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11話 大事なことは心の中で言っていた

 野宿を繰り返して移動し続けること数日、ようやく目的地となる雪山のふもとにたどり着いたみたいだ。


「ようやくたどり着いたね」

「本当にここが聖剣の眠る地で合ってるのならいいんだけどねー?」

「古文書の通りなら聖者の霊峰であってる、はず」


 仲間である戦士のリア、魔道士のメイと協力して情報を集めたところ、この地、聖者の霊峰に聖剣が眠っているとのことらしいけど、それが本当かどうかようやく確かめることができる。


「二人とも寒くはないね?」


 聖者の霊峰は雪に覆われているとの情報を事前に手に入れていたため、魔法効果が付与された特殊な赤色の外套を三人とも身につけている。きちんと装備が効果を発揮していれば防寒対策は万全のはずだ。


「うん、ブレイド。サラマンダーの火衣があるから温かいよー」

「代わりにこの前の依頼で手に入ったお金を丸々使っちゃったから、お財布の中身は寒いけどね」

「あはは……」


 財布の中身はともかくとして、山を登る準備は万端だ。


「火衣があるとはいえ、吹雪けば視界が悪くなる。だから雪の降っていない今のうちになるべく登りたいところだね」

「たしかにー」

「早くいこ」


 ここに来た目的は聖剣を手に入れる道すがら発生するという、試練を乗り越えて今よりも強くなることだ。


 そう思うようになったきっかけ、それは先日出会った上位の冒険者と思われる人だ。

 僕たちが三人がかりで挑んでまるで歯が立たなかった巨大な豚の魔獣、それをあの人は拳の一撃で倒してみせた。


 いつかは一人であの人の強さに追いつきたいけど、今は三人合わせて同じぐらい強くなるというのを目標にしている。

 そのために聖剣の試練は僕にとって避けては通れない道なんだ。


 ーーと、この時まではそう思っていた。


「生憎だが、お前たちが向かう先は聖剣の眠る場所ではなく天国へと変更になった」


 そう、あの人と同じ声の人物と再会するまでは。


 結果だけ言えば、僕らは地獄に落ちかけたけど、なんとか窮地を乗り越えて生きている。

 ただ、僕らがもう冒険者として生きることはおそらくないのだろう。


 なにせ、それだけの出来事が僕らを待っていたのだから。


 ◇◆◇


 ツリーハウスの建築から二週間が経った。

 簡単な家具の制作や内装の方も済ませて準備は万全。あとは人間たちがやってくるのを待つばかり。


 しかし定期的にレインボーバードを放って魔王を倒しに来る冒険者の到着を待っているが、今のところこれといった知らせはない。

 それどころか、魔王が再度の誕生を果たしたという知らせすら広まっていないようで、偵察した街はどれも平和ムード一色のようだ。


「いっそのこと空にでかい魔法でも打ち上げてみるか?」


 待ちぼうけで暇すぎるあまり、ツリーハウスから伸びている太い枝の上に寝転んで青い空を眺めながら、そんな事を口に出した時だった。


『ピヨー!』


 噂をすればなんとやらだ。おそらくは配下たちも今ごろ同様の声を耳にしていることだろう。なんにしても、ようやく待ち人となる人間たちが近くまでやってきたということだ。


 さっそく声の主であるレインボーバードの位置を探ったところ、どうやら三人の人間が聖者の霊峰の近くを歩いている最中のようだ。

 聖剣を目当てにやってきた冒険者かどうかは知らないが、これを逃す手はない。


「ククク、ようやくのおでましか」


 配下たちとは打ち合わせ済みのため、このまま人間たちの元へと出向くことにする。


「おっと、行き先は聖者の霊峰だったな。ならばついでにあれを持っていくとするか」


 そうして手荷物を一つ持って聖者の霊峰へと向かったところ、事前にレインボーバードから得た視覚情報通りに男一人、女二人の計三人の冒険者と遭遇を果たした。


「生憎だが、お前たちが向かう先は聖剣の眠る場所ではなく天国へと変更になった」


 飛翔の魔法によって空中から人間族を見下ろす形でそう宣言する。

 使い道のない聖剣までの道のりで徒労に終わるよりも、温泉付きの宿でゆっくりしてもらいたいからな。魔王自らお出迎えである。


「誰だ! ……あれ、この声は……?」


 剣士の青年が声とともに剣の柄に手を伸ばし獲物を抜いたのだが、なぜか困惑したような表情を見せるとともに、そんな事を続けて言いだした。


 俺の声に何か問題でもあるのだろうか。

 まあなんにせよ、誰だと聞かれれば答えてやるのが魔王としてのお約束というものだ。


「ククク、誰かだと? 貴様らも伝承で聞いたことぐらいはあるだろう。俺は魔王。新たにこの世界に生まれた、いずれはこの世界の頂点に立つ事になる王である!」


 正直なところを言えば、魔王的なやり方以外の方法でどう人間と接していいのかわからないだけなのだが。とりあえず今は過去の魔王のやり方でいくとする。


「ちょ、ちょっと待って……もらえますか?」


 するとなぜか剣士の青年が敬語になった。突然遭遇したのが魔王だと知って恐れ慄いたのだろうか。


「む、いいだろう」


 許可を出したところ、人間たち三人組がなにやら話し合いを始める。

 魔王的にも返り討ちスタイルが主流であることからして、こちらから手を出すことはないのだが……それにしてもスキだらけではなかろうか。まあどちらにしろ戦う気はないのでいいのだが。


