第36話 作戦開始
今まで散々迷惑をかけられた暗殺ギルドをついに潰すこととなった。
そのための作戦会議を今現在俺たちの屋敷食堂で行っている。
といっても、まだ、黒幕であるギルドマスターの正体を話しただけであるが、一番の頼みの綱であるアルディとルミナが先ほどから硬直してしまっている。その理由は彼らの家とも深いかかわりのある、アウディオレ家がその正体だと俺が言ったからだ。
「……ファルター様、それは本当のことなのですか?」
ルミナが信じられないといった感じに恐る恐る聞いてきた。無理もない。
「ああ、間違いない、残念ながら証拠はまだないけどな、俺たちはそう確信している」
「その理由をうかがっても」
アルディも恐る恐る尋ねてきた。
「ああ、いいぜ、さっきも言ったように最初はただの依頼人だと思っていた。しかし、あまりにもしつこいからな、だから、依頼人、つまり、アウディオレ家の末弟で、貴族冒険者でもある。ザイハーの後をつけたってわけだ」
もちろん、ザイハーもそこまでバカじゃない、なかなか尻尾は出さなかった。
しかし、尾行を初めて1か月ほどたった時、ついにザイハーがセルミナルクのある建物内に消えた。
そこは、ザイハーとは別に調査した暗殺ギルドの主要施設だった。
そこでさらに尾行すると、その先にいたのは、アウディオレ家の次男サラエル・ボレロ・ド・アウディオレがいたのだ。
そして、その時の会話は、俺たちとは別のやつを暗殺してくれというザイハーからサラエルへの依頼だった。
「それでは、まさか」
「そうだ。サラエルこそ、暗殺ギルドギルドマスターだ」
「そのあとも、アウディオレ家の人たちを尾行して、それぞれの役割もわかったわよ」
まず、アウディオレ家の家督はザイハーやサラエルの父親、チェザレ・ビルス・ド・アウディオレで、その長男は跡継ぎとして、貴族の仕事に従事。チェザレの弟が王都支部の支部長、それからもそれぞれ一族が支部を管理しているというわけだ。
「とまぁ、そんな感じで一族総出で暗殺ギルドを切り盛りしているってわけだ。そんな中ザイハーだけがバカだったことで、それから漏れて冒険者となっていたわけだけど、よく言うだろ、バカな奴ほどかわいいって、その通りで、ザイハーは一族から可愛がられていたようだ。だから、やつの申し出を断り、頭角を現している俺たちを執拗なまでに狙うようになったというわけだな」
俺は言っていてあきれていた。
「あきれた話ね」
愛美も聞いていてあきれている。
「……わかりました、確かにファルター様のおっしゃる通りアウディオレ家が大きくかかわっているようですね。ですが、それを立証するのは難しいかと存じます」
ルミナは冷静にそう言った。
「だろうな、相手は貴族、俺たちじゃ相手にもならないし、証拠はさっきも言ったように俺たちが見聞きしたっていう程度。それじゃ、何の証拠にもならないからな」
「なんで」
ここで、日本人である愛美が疑問に思った。
確かに日本なら十分な証拠だろう。
「この世界には身分があるからな。俺たち平民が貴族に逆らうことはできないし、貴族を捕らえるには確固たる証拠がいくつも必要になる」
「理不尽」
「だな、俺もそう思う、でも、まぁ、証拠のあてはあるけどな」
「それは本当ですか?」
「アウディオレ家の屋敷かギルドに忍び込めばあると思うぞ。ただし、そのためにはお前たちの協力がいるんだけどな」
「私たちは何をすればよろしいのですか?」
「アウディオレ家の連中を一か所に集めてくれ、もちろん真意がばれないようにな」
「一か所に、ですか」
「もしかして、全員ってことですか」
「そうだ、たとえ俺たちが突然襲撃してもやつらは証拠を隠すだろう、実際、1つ支部をつぶしてみたけど、証拠品はすべて持ち去られていたよ」
「そういえば、俺たちも1か所つぶしたことがあったな」
そこで父さんが言い出した。
「そうね、そういえばその時も何もなかったわよね。誰もいなかったし」
どうやら母さんたちも俺たちと同じことをしたようだった。
しかし、俺たちと母さんたちとは一つ違う、俺たちは持ち出された痕跡を見つけたからだった。
「というわけで、やつらが持ち出す前に襲撃する必要があるんだよ」
「なるほど、わかりました、父に頼んでみます。ファルター様の頼みなら父もむげには断らないと思いますし、相手が暗殺ギルドならなおさらです」
「ええ、私もお父様に頼んでみます」
こうして、アルディとルミナはそろって実家に飛んで帰った。
そんな日から3週間ばかりが過ぎた。
あれから母さんとエニスがブースターに興味を示し、仕方なく2人にも制限なしのブースターを渡した。わけだが、2人の戦闘力がありえないくらいに増加した。母さんはすでにブースターなしで、それを使ったフィーナと互角の戦いをしていたというのに、制限なしとなったために一歩間違えばこの国が無くなりそうだ。
