第45話 魔王
突然アルディからの手紙で国王陛下が戦争準備をして王都へ来るようにとのことだった。そこで、準備を整えてからシタナエールを発って、セルミナルクによってアルディ達と合流してから、一路王都へと向かった。
王都にたどり着いた俺たちは、まず国王陛下と謁見するための手続きを行った。
ちなみに、一緒に焼てきたシタナエール騎士団とセルミナルク騎士団は王都の外で野営をしてもらっている。だから王都に入ったのは俺とフィーナ、アルディとルミナ、父さんと母さんとエニスに愛美、サーラ、クルムだけとなった。
陛下に会う手続きはすぐに終わり、後は王城からの使者を待つばかりである。
と思って宿で待っているとさっそく王城からの連絡が来たのだった。
「まさかすぐに来るとは、思いませんでしたね」
「ああ、だいぶ待たされると思ったけどな」
「それだけ、陛下も時間が惜しい事態だということだろう」
アルディの感想に俺が同意し、父さんが事態の深刻さを示唆した。
「使者の人が行っていた時間までまだ少し時間あるけど、どうする、もう行く」
「そうね。すぐに準備をしてから行きましょう」
それから、急遽陛下と会うための準備が行われた。
といっても俺を含めた男には準備なんてものは着替えぐらいなものだが、フィーナやルミナをはじめとした女性陣は入念な準備が必要なようで結構いい時間となっていた。
もしかしたら、陛下はこれを見越しての時間指定をしたんじゃないかと思ったほどだ。
さて、準備も整ったことでいよいよ陛下との謁見に挑むわけだ。
王城に出向き、ついに謁見の間にやってきた。この間ここに来たときは忍び込んできたが、今回は堂々と衛兵が並ぶ間を歩いての登場となった。
そうして、謁見の間にやってきた俺たちはすでにそこにいた陛下のある程度距離を起きたところで止まり一斉に跪いた。
「よく来たなアルディオン、そしてルミナリエールよ」
「はっ、陛下に置かれましては、ご壮健そうで何よりでございます」
ここではアルディが代表して言葉を発した、一応アルディが伯爵であり、俺たちでは一番偉いからだ。
「ふむ、そなたも壮健そうで何より、さて、このまま我が甥と話をしていたいところだが、今はそれどころではないのでな。ダンブル」
陛下は近くにいた宰相に指示を出した。
「はい、それではご説明します……」
そこから宰相が語った内容は驚くべく内容だった。
まず、事の始まりは、この大陸において最初に薄人達がやってきて建国した国クリムナ王国が突如フルメナス共和国に攻めいったそうだ。そして、そのまま周辺諸国を攻め、ついには、陛下や貴族たちの故郷たる隣国にして同盟国でもあるシュミナ王国へと魔の手をのばしてきたというのだ。
そして、そのシュミナ王国から、我が国と軍事同盟も結んでいることから救援要請が来たということだった。
そう、つまり、俺たちがここに呼ばれた理由、それはシュミナ王国への援軍というわけだ。
「承知いたしました、陛下、しかしながら、私はともかくファルター殿をシュミナ王国に送るというのは……」
ここで、アルディが俺たちをシュミナ王国に送ることを軽く非難した。
その理由は簡単だ、俺たち原住民はこの国では平民として暮らしているが、シュミナ王国においては、他国同様奴隷として扱われている。
つまり、そんな俺たちをシュミナ王国に騎士爵といえ爵位持ちとして送ればこの国が軽くみられる恐れがあり、さらに俺たちがないがしろにされるのではないかということだ。
「うむ、それはわかっておる。だが、相手の戦力を見ると、ファルターたちにはぜひにもいってもらいたいのだ。そこで、アルディオンお主にも行ってもらうというわけだ。ファルターにはお主の配下ということで行ってもらうつもりだ」
なるほど、確かにそれなら、大丈夫だろう、アルディの実家であるシンダリオン家は、シュミナ王国においても確か侯爵の爵位を持つ大貴族、その係累であるアルディの配下をないがしろにすることはさすがにできないだろう。
