表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/54

5-3

「ヒビキ」

「あ、レイジ」


 レイジ? あたしはこっちに近づいてくる人の姿を見上げる。

 ヒビキと同じ黒ずくめの服装で、短い髪をツンツン立てた背の高い人。

 歳は二十代後半くらい、丸いサングラスをかけている。

 でもこの人、どこかで見たことがある。それにさっきレイジって言った……え、まさか?


「なんだお前、女の子ナンパしてたのか?」

「違うよ。俺がナンパされてたの」

「ち、違います!」


 男の人がサングラスをはずして、くくっと笑う。


「かわいいね? 名前なんて言うの?」

「つ、つぐみです」


 顔をじっとのぞきこまれた。その瞬間、あたしは確信した。


「レイジって……あのレイジですよね! 五年前にバンド解散して行方不明になった……」

「え、ああ、よく知ってるね」


 やっぱりそうだった。

 レイジはほとんどテレビに出ていなかったけど、動画サイトで何度もミュージックビデオを見た。

 あの頃は長髪だったから、一瞬わからなかったんだ。


「あの、あたしレイジの歌いつも聴いてて……すごく好きで……」

「うわ、マジで? ありがとう、つぐみちゃん!」


 レイジの両手が広がって、次の瞬間、がしっと強く抱きしめられた。


「え、つぐみの好きなボーカルってレイジだったの?」


 隣からヒビキの声が聞こえる。あたしはレイジの胸の中で、声も出せずにうんうんとうなずく。


「つぐみちゃん! 俺も大好きだぜ!」

「ひぃっ」


 レイジがますます強くあたしを抱きしめ、思わず変な声が漏れる。

 レイジってこんなフレンドリーな人だったの? あたしのイメージと違う。

 ビデオの中で歌っていたレイジは、クールでカッコよくて、でも近寄りがたいオーラがあふれていたから。


「レイジ、やめろよ。つぐみ、ビビってるじゃん。てか女子中学生にそういうことしていいわけ?」

「バーカ、うるせぇよ。つぐみちゃんは俺の貴重なファンなんだぞ? ファンにハグするくらいいいだろが」

「よくない。それって犯罪じゃねぇの?」

「なわけねーだろ。外国人はみんなやってる」

「レイジ、外国人じゃねぇじゃん。もろ日本人じゃん」

「お前うるさい。ちょっと黙れ」


 ふたりが言い争いを始めたので、あたしは慌ててレイジの腕から抜け出した。


「あの……ふたりは兄弟なんですか?」

「まさか」


 ふたりの声がぴったりハモった。鳥肌が立つほど気持ち良く。


「でもすごく仲良さそうだし……歌声が……少し似ているし」

「つぐみちゃん、こいつの歌、聴いたことあんの?」

「はい。一度だけ」


 その時あたしは泣いてしまったんだ。それを思い出し、急に恥ずかしくなる。

 レイジはニッと歯を見せて笑うと、ヒビキの赤い髪の毛をくしゃくしゃとかき回した。


「こいつ家出少年だったからさ。俺が拾ってやったの」

「え……」

「お願いだからレイジさんの家に置いてくださいって、泣いて頼むからさぁ」

「は? 勝手に話、作るなよ!」


 ヒビキがレイジの手を振り払って、レイジはまたおかしそうに笑う。

 ふざけてはいるけれど、レイジはヒビキのことをすごくかわいがっているんだなって、初めて会ったあたしでもわかる。


「それより飯食いに行こ。つぐみも行くって」

「え、あたしは……」


 まだ行くとは言っていない。でもレイジが嬉しそうに言う。


「そっか、そっか! じゃあ三人で食いに行こう!」

「おじさんのおごりでな」

「ヒビキ! 誰がおじさんだ!」


 レイジがヒビキの肩を組んで、今度は髪にげんこつをぐりぐりしている。


「ほら、つぐみちゃんもおいで!」


 ヒビキの肩を抱いたまま、レイジが振り向いた。少し遅れて、ヒビキもあたしを見る。

 どうしよう。いいのだろうか。

 でもここにいても仕方ないし、家に帰ってもきっと糸ちゃんに心配されてしまう。

 一緒に行きたい。あたしも一緒に連れて行って欲しい。


「早く来いよ」


 ヒビキの声があたしの耳に響いて、胸の奥に入り込んだ。ヒビキの歌を聴いた、あの夜みたいに。

 あたしは立ち上がり、重い足を動かした。

 一歩二歩進んだら、少し身体が軽くなり、そのままふたりのもとへ駆け寄った。

 レイジが片腕を広げて、あたしの肩を抱く。レイジの右側にヒビキ、左側にあたし。


「んじゃあ、ラーメン亭のラーメン行くか!」

「またラーメンかよ」

「文句言うヤツにはおごってやらんぞ?」

「しょうがない。ラーメンでいいや」

「ラーメンおごってください。お願いします、レイジ様だろ?」


 ははっと笑いながら、レイジがヒビキの頭を叩いている。

「いってーなぁ」なんて言って、ヒビキもレイジにやり返している。


 やっぱりこのふたり、すごく仲がいいんだなぁ……あたしはふと糸ちゃんのことを思い出す。

 あたしも糸ちゃんとこんなふうになれたら……そんなことを少し考えて、なんだか寂しくなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