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果て無き少女等に大いなる洗礼を  作者: 名仮
第一章 人界編
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第12話 宵の明星


月明かり一つない漆黒の世界に一人の少女の聞くに堪えない叫びが響く



わかっていたはずだし警戒もしていた


奴は大天使でありながら魔王でもあるのだから、

その力は光だけのはずがない


一瞬も気を抜いたつもりはなかった


綾愛「…っくそっ…」


耐えられず地面に膝をつく


痛みと悔しさで涙が溢れ血と共に地面を濡らしていく


気配が近づいてくる


サタン「さっきの亜人の子もそうだけど君も強いね。

君さえ良ければ僕の下につかないか?

優秀な子は好きだ。当然地位も名誉も約束しよう」


顔を上げる


翼が黒いものに変わっている以外に見た目の変化はない。


だが先程までのこいつとは明らかに別格の気配を放っている。


綾愛「…地獄に堕ちろ」


それでも綾愛は睨みそう吐き捨てる


サタン「さっきの子と同じ事を言うんだね。

面白いけど、生憎あそこにはもう僕の居場所はないから行っても追い出されちゃうよ」


軽口を叩くように何の気なしに語っている


…虫酸が走る


サタン「…さて、僕の下につかないなら殺さなきゃいけないわけだけど…

君は放っておいても勝手に死にそうだね」


サタンがくるりと周り背中を向ける


…気持ち悪い


会話し、目にしてみて思った


こいつは会話をしているようでしていない


その証拠に奴の意識は会話しているのにも関わらず少しも私に向いていない。

こちらに対して何の関心も持っていないのだ


まるでAIと会話しているようなそんな違和感


サタン「…なるほど、そうするんだ」


サタンが何かに気づいたように呟く


瞬間、私とサタンの間に何かが飛来し爆発する


眩しい閃光と激しい砂埃が視界を遮る


だがこの力の気配を、

今隣にやってきた者が誰かを私はすぐに理解した



『例外』──エグゼプション──


リアが私に触れ能力を発動する。


すると無くなったはずの腕がまるで逆再生のように戻ってきた


リア「綾愛の肉体の異変を対象に使いました。

なのでダメージや消費した生力なども戻ったと思います。…ですが、わかりますね?」


こくりと一つ相槌を打ち、

二人で後方へと跳び距離を取る



確かに私は万全の状態へと戻った。

だがそれ以上に状況は良くない。


リアが言いたい事はつまりリアの生力はもう底が見えている…"例外"はもう使えないという事…


当然だ。

消費の激しい例外を二回も使った上、

二回目の使い方は無理矢理過ぎる。


生力の消費量が多いのは明らかだ



…ということは、

それによって例外の使用はもちろんまともな戦闘も厳しいという事。


だが使わなければ私は死んでいた


この戦闘だけでリアに二回も命を救われた

だが…


綾愛「…助けてもらってすぐでアレなんだけど…

三回目ってないよね?」



リア「二度あることは三度あると言いますが…

この場合は三度目の正直にしたいですね」



軽口を叩く余裕なんてあるはずもない


だがそれ故ということもある


どうしたものか


サタン「面白い能力だね。見たことも聞いたこともないよ。…一応聞くけど僕の下につく気は?」


リア「綾愛がNOのうちはないですね」


…どっちにしてもNOであってくれ


いやそんな事はどうでもいい


気づいた時にはサタンは宙に浮いていた。


まだ5分は経っていないはずなのだが…

サタンとなって翼以外での飛行が可能となったのか、それともルシファーとサタンでは別扱いなのか…


どちらにしてもこれで地上戦すら出来なくなったわけだ



綾愛「…どうする?いっその事下についちゃう?」


隣りにいるリアに言葉をかける


リア「死ぬよりはマシですかね…お願いしてもいいですか?」


わざとらしくやれやれという仕草を取り、

宙に浮くサタンへと向ける


サタン「誘った後で悪いけど人間とそれに準ずる者だけは許してないんだ…だからごめんね」


その表情や声音はその言葉通りのものだが何処か違和感のある気持ち悪さ


本当に申し訳なく思っているのか?


