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~~キュベリオン・アラビス高原~~
バトルエリアであるアラビス高原は、常に人が多い。
一応ルームの少ないエリアに来たのだけど、ここにも人はいた。
そこは草原、象と恐竜が住む巨大生物のエリア。
敵がやたらとデカくて、人間が小さく感じた。
当然、それなりに強いわけだが。
敵を狩ることでも素材を集めやすいが、採集にも適していた。
ここで採集ができるのは草刈だ。僕は草原のほぼ真ん中で、草刈をしていた。
手に草刈鎌を持って敵を避けながら草を刈る。
小さき見える先に、ロゼがいた。やっぱり草刈鎌をもって走っていたが。
「草刈って地味すぎでしょ」
「まあ、ここでは『フェアジョア』がレアで取れるらしい」
「『フェアジョア』ねえ。本当に取れるの?」
そういいながらも、僕は草刈ポイントを見つけては草を刈る。
幸いにも、ここはエリアが広いのでバラければポイント探しは早い。
前の木こりと違って、ポイントが集中していることはなさそうだ。
パーティチャットで会話していれば、外に言葉がもれない。
「ただ、モンスターには気をつけろよ」
「大丈夫よ、お兄ちゃんこそやられないようにしなさいよ」
「僕は絡まれるほど弱くない。いざとなれば寝かして放置でもするさ」
「まあ、競争相手はいないみたいだしね」
「だいたい象牙狩りをやったほうが、金にはなるから。
やり方さえ間違えなければソロでいけるし」
確かに、僕の周りには象と戦っているパーティが見えた。
ちょうど象が覚醒していたが。
「あら、象に絡まれ」
「ロゼ、今行く!」
僕はロゼがパーティ会話で行ったので、急いで向かうことにした。
だが、そんな僕はあることに気づかなかった。
ロゼの方に駆けつけて、草原を走る。
遠くで象が見えた、おそらくそこでロゼが戦っているのだろう。
「見つけたっ!」そう思った瞬間、僕はいきなり背中を牙で襲われた。
「ぐっ、なんだ?」
僕のHPが三割ほど減った。
振り返ると、そこにはヘルヒューマがいた。
チーターのような獣が、僕の背中に不意打ちを入れていた。
「クソッ、後ろを取ったか」
「なに、何?」パーティ会話のロゼ。
「なんでもない」
だけど魔法を詠唱する前に、さらに横からヘルヒューマは僕に爪で攻撃。
僕は後ろに下がるしかなかったが、HPを削ってきた。
「くそっ、二匹かよ」
至近距離で間合いを潰すヘルヒューマは、動きが素早い。
魔法を使う前に攻撃を受けて、魔法が中断された。
「だったら盗賊で」
レヴェラッソで盗賊に切り替えた、短剣を持って屈む。
二匹のヒューマが、すぐに僕に襲いかかってきた。
「邪魔だっ」僕は向かって来るヒューマに、短剣で攻撃を入れた。
だけどヒューマの動きがさらに上回って、爪が二発ヒット。
さらに僕のHPが削られた。
「ちっ、強いな」近接攻撃は、得意ではない。僕は苦戦を強いられた。
絡まれても、相手の距離を取って戦うのが僕のスタイルだ。
当然、近距離戦にはめっぽう弱い。近接攻撃で動きの速いヒューマは分が悪い。
(逃げるか……でもやつの足だと追いつくな)
襲ってくる二匹のヒューマ、僕は次第に追い詰められた。
じりじりと削られるHP。そのままヒューマが僕にのしかかった。
「うわっ!」
ヒューマに押し倒された僕のHPは20%にまで下がっていた。
そのまま、身動きがとれない僕にのしかかって押さえ込む。
もう一匹が、僕の頭で前足を振り上げた。
だが、いきなり僕に馬乗りになったヒューマが飛ばされた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
ヒューマが降りると、僕は体の自由が利く。
振り下ろした爪をかろうじて転がることでかわした。
草原を転がった僕が、上を見上げる。
上にはたくましい姿のロゼが、巨大なハンマーを持っていた。
「ロゼ……助かった」
「あたしが仇を取るわ、お兄ちゃん」
そう言いながら、ロゼはあっという間に巨大なハンマーでもう一匹のヒューマを沈めた。
やっぱり廃人のロゼなら一撃だ。
「大丈夫?」
「ああ、なんとも情けない兄だな」
「ううん、そんなことないわ」
ロゼは心配そうに僕のことを抱きしめた。
半泣きのロゼの頭を、僕は優しく撫でていた。
「もう心配しなくていいよ。ごめんね、ロゼ」
「うん、お兄ちゃん。それよりもあそこに」
ロゼが指さしたところには、草刈ポイントが見えた。
立ち上がった僕は、鎖鎌を持ってポイントに近づく。
「ここにも沸くんだ」
「とりあえず、回収……」
そしてここで、運良く目的のアイテム『フェアジョア』が出てきた。
黄色い果実が、眩く光って見えた。
「やった、ゲットした」
「あとは……」
「問題の『ネクタル』ね。とりあえずヴァイオレットに声をかけるわ」
「相手はなんだっけ?」
「『ホーリーワーム』、だけどモンスターより難敵がいるわ」
ホーリーワームという言葉に、僕は数時間前にネットで見たマジック・クロニクル板のことを思い出した。




