第38話 国王陛下
暗殺ギルドをつぶすために俺たちはこれから王城に忍び込むという、ちょっと、意味が分からない状況となっているような気がするけど、決まったものは仕方ない。というわけで、俺とフィーナは今、王城内に忍び込んでいる。
王城内はさすがに警備が厳しい、少しでも油断すればすぐに見つかってしまいそうだ。
そんな中、何とか見つからないように忍び込んでいる状況だ。
そして、ようやく謁見の間にやってきた。
それにしてもこの謁見の間、さすがとしか言いようがないほどの豪華のあ作りとなっている。なんといっても、家が2建ぐらい余裕で入りそうな広さと3階ぐらいまで届く高い天井、そこから何個も大きなシャンデリアがぶら下がっている。この世界の技術水準は結構低いそんな中で一体どうやったらこんな豪勢な場所を作ることができるのか、疑問が尽きない。それはともかくとして、今現在、俺たちがいるのは謁見の間の上部に張り巡らせた梁の上。俺たちが到着するとちょうど陛下がアウディオレ家の面々を集めて断じるところだった。
「……陛下、なぜ、わたくしどもは呼ばれたのでしょうか?」
そう質問したのはカイゼル髭を蓄えた、なんとも偉そうなおっさんだった。多分あれが、アウディオレ家の当主、チェザレその人だろう。
「まずは、問おう、そなたは暗殺ギルドを存じておるか」
「……はい、存じ上げております」
チェザレは少し逡巡した後そう答えた。
「であるか、ならば話が早い、実はの、その暗殺ギルドのギルドマスターなるものの正体の情報が余のもとに入ったのだ」
「!」
それを聞いたチェザレをはじめとしたアウディオレ家の人々が驚愕した。
特にギルドマスター本人であるサラエルなどは真っ青な表情をしていた。
「……なんと、それはまことにございますか、彼奴らはわれら貴族の忌々しき怨敵、して、その、正体とは?」
チェザレがいけしゃあしゃあとそう尋ねてきた。
「それは、そなたの次男サラエルであるというのだ」
ここで陛下が爆弾を落とした。
「!!! なっ、バカな、お待ち下しださい、陛下、何をもって、我が息子がそのような疑いを、いくら陛下でもそれは、あまりにも……」
それを聞いたチェザレは憤慨した。
「これは、確かな情報だ」
それを聞いたサラエルは真っ青を通り越して今にも気を失いそうだった。
「し、しかし、そうだ、証拠は、証拠はあるのですか」
チェザレは一瞬パニックになりかけがよほどの自信か不敵にそう笑いながらそういった。
「証拠ならここに」
とここで俺とフィーナはすかさず梁から飛び降りて陛下の前にて膝まづいて、魔法の袋から出しておいた暗殺ギルド、ギルドマスターのサインが入った書類を出した。
「なにやつ」
もちろんそんな俺たちを黙ってみているわけもない衛兵が、持て槍を突き出しつつ尋ねてきた。
「よい」
陛下は短くそう言うと衛兵を下がらせて俺が付きだした書類を手に取った。
「ふむ、確かに、ここにはサラエル、そなたのサインが書かれているようだな」
「そ、そんな、バカな、そんなはずは」
「では、これはなんと申すか?」
この時の陛下はすでにアウディオレ家を犯罪者として扱っていた。
「そんなものはでっち上げです。何をしている、お前たちその者を捕らえよ」
チェザレは周囲にいる衛兵たちに俺たちを捕らえよと命令を出し始めた。
しかし、哀しいかな、衛兵は陛下の私兵のようなもの、一伯爵に過ぎないチェザレの命令は聞かない。
「陛下、ほかにもございます」
俺はチェザレにとどめを刺すために持っていたアウディオレ家と暗殺ギルドの関係を示すものや、そのほかにもアウディオレ家がやってきた罪などの証拠をすべて魔法の袋から取り出して陛下に渡した。
「うむ」
陛下はその量に驚くこともせずに鷹揚にうなずくとそれらを手に取ってざっと見ていった。
「アウディオレ家の者たちを全員捕らえよ」
陛下はそう短く命じると俺たちとは別に柱の陰などに隠れていた男たちが静かに動き出して、アウディオレ家の面々を捕らえ始めた。
それを見たチェザレが意を決したような表情になり豹変した。
「こうなっては、仕方ない、覚悟……」
そういって、何を血迷ったのかチェザレが隠し持っていた短剣を取り出し、あろうことか陛下に向かって切りつけようとした。
その動きは、素早く衛兵やアウディオレ家を捕らえるので必死だった男たちでは動けなかった。
しかし、軽く強化魔法を発動させた俺により、あっという間に床に転がる羽目となった。
「バカな、俺は、ランク13の冒険者だったんだぞ」
なんてことを言ってきたが、残念。
「悪いな、俺たちはランク15だ。仮にもセルミナルクの貴族ギルドギルド長でもある、アウディオレ家の当主が知らないとは言わせないぜ」
俺がそういったことで、チェザレはようやく俺たちの正体に気が付いたようだった。
「き、貴様は、貴様たちは……」
その言葉を残し、チェザレは連れていかれた。
「見事である。さすがは、マルスとキナの息子よ」
さすがにこれには俺は驚いた。なぜ陛下が父さんと母さんの名を知っているんだ。
「なぜ、両親の名を……」
俺は恐る恐る尋ねた。
「この国の王族のしきたりで、冒険者をしなければならない時期があるのですよ」