綾愛「あっそ、じゃあもう良いや」


『生力解放』──五分咲き──


周囲に黒い生力が迸る


リア「…なんやかんや共闘は初めてですね。

良いとこ見せちゃいますよ」


当たり前のように宙に浮くリア


綾愛「…さすが天才。陽動は任せたよ」


運命を共にする二人の天才が並び立つ


相対するは主に堕とされ…

それでもなお大罪を冠し最凶の座につく魔王



サタン「…それじゃあ、二度目の夜を始めよう」



サタンの周りに無数の剣が展開され、

漆黒の闇夜を切り裂かんと二人へと飛来する






─────────────



律は今走っている


呼吸は乱れ思考も乱雑に散らばっている


それでも律はいま自身が成すべきことの為に走る


律「はぁ…はぁ…」



………


律は能力発動後腕輪にて拠点へと戻り、

安全地帯にて解析を進めており、

その間リアと共に綾愛の戦闘を見ていた。


最初に目に飛び込んできたのは奴の姿


…奴が受肉体なのではないかとは思っていた


だが、その肉体を朱音のものへと変えていたことに律は耐え難い怒りを覚えた。


だがそれでも律は冷静を保てた


そしてその理由は綾愛にある



想定を遥かに超えた綾愛の才能に律は戦慄し、

それ以上に期待していた



もしや勝てるのではないかと



律は非合理に動いてはいるが、

その目的を達する為には合理的な思考が不可欠である


それに今までの自分を完全に否定したわけではない


合理を完全に捨てる必要はない

それだけに固執してはいけないという事を律は学んだ

のだ。


だからこそ非合理を成すために合理的な思考は必要


その上で律の合理は勝利が絶望的であることを訴えている


作戦は確かに立てた


保険も作り、状況に応じての対策も練った


それでも賭けの要素が強く、

その賭けに勝ったとしても通用するか分からない。


そんな思考を綾愛はその才能で捻じ伏せてみせた


あの朱音が全力を賭してなお足止めに徹っすることしかできなかった相手に対し、彼女は互角以上に渡り合っている。



…たしかに状況が違いすぎるのもある



朱音のときは相手の不意打ちであり、

攻撃のストックもあり、

完全な初見のうえ飛行能力も持ち合わせていた。


それでもなお…

今眼前にて繰り広げられている死闘に朱音はついていけただろうか。


単純な身体能力やその他諸々のステータスは完全に朱音が上だろう


だが、

この計算された光の奔流の中を朱音が避けられるとは思えない


朱音の直感は超人的であり、

そこに身体能力が合わさる事でただの光であれば綾愛のように認識速度を抑えずとも避ける事が出来るだろう。


しかしこの光は全てが歪に変化し、

全ての光が統制された軍隊のように対象を潰しにかかっている


直感だけでは超えられないその壁を朱音はおそらく越えられない。


それでも綾愛は自身の限界を越えることで同時にその壁をも乗り越えた。



今まで天才と呼ばれる者たちを何人も見てきた



そして自分自身もその知能を買われた事で組織内でもかなりの地位を任され、

朱音と共に若き天才と呼ばれてきた



…だが今眼前にて躍動する綾愛をみて改めて理解した



天才の中にもまた更に格が存在するのだと



綾愛に対しての第一印象は"変な人"だった


天野さん直々の推薦…余程の人物が来ると思っていた。


リアは見るからに優秀だった。


品格や立ち振る舞い、

ステータスも高く基礎もしっかりしていた。


それに比べ綾愛は…歪だった。


妙な気配にどこか場慣れしたような立ち振る舞い。

だが口を開けば腰が低く、どこか情緒が変だった。


しかしその身に纏う嫌な…

何か変なモノでも憑いているような底の見えなさ…


それはそれでかなりの強者かと思えば、

ステータスはかなり変で、

生力の基礎も扱えないどころか知らないときた。


最初はどうしようか迷ったが、

真面目な姿勢と理解力は良かった為とりあえず色々教えてみた。