そして、エニスは、最近愛美から女型を教わっているためにその強さがさらに増している。今も、愛美の指導の下そう術に絞って技を繰り出している。
また、愛美の仲間であるサーラとクルムも俺と父さんで指導した結果、上級上位の魔法も扱えるようになっているし、ほかにも様々な俺の一族特有の魔法を覚えて言った。
実はこの2人、俺と父さんがいるせいで陰に隠れてしまっているが、かなりの魔法使いだ。多分俺たちの一族がいなかったら世界有数の魔法使いになっていたと思う。
とまぁ、そんな感じで過ごしていた。
まさにその時、屋敷にアルディとルミナがやってきたのだ。
「ファルター様、お待たせいたしました」
「おう、首尾はどうだ」
俺はさっそく尋ねてみた。
「はい、1か月後にアウディオレ家の者たちを集めることとなりました」
おう、さすがだ。俺は素直に感心していた。
「ですが、1つ問題がありまして」
そのつかの間ルミナが不穏なことを言ってきた。
「問題って、なんだ」
「はい、その、実は……」
それからアルディが語ったことは俺たちには衝撃的だった。
アルディが実家に帰ると、そこにはなんとなぜかこのマナリズ王国、国王オリヴァルト・ダーナ・グランレス・ド・ラ・マナリスその人がいたそうだ。
俺がなんでと聞くと、何でもアルディの母親レーナはなんと国王の末の妹だそうだ。といっても、彼女は幼いころに王位継承権を破棄している。そのために国王はとてもレーナをかわいがった。そして、その息子でもあるアルディはいくら母親が王位継承権を破棄しているとはいえ王族の血を引いているということもあり、王位継承権がある。まぁ、かなり下位だそうだ。だから、アルディもそれを破棄して冒険者をしているというわけだ。
そんな理由から、国王は時々親族で唯一かわいがることができるアルディとその母親のもとにやってきているそうだ。
その時もタイミングが悪いのかいいのか、国王がその場にいた。
しかもその時すでにアルディは父親のシンダリオン公爵に頼みたいことがあることを伝えてしまっており、それを国王に話してしまっていて言わざる負えない状態だったそうだ。
まぁ、暗殺ギルドのことは国王も無関係ではないからそこまで問題でもない。
「陛下はなぜかお2人のことをご存じでして、以前ミドクリグの屋敷に忍び込んだとか」
「ああ、確かにそんなこともあったな」
俺はあの時救出したガイを思い出そうとしたが、次のアルディの言葉で吹っ飛んだ。
「アウディオレ家の者たちは陛下が王城に呼び寄せるそうですが、その場にその証拠を持ってくるようにとのことです。それも、忍び込んでくるようにとおっしゃっておりました」
「はぁ、王城に、忍び込めだって!!」
暗殺ギルドをつぶすという話から、なぜか王城に忍び込むというとんでもない事態になったが、まぁ、何とかなるだろう。ミドクリグに比べればかなり難易度が高いが、俺とフィーナならおそらく問題ない。
「すみません。こんなことになって」
ルミナが申し訳なさそうに謝ってきた。
「ああ、気にするなって、びっくりして叫んだけど、お前たちのせいじゃない」
「そうよ、気にしないで」
「しかし、陛下は衛兵には何も知らせないと、もし、捕まった場合は大罪人として処罰されてしまいます」
ずいぶんと無茶な話であった。
「そうか、まぁ、何とかするさ」
「そうね」
それから、俺たちは作戦会議を考えることにした。
といっても、大まかには考えてあった。違いがあるとすれば、場所が王城になり、陛下に直接届けなければならないということだろう。
「それで、アウディオレ家の連中はいつ王城に呼び出すんだ」
「はい、いまから、3週間後です。その日、王城に彼らを呼び出し、陛下が裁かれますので、それまで証拠を持ってくるようにとのことです」
「なるほどな、それじゃ、それから逆算して、それぞれの決行日を決めるか? 愛美、計算頼めるか」
「任せて」
「マナミそんなことできるのか」
父さんが驚愕しながら愛美にそう尋ねていた。
「そこまで難しくないよ。私がいた世界ではみんなやろうと思えばできるし」
「ということは、ファルター、お前もできるのか」
「まぁ、たぶん、ただ、俺はこっちに来てから15年たっているからなぁ、計算方法忘れてると思う」
実際、ほとんどを忘れていた。それに、俺はもともと数学とか苦手だった。それに対して愛美は成績も優秀で苦手科目もないという才女だった。
兄妹でなぜこんなに違うんだと理不尽に思ったものだ。
そんなことを話しているとどうやら計算が終わったようで、詳細な作戦会議を行い。
ついに暗殺ギルドを壊滅させるための作戦となった。