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探索と追跡



 くんくん。

 ざりざり。

 嗅覚で匂いを、目ざとい視覚と、鋭敏な触覚で足跡を――。


「……こっちです。草むらの中に続いてるようです」


 ランターナに斥候や野伏の資格は無い。

 しかし、獣由来の五感で、真似事なら出来る。

 地面のへこみ、手で触った感触、そして残り香。


 四肢で這いつくばり。

 集約した情報を元に、追跡を行える。


 日が昇ってすぐ。

 今、シエナ、ハルハ、ランターナは、夜間襲撃してきたゴブリンたちの根城を探していた。


 立ち上がり。

 先頭を歩き始めるランターナの背中に、シエナは言う。


「すごいね、ランタナ先輩。……まるで冒険者みたいだ」

 

 ランターナは、あはは、と笑い。

「そ、そうですかぁ……?」

(シエナさん、裏表無さそうだから、お褒めの言葉刺さるぅーッ)

 振り返らないまま、浮かれて表情を緩ませ。


 それに。

 一番後ろを歩くハルハは呆れて。


「何言ってるんです。あなたも冒険者でしょう? あと、戦士なんですから私より後ろを歩いてください」


「え? なんで?」


「あなた、殿って言葉知らないんですか?」


 そんなやり取りの中。

 距離を置いた後方には、監督役のプリムティスも居る。


 そうして思っていた。

 北北西の、山岳部方向を見つめながら。 


「……なるほどね」

 プリムティスは、木等級の斥候技能資格しかない。

 でも、経験則で、根城の場所は何となく予想がついていた。

 そして、弟子たちはちゃんと、その方角を辿っている。


 シエナの言葉通り。

 ちゃんと冒険者が出来ていた。

 表面上の行動や戦い方だけ見れば、ランターナは問題児に見えるかもしれないが。

 実際、弟子パーティを今牽引しているのは、その問題児なのだ。



 依頼書の中で、依頼人は南東の森を拠点にしているんじゃないかと書いていたが。

 それは、依頼書に良くある素人の見当違いで。それを鵜呑みにしていないのも、褒めてあげたいポイントだと、プリムティスは思う。


 特にランターナについて――。


「案外いい拾い物したかもしれないわ、私」


 そして、ギルド長は見る目が無いな。とプリムティスは思い。

 いや、原石としての価値だけ見出しておいて、私に磨かせようって腹だったら、逆にウケるんだけど――とも思っていた。



 そんなプリムティスと、一行の行軍を。

 空を行くベンヌが見下ろし。


 

 



 やがて。

 1時間ほど追跡を開始して、森を抜け、西海岸が見える丘の天辺にやってきた。

 見下ろせば、港町と、そこに出入りする船舶が見えるような位置で。

 一帯に木々はなく、浅い草原のみが広がっている。


 その景観に。

 思わずシエナは駆けだした。

「シエナさん……?」

 前を行くハルハを追い越し、ランターナも追い越し。

 あっという間に、シエナの脚は、その先端を目指してしまった。


 今現在、ゴブリンの根城を探している所だという事を忘れて――。



 なぜなら。

 高台から見下ろす、彼方まで広がる海は。

 森で暮らし続けていたシエナには初めて見る物だったからだ。


 エルフにとって、海は伝説だった。

 

 青い、塩辛い、どこまでも広く深い、全てが水であると。


 はぁぁぁ、と思わず漏れた吐息だけで。

 言葉など無い。出ない。


 言葉を失くす、とは正にこのことだ。


 日にキラキラと輝く水面と、遠く小さく見下ろせる白い港町。

 行き来する船舶。

 押しては引く、波の波紋。

 遠く聞こえる潮騒。 


 それを見下ろす高台の丘も含めて。


 魂が浄化されるような、見事な景色だった。



 サバイバル試験の時、出会った魚人族の少女は、この広大な場所から来たんだ。

 その実感のようなものが押し寄せて来て。

 シエナは胸が熱くなった。

  

 プリムティスは、そんなシエナの背中をみつつ嘆息する。

 急に独断で飛び出すのは危険だが。

 