天野さんがあそこまで推すほどとは思えなかったが、

まぁ良い人材ではあるのだろう。


最初はその程度の認識だった。



…訓練中予兆はあった


近接格闘の組手にて朱音が一本取られた


朱音も綾愛に合わせて生力を使ってはいなかったが、

負けず嫌いな性格も合わさって特性は使っているようだった。


そのうえで綾愛は朱音に勝った


最初のうちは朱音が勝っていた


だが一手、二手と繰り返す度に綾愛の動きは洗練され無駄がなくなり、

最終的には朱音相手に何もさせず初手の一撃にて朱音を仕留めた。



組手を終えた後、綾愛はいつも通り休憩に入った。


特に喜んだりするわけでもなく組手前と何ら変わりない様子。



逆に朱音はいつもと違い一人呆然としていた。


普段のように悔しがるでもなく、

再戦を申し出ることも無くただ呆然と虚を突かれていた。


そのとき遅れながら気付かされた


彼女もまた、只者ではないと。



…そして今覚醒した綾愛を前にして律は興奮し、

期待した。


彼女なら、

本物の天才である彼女ならば奴を倒してくれるのではないかと。


自分のような凡人を遥かに超える彼女ならばそのままやってくれる。


そう思った。



だが突然綾愛が両腕を失った。



何が起こったのか外から見ている二人でも理解できなかった。



何かの間違いじゃないかと律は思った。

あの天才がこんな事になるとは思えない。



律は動かなかった。



リア「ックッッ!!」


リアが自身の持っていた石…

ペンダントの所有権を律に渡して瞬時に家を飛び出した。


律は未だに状況が飲み込めない。



律が期待していた間、

リアはずっと不安そうな表情をしていた。


リアは綾愛が一人でやることを最後の最後まで許していなかった


だがそれでも綾愛が一人でやると言ったのだ。


ならばその意思を尊重し、

もしもの時のために全力でサポートするのが相棒だろうと無理矢理自分を納得させた。


そしてそのもしもの時が訪れ、リアは飛び出した


リアが飛び出して数十秒経ち…律はやっと状況を理解した


とりあえず石を介してペンダントと繋ぎ二人の状況を見る。


…そこには翼が黒く変色した奴が宙へ浮き無数の剣を操っており、その剣撃に二人が圧されていた。



その状況から導き出される答えは一つ…


絶望


あの二人を相手にして余裕を保つ奴


律の能力が無効化されている現状


例外はもう使えず切り札は綾愛の一撃だけ…

そしてそれを助長する為の策は既に無い



サタンの方も警戒はしていた


だが何の情報もないのだから具体的な対策を立てられるはずもない。


そしてその力はルシファーの比ではなく、

綾愛の覚醒ですら乗り越えられない壁となっている。


…勝てない


律は悟った。


あの二人ですらこの有り様の相手に自分が何を出来るのだ。


結局直接戦えない自分では肝心な時に何も出来ない

…何も守れない。



律は諦めかけた…だが諦めることはなかった。



自分よりもよっぽど状況が絶望的である事を理解しながら…

それでも未だ諦めず奴に立ち向かう二人を眼にして、

どうして自分が諦められるものか。


律はあの二人…いや三人のように強くない。


力も。心も。


だからこそ


ここで負けてしまったら、

胸を張って彼女等と一緒にいることが出来なくなってしまう。


律は決意する


最愛の彼女と過ごした思い出の家を後にし、

律は走り出す



自分は弱い


綾愛のように戦いの才能があるわけでもない


リアのように何でも出来るわけではない


…朱音のように誰かの幸せを本気で思い、

最後の最後まで自分を貫き通す事も出来ない



それでも


律には律にしか出来ない…

自分にしか出来ないことがあるのだと



自分の成せる事を成すべく仲間のもとへと駆け出した


…心臓の音がやけにうるさく聞こえた






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