092
~~バイエル公国・バイエル公爵の庭~~
バイエル公爵の庭は、とてもよく手入れされていた。
まるで空中庭園のように、色とりどりの花と雲も見えた。
このエリアだけ、エリア的に高台に作られていた。
雲よりも高いって、標高三千メートルでもあるのか。
そこは、デートスポットやイベントをするのにもってこいだ。
日が出ている時は幻想的な雲、日が沈むと満天の星空。
ロマンチックを演出する究極のエリアだ、NPCも少ないしクエストもない。
(ゲーム時間の夜、つまり後十分後にここでバイスがライブをする。
僕はバイスの行動を探りながら、調査をするわけか)
ネットでバイスの情報が出ていた、タイムテーブルまで出ているあたりがさすがアイドルか。
それでも、このネットアイドルはプレイヤーであって運営が用意したイベントではない。
時刻は夕方だ、ゲーム内時間の夜までリアルで十分ほどある。
既に前に人だかりが出来ていた。
(相変わらずすごいな、アイドル人気)
僕は人だかりを見ながら、感想を漏らす。
数にして二十人ほどだ。見た目は正装、戦闘向きよりは見た目装備が多く目立つ。
男女比は、ほぼ半々といったところか。
「バイス様、かわいいっ」
「バイス様、握手を」
「バイス様、こっちを振り返って」
エリアチャットでみんな大騒ぎだ。
「これこれ、押さない押さない。
今日の夜にライブするから、みんなもう少し待ってねっ!」
群衆の中央には、目当てのアイドルがいた。
小さい体のアイドルバイスは、大きく手を振っていた。
制服を模したアイドル風の衣装で、長い髪をなびかせた少女が愛想よく振りまいていた。
一瞬、僕は前に見た怪盗と顔を重ねた。
(目といい、髪といい本当にこいつだ)
すべてを比較して、バイスの顔のパーツが一致した。
だけど、群衆は多くて近づくのは難しい。
(さて、思った以上に人気だな。人も多い、どうやって……)
などと思っていると、偶然バイスと目があった。
「あっ」僕はそらそうとしたが、バイスの表情が明るくなった。
それと同時に、バイスが群衆をかき分けた。
「お、お兄様っ!」
いきなりバイスが一直線に、僕の方に近づいてきた。
半分泣き出しそうな顔で走ってきた。
そのままバイスが僕に抱きつく。
「お兄様?そんなもの知らない?」
「何を言っているのですか、お兄様。わたくしずっと会いたかったですわ」
バイスが顔を上げて、笑顔を見せていた。
ネットを騒がせるバイスとは、全く面識がない。
だけどこのクセのある喋り方は、どこかで聞き覚えがあった。
それと同時に、群衆の冷たい視線が僕に突き刺さった。
「君は何者……」
「ねえ、打墨 蒼一お兄様」これを小声で言うバイス。
「バイス……お前。まさか」
「ふふっ、わかったでしょ」
バイスが、僕に対して腰を振って誘惑してきた。
髪をなびかせて、僕の胸に頭を押し付けてきた。
だけど、僕は背後から殺意のようなものを感じた。
「あんたは偽物なのっ。お兄ちゃんはあたしの!」
すごい剣幕で、ロゼが猛ダッシュで僕に向かって突進してきた。
まるで獲物を見つけたデンジャラスバッファローみたいに、襲ってきたのだ。




