007
結局、あれからバイトの疲れがあって眠ってしまった夜中に眠っていた。
マウスを持ったまま寝ていたらしい、だけど朝になってやかましい幽霊に起こされた。
だけどロゼの幽霊は朝もいた。パソコンで調べても答えはなかった。
僕は本業の一つである学校に向かう。僕はそもそも学生だ。
幽霊のロゼは僕に無理やりついてきた。もちろん反対したが、聞かなかった。
ついてきたことでひとつわかったのが、ロゼはほかの人には見えないということだ。
街ゆく通行人も、ロゼの姿には気づかない。それは好都合だ。
そんな僕はブレザー姿で、学校の教室にいた。
教室、そこは僕の第二の睡眠場所だ。
ほとんどまともに授業を受けることなく、僕は眠っていた。
授業も全部終わったが、それを起こしたのは教師ではない。
「起きなさいよっ!」
僕の耳元で叫んでいたロゼだ。
朝から学校の通学路、いろんなところで僕に騒いでいた。
眠そうな目をこすりながら出てきたのが、険しい顔の女アバター。
なぜ僕はこんなアバターの幽霊にとり憑かれたのだろう。
この悪夢はいつ覚めるのだろうか。
「眠いんだよ、いろいろ調べたけど」
「それでも授業は、ちゃんと受けなさいっ!高校生でしょ」
「お前、やかましいぞ!」
ロゼが耳元で叫ぶから、僕は寝不足だ。
このままだと睡眠不足で、僕は死んでしまうかもしれない。
まさに呪われた幽霊だ。こうやって幽霊は、呪って人を殺すのだろうかと考えさせた。
「ロゼは、周りにも見えないらしいな」
「そのようね、実態もないし。ほら」
ロゼがなぜか僕の頭に右手を伸ばして、貫通させていた。
ロゼの細い腕が、僕の頭をすり抜けていた。
どうやらロゼの姿は一般人には見えないらしい。
ロゼの喋っている言葉も、周りには聞こえないようだ。
だから僕が独り言を言っているように見える、それはそれで問題だけど。
「やめんか、鬱陶しい」
「ええっ、だって面白いじゃない」
なぜか笑顔で、ロゼが貫通する僕の体を楽しんでいるようだ。
「面白くない、遊ぶな!」
「いいじゃない。ほれほれほれっ、飛び出る美少女」
「だから遊ぶなって」
「何で遊んでいるんだ?」
そんな時、僕の机にひとりの男がやってきた。
僕と同じブレザーを着て、真っ白は肌、やや長い髪に優しそうな顔。
一見するとどこかの王子様的風貌だ。
ボサボサ髪の僕と正反対の男だ。
「ああ、猿楽場か。
ちょっと寝不足で、寝ぼけていただけだ」
そんな猿楽場を、興味深く見つめる幽霊ロゼ。
目の前に顔を近づけているロゼがいるものの、やはり猿楽場は気づかない。
彼の名は猿楽場という、同じ小学校からの知り合いだから十年以上か。
唯一僕の黒歴史を知る人物ではあるが。
「そうか、またゲーム三昧か?」
「お前だって人のこと言えないだろ」
「そうだな。本当は勉強しないとね。夢もあるし。
明日は進路指導もあるから」
「マジかよ」面倒な顔を見せた僕。
「で、決まったのか?志望校」
「えと、何も」
「大学行かないの?」
「ああ……多分進学しないと思う」
僕は首を横に振っていた。猿楽場は周囲を見回した。
放課後になって、教室の生徒がどんどんいなくなっていく。
「そうか、大学だけが全てじゃないからな。専門は?」
「専門にもいかない……無理だよ。経済的に」
「もったいないな、結構頭いいのによ」
話が盛り上がる中で、猿楽場はなんだか寂しそうな顔を浮かべていた。
そんな話をしている中で、ロゼが僕に絡んできた。
「誰?」
「ああ、親友の猿楽場。小学からの親友、まあ僕の数少ない親友だ」
「へえ、いいな。友達かぁ」
「そっか、ソロ活動が多いからなロゼって。パーティであまり行動しないんだろ」
「うん、あたし強いからねッ。最強だし、ソロで十分」
「自慢するな!」僕が叫ぶと、不思議そうな顔みせた猿楽場。
「ん、どうした?蒼一」
「ああ、何でもない。独り言、独り言だよ。ほら」
ロゼに話すたびに、猿楽場には変な奴と思われているだろうな。
苦笑いでごまかそう。猿楽場はちょっと首をかしげたが、すぐにヒソヒソと耳打ちへ。
「マジカル・クロニクルで思い出した。今日、宝くじのアイテムは来るのか?」
「ん~、メッセージで申請したから、多分すぐに送られると思う。
あれって、現物じゃなくてデータだからすぐに用意できそうだけど」
耳打ちで返す。だけどそれをロゼに聞こえないはずもなく、
「そう、宝くじなのよ!」
いきなり僕の隣でロゼが騒ぎ出した。
「おいっ、なんで騒ぐ?」
「思い出した、あたし。マジカル・クロニクルで捕まったのよ」
「へ?マジカル・クロニクルで捕まった?」
「そう、そいつの名はゴモリ」
「ゴモリ?」
「おい、ちょっと何を言っているんだ?」
僕とロゼが話している最中、呆然と見ている猿楽場。
誤魔化しききそうもないので、僕はうすら笑みを浮かべて頭を抱えた。
「あははっ、やっぱりおかしいみたいだ。保健室いってくる」
「お、おうっ!お大事に」
僕は席を立って、保健室に非難することにした。
僕の背中には、とりついたロゼが追いかけていた。
最後まで猿楽場は困惑した顔で、僕の後ろ姿を見送っていた。




