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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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馬車酔い問題

 学院に毎日馬車で通っているレントは、馬車に慣れる事はなかった。それどころか苦手意識は強化されている。コードナ侯爵邸から学院まではそれ程距離はないので、まだ限界は迎えてはいないけれど、日に日に状況は悪化していた。

 その事はレントが暮らすコードナ侯爵邸の離れの使用人達も気が付いており、バルの両親であるコードナ侯爵夫妻、ガダ・コードナとリルデ・コードナも使用人達からの報告を受けて心配をしていた。


 リルデがレントを招いたお茶の席に、ガダが顔を出しているのもそれが理由だ。

 眉尻を下げたリルデが、レントに声を掛ける。


「レント殿?」

「はい、リルデ様」

「学院に通うのは、その、慣れましたか?」


 弱味を見せない様にしているであろうレントに、馬車に酔う事を突き付ける事をリルデは躊躇った。

 レントはリルデに微笑みを返す。


「はい。授業内容は問題ありませんし、クラスメイト達とも良好な関係を築けています」

「そうなのね。それは良かったわ」


 訊き方に失敗したとは思っていたけれど、リルデはそう返すしかない。そして微笑みを浮かべるリルデに、レントは笑みを深めて返した。


「はい。御心配頂き、ありがとうございます」


 ガダは、もしかしたらレントが意図的に馬車の話題を避けるかも知れないと考えている。


「相談し合える様な相手も出来たのだろうか?」


 自分達に相談できなくても、レントにそう言う相手がいるのなら、それはそれで良いとガダは思っていた。

 しかしレントは首を左右に小さく振る。


「いいえ。授業内容を確認し合う程度で、相談されたりはありません。相談する事もどうでしょう?難しいかと思います」

「そうか」

「レント殿の世代は領地で育った子が殆どですし、幼い内に関係を築けていないから、相談したりされたりは難しいのかしら?」

「そうかもな。何かあれば我々を頼ってくれて良いからな」

「そうね。私達に手伝える事もあると思うから」

「ありがとうございます、ガダ様、リルデ様」


 レントは頭を下げた。そして顔を上げて言葉を続ける。


「幸いな事にわたくしには、同世代の相談相手としてはミリ様がいらっしゃいます。これ程頼れる相談相手はいません。それですのでそれほど御心配頂かなくても大丈夫です」

「そうだな」


 ミリが褒められて聞こえたガダは無条件に笑みを浮かべる。それを横目で見てからリルデは視線をレントに向け直した。


「けれどミリに相談するにしても、手紙での遣り取りは時間が掛かるでしょう?」

「そうですね。手紙を船で運べる様になってから、掛かる日数は短縮出来ましたけれど」

「それでもコーカデス領に船が着いて、ミリが手紙を受け取って、船が出航する前にミリが返事を書けなければ、返事が届くのは一便遅れるわよね?」


 ソウサ商会の船に頼むとそうなるけれど、最近は多くの他国の船がコーカデス領の港に立ち寄っている。その中にはコーカデス領の後に王都の港に寄る船もあるから、ミリならその船に頼んで手紙を運んでもらうだろうとレントは思った。

 しかしその事は口にせず、レントはリルデの言葉に肯く。


「そうですね」

「ええ。それだから何かあれば遠慮をしないで、私達にも相談してね?」

「ミリへの相談と被っても構わないのだからな?」

「ありがとうございます、リルデ様、ガダ様。何かありました時には、お二人を頼らせて頂きます」


 そう言って笑顔を向けて来るレントに、リルデもガダも話の誘導の失敗を悟った。


「いや、もう、単刀直入に訊こう」


 そう言ってレントを見据えるガダをまた横目でちらりと見てから、リルデもレントに視線を向ける。

 二人に見詰められたレントは、何の事かと体に力が入った。


「レント殿」

「はい、ガダ様」

「通学に使う馬車に、苦労しているのではないか?」


 その話かと理解して、レントは体の力を抜く。


「そうですね。未だに馬車には慣れません」

「授業に影響が出たりはしていないの?」


 眉根を寄せて眉尻を下げ、そう尋ねるリルデにレントは首を小さく左右に振って返した。


「いいえ。それは大丈夫です」

「そう?」

「はい。ただやはり、馬車を降りてから気分が落ち着くまでに、しばらくの時間が掛かってはいます」

「そうなのね」

「はい。御心配をお掛けして、申し訳御座いません」

「それは良いのよ」

「その通りだ。それより、馬に乗って通える様に交渉する事も出来るぞ?」

「あ、いや、それはお待ち下さい」

「どうして?」

「コーハナル卿に頼めば直ぐに、手配してくれるだろう」

「いえ。この様なわたくしごとでガダ様やコーハナル閣下のお手を煩わせる訳には参りません」

「いや、これくらい、手間でもないぞ?それに護衛達は馬に乗って門を潜っている」

「ですが校内に入って直ぐに騎馬の護衛は馬車から離れ、その先は馬車に同乗している護衛だけになります」

「それはそうだが、もう校内なのだから、それならそこで馬を降りて、その先は歩いても問題はないだろう?」

「わたくしもそうは思いますが、わたくし個人の為に学院のルールを変えさせるのはどうかと思います」

「そう大袈裟に考えなくても良いぞ?」

「いいえ。この先、領地の事でガダ様にもコーハナル閣下にもお力添え頂かなければならない事もあると思います。馬車に酔うなどと言う極めて個人的で小さな問題くらい、わたくし自身で解決出来なければならないと考えています」


 真面目な表情でそう返すレントに、ガダは小さく肯き、リルデは眉尻を下げる。


「そうか」

「でも、レント殿の気持ちは分かるけれど、自分で解決するにしても、問題や悩みがある事自体は相談してくれて良いのよ?」

「そうだな。口に出せば気が楽になる事もあるし、人に話す事で問題点が整理出来て解決策が浮かぶ事もあるからな」

「ええ。そうよね」

「ありがとうございます、ガダ様、リルデ様。仰る通りですね。何か悩みが出来た時には話を聞いて下さい」

「ええ、もちろん」

「ああ、分かった」

「その時にはよろしくお願いいたします」


 笑みを浮かべてそういうレントに、今はこれ以上言っても仕方がないだろうとガダもリルデも感じていた。



 その直後にミリからレントに手紙が届く。そこには学院の目の前の邸を使って構わない旨が書かれていた。

 ミリはソウサ商会に依頼して、学院の目の前の邸をコーカデス商会の物として手に入れていた。貴族が暮らすには手狭だけれど着替えをする程度になら充分に使えるし、馬を繋いで置いたり馬車を停めて置いたりする余裕もある。

 レントが馬車で通学する事になった事を知ったミリが、レントを助ける為に手配していたのだった。


 その翌日からレントは、コードナ侯爵邸の離れから学院の目の前の邸まで騎馬で移動し、その邸から目の前の学院まで馬車で通学をした。

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