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第10話 完璧な絵


連れて行かれたセバスチャンが、何を言われたのかは、わかりません。


でも、帰ってきたセバスチャンの態度は、特に変わりはありませんでした。


いえ。むしろ、キレが増したようでした。


「お嬢様。お嬢様は、個性的な字を書かれますね。私は、読むのに苦労しております。」


「お嬢様。お嬢様は、声は素晴らしいのに、歌声は、なぜ、そんなに残念なのですか?」


……思い出したら、ちょっと、腹が立ってきたかもしれませんわ。


それでも、私は、知っているのです。


セバスチャンは、決して、嘘をつかない。


たとえそれが、私にとって厳しい言葉であったとしても。それは本心なのだとわかる。


だから、私は安心するのかもしれない。


私は、上辺だけの優しい言葉ではなく、本心からの言葉が、ずっと欲しかったのです。


それに、セバスチャンは、私と一緒に字の練習や、歌の練習をしてくれました。


ここまで付き合ってくれるなんて、なんて献身的な執事なのかしら。


おかげで、字は見違えるように美しくなり、歌は、「天使の歌声」と称賛されるほどですの。



――ある日のことです。


家族で、美術館にでかけました。


セバスチャンは、いつものように私と一緒に回ります。



芸術は、難しいわね……。



私は、少し退屈しながら歩いていました。セバスチャンは、なにも言わずに、私の後をついてきます。


でも……、ある一枚の絵の前に来た時です。

セバスチャンの足が、ピタッと止まりました。



どうしたのかしら?



セバスチャンを見上げると、見たことのない表情をしていました。



「完璧ですね……、完璧な美しさです。」



呟く声に、力が籠もっていました。


……ああ、この人は、今、感動している。


私、その時のセバスチャンの顔が、焼き付いてしまいました。


セバスチャンに、あんな顔をさせるなんて、あの絵がうらやましい。



私にも、その表情を向けてほしい。



どうしたら、いいのかしら?


私は、あの絵にはなれないですしね……。


小さな私は、ハッと思いつきました。


何度も、完璧と言っていたセバスチャン。


そうだわ、きっと完璧な物が好きなのね!!


だから、私、決めたのです。



――『完璧な私』になろうって。



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