第48話 想定内
魔王の記憶を取り戻してしまった、クリムナ帝国初代皇帝マリナルクベール・ド・ウルカルティブ。ダ・クリムナ討伐のために、現在攻められているシュミナ王国にやってきた俺たちだったが、やはり、思っていた通り金髪碧眼の薄人からはあまりいいように思われていないようだった。
といっても、俺たちが指揮下に入ったシンダリオン侯爵は、アルディの遠い親戚であるだけあって、俺たちに対しても結構気さくに話しかけてくれる。まぁ、そのせいで余計に侯爵の配下からはよく思われていないようだった。
「済まぬな、ファルターよ」
そんな配下の者たちの態度に対して侯爵が俺にひそかに謝罪してきた。
「いや、気にしないでください。こうなることはここに来る前からわかっていたことですし、何より侯爵ご自身は俺たちとは普通に接してくれていますので、俺たちとしてはそれだけで、ありがたいですから」
「そうか、そういってくれると私としてもありがたい」
俺たちはそんなやり取りを豪華な馬車の中でしていた。
この馬車は、シンダリオン侯爵が俺たちが馬に乗って歩くと町人などからもいい視線を受けないだろうとの配慮で用意してもらったものだ。
それに乗っているのは、俺たち家族とシンダリオン侯爵、アルディの10人だ。
ちなみにブリネオたち俺の騎士団の連中はさすがに人数の関係で馬車には乗らずに馬車の周囲を歩兵として歩いている。
そんな俺たちが向かっているのは、もちろんクリムナ帝国との国境となった、シュミナ王国と元ジュラム・ガルブとの国境付近に位置する今回の戦場だ。
といっても話によるとここには、魔王であるマリナルクベールはいないらしい。
まぁ、それでも魔物の大群はいるようなので俺たちが出張ってきたというわけだ。
そんな感じで行軍し、今ようやく目的地にたどり着いた。
「ふぅ、やっと着いたね」
「ずっと馬車の中で、疲れた」
「だな」
フィーナのボヤキに愛美と俺が答えた。
「これからどうするんだっけ」
愛美の質問だ。
「えっと、確か、この後野営のための天幕を張って、それが終わったら作戦会議だろ」
「そういうことだ、俺たちが張るから、お前らはそこらで休んでいてくれ」
そういったのはブリネオだ。
まぁ、そうだろう、一応俺は騎士爵でフィーナたちはその家族、ブリネオはこんな態度をとっているが、俺の領地の騎士団でもある。天幕を張るのは、当然その騎士団であるブリネオの配下の仕事だ。
「じゃぁ、頼むぞ」
「おう、任せておけ」
そうして、その後俺たちはのんびりと休んでいた。
「おい、貴様!」
するとそこに、突然声をかけられた。
「ん、なんだ?」
俺は、椅子に座ったまま、その声をかけてきたやつに振り向いた。
「なっ、貴様、どこの奴隷だ、奴隷の分際で身の程を巻きまえずに……」
どうやら、この男は俺たちを誰かの奴隷と勘違いしたらしい。そのために俺の態度に頭が来たようだ。
「んっ、ああ、言っておくけど、俺たちは、奴隷じゃないぞ」
「なに、ふざけるな、貴様等はどう見ても奴隷種だろう」
「どうしたんだ、そんな大声上げて」
その声を聴きほかのやつらまで現れた。
「おう、ちょうどいい、このふざけた奴隷を処罰するから手伝ってくれ」
どうやら、俺たちを処罰することにいつの間にか決めたらしい。
「いいぜ。ちょうど暇だったからな」
こいつらにとって奴隷の処刑は暇つぶしらしい。
「はぁ、人の話を聞けよな」
なんだか戦争が始まる前から疲れてきた。
「問答無用だ」
そういって、いきなり剣を抜き斬りかかってきた。
といっても、あまりにも遅い、眠くなりそうだった。
だから、あくびの1つをしながら、素早く男の懐に入ると手を取り素早くその手から剣を奪った。
「なっ、なに」
「バカな」
「落ち着けよ。さっきから言ってるだろ、俺たちは奴隷じゃなくて、マナリズ王国から来たんだよ」
「なに、マナリズ王国だと、はっ、あんな奴隷に媚を売っている間抜けな国だと」
と、かなり最悪な発言をされた。
「それは、聞き捨てならないですね」
ここで、用事があると少し離れていたアルディがやってきた。
「おう、アルディか」
「すみません、ファルターさん、僕が近くにいればよかったんですけど」
「気にするな。お前にはお前の仕事がある、これぐらいは俺たちでも何とかできるからな」
「そうですか、でも、さすがに今の発言は黙っているわけにはいきません。あれは、僕たちマナリズ王国の王侯貴族に当てたものですからね」
そういって、アルディはその兵士をにらみつけた。
「なんだ、お前は」
「僕は、マナリズ王国のアルディオン・フォン・ブルグ・シンダリオン伯爵です。あなたたちは、どこの兵士ですか、このことは僕たちの指揮官である、シンダリオン侯爵に報告しなければいけませんから」
