9/45 図星ー渾身の笑顔で
数日後、早春の風が強いその日
都心から1時間ほど電車を乗り継ぎ、神野は大塚たつやの路上演説会を訪れた
「大塚さん、次回の市長選、出馬しますよね?」
大塚は突然現れた男に、市長選出馬を言い当てられてドキリとしていた
もちろん、まだ誰にも言っていないし、これから後援者に根回しをしようかという段階だ
(この男の当てずっぽうなのか?)
「あの、どうしてそのように思われるのですか?」
「プロですから」
(プロ…なんのプロだ?)
「お時間ありましたら、話だけでも聞いていただけませんか?」
神野と名乗った男はあくまで腰が低く、怪しいところはない
だがこの男は何故、出馬のことを知っているのか
「とりあえず、近くに私の事務所がありますからそちらでいいですか」
「はい、お願いします」
(ビンゴ!)
出馬の情報は当てずっぽうではなかったが、確たる証拠があったわけでもない
しかし大塚の様子を見て神野は確信した
案内された大塚の事務所は商店街の一角にあり、男の秘書と女の事務員がひとりずつの簡素なものだった
「ありがとうございます!」
秘書と事務員が挨拶をしてきた
「ありがとう」とは訪ねてくるのはすべて支持者と思えということなのだろう
神野は事務所の隅に設けられた来客用のテーブルに案内され、改めて大塚と向かい合った
大塚は今年で40歳、当選4回で中堅議員といったところ
ポスターのイメージのためか、初当選のころとヘアスタイルを変えておらず、ずいぶん若く見える
議員らしく身だしなみが整えられていて清潔感があるし、笑顔に愛嬌があるのがいいなと神野は思った
「神野さん申し訳ない、時間があまりないので本題に入りますが」
「こちらこそアポなしでお時間とっていただいてありがとうございます」
神野としては今日はジャブくらいで様子見のつもりだったが、相手が食いついてくれたのは好都合だ
(もうひと押ししてみよう)
「出馬の件をどちらでお聞きになったんでしょうか?」
「いえいえ、ホームページやSNSであなたのお話を拝見していたら、市長の立場でおっしゃるような話をしてらしたので、もしかしてそうかな? と思ったまでです」
大塚は(しまった)と思った
これでは自分から白状してしまったのも同然だ
「いやぁ、鋭いですね
そんなに真剣に私の話を聞いてくださったのは嬉しいですが、そういうお話はあまり広めないでいただきたいんです」
「もちろん、そんなつもりはありません
ただ、大塚さんのホームページや動画を見てもったいないなと思いましてね
失礼ながら、PVや再生回数は伸びていないんじゃないですか?」
「PV? ああ、ページビュー
まぁ、私のような地味な市議では仕方ないかなと思います」
自信なさげな大塚に神野はたたみかけた
「わかってくれる人だけ見てくれれば、というのはこの地区の議員ならそれでいいでしょうけど、市長となるとどうでしょう」
「おっしゃることはごもっともですが」
「弊社がお役に立てると思いますよ」
「いやぁ、せっかくですが、ぶっちゃけ資金がありません
お高いんでしょう? そういうの」
「それが、いま、キャンペーン中でして
たいへんお得になっているんです」
TVショッピングのようなセリフを言って、神野は頬が引き攣るのを覚悟で渾身の笑顔を作った
(ここが勝負どころだ)
【余計なお世話書き】
ここでプロローグに戻ってきました。
神野くんはセルフプロデュースできる人ですから、人が変わったように頑張ってますが笑顔は苦手です。
自分で演者ができるくらいなら自撮り動画出してますよね。
ここは渾身の演技をしているところと思ってやってください。




