第44話 街完成
シタナエール丘陵を領地としてもらってからおよそ半年がたった。
最初は魔物が大量にうごめく不毛の地であったが、今ではすっかりと城壁に囲まれた街が出来上がった。
俺が領主を務める街名前をシタナエールというが、領地をぐるりと囲む城壁の中は、北側3/4に街を作り、残りの部分に小麦や米、大豆といった畑となっている。
この畑の世話をしているのは、マドリスたちのつてを頼って集めたクリアルブ村の次男などの後を継げない者たちだ。彼らは本来セルミナルクなどの街に出て俺たちのように冒険者となったりマドリスたちのように使用人となったりする。そこをこの街の新たな住人として迎えたというわけだ。
また、フィーナとともに向かった勇者一族の里において、俺が浩平の先祖であり、フィーナの乾坤相手として認められたことで勇者一族の協力を得られたことや、浩平がもたらした技が見軸なものであったことや、時間の流れの中での勘違い、女型の存在を知った彼らが、俺や愛美から師事を受けたいということでやってきた者たちもまた新たな住人となった。
そして、そんな彼らのおかげで、街の方もあっという間に出来上がった。
とは言え、俺と父さん、サーラとクルムで、城壁や建物の土台を盛り上げ、石を積み上げたことが大きい。また、ブースターを付けた母さん、フィーナ、愛美と強化魔法を使った俺が、梁など大きな木材を運んだことでこれもまたあっという間に街が出来上がった要因となった。
そう考えると、俺って、1人かなり働いているような気がする。が、まあいいか、一応俺が領主だし、これぐらいはいいだろう。
と、まぁ、それはともかく、完成した街の中を説明していくと、まず、俺がこだわったのは、上下水道の整備だ。
この世界では、水を確保するのに井戸を掘るか、川から引いてきた水を井戸のようなものにためるといったものしかない。
現代日本で生きてきた俺や愛美にとってはこれは耐えられない、水とは蛇口をひねれば出てくるものである。ということを念頭に置いて、川から引いてきた水を各家庭に引くことを目標とした。
そのかいあってか、見事に完成し、それぞれの家などで蛇口をひねれば飲める水が出る。
しかも、その蛇口は2口ついており、一方は水だが、もう一方はお湯が出るのだ。
その仕組みは、簡単で、街の西側であるアルディが収める新シンダリオン伯爵領のほど近くに5階建て相当の高さの貯水タンク2基を設け、一方はただの水をろ過しつつ風系統の魔道具で圧力をかけつつ各家庭に送る。お湯の方は、建物の1階部分に高温にできる大きな魔道具を設置、煮沸してから各家庭に送っている。
もちろんそのままの状態では暑くて使えないが、このお湯が通る水道管には各地に温度を管理する魔道具を設置することで、適温の状態で各家庭に送ることができている。
ちなみに、この魔道具を開発したのは、セルミナルクでブースターの改良をしたトメスだ。トメスは態度が悪いが魔道具職人としての腕は確かで、ブースターの改良はもちろんそのほかにも数多くの魔道具を作っている。
そんなトメスにこの街での新たな魔道具の開発を打診したところ大喜びでこの街までやってきて、ちゃっかり工房まで作ってしまった。
また、その上下水道を作ったことで、トイレ事情も俺のこだわりに沿ったものとなった。
この世界のトイレは今まで触れなかったが、基本汲み取り式で専用の業者が各家庭を回り汲み取った後、街の外の森に捨てるというものだった。
おかげで、街までにおいが立ち込めてきていて、慣れた俺はともかく愛美はかなりきつかったらしい。俺としても、これは何とかしたいと思っていたこともあり、今回の上下水道を通したことで水洗トイレとなった。
さらに、お湯が出るということで、風呂も各家庭に完備してある。
俺が住んでいた屋敷のような場所なら普通に風呂があるが、一般家庭にまでは普及していない、この風呂だがこの街では、当たり前に各家庭に設置してあることは住人からも好評を得ている。特に畑仕事をしている者たちからすればいつでも入れる風呂が自宅にあるというのはかなりうれしいそうで、喜ばれている。
とまぁ、こんな感じで水回りは出来上がった。
そのほかにも各所にこだわりを見せた仕上がりを見せたが、現在俺が取り組んでいるのはこの街の特産物だ。
この街ではクリアルブ村と同等の小麦が収穫できる見込みで、かといって小麦として売れば、クリアルブ村が危なくなる。そこで、考えたのが新たな加工をするということだ。
この世界で小麦といえばパンがほとんど、そこで、俺と愛美が考えたのが、うどんだった。
実は、俺の前世と愛美の親父は有働が好物だった。そのためか、週末になると必ず朝からうどんを自ら打ってそれを俺たちにふるまってくれた。
そして、もちろん俺と愛美もそれを手伝っていたこともあり、当然俺たちもうどんを打てる。ということで、試しにクリアルブ村の小麦でうどんを打ってみた。
