37/45 責任ー掛け値なしの愛情
それから何時間も経った
と神野は感じていたが実際は2時間ほどだった
人気のない待合室で彫像のようにじっと座っていると、その間に数名の警察官が事情を聴きに来た
だが神野はほとんど何も覚えておらず、ここでも役立たずだった
スマホの震えに気付き画面を見ると、倉田や山口、真希、オフィスから何回も着信があった
いまも倉田からの着信が入っている
「すまん、出られなくて」
「おいおい、なんかあったんじゃないだろうな」
「いや、怪我は大したことない
今日1日は様子を見るそうだ」
「そうか、会社にもかなりの問い合わせが入ってるんで、ぐっさんに戻ってもらった
警察への対応は真希がやってくれてる」
「助かるよ」
「ぐっさんが謝ってた、俺が付いてたのにって」
「ああいう奴は力の弱い女子供を狙うんだ
ぐっさんのせいじゃないって言っといてくれ」
「ああ、そうだな」
「ナツのアカウントはどうだ?」
「いまのところナツを擁護する方が多いが、じきに攻撃する奴が出てくるだろう」
「ナツと会社の公式アカウントが炎上したら、火消しプログラムを使ってくれ」
「『め組』はスタンバってる
おまえのアカウントが一番ひどいぞ
そこまでして数字取りたいかって誤解してる奴らが」
「俺の個人アカはほっとけ
誰かを叩かないと気が済まない奴らは一定数いる」
「けどさ」
「いいんだ、俺を叩く奴が必要だ」
さらに数時間、再び神野は待合室に座り続けた
外は暗くなり始めていた
「神野くん?」
ナツの母が姿を見せた
「まだここにいたのね
あの子は眠ったわ」
神野はゆっくり顔を上げた
「目を覚ました時、あなたが居てくれた方が安心するでしょう
傍にいてあげて」
「はい」
かすれた声で返事をした神野の顔は、3日も寝ていないかのようにやつれ果てていた
「ねえ、あなたがそんなにあの子に責任を感じることはないのよ」
彼女は神野の隣に座った
「私があんな男と結婚したことが間違いだったの
責任があるとしたら見抜けなかった私よ
あの子を苦しめているのが、たまたまあなたの父親だったというだけのこと
あなた個人とは関係ないことだわ」
「…」
「あなたがいなければ、あの子は笑うことさえできなかったはずよ
それは感謝しているの
でもね、責任感とか同情ではあの子は救えないの
わかるわね」
「わかってます」
「あの子を救えるのは掛け値なしの愛情だけ、そうでしょ」
「はい」
「大切に思ってくれるなら、これからのことをちゃんと話し合ってね
こんな不意打ちを喰らわないように」
最後に彼女は神野の背中を平手でバンッと強く叩いた
「とりあえず、ゴムは忘れないで」
「すみません」
神野は小さな声で言って頷くしかできなかった
(そうだった
ナツにはもれなくこの肝っ玉母さんが付いてくるんだった)
背中を叩かれて少しだけ頭がはっきりしたように思えた
【余計なお世話書き】
神野くんもただただ尻に敷かれていたわけではないのですが、この話はここだけの話です。
おかんは強し。