「そうですか、しかし、そこまでして、ファルター殿をお連れするという敵の戦力とは、一体どのようなものなのでしょうか」
ここでアルディが核心を聞いてくれた。
「ワシも、にわかには信じられないことじゃが、ダンブル」
「敵方クリムナ王国、現在多くの国を治めるにあたり帝国と名乗っておりますが、かの者たちの軍勢の中には魔物もいると情報が入っています」
「魔物!!」
俺たちは一斉に驚愕して、ここが謁見の間であることを思い出して、慌てて口をつぐんだ。
「はい、暗部の調べでは間違いないとのことです」
ありえない話だった。魔物はそもそも理性がほとんどなく、個々が本能の赴くままに生きている。そのため群れることもなく何かに統率されるということもあり得ないのだ。
しかし、かつて、魔物の軍勢を操るものがいた。俺たちを含むここにいる全員がそれを思いついていたが、それこそありえない、なぜなら、その者とは、今から約8000年前猛威を振るいフィーナの先祖であり、俺の前世と愛美の子孫である、浩平、つまり勇者によって討伐された魔王。
俺たちがまさかという思いに駆られていると、不意に声が響いた。
『その通りです。再びこの世に魔王が復活しました。そして、クリムナ王国国王、マリナルクベールさんこそ、その魔王なのです』
そんな声が響いたのだ。その声を聴いた、陛下をはじめとした全員が警戒をあらわにした。
「な、なんだ、今の声は?」
「どこから?」
「陛下を守れ」
そこにいた貴族はあわて、衛兵たちは一斉に剣を抜き放ち陛下の周囲に集まった。
そんな中俺とフィーナだけはこの声に覚えがあった。
「ファルター、この声って……」
「間違いないだろうな」
「お兄ちゃん、知っているの」
「まぁな」
そんな会話をのんきにしていると、俺たちと陛下の間あたりに光が差し込みそこに、1組の男女が姿を現した。男性の方は、真っ白な髪と髭を蓄え、いかにも神様を連想させる姿で、女性の方も、これ以上美しいものはないんじゃないかと思わせるほどの美貌と、親しみやすい雰囲気を持った女神然とした人物だった。というか、まさにこの世界の神セペリウス様とその兄にして、地球の神ゼラギウス様だった。
「何やつだ」
「怪しい奴らめどこから入った」
2柱に対して衛兵たちは今にも斬りかからんばかりだった。
――――――さすがに止めたほうがいいか。
そう考えた俺は止めることにした。
「陛下、お待ちください」
俺はそう言って、歩き出しセペリウス様たちと陛下の間に入った。
「ファルターか、そなたの知り合いか」
「はい、この方は、セペリウス様、そして、ゼラギウス様です」
俺はセペリウス様から紹介した。
俺からその名を聞いてさすがに陛下たちも名を聞いたことあるだけあって一周ひるんだ。
そして、父さんたちに至っては、目を丸くしていた。
「ふふっ、お久しぶりですね、ファルターさん、そして、フィーナさん」
「はい、お2柱ともお変わりなく安堵しました」
「おい、どういうことだ。何者なんだ」
ここで、貴族の1人が食って掛かってきた。
「お控えください、セペリウス様はこの世界の女神、我らがひそかにあがめている存在であることはご存知でしょう」
「な、なに、女神だと」
俺のこの言葉を聞いた陛下がまず動き出した。
「我が臣下のご無礼、どうかお許しください」
そういって陛下がなんとその場で跪いたのだった。
「陛下?」
それを見たその臣下たちが驚愕した。
「控えよ」
そんな臣下たちに陛下は一括した。
考えてみれば陛下は若いころアルディ達と同じように姿を変えて冒険者をしていた。その際にセペリウス様の神像を見る機会があったのだろう。なにせ、あの神像は本人そっくりだからな。
「いいえ、気にしてはいませんよ、オリヴァルトさん。突然現れたわたくしたちにも非がありますからね」
「感謝いたします」