 でも、今回だけは何も言うまい、と。

 ハルハも、ランターナも同じだった。

「――海くらいで何をはしゃいでいるんですか、もう」

「さすがに、ガルディオン大陸は見えませんね……」  


 そして、ランターナは、ひとしきり満足して戻ってくるシエナに声をかける。


「こ、痕跡は、この下からのようです」


「した?」


「はい、……横、というべきですか……」


 一見して、丘には根城の入り口など無いように見える。

 けど、ランターナは、丘の端。

 その草地に小さく、深く入っている亀裂を差し。


「……こ、この亀裂です。ゴブリンは、この中から来ているようです……」


 その亀裂を辿れば丘の側面へ続き、岩肌が丸出しの崖の大穴に接続している。

 


「なるほどね。これは、登攀が必要かな?」


 シエナの言葉に、ウゲッ、とハルハが嫌そうな声をあげる。

 最悪だ、と言う表情のハルハに。


 シエナは。

「ゴブリンだって、この断崖絶壁を毎回登ってるわけだしね」


 それにランターナは、崖近くを飛ぶベンヌを視界に納めつつ。

 返答する。

「そ、そうですね? い、一応、ゴブリンたちはこの崖の側面から出ている木の根を伝って、出入りしているんじゃないかと、思います……けど?」


 その根っこは、ランターナの視界には見えない位置だったが。

 ベンヌの合図のようなもので見つけることが出来ていた。


 ランターナの案内で、シエナが寝そべって崖を覗き込むと。

 その通り、崖から突き出ている太い木の根が、崖側面のクレバスに続いている。   


「じゃあ、ロープは不要か」


「は、はい。この太さなら、根っこが切れることも無いかと……」


 

 そこに、プリムティスは口を挟む。


「この高さで落ちたら死ぬわよ。アンタ達は飛べないんだから。ゴブリンたちはアンタ達より、ずいぶんと軽い。装備や荷物を持ったアンタ達は、自分が思うよりも重量があるってことを考えなさい?」



 それに、皆は、ハッっとする。


 でも付け加える。


「ああ、根っこを伝うのが良くないという意味じゃないわよ? ただ、ロープをわざわざ張ることを面倒だと思っているような口ぶりだったからね。――判断は、面倒かどうかじゃなく、効果があるかどうかで判断しなさい? 『だろう』で行動するなって、いつも言ってるわよね?」

 賢者技能資格の金等級を保持するプリムティスは、冒険者の体重と、荷物、装備、武器。

 それらすべてを考慮し、もしも2人以上が同時に根っこを伝ったら――。

 おそらく、崩壊する……と試算していた。


 この冒険は、シエナ達の冒険だ。

 本来、プリムティスは居ない。

 難所をどういう手段で突破しようと、それは3人の自由だ。

 しかし。

 最悪の選択をすれば、誰かが死ぬ可能性がある。


 だから、忠告した。

 冒険者は油断するとすぐ死ぬ。

 その事が良く解っているから――。


 プリムティスの言葉に納得する三人。

 ハルハが提案する。


「じゃあ、身軽な状態で根っこで降りて、荷物はロープで降ろすのは? どう?」


「最悪、人一人くらいなら、ベンヌが運べますよ?」


 ランターナの言葉に。

 ベンヌは御免だとばかり。

 空を飛ぶのを止め、獣人少女の頭に爪を立てて留まる。

 イタタ、と痛がるランターナを見て。


「ベンヌは嫌だってさ。ハルハの案で行こう」


 シエナがゴーサインを出し。

 ハルハの提案通りで三人は崖を降り、根城の中に潜入するのだった。



 最後に、プリムティスとベンヌも侵入する。

 空洞内の低空を飛ぶベンヌに。

 

「謎よね、アンタ……。なんでランターナに付き従ってんのかしら……」


 それが聞こえたかどうか。

 ただ、白く、大き目の鷹のような鳥は、羽音を消しながら前を行くランターナの肩に留まるのだった。

  

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