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中学二年生の冬に引っ越してきたこの町で、あたしは二度目の冬を越そうとしていた。
風は毎日少しずつ柔らかくなっていて、日の当たる場所では上着がいらないくらいの気候になった。
学校から帰ったあたしは制服を脱ぎ、部屋着に着替える。
そして二階の部屋の窓を開いた。
あたしの部屋の前には青い色が広がっている。
青い海と青い空。それ以外はなにもない。
すうっと息を吸い込んだ時、机の上のスマホが震えた。
【この前はつぐみちゃんに会えて楽しかった!】
かわいらしいイラストと一緒に、絵里ちゃんからのメッセージが送られてくる。
絵里ちゃんとはお互いが住んでいる町と町の中間あたりで、この前久しぶりに会った。
ふたりとも無事高校に合格したから、ささやかなお祝いをしたのだ。
【つぐみちゃん、すごく歌が上手くてびっくりしたよ】
絵里ちゃんの文字を見て照れくさくなる。
初めてふたりでカラオケに行き、歌を歌ったのだ。
【えへへ、ありがとう。実はこっそり練習してるんだ】
【ギターも弾けるようになったんでしょ? すごいなぁ。今度聴かせてよ】
【聴かせるほど上手くはないけど……次に会った時にね】
【わーい! 楽しみにしてるよ!】
窓から潮の香りが流れてくる。かすかに波の音も聞こえてくる。
今度絵里ちゃんに会う時、あたしたちは高校生だ。
自分が高校生になるなんて、少し前のあたしには考えられないことだった。
海沿いのこの町で両親と暮らし始めたあたし。
転校先の生徒や先生の優しさを、最初は素直に受け入れられなかったけど、その優しさが作り物でないことに気づき、あたしは驚いた。
みんな心から、あたしに親切にしてくれていたのだ。
それからあたしは少しずつ心を開き始め、新しい友だちもできた。
ただいつも心の中にはお兄ちゃんの事件があって、あたしはいつまでここにいられるのだろうという不安がつきまとっていた。
だけど一年が過ぎても、前のように近所にビラがまかれたり、噂が立つことはなかった。
あたしの夢にいつも出てきて、あたしを責め続けた人物も最近は現れなくなった。
それでもあたしの両親は、この先ずっと罪を背負って生きていく。
あたしはその罪を、決して忘れずに生きていく。
お兄ちゃんにはいつか会いたいと思うけど、今はまだ会う勇気がない。
あたしは部屋に立てかけてあるギターを手にした。
床に座って音を鳴らしてみる。
『ちっちぇえなぁ。つぐみちゃんの手は』
レイジに言われた言葉を思い出し、ふっと息を吐く。
手が小さいあたしでも必死に練習して、少しだけギターを弾けるようになった。
本当は誰かに教えてもらったほうがいいのだろうけど、このあたりにギター教室なんてないし、バンドをやっている友だちなどもちろんいない。
曲もなんとなく手探りしながら、自分で作ってみた。
レイジが残した書きかけの歌詞を完成させ、メロディーをつけて歌にしたかったのだ。
やっとできあがった曲は、レイジに「素人くさい」と笑われてしまいそうだけど、心を込めて作ったものだ。
あたしはそれをギターの音色に合わせて歌う。
たくさん練習して上手になって、いつか聴いてもらいたい人がいるから。
あたしの声が窓の外へ流れていく。
それは風に乗って海を越えていく。
大空を羽ばたく鳥のように。
胸に掛かる透き通ったガラスのペンダントが、日差しを浴びてキラリと光った。
あたしの声が、届くといいと思う。
遠くで暮らしている響にも、届けばいいと思う。




