022
~~バイエル公国・バイエルの塔~~
ロゼの言うとおり、価格は暴落を始めていた。
オークションで『ブラックダイヤモンド』が7000万ゴルダで売れた。
売れたお金を含めて、僕たちの所持金は現在8200万ゴルダ。
だけど目的の一億ゴルダには遠く及ばない。
あれから、何度もキングイエティに挑んだ。
挑んで勝ちはしたが……めぼしいアイテムは出ない。
キングイエティは、ブラックダイヤモンド以外は高価なアイテムを落とさない。
そんな中で、僕はロゼと二人でバトルエリアに来ていた。
クエストではいるここは、敵の討伐だ。
僕たち高レベルのプレイヤーなら、ここの敵はそれほど強くもない。
無機質な白い壁と無数の階段が、目の前に広がる。
そして、そこにはモンスターが生息していた。
巨大な塔を螺旋階段で登りながら、途中の部屋にいる雑魚を全部倒す。
結構走り回りの忙しい戦闘だ。
「バイエルの塔ね、なんでここなの?」
「僕が盗賊で素材集めをする場所、ここだと安定して稼げるから」
「安定って、時給8万じゃあ、後1800万稼ぐのに200時間以上かかるわよ」
「わかっているよ」
僕の経験上このゲームで、ソロでお金を時給換算で計算すると8万から10万が相場とされる。
モンスター狩りで素材集めか、採集が主になる。
『グランドヒノキ材』も、一時間とり続けて一個出ればいいほうで一本が10万だ。
「でもいいわね、妖術師って。お金あんまりいらないでしょ」
「まあ、高レベルのプレイヤーもいないからね。
妖術師自体が低レベルや、レヴェラッソ要因みたいだし」
「でもよく続けられるわね。魔術師や戦士、あたしみたいな万能戦士なんかが楽しいわよ」
「まあ、頭は使うから。プレイヤースキルや、情報力で戦うキャスパルだし。
本当は、ほかにやりたいことがなかったんだけど」
「ふーん」ロゼはあまり僕のことには関心がないようだ。
「それにしても……」
「それにしても」
「それにしても大体、ロゼはなんで金がないんだよ?
廃人だろ、最強のソロプレイヤーなんだろ」
「常にお金を使うでしょ。ほら、金は天下の回りものじゃない」
自信たっぷりに出るロゼの言葉に、僕は呆れるしかない。
「ここは、運が良ければ『天使布』を雑魚の幽霊が落とすって。
天使布はオークションでさっきみたけど、2000万だから。
一応は一発でクリアできるからね」
「ネット報告で、一億分の一って噂よ。奇跡以上になにものでもないわ」
「でも、それしかない。時間もないし」
リアル二十四時間でクエストのクリアは基本的に難しい。
残りの時間は後リアル三時間。手は一発逆転しか残っていない。
そんな僕たちの前に、このエリアで一匹しか現れない雑魚の幽霊が出てきた。
真っ黒な霊体の幽霊は、リアルのロゼと違って静かに出てきた。
現われる姿も、よく見ないと見落としてしまうほどの存在だ。
「とにかく、やるわよ!」
ロゼが光り輝くライトセイバーで、幽霊は消滅した。
だけど、アイテムは何も落とさない。
「またハズレじゃない、アイテムどころか四十匹連続で何も落とさないわよ」
「とりあえず残りの敵を倒して出よう」
そういいながら、僕たちは最後の広場にいたモンスターを全部あっという間に倒した。




