第12話 入学式
『この伝言をクラトスが聞いていると言うことは勇者がそろそろ現れるだろう。私の予知ではリシア魔法大学へ勇者となる人物が入学してくるはずだ。その者が成長し魔王を討伐するまでお前には教師として見守ってあげてほしい。儂は今魔界にて魔王復活を出来る限り遅らせておる。お前にしか頼めない事だ、頼んだぞ』
これがミダス師匠から俺へ伝えられた内容。
「魔王……勇者……」
スケールが大き過ぎてリベルタ様も譫言のようだ。
かく言う俺も実感がない。
「魔王って絵本に出てくる化け物だよな?実在するのかよ」
少し怯えが見えるのはダニエル。
「本当なのですね……通りでここ数年の団長の動向がおかしいと思いました」
うっすらと感じ取っていたディアナさんはそれほど驚きは無い様子。
「この話はくれぐれも内密にお願いします。下手に騒がれるとパニックになります」
「分かっています。しかし魔王ですか……」
アトラス王国で団長を務めていた俺にそのような情報は一切入っていなかった。
どれほどあの国が遅れていたのかを突きつけられ気持ちが落ち込んでしまう。
だけど今するべきことは違う。
師匠から任された任務である勇者を成長するまで守ること。
これで世界が救われるのであれば俺はリシア魔法大学で教師をするしか無いだろう。
「師匠、せめて勇者が誰かだけは教えて欲しかったな……」
教師をしながら勇者となる人物を見守るのは別にいい。
しかしその勇者が誰だか分からない状況ではどうすればいいか分からない。
「なんか凄いことだけど俺は協力するぜ!」
真っ先に協力を申し出てくれたのはダニエル。
本当にいいやつだ。
「仕方ありません、世界平和のため私も協力します」
「私も是非ご協力させてください」
リベルタ様とディアナさんも協力を申し出てくれる。
これで仲間が3人増えた。
「皆さんありがとうございます。先が見えない任務ですが頑張りましょう」
俺たちは秘密裏に入学してくるであろう勇者を探す為団結した。
「ではクラトスさんは魔導工学科にて教師をしていただきますね」
学長であるジーゲン伯爵の取り計らいで俺は教師となる。
学生として入学は出来なかったが、職にも就けたし研究などもしていいとのこと。
俺からしたら至れり尽くせりの待遇だった。
そして時間は経過し、遂に入学の時がやってくる。
俺は寮を用意してもらえたので魔法大学の敷地内に移った。
いつまでもダニエルの屋敷でお世話になるのも悪いのと、大学から遠いからだ。
彼も学生寮に移りたいと言ったが家がないものを優先している為空いてなかったらしい。
入学式は大学内にある大講堂で行われる。
毎年新入生は1000人を超える為、大講堂以外では入りきらない。
学生達は皆が魔導師としてのローブを羽織り用意された椅子へ座って待っている。
俺は教師としてこの大学へ入るので彼らを見守る側だ。
「ダニエルのやつ新しいローブ似合ってるじゃないか」
学部で席はある程度分けられている。
魔導工学のところを見つけると最前列に彼の姿があった。
「あの2人は……受かってたんだな」
同じ学部を受験すると言っていたシャーロットとエレノアはダニエルから少し後ろの方に座っている。
入学式が終われば声でもかけようかな。
「新入生の諸君、入学おめでとう」
入学式が始まり、学長であるジーゲン伯爵が教壇に立ち挨拶をする。
その後は来賓として国の重鎮達が次々と教壇へ上がった。
1人の男性が挨拶を終え、司会の人が次の人物を呼び出す。
「続きましてリシア帝国、ルドルフ皇帝陛下の挨拶!」
その時一瞬にして会場がざわめく。
本来であれば皇帝陛下が入学式へ顔を出すことはないからだ。
では何故今年はいるのか?
そんなもの娘であるリベルタ様が入学するからだろうな。
「私がリシア帝国皇帝のルドルフだ」
たった一言だけでものすごいプレッシャーを放っていた。
俺からすると先代のノア陛下に近しいものを感じる。
「今回私がこの場に来たのは我が娘リベルタが入学するからである」
俺の予想通りだ。
自分の娘が入学するからきっと学長あたりにお願いされたんだろう。
「いいか?リベルタに指一本でも触れてみろ?消炭にするぞ」
……怖っ!
今までで一番威圧しているんですけど!
と言うか親馬鹿なのでしょうか?
18歳になる娘の気持ちも考えてあげてほしいよ。
最前列で顔を真っ赤にして俯いているリベルタ様が可哀想じゃないか。
まぁ部外者である俺からすれば面白いしいいんだけどね。
その後は普通に挨拶を済ませ、教壇から降りていく。
大人達の挨拶は終えたので次は新入生代表の挨拶。
もちろんそれを務めるのはリベルタ様だ。
先ほどの皇帝陛下の次というのはなんとも可哀想。
未だに頬を赤らめていたが、毅然とした態度で歩き教壇に上がる。
「春の息吹が感じられる今日、私たちはリシア魔法大学に入学いたします――」
この様に大衆に注目されるのは慣れているのだろう。
緊張している様子もなく堂々としていた。
しかし、そんな時――
ドガーーン!!!
大講堂の天井が破壊された。




