044
~~サタルカンド、サタルカンド遺跡~~
あれから三十分、リアルでは夜中の十二時辺りだろうか。
だけど、あまり眠くはない。
むしろ僕は今、ギラギラしていた。
パソコン前で、胸が熱くなる自分がいた。
ロゼのこととはいえ、最強クラスの敵『グリフォンシグマ』と戦えるのだ。
ウルトラモンスターのような超大型モンスターと戦えるのであれば、こんなに胸躍ることはない。
普通のプレイヤーだと、到底たどり着けない領域なのだから。
そして、目の前には二十四人の選ばれし……というよりロゼとヴァイオレットに集められた精鋭たち。
その中に、僕たち小黒鷲旅団もいた。
現在僕たちは、遺跡の中を移動していた。
とは言っても、雑魚エリアで敵はたまに悪魔族が襲って来るぐらいだが。
「やばいぜ、緊張してきた」オランジュも興奮しているようだ。
僕たち小規模のパーティでは、全く無縁の相手だと思った相手だ。
「本当にすごいよね、みんなの装備」ロートが周りの人間を見ていた。
「すごいですぅ、強そうですぅ」
ゲルプさんも感心しきりだ。このパーティのリーダーは、ほぼヴァイオレットだ。
また経験者でもあるロゼが、ヴァイオレットを手助けする。
こうして見ると、普段一緒にいるロゼがなんだか眩しく見えた。
ブンデスグルペの構成はこうだ。
僕はゲルプとロートと一緒に第三パーティに入った。
ロゼは、もちろん第一パーティだ。オランジュも第一パーティだ。
「ロゼはアタッカーとしてやってもらう。サポートにはオランジュ」
指揮をするのはヴァイオレットだ。
まあ、『グリフォンシグマ』の戦闘経験があるから妥当なところだが。
「第一パーティはメイン、本体をやる」
「そうね、あたしに任せなさい」
ロゼが移動中の敵を倒しながら、反応していた。
「第二パーティは回復パーティだ。
神官四人と歌い手二人、錬金術師二人で強化を切らさないように回復。
回復で全メンバーを見る。リーダーはシュバルツ」
「了解です」シュバルツが静かに答えた。
小黒鷲旅団では、神官できるのはゲルプさんだけだ。
だけどメイン盾役もいなくなるので、ゲルプさんがやることはない。
最近はオランジュも上げているみたいだが。
まだまだ使えるレベルにはなさそうだ。
「さて第三パーティは、雑魚処理だ」
「雑魚処理?」僕がすかさず反応した。
「高レベルモンスターのいるエリアは、通常の雑魚と一緒にいるのよ。
ほら、前回のレッドドレイクのいたところも雑魚にオーガがいたでしょ。
あそこには悪魔族モンスターが多いから、各個撃破していってね」
「了解」僕は短く返事をしていた。
(悪魔族か……弱体がかなり効きにくいんだよな。早速、これが役立ちそうだ)
僕は、ゲルプさんが作ってくれた『黒天剣』を持っていた。
それでも、ブンデスという二十四人の集団で先を進む。
目の前には、阻むように真っ黒な人が他の悪魔の姿が見えた。
「ならば、これは効くかな」
黒天剣を使って、悪魔に麻痺を唱えようとした。
が、その前に倒してしまう。
廃人たちの火力は、僕の想像の一つ上を行く。
「はやっ!」
僕が弱体を試す暇もない、これがヴァイオレットの率いる廃人軍団の強さか。
「ね~、あたしも頑張ってタゲとるですぅ」
「取れていないから」ゲルプさんもどこか蚊帳の外だ。
「報酬だけど、素材預かりはロゼかな?」
「あ、そうね……お願いできるかしら?ブラウ」
「僕?」ロゼの言葉に、僕は驚いてしまった。
そのまま前を歩いていたロゼが、いきなり僕のそばに近づいた。
そのまま僕に耳打ちをした。
「そんなことやったことないぞ」
「でも、あたしはできないから。リアルで動けないでしょ」
「それで何をするんだ?」
「メモをとればいいわ。
ドロップアイテムをメモとって。それから人の名前も」
「なんでそんなことを?」
「報酬の管理よ、パーティやるからには当たり前でしょ。
お金でみんな動いているから、ウルトラモンスター戦の常識よ。
装備品はあたしが預かるけど、素材はやりなさい」
「僕には……」
「それがリーダーでしょ」
ロゼに強引に押し切られてしまった。
そうこうしているうちに、前方に巨大な門が見えた。
その奥には、ただならぬオーラを感じる。
すかさずパーティメンバーの一人の盗賊が、扉を調べていく。
僕の隣では、ロゼの前が不安な顔を扉の前で見ていた。
「どうした、元気ないぞ」
「不安なの」
「不安?」
「あたしたち、疾風艦隊で勝ったことがないのよ。
いつも全滅をして……」
「そんなにやばい……よな。サーバーでクリアした人はいないし」
「いつもブレスでやられちゃうから」
「ブレス?」
「うん。ブレスを使われる前に倒さないと負ける」
「ロゼたん、そろそろ隊列に……」先陣のヴァイオレットが声をかけた。
「わかったわよ、いざとなったら……」
「逃げろ」僕は小さい声でロゼに言い返した。
そしてロゼが、ヴァイオレットのパーティに合流する。
「さて、集中しよう。行くぞ」
ヴァイオレットの言葉と当時に、パーティの空気が一変した。
緊張が支配する中、ゆっくりと最新部の扉が開いた。




