第31話 3位決定戦と武術大会終了
フィーナとの戦いから翌日、今日は3位決定戦と決勝戦が行われる。
俺の試合は3位決定戦というわけで午前中だ。
そういえば、俺は今大会では午前中ばかり闘っていたような気がする。
などとくだらないことを考えながら武舞台に上がった。
俺の相手はエルモ、騎士のような井出立ちで鎧を身にまとい、盾とブロードソードを携えていたので、俺もそれに合わせて刀を腰に差していた。
「さぁ、いよいよ、本大会も残り2戦となりました。まずは昨日惜しくも敗れたお2人による3位決定戦です。ここまでのこっていただけにこの2人の実力は目を見張るものがあります。正当な騎士エルモ選手か、はたまた魔法使いでありながらここまで残るという偉業を行っているファルター選手か、注目の一戦となりました」
エルモを見ると、確かに正当な騎士らしく堂々としており、俺が魔法使いだからと油断している様子もない、ここまで残っているだけに、その実力も相当なものだ。
俺は気を引き締めて対峙することにした。
「さぁ、始めてください」
そして、俺とエルモの試合が始まった。
さて、どうやって攻めてくるものか。
そう思って、エルモを見てみたが一向に攻めてこない。
どうやら俺がどう動くかを待っているんだろう、なら、俺から攻めるしかないだろうな。
俺はそう思って、一気にエルモとの距離を詰めようと迫った。
その瞬間エルモは盾を構えて防備を固めた。
それを見た俺は身をかがめて盾の死角から一気に突きを入れようとしたがそれも防がれてしまった。
そして、その時エルモは右手で持っていた剣で斬りかかってきたのだった。
「うぉ、アブねぇ」
俺は何とかそれをよけることができた。
実はここまでは予想通りだった。
俺はエルモと距離をとると言った。
「やっぱりつえぇな、この体じゃ入る隙間もねぇな」
事実そうだった。俺は決行本気で向かった結果がこれだったからだ。
まぁ、負け惜しみじゃないけど、前世の体僚一の体だったらたぶん一撃ぐらいは入れることができたと思う。
それだけ、ファルターの体と僚一の体では身体能力の基礎が違うということだ。
「君もなかなかに強いじゃないか、でも、それもここまでのようだね」
エルモもなんだか偉そうにそういってきた。
「それはどうかと思うぜ」
俺はそう言って、腰に差していた刀を左手で鞘ごと抜き柄が左に来るようにして目の前までもってきた。
「その剣を捨てるのかい」
「まさか」
俺はそう言って、鞘の恥についている留め具を外し、それを右手でつかみ鞘を引き延ばした。
「なっ」
エルモが驚いている中今度は手首をひねって刀を立て柄にある留め具を外し、ゴトという音を聞いてから、さらに柄頭をもってそこを引き延ばした。
そう俺の刀は長刀へと変化したのだった。
実は俺の刀は特殊な作りをしており、普段は脇差より少し長い程度の長さしかないが、このような操作をすれば長刀と同じ名k傘にすることができる。
なぜかって、それはもちろん普段は体術と組み合わせる、長いと邪魔だからな。でも、上森の技にはこういった長刀を使った剣術もあるというわけだ。
そして、この剣術こそ、上森の真骨頂だったりするわけだ。
「なんだ、その剣は、長さが変わるのか」
エルモは驚いている。
「まぁな、といっても安心しろ戦闘中に長さなんて変えてられないし、これ以上は長くはならないからな」
俺は、刀を右手に持ち替えて腰に差し戻してから鍔をはじいて刀を抜いた。
「さて、お前は、騎士剣術をやっているようだが、俺が本当の剣術という奴を見せてやるよ」
俺はそう言って、抜いた刀を正眼に構えた。
「言ってくれるね、純粋に剣術を学んできた僕にそんなにわかで勝てると思っているのかい」
「悪いけど、こっちが本命だ」
そういってから俺は先ほどと同じようにエルモに向かっていった。
エルモは先ほどと同じように盾を構えたが、俺が迷わず刀を振り下ろすのを見てすぐにそれを引いた。
「いい感だ」
俺の刀ならエルモを盾ごと斬れる。
エルモはそれを感じ取ったようだ。
その後は俺が勝たなをふるい、それに押されるようにエルモが何とかさばくという状態が続いた。
「バカな、ボクの剣術が通用しないなんて」
「言ったろ、本当の剣術を見せてやるって」
それからも俺の攻撃はエルモを苦しめた。
そして、俺の刀がエルモの剣を巻き上げた。
「ぼ、ボクの負けだ」
エルモがそういって負けを認めたことで俺の3位が確定した。
「な、なんと、ファルター選手、見たこともない剣を使い、見事剣士であるエルモ選手を倒した。これにて、武術大会第3位は魔法使いファルター選手に決定しました」
