第1話 完璧なお姫様
透きとおるような、白い肌。
頬はバラ色で、唇は、プックリと艶があり、まるで、桜貝のよう。
腰まで波打つ髪は、金髪で、ゆるくウェーブがかかっている。
話す声は、小鳥のさえずりのようだ。
上から見ても、下から見ても、斜めから見ても、美しい。
「完っぺきじゃない!?」
穴があきそうなほど、鏡を見つめていた、私、(ナターシャ)は言った。
「ねぇ、おまえもそう思うわよね、セバスチャン。」
隣に控えている、執事に聞く。
「はい、もちろんです。お嬢様。」
「よくもまあ、毎日毎日、飽きもせず、鏡をご覧になれるものですね。」
「……セバスチャン。あなた、ご自分の立場、わかってないようね?」
「いいえ。お嬢様。身にしみてわかってまーす。」
なにが、まーす、よ。
絶対に、わかってないじゃない。
「ねえ、私、美しすぎるのかしら?」
「はい、そうですね。」
「感情が籠もってないわ。やり直し。」
露骨に、ウンザリした顔になったセバスチャン。
「やり直しって、なんなんですか?」
「もう、いいじゃないですか。
お嬢様は、世界で一番、美しくて、聡明で、あとは、なんでしょう……、
ともかく、素晴らしい存在ですっっ!!」
若干、投げやりのようにも聞こえたわよ、最後のほうが。
「じゃあ、どうして?」
「何がですか?」
私は、セバスチャンのネクタイをぐいっと引っ張った。
「じゃあ、どうして、セバスチャンは、私のことを好きになってくれないの!?」
――――
やっぱり、私が姫だからかしら。
そうね、そうなのね?
だって、世界に名だたる、帝国の姫なんですもの。
そりゃあ執事が、姫様に恋をした!なんて言ったら、一大事よね。
私は、セバスチャンから手を離した。
「わかっているわ、セバスチャン。」
「何がですか?」
「わたくしに、興味のないふりをしているのね!?お父様やお母様の目を欺くために!!」
「はあ?」
セバスチャンが、間の抜けた声を出す。
「いいわ、セバスチャン。たいした演技よ。この私でさえ、本っ当に、これっぽっちも恋愛感情がないように思えるわ!」
「まあ、そうですよね……。」
セバスチャンが、困惑している。
まさか、自分の渾身の演技を見破られていたとは、思ってなかったのだろう。
「よろしくてよ!このまま、私のデビュタントまで、隠し通しましょう!」
「そして、デビュタントの日、セバスチャンは、私を攫って逃亡するの!……素敵だわっ!!」
完璧すぎるストーリー。
私は、意味もなく、クルッと回った。
「お嬢様、何か、変なお話でも読みましたか?」
セバスチャンが、落ち着いた声で言う。
そこは、ノリで、「そうですねお嬢様。一緒に逃げましょう」、って言ってほしかった。
でも、いいの。
私は、セバスチャンが、ノリで物を言わない、忠実な人間だってことはわかっているわ。
まあ……、それに、連れて逃げても、すぐに捕まるわね。
「やっぱり、お父様と、お母様に、直接お願いするしかないわね……」
「お嬢様、そろそろ、妄想するのはやめて、ダンスのお稽古に行ってください。」
「あ、そうだったわ」
「セバスチャン、行くわよ」
「私は、別の仕事にいきますが。」
「駄目よ。セバスチャンが、私と一緒に踊れなくてどうするの?」
「さあ、行きましょう。」
私は、セバスチャンの服をつかんだ。
「そこの者」
「はっ。いかがいたしましたか、お嬢様。」
通り過ぎようとする、使用人に声をかけた。
「セバスチャンは、急用ができたの。あなた、代わりに行きなさい」
「かしこまりました、お嬢様。」
使用人が、頭を下げると出ていった。
「よしっ、これで邪魔者はいなくなったわね、あ・な・たっ」
「いいかげんにしてくださいお嬢様。」
「私、そろそろ怒りますよ」
セバスチャンの顔が真顔になった。
「え、怒るのっ?セバスチャンが私に!?」
「――よろしくてよ。お父様やお母様でさえ、わたくしに怒ったことがないの。」
「怒られる体験がしてみたいわ。さあ、存分に私を怒ってちょうだい!!」
私は、期待の籠もった眼差しで、セバスチャンを見つめた。
でも……、一向に怒らない、セバスチャン。
「なんだか、怒る気が失せました……。」
「ええっ、つまらない!!」
せっかく、怒られるチャンスだったのに。
セバスチャンの意気地なし。
「もう、お願いだから、怒ってよぉー。」
私は、上目遣いで、セバスチャンを見た。
どうよ、この美貌の私の上目遣いよっ!!
男性は、とにかく、これに弱いってメイドたちが言っていたわっ!
「お嬢様は、だいぶ変わっていらっしゃいますね。」
セバスチャンが、ため息をついた。
そして、あきらめたかのように、私の手をとった。
「はいはい。では、もう行きましょうね、お嬢様。」
えっ!
セバスチャンが、私の手を握っている!?
そ、そんな……反則じゃない??
とたんに固まる私の体。
顔は真っ赤になり、なぜかガタガタと震えしまう。
――その様子に、セバスチャンの目が光った気がした。
「……お嬢様。今度は私の番ですね?」




