目覚めと不調
綾愛「…知らない天井だ…」
彼女は目覚めた。
綾愛(なんか私いつも寝て起きて寝て起きてな気が…
まぁそんなもんか)
頭が痛い…身体がだるい…
ベットが合わなかったのだろうか。
まだ若いのだが…もうすでに寝ても疲れの取れない身体になってしまったのだろうか。
だが逆に…違和感を感じる。
綾愛(こんなに調子悪いことあるか?
…それに、なにか大変な事を忘れているような気が…)
身体の疲労はあるのだが、
なぜか自分のような陰屈な人間には不自然なほどにメンタルは安定している。
歯の間になにかが挟まっているような…
小さくも確かな違和感。
綾愛(まぁ別に悪いことではないんだしいいや…
もしかしたら美少女と寝た事によるストレスと優越感?……ってのはないだろう流石に…うん、流石に)
そんな楽観的な事を考えながら、
ふと時計を見る。
時刻は18時を指していた。
…は?
寝ぼけていた頭が一気に冷たくなっていく。
綾愛(は!?18時!?
…チェックインしたのが3時過ぎだから…
延滞料金がやばい!!)
色々あったとはいえあまりにも寝過ぎだ。
一刻もはやくここを出るためにリアを起こそうと隣を見やると……
そこには誰もいなかった。
綾愛(…まぁそうだよね、
リアからしたら迷惑かけられた奴にその分として宿代を出してもらっただけに過ぎないんだし…
別に居なくなってても…別に…)
…別に別れの言葉くらい言ってくれてもよかったのに
そんな事を考えていた時、
リアが着けていたペンダントが自身の枕元に置いてあることに気づいた。
蒼い見た目の宝石?が付いており、
何語かはわからないが恐らく言葉が刻印されている。
綾愛「…もお、仕方ないなリアは…届けてあげるか」
わざとらしく言葉に出す。
…キモいな、自分。
昨日あったばかりなのに…お互い名前しか知らない程度の関係性なのに…
また彼女に会うことが…いや、会うための"口実"がそこにあったことに…
私は喜びを隠せなかったのだ。
──────────────────
…やっぱりもう会いたくないかもしれない……
リアを探すべく身支度を終わらせ、
とりあえずフロントへと会計に向かったまでは良かった。
なまじ高校に行かず、
色々なバイト先を転々としながら社会貢献に勤しんでいる綾愛は、
家にかなり入れてはいるものの、
それでも同い年の中ではかなり持っている方だ。
少々手痛くはあるだろうが、
そこまで気負いするものではない。
…そう思っていたのだが、
会計にて渡された内訳表には、
大量に並んだ食事サービスの注文履歴が刻まれていた
…店を出る頃には財布に氷河期が訪れていた。
綾愛(私が寝たあと何が起こっていたんだ…)
自身の知らぬ時、同じ場所にてパーティーが開かれていたという事実に頭を抱える。
…もはやあまり乗り気ではなくなっているが、
目的を果たすためにリアを探さなければ。
綾愛(でも私リアの行方何もわからないんだよなぁ…
一応言い方的には京都に目的があるっぽかったけど…)
それだけの情報を頼りに人探しをするというのは、
この広い世界では不可能だろう。
だがほかに解決策があるようにも思えず、
再度リア関連にて頭を抱える。
…そのとき、紙袋が…いや、正確には紙袋のなかに入っているリアのペンダントが蒼く点滅し始めた。
そんな突飛な出来事を理解するよりも先に、
もう一つ現実離れした現象が現実として響いた。
リア「…おっ!ちゃんと綾愛でしたね。
数時間ぶりです!」
その声の主は今まさに探そうとしていた当の本人であり、
その声が明らかにペンダントから響いている事に綾愛は混乱することしか出来ない。
綾愛「…はぁ…なんかもう色々起こりすぎて訳わかんないけど…リアは能力者らしいしね。もう何でもいいや」
リア「理解が早くて助かりますね。さすがです。
まぁ…端的に言えば私"達"を狙って来た敵さんを返り討ちにしようとしたんですけどぉ…
不意打ちされてしまい…まぁ囚われのお姫様って所ですね」
意味がわからない。
敵?
リアだけでなく私も標的?
なんか普通に負けてるし…
リアに助けられはしたけど…もう寝床も提供しましたしウィンウィンでは?
これ以上助ける必要なくね?
そんな思考が綾愛の理性にはあった。
だが、直感。本能。感情論はそれを否定し、
前者を凌駕していた。
綾愛は基本的に他者を必要とせず、期待しない。
良くも悪くも自己完結させてしまう。
それが出来るだけの要領が彼女にはあり、
それは彼女の過去に起因するものであろう。
…そしてそんなことは彼女自身が一番よく理解していた。
理解していたからこそ、自身の判断しようとしていることに矛盾と違和感を覚えるが…
その判断に少しの迷いもなかった。
綾愛「…それで?場所はどこ?」
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結構遠かったなぁ。
そんな感想が一番に出てくる。
時刻は23時。
深夜とは言えないまでも、
大人の時間へと片足を踏み入れる刻。
彼女はよく分からない飲み屋街を超え、
危なそうな道をいくつも越えた先、
明らかにパンピーが入ってはならないような廃ビルを前にしていた。
…なんで私こんなとこにいるんだろう。
別に今になってそんな事を思ったわけじゃない。
移動中ずっと思っていた。
なんならホテルに泊まるときだってそうだ。
別に逃げてしまえばよかったのに。
何故なのだろう。
何が違うのだろう。
頭が重い。
リア「間違いなくここですね。
私はここの地下に閉じ込められてるので、
適当に散策しながら来てください。
恐らく敵さんは綾愛さんを見つけて襲撃をかけると思いますが、ペンダント…結晶を介していますので私がすぐに止めてみせます。」
というのもこのペンダントに付いているのは独自の結晶らしく、
リア曰く「お姉ちゃん直々の術式が刻印されているので性能は保証します」らしい。
効果は所持者と所有者の遠距離通話&ビデオ機能と
結晶を介した能力の遠距離発動。
その周囲の状況が分かるというもの。
この場合は所持者である私の視点と状況を所有者であるリアが分かるという状態らしい。
周囲の状況という曖昧な所に関しては説明が難しいらしいが、今回の場合はおそらく問題ないとのこと。
ならペンダントは2つあるべきでは?
という質問には「お姉ちゃんが持ってます」との返答。まぁそうか。
そして作戦としては私を囮とし襲撃させ、
一撃目は結晶を介したリアの能力でいなし、
拘束を既に解いているらしいリアがこちらへと直行して正面戦闘。のち勝利というプランらしい。
リア「前回は一人だと思っていた所を二人目に不意打ちをされたから負けましたが、
正面からなら負けません。安心してください。」
らしい。
…正直に言おう。怖い。
だが何故だろう。
普段の私ならこんな事を実行するどころか、
こんなところにも来ず話も聞いていないだろう。
あの日から私は変だ。
私を取り巻く環境も非現実的だった。
…が、それ以上に自分の曲がりようが一番怖い。
作戦も問題点や曖昧な点が多すぎる。
体調もより一層悪くなっているように感じる。
だが心だけはなぜか平常で…凪のように静かだった。
それなのに何故私は廃ビルへと入っていっているのだろう。
2、3歩踏み入れたとき。
…すぐ横で風切り音がした。
リア「…はっ!?ヤバい!!」
私が眼にしたものは…
自身の後頭部へと飛来する拳だった




