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09話 第一回魔王組合会議 議題:宿泊施設について

 整地作業を開始してから一週間。

 特にこれといった問題もなく作業は進み、魔王城の周囲百メートルの範囲にかけて綺麗な土が顔を出すという成果をみせた。それにより第一回目の魔王組合会議が開かれることになった。


「まずはこの一週間の整地作業よくやってくれた」


 場所は魔王城。先代までは幹部会議が行われていた会議室に、暗黒騎士、アルラウネ、室内移動用として分体の小さな樹へと乗り換えたミニトレントと、ほぼおなじみの面々が揃っている。(※ちなみにスライムたちは魔王城全域を掃除したことによる労働災害(肥満)で部屋への侵入が不可能となった。そのためダイエットが終わるまでは欠席だ)


 この場にいる配下たちは円形に作られた机を囲む形でそれぞれ席についており、静かに俺の言葉に耳を傾けている。


「では次の作業へ移る前に、兼ねてから募集していた宿泊施設の建築案があるものは挙手をしてもらおう」


 これは休日の間に作成した、施設に関する意見募集の件に関してのものだ。

 優秀な配下たちのことなので当然目は通しているものとは思うが、きちんと考えてきてくれただろうか。何の案もなければ会議は即終了になってしまうのだが。


「はい、では私からよろしいでしょうか」


 どうやらいらぬ心配だったようだな。さすがは暗黒騎士だ。


「よくぞ考えてきてくれたな。言ってみるがいい」


 暗黒騎士は頷きを返事として、その内容を口にする。


「やはりメインとなるターゲットは人間族ですから、彼らに倣った施設づくりを行うのはいかがでしょうか?」


 実に至極まっとうな意見ではあるな。


「ふむ。確かにそれは単純かつ、実現すればまず失敗する可能性の低いものといえるだろうな」


 当然それに関しては俺も考えていた。

 そして考えていたゆえに、一つの問題点が浮かび上がっていた。


「ちなみにどのような物を誰が造ると想定しているのだ?」

「そうですね。やはり人口比の多いヒューマンのものを……」


 暗黒騎士はそこまで続けて言葉をつまらせる。

 そう、模倣するまではいいのだ。問題は誰がそれをやるかという点に尽きる。


「誰が造るは思いつかないか? ヒューマンの住居ならばヒューマンが一番詳しいだろうが……」

「現状の魔王組合の立ち位置を考えれば、職人を街からさらってくるわけにもいきませんね」

「そういうことだな。職人の能力に該当する配下がいれば話は別だったのだがな」


 レインボーバードの影響で高位の魔物を生み出せる魔力が不足しているが、仮に魔力があったとしても物を作るのに適した配下は少なくとも俺の記憶の中には存在していない。


「そうなると難しいですか」

「考え方は悪くないと思うが、少なくともヒューマンの住居に関してはそうなるだろうな。ちなみに他の人間族の住居に関して知識は持ち合わせているか?」


 引き継いだ魔王の記憶を探した限りでは規模が多く見つけやすいという点で、ヒューマンが築いた国や村を攻めるものばかりだ。そのため他の人間族の住居に関するものは記憶にはなかった。


「いえ。お力になれず申し訳ありません」

「まあ仕方ないだろうな。記憶を渡した俺ですら思い浮かばないからな」


 結局のところ共通の記憶を持つ以上は、考えも似たものになるということか。


「……ですか。では私からは以上になります」


 暗黒騎士は頭を下げてそう言ったが、顔を見る限りそう簡単に納得できたというわけでもないようだ。


「では他に案があるものはいないか?」


 しかし、そうなるとやはり必要なのは外側からの知識、もしくは魔物としての特性からくる新たな閃きに期待したいところだが。これで良い案が出なければ、新たに加わった使い魔を使って闇雲に各地を探らせるしかなくなるな。


