酷く大雑把な性格ではあるが、仲間を思う気持ちはクリフに劣らず、劣勢になった時は常に前に立ち仲間を励ましていた。その彼が何故あのような行動に出たかは……本編で語られる――かも。


 <追伸>

 今回はグルトです。見直してみればこいつの姿、スタイルを説明してませんでした。結構キャラ立ってたのにね。グルトよ……馬鹿な作者を許せ……。

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