第37話 暗殺ギルド襲撃
暗殺ギルドをつぶすことを決定したら、なぜか国王が協力をしてくれることになったわけだけど、それが厄介なことになった。なにせ暗殺ギルドを運営していると目されるアウディオレ家の連中を一か所に集めるという俺の案に対して、国王が王城に呼びつけるという。そして、俺とフィーナに証拠をもって王城に忍び込むように指示を出してきたのだ。
そして、急遽愛美に計算してもらい、作戦の詳細を話し合うことになった。
その結果、愛美、サーラとクルム、ポルティの3人と1匹はセルミナルクから、王都ブリッグを越えて、馬車で北西に4日のところにある街、コラルへと向かっている。このコラルは王都から西方面を担当している重要拠点としての支部がある。ここにもある程度の証拠があると睨んでの襲撃だ。そのため、愛美たちはあの後すぐにこの街を発った。早めについて襲撃の日に備えるためだ。
また、かあさん、父さんとエニスの3人は俺たちが王城に忍び込むその日の朝に王都にある、暗殺ギルド支部に襲撃をかけることになっている。そんな母さんたちも愛美たちと一緒にこの街を発っている。その理由は早めについて王都を観光するためらしい。
一方俺とフィーナは現在、セルミナルクにいる。俺たちが襲撃するのはここセルミナルクにある支部と偽った本部と、アウディオレ家の屋敷、後はついでにアウディオレ家がギルド長を務める貴族冒険者ギルドだ。
といっても、表立っての襲撃ではなく誰にも気づかれることなく忍び込む予定だ。
その理由は簡単で、最初に暗殺ギルドを襲撃しても証拠をもって逃げられる可能性がある。それに、領主の屋敷や貴族ギルドに襲撃をかけると俺たちがやばくなる。そのためにすべての場所に忍び込む必要があるというわけだ。
そして、今俺たちは暗殺ギルドに忍び込んでいる最中だったりする。
目の前に黒づくめ、ではなく普通の格好をした男が歩いている。歩き方からして間違いなく暗殺ギルドのメンバーだった。どうやらこいつらギルド内ではさすがにあの加工ではないようだ。
俺は指でフィーナに合図を送ってから、さらに深くもぐりこんだ。
こうして、結構あっさりと深部までもぐりこめた。
あとは、暗殺ギルドとアウディオレ家のつながりを示す証拠を集めれば、ここに用はなくなる。
俺たちは周囲を見渡しながらここぞという場所をくまなく探し、ついにいくつかの証拠を見つけ脱出した。
この間当然ながら俺たちは一度も見つかっていないし、俺たちが侵入した痕跡すら消してきた。空き巣犯もびっくりな犯行であった。
その後も、アウディオレ家の屋敷や貴族ギルドのギルド長室などを探索して、ここセルミナルクで集めることができそうな証拠をすべて集めたのだった。
その翌日、俺たちは冒険に出るふりをしてセルミナルクを出たわけだが、俺たちが出る直前セルミナルクではひと騒動あった。それは、平民ギルドギルド長クジャリの指揮のもと昨日俺たちは忍び込んだ暗殺ギルドを襲撃したのだ。
これは事前にクジャリに要請したことだが、この話を聞いたクジャリは喜び勇んで協力してくれた。やはり、活躍している冒険者が暗殺ギルドに暗殺されるということが多くあるせいでクジャリも常日頃、暗殺ギルドを襲撃したいと考えていたようだ。
こうして、まずはセルミナルクの暗殺ギルドは主不在のまま滅んだ。
ファルターとフィーナがセルミナルクを発ったころ、コラルで1晩明かした愛美たちもまた、暗殺ギルド襲撃に備えていた。
「うう、緊張してきた」
「ほんとに、大丈夫かな」
忍びの技をもたないサーラとクルムはこれから自分たちがやることに不安を覚えていた。
「大丈夫よ、私がフォローするから、それに……」
そういって、愛美は肩にちょこんと座っているポルティを見た。
「うん、任せて、ボクが音消しと、認識阻害の魔法をかけてあげるから」
そう、ポルティは神様であるセペリウスの使いであるために人間では扱うことのできない魔法を行使することができる。それの1つが、この音消しと認識阻害だった。
