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~~バイエル公国・闘技場~~
闘技場、そこはプレイヤー同士が戦うことを許される唯一の場所。
PKのない世界で、唯一相手を直接攻撃できる場所だ。
ルールはシンプルで、HPが1になったら負け。
HPは1以下にならないので、その瞬間に戦闘不能になるからだ
尚、薬品等のアイテムは禁止だ。
観客として、何度か見たことがある。
イベントとして戦ったこともあるが、その時の相手はNPCだ。
そんな僕は、ロゼのセコンドとして参加する羽目になっていた。
何より、僕が驚いたのが対戦相手だ。
「まさかここで、リベンジができるとはな」
「ズイーバー、あんただったのね」
そこには灰色フードをつけたズイーバーが立っていた。
巨大なハンマーを片手に、ロゼを睨んでいた。
ロゼもまた、巨大な斧を背中に担いでズイーバーに向かっていく。
ハンマーと巨大な斧が交わった。
「最近退屈でね、廃人としてゲームを極めたから。
だからもう一つのアカウントを、作ったわけよ」
「へえ、それは随分趣味悪いものね」
「だろう、お前のことがもともと気に入らなかったからな。
わがままで、強くて、運が良くて……かわいい」
「な、何を言っているのよ!」
ロゼがグランドアクスを振り抜く、ズイーバーもミョミルハンマーでロゼを叩く。
「ううっ!」
「きゃあっ!」ロゼとズイーバーの攻撃がそれぞれ当たる。
ダメージはロゼの方が高い。互いに吹き飛ばされて、離れた。
「あたしのほうが有利みたいね」
「さすが、最強の廃人戦士だ。これでこそ倒しがいがある」
ロゼが嬉しそうに大きな斧を構えた。
ロゼとズイーバーの戦いに歓声が湧き上がる。ある意味互いに廃人同士の戦いだ。
レベルが僕らよりもはるかに高い。特にロゼの一撃は食らいたくないものだ。
「だけど、切り札はある」
「ただのハッタリよ」
斧を持ったまま、ロゼがまっすぐ突進してきた。
「突進しか脳がないの?昔と同じだな」
「なによっ!」
「ロゼは進歩がないっ!」
ズイーバーはそう言いながら、ハンマーを振り上げて振り下ろした。
「大地粉砕っ!」
「そんな前で打ったからって、効果無いわよ!」
だけど、ズイーバーはロゼの前でハンマーを振り下ろした。
ロゼが足を止めて、ズイーバーを見ていた。
「穴があいた?」
「そういうことだ。俺は戦士ではない、錬金術師だ」
ズイーバーが魔法を詠唱していた。
「させないわよっ!」
ロゼがすぐさま武器を持ち替えた。アルテミスだ。豪華な装飾の弓が出てきた。
ロゼが弓を構えて、放つとズイーバーに矢が刺さる。
「どう?あたしはいろいろ持っているのよ」
「しかし、魔法が完成した。自然治癒」
「それって……」
「錬金術師にも回復はある。君の攻撃であっという間に殺されてしまう」
「そうね、あたしの火力は最強だから」
ロゼが胸を張っている間に、もう一つの魔法を完成させていた。
(にしても、詠唱が早いな。ズイーバーの魔法)
「筋力上昇、厄介ね」
「君は俺に勝てない」
「冗談を言わないでっ」
ロゼがアルテミスで矢を放つ。だけどロゼの攻撃を避けるように、穴を避けた。
避けたまま、ロゼの方に直接向かっていく。
「あたしと直接やる気かしら?」
「ええ、もう一つ魔法をかけていますから」
それは、直ぐに僕はわかった。
「速度上昇かっ!」
僕が叫んだとき、ロゼはアルテミスから真っ黒な槍を握る。
ゲイボルグだ。動きが早くなったズイーバーは得意げな顔で、ロゼを見ていた。
「これでっ!」だけどロゼの攻撃が空振りした。
「そういうことだっ!」攻撃を避けたズイーバーがミョミルハンマーでロゼを叩く。
ハンマーがロゼの脇腹に直撃、ロゼが吹き飛ばされた。
「いやあっ!」ロゼが地面に叩きつけられた。
「君の攻撃はもう届かない」
「まさか……」
「さて、次はどの強化魔法を使おうか?」
不敵に笑いながら、ズイーバーが魔法を詠唱していた。
よろけたロゼが、立ち上がって肩で息をしていた。唇を歪ませて睨んでいたロゼ。
「怖い顔するなよ、錬金術師はソロ最強のキャスパルなんだからよ」
「あたしは負けないっ!」ゲイボルグを構えて、走り出す。
だけど、ズイーバーは一つの魔法を完成させた。
「まあ、ロゼの攻撃は痛いからな。一撃でひっくり返す力がある。
こいつでトドメといこうか」
そういいながらハンマーを持って構えた。
「ふざけないでよっ!」
「『衝撃攻撃』っ」
険しい顔でロゼが、ゲイボルグをズイーバーに突き刺した。
それを迎え撃つようにズイーバーが、ハンマーを横に振り回す。そして……
「うそっ!」ロゼの胸のあたりにミョミルハンマーが急に伸びた。
伸びたハンマーが電撃を放つ。
ロゼに命中し、体が吹き飛ばされた。
「もうひとつの魔法、それは範囲上昇武器だよ」
ロゼのゲイボルグの槍先は届かなかった。
そして、ロゼのHPが1になった。




