番外編16 絶叫
ついに“ラクタノクス”を見つける事に成功したロゼ。仲間を一人でも救うべく、自らを犠牲にする事を決めたロゼの前に、同じ仲間であるソールが現れる。しかし、どうも様子が可笑しい。ソールの異常な行動と奇妙な声に混乱し、ロゼは仲間に剣を向けた。
ゆらゆらと壁に掛けてある松明の炎が揺れ踊る。
炎が静かに見守る中、弾ける火花を散らしながら、私は揺るがない思いで相手に刃を走らせていた。
「流石に軟弱な強さではないか」
男は隙を一つも見せずに私と剣を交えていた。
(……強い……!)
私は男の強さに動揺しているのを隠しながら男の剣を防いだ。
男は「天狐の遊楽団」の皆と同等の強さを持っていた。もしかしたら、私より強いかも……。
私はその考えをすぐに振り払った。勝敗というのは力の差によって決まるが、気持ちの差も大いに絡んでくる。拮抗が保たれている中、気持ちで負けてしまったら私に勝利はない。
キンッ、とお互いの剣が大きく弾かれる。私は一旦距離を取った。
「中々やるではないか」
男が無表情で私に称賛を贈った。
「別に、あなたなんかに褒められても嬉しくないんだけど」
私はそれに嫌悪感を持って相手に伝える。
「褒め言葉は素直に受け取っておけば良いものを。だから、可愛いげの無い女だと言われるのだ」
「余計なお世話よ。てか、あなたには関係な――」
私は言葉を続ける事が出来なかった。
(今、あいつは、何て言った……?)
私は外した視線を男の方へと戻す。
男は私の視線に気づき……、
「どうしたロゼ。何か不可解な事でも言ったかね?」
初めて、笑った。
「…………!!」
その冷淡かつ獰猛な笑みに、私は何も言い返せなかった。
――だから、可愛いげのない女だと言われるのだ――
それは、私が「天狐の遊楽団」に入団したばかりの時に言われた言葉だ。あの時からソールは「天狐の遊楽団」にいて、馴染めない私に優しくしてくれた。
知っている筈がないのだ。そこに居合わせた仲間じゃない限り――。
「ようやく理解したか。俺が紛れもなく、ソール本人だという事を」
「ち、違う……。お前はソールじゃない……っ。私の仲間じゃない……っ」
「そう言うわりには覇気が無いな。もっと自信を持って言ったらどうだ?」
そう言って男は私に攻撃を仕掛けてきた。
私はそれを横に躱す。しかし、私の思考は眼の前の戦いに向けられてなかった。
私の眼に映るのは、仲間と同じ顔をした人。仲間達にしか知らない事を知っている人。
(本当は……ソール本人じゃないの……?)
迷った瞬間、脇腹に痛みが走った。
「…………っ!」
「考え事をしている場合か?」
男が血の付いた大剣を、私に突きながら言った。その表情は既になくなっている。
「<ピアス>!」
私は剣スキルで相手の剣を真っ正面から弾いた。
お互いにできた隙と距離で、私は時間を稼いだ。
「逃げる事しか出来ないのか? 此処まで辿り着いたのはまぐれだったか……」
興味なさげに私を一瞥した後、突進してきた。
私はそれを防ぐ。次の縦斬りを横に跳び、更なる追撃は避けられず掠った。
もう、防ぐので精一杯だった。攻撃に転じる事も出来ず、着々とHPを削られる。
(私は何を迷っているの? あいつはソールじゃないでしょ!?)
それを思っては打ち消される。ろくに決意を固める事すら、今の私には出来なくなっていた。
反撃が一つも出来ないまま、HPが五割を切った。男はそれを見ても手を抜く事はなく攻撃してきた。
(このままじゃ死んじゃう……)
私に本能的な恐怖が訪れる。その焦りと不安がさらに相手に隙を与える事になる。悪循環に陥っていた。
(……死にたくない)
私は情けなくも、そう思ってしまった。
(死にたくない)
人としての本能なのか、私の恐怖心がそうさせるのは分からないけど、
(死にたくないよ……!)
私はそれだけを願ってしまった。
――ナラ、ナニモカンガエズニヤレ――
ズキンッ……。
「っ……!?」
突然、頭に激痛が走った。
(今度は何……!?)
私は立っている事が出来ず、戦闘中にも関わらずその場に膝をついた。
――カンジョウガジャマヲスルトイウナラバ、ソレヲケシテヤロウ――
(感情を消す……!?)