この音消しの魔法はそのまま、かけられた人撃つなどの周囲で発生する音を周囲にもれさせないものだ。それと同時にその魔法がかけられた同士ならお互いの音が通じるというとんでもないものだ。そして、認識阻害の魔法は、たとえ隣にいても認識することができない、つまり、そこにいるとわかっていながらいないと判断してしまい、その姿を見ることができない、妖怪ぬらりひょんみたいになれる魔法だ。
それをかけることで忍びの技を持たないサーラとクルムでも暗殺ギルドに忍び込むことができるというわけだった。
そして、3人と1匹は緊張しながらもコラル暗殺ギルド支部に堂々と忍び込んだ。
忍び込んでから数分、愛美たちは物陰に隠れているが、先述の通りこれはあまり意味はない、しかし、雰囲気が大事だった。
「あの人が行ったら一気に突っ込むよ」
「う、うん」
「わかった」
サーラとクルムはまだ緊張していた。
「よし、行くよ」
そういって愛美は飛び出した、それにつらなるようにサーラとクルムもついて行ったのだった。
こうして3人と1匹は何とか暗殺ギルドの最奥までたどり着き証拠の数々を持っていたカバンに収めて言った。
「ねっ、簡単でしょ」
「いや、まだ終わってないから」
愛美がそういったことにサーラが突っ込んだ。
どうやら、サーラにもそのぐらいの余裕が戻ったようだった。
そして、3人と1匹は無事に暗殺ギルドコラル支部を脱出して、ファルターたちと合流するために再び王都を目指して馬車に揺られた。
ファルターパーティと愛美パーティがそれぞれの仕事を終えて王都にやってくるその日の朝、王城の前にある一団が訪れていた。
「しかし、陛下も、なぜわれら一族を全員も集められたのだ」
「さぁ、もしかしたら褒章とかでは?」
なんてのんきなことを話しているのはアウディオレ家次男にして暗殺ギルドギルドマスターを務めるサラエルと、冒険者であり、ファルターたちに恨みを持つアウディオレ家末っ子であるザイハーだった。
「お前たち、静かにしていろ」
そんな2人の子供をたしなめたのはアウディオレ家の当主チェザレだった。
「すみません、父上」
「申し訳ありません」
そんな父に逆らえない2人の子供はあっさりと誤った。
さて、そんなころ、王都にある表向き暗殺ギルド本部で王都支部の前には40代ぐらいの夫婦と12歳になる娘が立っていた。
「さてと、それじゃそろそろ私たちの番ね」
「母さん、気合を入れすぎるなよ。それとエニスも……」
「わかっているわよ。ねぇ、エニス」
「うん」
そんな返事をするもエニスは初めてのことにワクワクしていた。
それを見たマルスは少し疲れた様子で、同じくワクワクしている妻キナをみた。
「……はぁ、まぁいいか、そんじゃそろそろ入るぞ」
「うん」
こうして、3人は忍び込むではなく派手に正面から突っ込んでいった。
そして、派手に暴れてあっという間に暗殺ギルドはつぶれたのだった。
セルミナルクを出て3日、俺たちは予定通り王都ブリッグにたどり着いた。
「マナミちゃん達とお義母さん達はうまくやっているかしら」
「大丈夫だろ」
フィーナは少し不安があるようだけど俺はなんの心配もなかった。
案の定、みんなとの待ち合わせ場所にたどり着くとそこにはすでに集まっていたからだ。
「どうだった」
「見つけたぞ」
そういって、父さんが魔法の袋から証拠品を取り出した。
実は、超級以上の魔法を扱えるなら作ることができる、この魔法の袋は父さんにも作り方を教えていた。
「こっちも、結構あったよ」
そういって、愛美がカバンから証拠品を取り出した。
「おう、それじゃ、さっそく陛下に届けてくるか」
「そうね。もう、始まっているだろうし」
「そうだな。それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
「おう、気をつけてな」
「ご武運を……」
「無事を祈っています」
「気を付けてね」
「行ってらっしゃい、お兄ちゃん」
俺たちはそれぞれに見送られて王城に向かった。