 それにしても「やっぱり」とか「絶対そう」とか声が漏れて聞こえてくるのだが、何の話をしているのだろうか。作戦会議とも思われたが、どうも具合が異なる様子だ。

 ごく短い時間ののち三人が互いに頷きあうと、各々の武器を構えてこちらに向き直ってくる。


「もうよいのだな」

「ええ、ですがその前に一つ聞いてもいいですか?」

「待ったついでだ、言ってみよ」

「三週間ぐらい前に大きな魔獣に僕たちがやられそうになった時、拳一つで助けてくれたのはあなたですか?」

「む?」


 三週間前で拳一つというと……そうだ、思い出したぞ。ジャイアントグレートピッグを屠った時のことだったか。確かに食料を野菜や調味料、さらにはレインボーバードの卵を商人と物々交換したときに他にも誰かいた気はしたが、あまり記憶にはないな。


「そんな気もするが、なぜそれが魔王である俺のことだと思ったのだ?」

「えっと、その……」

「魔王拳って叫んで、むぐ」

「ちょっと、メイ!」


 剣士の青年が言いよどむと、とんがり帽子と杖を持ったいかにも魔道士といった姿をした少女が言葉をつなげ、メイスを持つ女戦士が魔道士の口を塞いだ。

 魔王拳……人間たちが技名を叫んだのを真似てそんな事を言った気がしないでもない。


「……それがなんだというのだ」


 だが魔王である俺はそんな事など気にしないのだ。決して開き直ったわけではない。あくまで魔王スタイルを貫き通しているだけだ。


「もしかしたら、あなたは人間の味方なのかなって」


 人間が味方だと? この魔王に対して実に面白いことを言うではないか。


「味方? 見当違いもいいところだな」


 味方ではなく未来のお客様であるからな。


「では、やはり伝承にあるように世界を……?」

「そうだ、俺は魔王として世界をこの手に収める義務があるのだ」


 目指すべくは誰も彼もを魅了する唯一無二の歓楽街を作り上げ、魔王城を世界の中心とすることで人間族との融和の道を取ることだ。さすれば我らの生存圏は盤石となる。


「わかり……ました。残念です。それならば僕たちはあなたと戦わなくてはならない」


 まあすぐに理解されるとは俺も思ってはいないからな。ゆっくりと人間たちの意識を変えてみせようぞ。


「どうやら分かっては貰えぬようだな」


 すると剣士の青年が剣を横に構え直して、俺を睨みつけてくる。


「問答はこれまでだ……剣士ブレイド、いざ参る!」


 それから名乗りを挙げた後で雪の地面を蹴り上げることにより、空中に留まっている俺へと向けて突撃し始めたのだ。


 こうなっては仕方がない、一度相手をしてやるとしよう。

 それに運動をして温泉に入れば気が変わるかもしれないからな。 


「八重の軌跡よ、目の前の敵を貫き咲き乱れよ」


 まずは詠唱を始めた魔道士からだ。武器は……ついでに持ってきたこれでいいか。

 向かってきた剣士の青年は無視し、四角い板を装備して飛翔による超高速移動で魔道士の少女へと迫る。


「<ダブルフラ」

「詠唱が長い」


 一瞬のうちに魔道士である少女の正面にやってきたところで握った板を一振り。相手が手に持っている杖に命中させた結果、杖はこの場から跡形もなく消滅する。


「えっ?」

「おりゃー!」


 おどろいた表情を見せる魔道士の少女をフォローする形で、仲間の女戦士がメイスを頭上からこちらに向けて振り下ろしてくる。

 対してこちらは武器でそれを受け止める。


 どうなったかといえば先程の杖と同じだ。当然のごとく女戦士のメイスも消え失せる。


「うそぉ!?」


 そのまま同様の手順で魔道士の少女と戦士の女に向けて武器を振るい、軽く触れさせる。

 例に違わず二人はこの場から消失し、残りは剣士の青年一人だけとなった。


「二人をどこにやった!」

「はじめに言ったであろう? 今頃は二人とも天国の入り口に立っているだろうよ」


 何せ、俺の持つ四角い板ーー魔法で縮めて持ってきた床板(タイル)には転移魔法陣が描かれているからな。魔力を流すことでお手軽に歓楽街の施設であるツリーハウス(宿屋)の目の前まで移動できるのだ。


 今頃は二人とも女将姿の暗黒騎士に出迎えられている頃だろう。


 そして残りの一人となった剣士の青年だが、形相が必死といったものに変わるとともに、手に持った武器の刀身が淡い紫色に変化した。その色からしてどうやら雷の剣技を放つようだ。


「くそぉぉぉぉぉぉぉ! 雷閃連撃!」


 そうして放たれた剣技によって、雷が連続でほとばしり視界が煙で満たされていく。

 短い時間の後、煙が晴れると剣士の手から剣は消滅していた。

 こちらが何をしたかなど、もはや説明する必要もあるまい。


「……僕の負けだ。二人と同じようにそれで消せばいい」

「消す? 何を言っているかわからないが、まああちらで温泉に入る準備をしておくとよいぞ」


 先ほどの二人の時と同様に、床板に描かれた転移魔法陣に魔力を込めてから剣士の青年に触れさせる。


「えーー」

「ん?」


 何かいいかけていたようだが、転送してしまった。

 どうも驚きの声をあげていた気がするが。歓楽街についてさわりの説明はしたと思うのだが……したよな?

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