俺の質問に答えたのは、アウディオレ家の面々と入れ替わりで入ってきたアルディがルミナを伴っての言葉だった。
というか、その後ろから、先ほどなががった父さんと母さん、エニス、緊張した面持ちで愛美と肩に乗ったポルティ、サーラ、クルムがやってきた。
そんな普通に入ってくれるなら俺たちもそれでよかったんじゃ、と思うところはあったが、今はそれより気になったことがある。
「キナ殿と、マルス殿か久しいな。息災であったか」
陛下の言ではどうやら父さんたちと知り合いらしい。
「えっ、えっと」
当の本人である父さんと母さんは戸惑っている。
「んっ、余を忘れたか」
「あ、あの、陛下、私が、陛下にお会いしたのは、武術大会で優勝した折かと」
母さんも恐る恐るそう返事をした。
「陛下、もしかしたら、正体を明かさなかったのでは……」
そんな空気の中アルディが陛下にそう進言した。
「んっ、おおう、そうであったな、済まぬ」
どうやら陛下はうっかりしていたようだ。
「少し待っておれ」
そういって、陛下は指に指輪をはめた。すると、陛下の姿が、俺たちと同じような平民の姿になった。
俺はそれを見たとき何やらデジャビュのようなものを感じだ。
「ま、まさか、あなたは、オリバー」
その姿を見た母さんがそう叫んだ。
「うむ、覚えていてくれて何よりだ。お前たちにあの時助けられたオリバーだ」
なんと聞けば、この国の王族のしきたりで、若いときに冒険者をするというものがあり、その際、王族であることがばれないように平民に化ける必要があるようだ。そして、その時に、コンビを組んでいたのが、なんとブルックリム要塞司令官を務めるガイその人だった。
そして、ガイとは今でもつながっており、いろいろと情報をもらっているとのことだった。なるほど、だから、俺たちがミドクリグの屋敷に忍び込んだのを知っていたのか、そして、俺が母さんと父さんの息子であるということもそれで知ったようだった。
また、それで、わかったのだが、実はミドクリグはあの後、すぐに取り潰しとなり、当主をはじめ一族全員処刑されていた。ずいぶんと早いとは思っていたけど、あの時の被害者であるガイからの情報ならあの速さも納得である。
「知らなかったとはいえ、数々のご無礼をいたしました」
父さんと母さんはすぐに跪いて過去のことを謝罪した。一体、何をしたんだ。
「よい、2人とも、息災で何よりだ。あの時の恩は今でも忘れてはいない。まさか、その息子にも助けられるとは、思わなんだがな」
「い、いえ、愚息が大変失礼をいたしました」
「よき息子を育てた、余も見習いたいものよ。さて、此度の件においての褒美を与えねばならぬな」
陛下が突然そういってこれまでの雰囲気とは別に厳かな雰囲気となった。
それを見た俺たちは有無を言わせず全員が跪いた。
「褒美として、金50万フィリクを与える」
ご、50万フィリク!!!
俺は心の中で絶叫した。
それはみんな同じようで驚愕で目を見開いていた。
「また、代表して、ファルターに騎士爵を与え、シタナエール丘陵を領地として与えるものとする」
といってきたから、さらに俺たちは驚いた。
って、まじかよ、ありえないだろ。
騎士爵は平民が受けることができる唯一の爵位だ。だから、百歩譲ってこれはいい。しかし、領地を与えるというのは過去にも前例がないことだった。
その証拠にその場にいた貴族連中が騒ぎだした。
「へ、陛下、領地を与えるなど、ありませんぞ」
「お考え直しを……」
「平民に、領地などを、何をお考えなのですか」
「静まれぇ、これまで、暗殺ギルドは国を挙げて討伐をするように命じておったはずだ。それを一体だれが成し遂げた。ここにいるファルターは見事、成し遂げたのだ。これはその褒美である」
陛下がそれを言い出すとそこにいた貴族連中が一斉に黙った。
「ファルターよ、今後は、ファルター・ド・シタナエールと名乗るがよい」
「……はっ、承りました」
こうして俺は暗殺ギルドをつぶしたら、なぜか領地と騎士爵を与えられてしまったのだった。
ちょっと、意味が分からないが、陛下から与えられたものを断ることもできず、ほんとに困った。
俺がそうやって困惑している中、陛下はさらに言葉をつづけた。
「さて、次に、アルディオン」
「はっ、はい」
突然降られてアルディも困惑した。
「今後、お前を甥として、可愛がることができないのはつらいが、お前には伯爵の位を与える。そして、アウディオレに変わり、セルミナルクを治めよ」
などといっている。
「えっ、お待ちください、陛下、僕、いえ、私がセルミナルクを、ですか」
「そうだ」
「しかし、私は、今回何もしておりません」
「お前の功績は、ここにいるファルターたちと縁を結んだことだ。これにより、暗殺ギルドを壊滅させることができた。それに、この者の両親は、我が命の恩人であり、我が友人の恩人でもある。それに、ファルター自身もまた、我が友人と、お前たちを救った。そんなものたちとの縁をお前が結んだのだ。これは2つとない功績であろう」
国王陛下はそんなことを、アルディに言った。なにか無理があるような気がするが、周囲はそれで納得したようだ。
「わかりました、陛下、謹んでお受けいたします」
こうして、アルディもまたセルミナルクの領主となった。