「トレントさんっ」

「ウム」

「はいは~い、私たちからも提案でーす!」


 しかしどうやらアルラウネとトレントも何か考えがあるようだ。


「ふむ、聞かせてもらおう」

「暗黒騎士さまと似ている案なのですが、大樹をくり抜いて作るツリーハウスなんてどーでしょうか? 人間族のエルフが家にしているやつです」


 なるほど、樹の家か。そんなものもあるのだな。

 魔王城もそうだが大都市のものばかり参考にしていたために石造りの住居を想像していたが、自然を利用した家屋は盲点だったな。


「大樹をくり抜く、つまりお前たち両名の特性でもって作り上げるというわけか」


 植物を操り、また必要に応じて成長を促進することのできる植物支配の特性を持つアルラウネとトレントであれば可能であると、そういうことなのだろう。


「ですですっ」

「それならば職人の問題に関しても解決だな。良い案を出してくれて感謝するぞ二人とも」


 おかげで動くべき方向性が見えてきたな。


「やりましたねトレントさん!」

「ウム」


 しかし、気になる点が一つある。


「それはそうと、疑問があるのだが」

「なんでしょーか?」

「我ラニ、答エラレルコトナラバ、ナンナリト」


 ここまでの製造目標と手段に関しては納得したのだが、問題は情報の出どころだ。


「ふむ、では問おう。ツリーハウスという単語を聞いてなお、俺の記憶に該当するものは見つからないのだが、どのようにしてエルフの住居に関する知識を得たのだ?」


 暗黒騎士同様に、召喚時に渡した範囲の記憶しか持たないはずだ。それなのにこちらにない知識を持っているのはどういうことなのか。

 前回、食料を探す際に行った探知の魔法で探った範囲にはエルフの集落どころかヒューマンの住処なども確認できなかったため、知らぬうちに足を運んだというのはありえない。


「ああ、そのことですねぇー。トレントさん説明よろしくですぅ」

「心得タ。ソレハ、植物ノ声ヲ聞イタコトデ、得タ情報ニナリマス」


 植物の声を聞いた。つまりはその辺りに咲いている花や草などと意思疎通が可能ということか。記憶にはないが、そのような力を持ち合わせていたのだな。

 おそらくは戦闘に関するものではなかったため、知らず知らずのうちに魔王の記憶から抜け落ちていったのだろうな。


「つまり植物がエルフの里の住居について知っていたと?」

「エルフノ里カラ、ヤッテキタ者ガ、イタヨウナノデ」

「なるほどな。その能力に関しては記憶し直しておくとしよう」


 これは他にも有用な能力があるかもしれないので、あとで一度配下の能力を知り直す必要があるだろうな。とりあえず今はツリーハウスを造るのに集中するが。


「それで、ツリーハウス製造はすぐに取りかかれるのか?」

「イエ、ソノ前二魔王サマ二、オ願イガ」


 そうしてトレントの視線が動く。その視線の先にはアルラウネと、その肩にもう一羽。おそらくはその肩に停まっている存在に関係があるのだろうが、敢えて訊くことにする。配下の自主性も大事であるからな。


「言ってみるがいい」


 するとトレントが体から伸びている小さな枝でアルラウネをつついている。それに応じて、今度はどうやらアルラウネが話す番のようだ。


「えっとですね。エルフの里の場所もお花さんに聞いてるので、あとはレインボーバード(ピーちゃん)に偵察をお願いできればいいなぁって。ツリーハウスがどんな感じの物かわかっちゃえば、あとは私とトレントさんでちょちょいと造れちゃいますからねぇ」


 休日初日についつい誕生させてしまった使い魔であるレインボーバードのピーちゃん(いつの間にか命名されていた)は、アルラウネが世話を買って出たので任せている。

 どうやら魔力の質で主人を判別しているらしく俺を含めた配下全員に懐いているようだが、その中でも世話係のアルラウネに一番懐いているのは言うまでもない。


「いいだろう。では早速だがエルフの里へ行き、ツリーハウスを見つけてくるのだ。見つけ次第知らせるように」


 どうにか探す目標も決まったため、使い魔に闇雲に探させるということはさせずに済みそうだ。


「ピヨー!」

「あははっ、ピーちゃんもやる気まんまんみたいですぅ」


 アルラウネが言うようにレインボーバードはやる気に満ち溢れているようで、虹色の尾羽を揺らしながら会議室の中をくるくると飛び回っている。


「あ、ピーちゃんちょっとまって」

「ピヨ?」

「んん~、はいっ! 行く前にこれ食べていくですよぉー」


 アルラウネが拳を握って力んだ様子をみせたあとで手を開くと、そこには赤い木の実が出現していた。


「ピヨピヨ!」


 レインボーバードはその手のひらに置かれた赤い木の実を空中にとどまったまま器用についばんでいる。

 なるほど餌か。アルラウネに一番懐いているのも納得である。


「では行ってくるですよぉー」

「ピヨー!」


 木の実を平らげたレインボーバードは一際大きく鳴き、体を空中でくるりと縦に一回転させる。すると体が雷を帯びた鳥型のものに変化する。


 ゴッッッ!


 それから転化、要するに精霊化したレインボーバードは雷が轟くような音を発した直後に、超高速で会議室の壁に向かって突っ込んでいった。

 孵化初日に色々と試したが、どうやら精霊化している間は物理法則を無視するようだ。それにより壁を貫通していったレインボーバードは今頃、遠い空の上を飛んでいることだろう。


「では施設の方針も決まったところで一度解散とする。レインボーバードがエルフの里を発見し次第、アルラウネとトレントには作業を行ってもらうこととする」

「了解なのですよぉー」

「御意」


 そうして各々が会議室を退出していく、そんな中。

 未だ席についたままの暗黒騎士が視界に入る。


「私は……」


 まだ先程のことを気にしているのだろうか?

 こればかりは細かいことと放置するわけにもいかないので、様子を見ておくべきだろう。そのための理由付けとしては……そうだな。


「暗黒騎士よ、そういえばお前には別件で頼みたいことがあったのを忘れていた」

「私に……ですか?」

「そうだ。家屋についてはあの二人に任せるが、それとは別に内装に必要な道具を揃えたい。手触りのよい手頃な魔獣の毛皮などを中心にな。行軍の特性をもつ暗黒騎士のお前であれば、素材の取捨選択はお手の物だろう?」


 行軍の特性は長期に渡る軍事行動の際の知識が自然と備わるというものだ。例えば現地での食料調達をはじめとする衣食住の手配や、応急処置などの医療知識を持つといったものだ。


「なのでこれから行く狩りの手助けをしてもらえると助かるのだがな。どうだ、一緒に来てくれるか?」


 暗黒騎士は本来であれば軍全体に必要なそれらを一手に担う存在なのだが、人間族との争いが禁じられた現状では使いにくい特性というのはおそらく本人も理解しているだろう。

 なので配下である魔物たちの長として、そのあたりを有効に使えるように考え導いてやらねばな。


「そう……ですね。はい、お任せください魔王様!」


 それにこういう時は体を動かすのが一番だろう。何もしてないと余計なことばかり考えてしまうからな。

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