「うぉぉぉぉぉおおおお」
会場からは割れんばかりのかんせいが上がった。
「まさか、ボクが剣で負けるなんて、ボクはどうやら調子づいていたようだよ」
「そうかもな、でも、十分強かったぜ、そこらの剣士にはたぶん負けないだろうな」
「ああ、ぼくもそう思っていたよ。でも、君には負けた」
「まぁ、俺のは少し特殊だしな」
事実そう思う、刀を使った剣術はこの世界にはないからな。
「そうだね。僕もこれからはさらに精進することにするよ、今度は君に勝てるようにね」
「そうか、まぁ、頑張ってくれ」
これで、俺の武術大会は終わった。
午後となりついにフィーナの試合、本大会の決勝戦が行われる。
フィーナの相手を務めるのはブルデウスという30代の男で、前回の大会の優勝者だそうだ。
昨日ブルデウスとエルモの試合を見ていたが、さすがは優勝者という実力の持ち主だった。
少なくとも俺では勝てそうになかった。
まぁ、負け惜しみじゃないけど、前世の俺だったらたぶん何とか勝てたと思う。
「フィーナ、油断するなよ。あいつ相当に強いからな」
「ええ、わかってる、今までの相手とは比べもにはならないってことはね」
フィーナも気合十分だった。
「フィーナさん、頑張ってね」
「ご武運を……」
「フィーナ様なら大丈夫だって」
「うん、うん」
そんなみんなの応援を受けてフィーナは武舞台に向かっていった。
そして、フィーナとブルデウスの試合が始まったのだ。
その試合、一言いうなら、超絶バトル。
フィーナは全力で戦っている。そんなフィーナにブルデウスは見事について行っているという状態だ。
「……す、すごい」
応援しているサーラクルム、ポルティも、使用人たちもそんなことをつぶやきながら食い入るように見つめていた。
そんななか、俺だけはあることに気が付いていた。
エルモと戦っている時は実力差があったから気が付かなかったけど、相手が同等の強さであるフィーナだと、はっきりとわかるな。
――――――あれは、母さんの技だ。
そう、今俺の目の前にフィーナと戦っているブルデウスの技は、俺のこの世界での母親が使うわざと同じだった。
といっても、見た限り同門というわけではないように思える。もしそうなら、かなりの未熟だ。なぜなら、もしそうならかなり粗いからだ。
おそらく、以前母さんかその同門の人の技を見て、模倣しているんだろう。
それにしてもそれを物にしているあたり、ブルデウスの才能がよくわかるというものだ。
そんなことを考えていると、そろそろ2人の勝負がつきそうだった。
そして、ついに勝負がついた。
「勝利したのはフィーナ選手です。女性であり、若干15歳という若さで本大会優勝となりました」
司会も女性だということから、若干嬉しそうに、実況していた。
「やったね。お兄ちゃん」
愛美も嬉しそうだ。
「うん、うん、ほんとに強いよね。フィーナちゃん」
ポルティがそれに続いた。
「……優勝、したんだね」
「……うん、すごい、すごいよ。フィーナ様」
サーラとクルムはもはや、あこがれの人を見る目で、武舞台で手を挙げているフィーナを見つめていた。
そのあとは、そのまま表彰式へと移り、俺も3位ということで武舞台に上がった。
「皆さま、これにて武術大会は終了となります。こちらの3名と本大会出場者に拍手をお願いします」
こうして、今年の武術大会は終わった。
それから、優勝したフィーナだけが国王主催の晩さん会に出席したが、緊張や周囲の貴族からはなしかけられたり、うちの街に来ないかとスカウトを受けたりとあまり楽しめなかったようだ。
「それじゃ、帰るか」
「そうね、みんなにも早く会いたいしね」
俺たちは屋敷で留守番をしているほかの使用人たちに早く会いたくなっていた。
「セルミナルクか、どんなとこだろう」
そして、当然のように俺が乗る馬車には愛美とサーラ、クルムとポルティが乗っている。
おかげで、使用人たちが乗る馬車を急遽借りる必要が出てきたのだった。
「それにしてもほんとによかったのか」
俺のこの質問はサーラとクルムに向けたものだった。
「はい、私たちもとくにバナリーズに思い入れがあるわけでもないですし、マナミが行くんなら当然行きますよ」
「そうそう、私たち、パーティーだしね」
「2人とも、ありがとう」
「そうだな、ありがたい」
ちなみにだが、俺たちが早く帰ろうと思った理由の1つとして、散々うざかったマリクが王都に残るということでそれじゃ、うざくなる前にさっさと帰ろうということになったからでもある。