そういって陛下はさらに頭を下げたのだった。それを見た貴族たちもまた跪いた。
そんな様子を見ながら俺はセペリウス様となぜかいるゼラギウス様に話しかけた。
「セペリウス様、えーと、それと、ゼラギウス様、まずは愛美のこと感謝します。おかげで、あれからすぐに会えました」
「いいえ、それもまた、わたくしたちの不手際が招いたことですから」
「そうそう、2人とも元気そうだね」
「はい、おかげさまで」
「え、えっと、ありがとうございました」
愛美も俺に続いて2柱に感謝を述べた。
「兄妹仲良くね」
「ええ、それは、言われるまでもなく、えっと、それで、セペリウス様、先ほど言っていた魔王についてですけど、それになぜゼラギウス様まで」
陛下の目もあるので早々に話を元に戻した。
「ええ、そうです。魔王が復活したのです。正確にはマリナルクベールさんが魔王の、前世の記憶を取り戻したのです」
「前世の記憶、ちょっと待ってください、それじゃ、クリムナ国王の前世は魔王だったのですか」
俺の言葉にその場にいた全員が凍り付いた。
「そうだよ。といっても、これは別におかしなことじゃないよ」
ゼラギウス様によると、古来より魂は転生を繰り返しているそうだ。俺が前世の記憶を保ったままなのはたまたまで、実はすべての魂がそうして転生を繰り返しているという、いわゆる輪廻転生という奴だ。
そして、クリムナ国王もこうした経緯で、たまたま前世が魔王だったというだけだ。
「しかし、魔王となった彼の魂は憎悪に満ちていました。そこで転生を繰り返していくことでそれを浄化していたのです」
「でも、ついこの前、魔王の部下だった魔物の子孫が、彼に接触して前世の記憶を呼び覚ます魔法を使ったんだ」
つまりそれで、クリムナ国王は魔王と記憶を取り戻して再び憎悪の魔王となったという。
「魔王、実に厄介な相手となりましょうな」
陛下はさすがに驚愕しながらもその胆力で何とか受け入れたようだ。
「はい、その通りです」
「でも、魔王はどうしてそんなに憎悪を持っているんでしょうか?」
ここでサーラが思わず疑問を口に出してすぐに口を押えた。
「そうですね。確かに魂にまで刻まれる憎悪はあまりありません。大体は転生とともに失われますからね」
「では、なぜ、そのような憎悪を……」
誰かが質問した。
「そうですね、このお話は、オリヴァルトさんたちの種族にとっては、お辛い話となります」
そういってセペリウス様は陛下たち貴族やアルディを見てから言った。どうやら薄人達にとってつらい話のようだ。
「……構いませぬ、どうぞ、お話しください」
陛下が少し逡巡してからそう告げた。
「わかりました。お話しましょう……」
それからセペリウス様と時々ゼラギウス様が語った内容は、衝撃的なものだった。
「……で、では、我々は作られた人類だというのですか?」
そう、薄人達は俺たち原住民の先祖によって人工的に作られた存在だった。
「その通りです。そして、あなたたちを導いた存在であるマーラムさん、彼の転生した姿がかつて浩平さんが討伐した魔王だったのです」
これもまた衝撃的だった。マーラムといえばこの国でも国教となっており、俺たちも表面上進行している導きの神のことだ。このマーラムが転生し、魔王となったなんて、笑えないことだった。
なんでも、マーラムは自分たちが作られ放置されたことが許せなかった。その思いを持ったまま転生した。つまり俺と同じ転生者だった。そして、その転生先というのがさらに憎悪を生み出した。そう、マーラムが憎む俺たち原住民だったのだ。
それを知ったマーラムは憎悪して、邪気を膨れ上がらせた。それがもととなり、魔王となり魔物が生まれ、ドラゴンたちを呼び寄せたという。
この話を聞いた陛下たちはショックのあまり茫然としてしまっていた。俺だって信じられないことだ。彼らにはより一層信じられないのだろうな。
それにしても、薄人達の神が魔王とはな。ほんとに驚いた。