すると、意外なほどに周囲からは評判となった。
その中には、ぜひ打ち方を教えてほしいと気合の入ったものまで降り、現在その者たちにうどんの打ち方を教えているという状況だった。
といっても、俺としては残念なことに、この世界というかこのマナリズ王国は海に面していない、そのために出汁に必要なカツオなどの海産物が存在しないのだ。
つゆが作れないために味気ない、しかし、それを感じているのは俺と愛美の2人だけで、試しにうちの使用人の料理担当のメイドにうどんを渡したところ、すぐにレシピを思いついたようで、次々に新たなメニューが開発された。
それがまた、うまいのが妙な気分だった。
と、こんな風に徐々に街として完成つつあった。
まさに、そんな時だった。
俺の街シタナエールに、1人の冒険者が現れた。
「あれ、グフタスじゃないか、どうしたんだ」
そうやってきたのはセルミナルクでの冒険者仲間グフタスだった。
「ずいぶんとすげぇ、街になったな、というかこの短時間でどうやってこんな街を作ったんだよ」
グフタスは相当に驚いているようだった。
「ああ、魔法でな」
「魔法って、まぁ、いいや、それより今日は、アルディ……いや、うちの領主様からの依頼で、これを届けに来たんだ」
「アルディから」
グフタスは思わず昔の呼び方でアルディといってから、自分たちの領主であることを思い出したようで、急いで言い直した。
「なんだ、一体」
俺はグフタスから受け取った手紙を開けて中を見た。するとそこには、すぐに王城に来るようにと国王陛下から命令があったと書かれていた。
しかも、俺たちはもとよりブリネオたち騎士団を伴ってくるようにとかかれていた。アルディの手紙にはおそらく戦争だということだ。
「なんて書いていあったの」
フィーナが尋ねてきた。
「ああ、近々戦争があるようだ。騎士団を率いて王城まで来いとさ」
「戦争、でも、なんで王城?」
「多分だが、相当な大規模な戦争となるんだろう」
「それって、ブルックリム要塞の時よりもッてこと」
「それはそうだろう、あの時はせいぜい小競り合い、まぁ、それをあの馬鹿が引っ掻き回してただけだからな」
「ああ、あの馬鹿な」
「亡くなった人を悪く言うのもどうかと思うけどね」
俺をはじめとした、あの戦いに参加した者たちが深くうなずいていた。
「ファルター、何の話だ」
とここで、この話を知らない父さんたちが興味深そうな顔で話しかけてきた。
「ああ、去年セルミナルクから北にあるブルックリム要塞でブリザリス王国の連中との戦いがあったんだけど……」
俺は、その場にいる父さんたちにブルックリム要塞で起きたことをすべて話した。
「……なるほどな、ガイのやつ、それは危なかったな。それにしてもミドクリグか、ずいぶんと馬鹿なことをしたもんだなぁ」
「ああ、まったくだぜ、まぁ、ファルターとフィーナのおかげでガイも死なずに済んだのはありがたかったけどな」
「ブリネオにとっては、ターナさんが無事だったから余計にでしょ」
「違いない、ほんと、助かったぜ」
ブリネオは少し照れながらそういった。
「ふふっ、それで、ファルター、いつまでに王城に行けばいいのかしら」
母さんは微笑んでから急に真剣な表情となり、そう尋ねてきた。
「ああ、猶予としてはあと2月ぐらいはある。十分に準備してから出立しても大丈夫だろ」
「そう、腕が鳴るわね」
そういって母さんはすでに戦闘準備に入ったようだ。って、来るつもりらしい。まぁ、ありがたいけど……
その後、愛美やサーラ、クルムにエニスまで、やる気に満ちた表情をしていた。
あれ、みんなこんなに好戦的だったっけ。俺はそんな疑問を浮かべながら、その様子を見ていた。
それからじっくりと戦争の準備をしてから出立することになった。
メンバーは、俺とフィーナはもちろん、やる気満々の母さんと父さん、それから愛美とサーラ、クルム、後は1人残されるのが嫌だと懇願してきたエニスの家族全員と、ブリネオを中心とした、シタナエール騎士爵騎士団を大多数と勇者一族からの有志の面々だ。
見渡すとかなりの人数となった。
ちなみに、勇者一族は、あれからほとんどの人がここに移住してきた。
あの隠れ里に残っているのは、ほんの数人だけらしい、そのため当然のごとくその族長であり、フィーナの父親である族長エンデンもシタナエールに移住してきていた。
そのため、この街はエンデンに俺の代理として残ってもらうことになった。
こうして、俺たちは一路、王都へと足をほかぶことになったのだ。
戦争なんて、いやな話だ。ほんとにな……
外伝を掲載しました。
次話での参考となります
内容は
第1話魔法誕生
第2話ファルター一族誕生
第3話薄人誕生
となります。良ければお読みください。
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