決戦の場へと
僕たち勇者パーティーは、魔王城を守る天然の要塞死の山脈を突き進む。本来であれば、時間をかけて最大限の警戒をしながら慎重に進むべき場所を、全速力で駆け抜けていく。人数が少ないからこそ出来る、無茶苦茶な進み方である。本隊が戦闘中の影響か、僕たちを襲う魔物は全くと言っていいほど存在しなかった。だが、僕たちがいない本隊は苦戦を強いられているはずだ。なるべく早く魔王を倒し、戻らなければ。
「そろそろ森を抜けるぞ! 警戒を怠るなよ!」
先陣を切って進むケインさんがそう叫ぶ。現在はケインさんを先頭に据え僕が殿を担当し、間にヒルダさんサーシャさんフレア様の三人を挟む陣形を取っている。
ケインさんの警告から死の山脈を抜けるまで、大して時間はかからなかった。森を抜け視界が晴れると、そう遠くない距離に魔王城が存在した。魔王城は全体的に黒々としており、禍々しい装飾があちこちに施され、いかにもといった感じの外見だ。
「ついに辿り着いた……。一年か……長いようで短かったな」
僕がこの世界に来て冒険を始めてから、ちょうど一年ほどが経過していた。この一年で僕は相当強くなったし、頼もしい仲間も出来た。魔王なんかに負けはしない。
「ああ、一年だ。あの日から一年が経った……今度は負けない」
運命の悪戯か、以前ケインさんたちが魔王と戦ったのも一年前のことである。一年の時を経て、再び魔王との決戦の時を迎える。だが今回勝つのは僕たちだ、敗北はない。
「必ず勝って世界を平和にしよう!」
「「「おお!」」」
魔王城の入口、門の手前まで辿り着く。ここに来るまで一切襲われる気配はなく、不思議なことに門番も立っていない。ただ、魔王城への唯一の入口である巨大な門は固く閉ざされている。ケインさんから聞いた話だと、前回は何もせずとも門が開いたままだったという。
「他の侵入経路を探している時間はない……か。仕方ない、ヴァルキリーいつも通り合わせてくれ」
「あいよ」
背中からイクリプスを抜き、十文字斬りを繰り出す。僕の動きに合わせヴァルキリーも力を乗せることで、一人では出すことのできない威力を発揮する。門は綺麗に十字形に斬り開かれ、魔王城内部への道が現れる。
「皆さん道が――」
僕が言い終わるよりも早く、城内にけたたましい警報音が鳴り響く。そしてその警報音よりも大きい音声が流れる。こんなものはケインさんからの情報にはなかった。魔王軍も一年で変わったということか。
『警告! 警告! 城内に侵入者あり! 各員持ち場に付け! 警告! 警告! 城内に……』
同じ言葉を繰り返すその音声は、あらかじめ設定されていたものだろう。僕が門を破壊したことが原因なことは考えるまでもない。
「全員、何が起こってもいいように周囲を警戒しろ!」
ケインさんの声が警報音に負けない声量で響き渡る。魔物の襲撃に備えるが、しばらく経っても一向に襲われる気配はない。それどころか、何らかのトラップによる攻撃すらもない。警報音が止まった頃、一旦落ち着いて周囲を見渡すことにした。
今見えている道は、奥へと続く真っ直ぐな道が一本だけだ。今回は、前回ケインさんたちが通った道と同じルートを使い、最短で魔王の元を目指す。城内の構造が大きく変わっていなければ、少ない消耗で魔王に辿り着ける。
「ねえねえツルギ〜。これ何かしら」
どこか抜けた声を出しながらそう言うフレア様が指を刺す先には、小さな赤いボタンがあった。そしてそのそばには『絶対押すなよ』との張り紙がしてある。
「さあ? 何かは知りませんが危険な物かも知れないので絶対に触らないでくださいね」
フレア様は時々……いや、結構な頻度で突拍子もないことをしでかす。それは共に過ごした一年で、これでもかというほど実感させられた。正直なところ嫌な予感しかしないので、さっさと止めに入ることにする。
「押すなって言われたら押したくなっちゃうじゃない? えいっ」
だが僕が止めに入るよりも早く、フレア様はボタンを押してしまった。
「あっ! 触らないでと言ったじゃないですか!」
「なによ、ちょっとぐらいいいじゃない。どうせ何も起きなかったんだし」
確かに現時点では何かが起こったようには感じないが、僕たちが感じれていないだけで、何か変化が起こっているのかも知れない。
「あんまり勝手な行動はしないでくださいよ?」
「わかったわよ。まったく、ツルギはいっつも――」
会話の途中で唐突にフレア様の体が消える。おそらくはあのボタンの効果だろう。今の挙動は転移魔法だと考えられる。なら、フレア様を救うには……。
「ケインさん! 僕もこのボタンを押して転移します!」
僕はそれだけ言うとボタンを押した。
「おい待て! 転移先がどうなってるかもわからないんだぞ! そんなとこに――」
その言葉を聞き終わるより早く装置が発動し、僕の体は別の場所へと転移した。