何が起こっているのか分からないけど、とにかく、それに乗ってはいけないのは考えるよりも思った。
あいつがこちらに歩み寄って来るのが聞こえる。早く何とかしないと……。
――ムニユダネヨ。ムヲウケイレヨ――
(待って。そんな事しなくても――)
――ダマレ――
「ぐあっ……!!」
体感した事のない頭痛に襲われ、次第に何かを考える事が出来なくなっていった。
――ヨロコブナ。カナシムナ。ウヤマウナ。ウラムナ。ワラウナ。ナクナ。タノシムナ。オコルナ。キメルナ。マヨウナ。ムダヲステ、タダコロスタメダケニウゴケ――
「余裕だな。生きる事を諦めたのか?」
誰かが何かを言っている。誰かが何かを振り上げている。
分からない。何がどうなっているのか。
私は誰で、あれは何なのか。
(……………………)
ゆらり、と私は立つ。
「…………?」
あれが何か反応を示したけど、私にはどうでもいい事だ。
全て私には関係ない事。
私のやるべき事は一つ。眼の前のにいるモノをただ殺スダケダ。
一瞬、何もかもが理解出来なかった。
まるで時間を奪われたかのように、眼の前が暗くなったかと思えばすぐに色が戻った。
停止した思考が運転を始めた時、
「……なんで……?」
紅い血の池に横たわる男の姿があった。
(私は……?)
私の手に握られているのは、右手に目的の宝石である“ラスタノクス”が。左手には……血塗られた剣があった。
(これ……何?)
私はなぜ自分の剣に血が付いているのか分からなかった。
「人殺しが……」
か細く消えそうな声が聞こえた。
男がいつもの無表情で、しかし、憎悪に満ちた眼で私を見ていた。
「人……殺し……?」
(あいつは……何を言っているの……? 私が……人殺し……?)
否定したかった。けど、私の武器がそれを許さなかった。
男の身体には刃物に刺されたような傷痕。そこから流れる紅い液体。同じ色の液体が付いた剣。
絶望に突き落とすに十分だった。
「……ぁ……あぁ……」
言葉が上手く出せない。勝利の言葉。謝罪の言葉。様々な言葉が頭に浮かんでは、消えていく。
「お前に生きる資格なんてない」
その一言は、私が感じた全ての痛みを超え、私が感じるであろう全ての痛みを超える刃だった。
「最後に良い事を教えてやろう」
不意に男がそう言った。私はどこかに飛びそうになる意識を必死に繋ぎ止めていた。
そして、私は絶句した。
「――生存おめでとう、ロゼ」
心の底から相手を思いやり、喜ぶ表情は、私の知っているソールそのものだったからだ。
「……ソール?」
なんで、ここにソールがいるの?
なんで、ソールは血を流しているの?
なんで、私はソールを刺したの?
「……うそ……こんなの……こんなの……」
無意識に首を横に振りながら、私は後ろに下がっていた。
ソールはそんな私を見ても何も言わす、ただ微笑んでいた。
私が呆然とソールの笑みを眺めていると、彼の表情から色が欠けていった。
「――――!!」
私は弾かれたかのように視線を彼の頭上へ移した。
そこには、色のないからっぽのHPバーが浮かんでいた。
「――――」
ソールの口が動いた。しかし、その声は乏しく、私の耳に入る事はなかった。
そうして、私が最期の言葉を聞けずに、彼は私の眼の前で光の粒子となって消えた。
「――――ぁ」
私の空しい声が意味もなく響き渡る。それをかき消すかのように、ケータイからファンファレーが盛大に流れ、空中にデジタルの文字が現れた。
『MISSION CLEAR』
私をあざ笑うかのように、その文字は白く眩く輝く。それは、この遺跡から私以外のPCが消えた事を知らしめていた。
私だけが生き残ったのだ。
私が。
仲間を。
この手で。
殺した。
ころした。
コロシタ。
「ああああああぁぁぁぁぁあああああ!!」
<ライトニング>
雷魔法スキルの一つ。前方に電流を飛ばす。確率で『麻痺』の状態異常にする。属性は雷。待機時間は0,7秒。
<追伸>
お気に入り件数が50を超えました! 少ないと感じる人もいるかもしれませんが、作者にとっては一人でも読んでいる人がいると思うと、執筆をする原動力となります。これからも隅っこでやっていくので、よろしくお願いします!
一言でも良いので、感想等お待ちしています。