「シ、シンダリオン!! まさか、そんな、いや、俺たちは、その」
そういって、男たちはそそくさとその場から逃げ出した。
「ふぅ、行きましたね」
「だな、助かったぞアルディ」
「そうね。もう少しで、この槍を突き出すところだったわ」
母さんがそんな物騒なことを言い始めた。
ほんとに危なかったらしい。
「ははは、キナさん、それだけはしないでくださいよ」
母さんの発言を聞いたアルディが乾いた笑みを浮かべていた。
「しかし、思っていた通りの反応でしたね」
「それはそうだろう、いくら侯爵殿がああでも、その末端までは伝わらないからな」
「はい、なんか改めて、実感したというか」
「うん、うん、マナリズ王国でよかったよね」
父さんの発言にサーラとクルムが同意したが、俺たち全員の同じ思いだった。
それから、少しして天幕を張り終えたころ、シンダリオン侯爵の使いが俺たちのところにやってきた。
「伯爵様、わが主より伝言です。これより作戦会議を行うのでぜひ参加するようにとのことです。なお、そちらの者たちもご一緒にとのことです」
さすがにシンダリオン侯爵の使者だけあってあからさまな侮蔑の発言はなかったが、心のどかで侮蔑の感情があるようで、そんな表情をしていた。
「わかりました、すぐに伺います」
アルディも気勝ちているようだが、ここで波風を荒立てても仕方ないのでスルーしてそう答えた。
それから俺たちは会議に参加するためにシンダリオン侯爵の天幕に向かうことになった。
メンバーは俺とフィーナとアルディの3人、最初は父さんたちも来ようとしたようだけど、さすがに俺たち全員がぞろぞろ言っても仕方ないということで、この3人となった。
そうして、やってきた作戦会議だが、俺たちが天幕に入るとそこには当然金髪、金髪、金髪だった。会議の中心はこの中で一番爵位が高い侯爵であるシンダリオン侯爵だ。
そのほかは、何人かの貴族が座っていた。
「アルディオン殿、そこに座られよ」
「はい、失礼します」
侯爵に勧められてアルディがその隣に座った。
俺とフィーナはというと、そんなアルディの後ろに椅子が用意されておりそこに座ることになった。
「それでは、作戦会議を始める」
「お待ち下さい」
侯爵が作戦会議の開始の合図をしたとたん俺たちが入ってきた瞬間と、椅子に座った瞬間に睨んできたものがそれを止めた。
「なんですかな、ガバエル伯爵殿」
ガバエル伯爵と呼ばれた男がまっすぐに俺たちを指さして言った。
「その者たちは何ものですかな。見たところ原住民のようですが」
ここシュミナ王国でも一応俺たち縁住民を奴隷種ということは禁止されている。といっても、みんな普通に言っているみたいだけどな、まぁ、それでもこの場は正式な場、ということで伯爵も俺たちを原住民といっている。しかし、目は完全に奴隷として見ているようだったが……。
「うむ、そうだな、まずは彼らについて紹介しよう。両名ともお立ち頂けるかな」
侯爵にそう言われ俺たちは立ち上がった。
「ご覧の通り、この2人は原住民、しかし、ただの原住民でない、隣国にして盟友たるマナリズ王国において、騎士爵を賜っているファルター殿と、その奥方であるフィーナ殿だ」
「なんと、原住民が騎士爵、ですと」
「そんな、まさか、原住民に爵位を与えるなどと」
会議の参加者たちが口々に文句を言ってきた。
「皆の言いたいことはわかる。しかし、マナリズ王国では、彼らは平民であり、功績を残せば騎士爵がせいぜいではあるが爵位が与えられる。まぁ、それでも、彼らが異例であるのは確かなようだが……」
そういって、侯爵は続きを説明するようにと目線でアルディを見た。
「発言をお許しいただきます。私は、マナリズ王国のアルディオン・フォン・ブルグ・シンダリオン伯爵と申します」
「シンダリオン、ということは、まさか、侯爵閣下の……」
「そうだ、彼は我が一族の者であり、マナリズ王国国王陛下の甥御殿でもある」
「なんと」
「そのようなお方だとは」
アルディの正体を知るこれまで若造と侮っていた者たちも急に姿勢を正した。
「こちらのお2人については私が説明します」
それから、アルディが俺とフィーナが自身の命の恩人であることから、武術大会のこと、暗殺ギルドを壊滅させたことなどを説明していった。
「まさか、武術と魔法の両方使える」
「そんなわけが」
「いいえ、間違いありません、ファルターさんはまさしく最強のお力をお持ちです。此度の魔王復活に際して、魔王討伐を我が陛下よりご依頼を受けています」
アルディはそう言い切った。
まぁ、それでもあまり納得していない者たちもいたようだが、侯爵の手前苦言を言うこともできず、作戦会議は始まったのだった。




