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42話 班分け


 学院祭から一週間が経過した。

 何事もなく、時間だけが過ぎていた。

 

 中央大通りは以前の落ち着きを取り戻し、広葉樹の並木が黄色く色づいていた。


 魔法学院、降霊術学科の教室。

 朝のホームルーム。


 教室の空気は、どこか落ち着かない。


 学院祭が終わったばかりだというのに――

 次の話題が、すでに“実戦”だと分かっているからだ。


 教壇に立つセオドールが、淡々と口を開く。

「――というわけで、課外授業の日程が決まった」


 一瞬、教室が静まる。


「課外授業では、実際に魔海へ赴き、魔影と戦うことになる」


 ざわり、と空気が揺れる。

 誰もが理解している。

 これは訓練であって――訓練ではない。


「予定通り、班単位で行動する。四人で一班」

「編成はバランスを考慮して、こちらで決める」


 その一言で、空気がさらにざわついた。


 視線が、自然と教室のあちこちに向く。

 誰と組まされるのか。

 連携を考えるなら一番重要な要素だ。


「各班には、降霊術学科の教師と騎士団数名が護衛に着く」

「安心しろ、と言いたいところだが――」


 セオドールは一拍置いた。


「最終的に自分の身を守るのは、自分たちだ」


「――それを忘れるな」

 

 静かに言い切る。

 軽口を叩く者はいない。


「……以上だ」

「この後の授業で説明を行う」

 朝の教室に、ざわめきが広がる。


 ◇


 午前の授業中。

 セオドールが真剣な表情で話していた。


「これより班分けを発表する」


 教室の空気が、ぴんと張り詰めた。


「A班――」


 一瞬の間。


「ユウリ、ガルド、レオナルド、マリー」


 小さなどよめき。


(……このメンバーか)


 悪くはない。


 前衛が二人、後衛が一人。


 バランスは取れている。


 だが――


(火力は、やや心許ないな)


 ちらりと横を見る。

 ガルドは気合い十分といった顔で拳を握っている。

 レオナルドは腕を組み、こちらを一瞥しただけで視線を外した。

 マリーは……目が合った瞬間、すぐに逸らした。


「担当教員はアルマリアだ」


 ――よりにもよって。


 ユウリは小さく息を吐いた。

 

「B班――リナ、フィオナ、マルク、テオ」


 視線が一斉に集まる。

 誰が見ても分かる。

 “当たり班”だ。

 前衛、後衛、支援――すべてが揃っている。


「担当教員はヴェルナ」


 数人が、わずかに顔を引きつらせた。


「C班――アイリス。ラグナ・フェルクス。ロゼ。ジーク」


 こちらも強い。

 安定感のある編成。


 淡々と班分けと担当教員が発表されていく。

 

「D班――シャオ、エリオ、シア……」

「E班――カイン、エルヴィン……ブラム」

 

 最後の一人が呼ばれる。


 そして。


「担当は私、セオドールだ」


 その一言で、空気がわずかに引き締まった。


「以上だ」

 セオドールは短く締める。


「各自、自分の班を確認しろ」

「出発までに連携を整えておけ」


 教室にざわめきが戻る。


 安堵、不満、緊張。

 様々な感情が交錯する中――


(……さて)


 ユウリは静かに立ち上がる。


(どう動くか)


 “いつも通り”に見える課外授業。


 だが――

 

 どこか、嫌な予感がしていた。


 理由は分からない。

 だが、見過ごしてはいけない何かがある気がした。

 

 ◇


 班分け発表の後。


 教室の一角に、自然と四人が集まっていた。


「よろしくな、ユウリ!」


 最初に声をかけてきたのはガルドだった。

 いつも通りの調子で、肩を軽く叩いてくる。


「前衛は任せろよ。全部ぶっ飛ばしてやる」


「頼りにしてる」


 ユウリは苦笑しながら頷いた。


「……ふん」


 短く鼻を鳴らす音。


 視線を向けると、レオナルドが腕を組んだまま立っている。


「随分と気楽なものだな」


「何か問題でも?」

 ガルドが眉をひそめる。


「問題しかないだろう」


 レオナルドは、わずかに顎を上げる。


「前衛が二枚――そこはいい」


「だが」


 一瞬、視線がユウリに向く。


「“戦えない者”が一人混ざっている」


 空気が、わずかに張る。


「おい」


 ガルドが低く言いかけるが、


「事実だろう?」


 レオナルドは遮った。


「サポート型。規格外。曖昧な立ち位置だ」


「戦場で最も信用できないのは、“役割が不明確な人間”だ」


 淡々とした言葉。

 だが、刺すように正確だった。


(……まあ、そう見えるよな)


 ユウリは内心で苦笑する。


 反論は、できる。


 だが――


「……ご、ごめんなさい」

 

 小さな声が割り込んだ。

 

 全員の視線がそちらへ向く。

 マリーが、俯いたまま立っていた。


「え、なんでお前が謝るんだよ」


 ガルドが困惑する。


「わ、わたし……その……」


 言葉がうまく続かない。


「うまく……戦えない、ので……」


 消え入りそうな声。


「……」


 レオナルドが、わずかに眉をひそめる。


「いや、マリーはキャスターだろ」

 ガルドがフォローに入る。

「後ろから撃てばいいんだよ、後ろから」

 

「そ、それは……そう、だけど……」


 視線が泳ぐ。


 その様子を見て、ユウリは一歩前に出た。


「問題ない」

 短く言う。


 三人の視線が集まる。


「前衛は二人いる。後衛もいる」

「足りないのは――繋ぎだ」


「繋ぎ?」


 ガルドが首をかしげる。

 

「前と後ろを繋ぐ役」

「状況を見て、穴を埋める」


 そこで一度、レオナルドを見る


「俺がやる」


 短く。


「……」


 レオナルドは、しばらく無言だった。


「……理屈は分かる」


 やがて口を開く。


「だが、それが実戦で通用するかは別だ」


「だな」

 ユウリもあっさり頷く。

「だから、試してみるしかないだろ」


 一瞬の静寂。


 そのやり取りを、マリーがじっと見ていた。


「……あの」

 小さく声を上げる。


「どうした?」

 ユウリが視線を向ける。


「さっきから……ちょっとだけ……」


 言葉を選ぶように、ゆっくりと。


「……空気、変じゃないですか?」


「は?」

 ガルドがきょとんとする。

「なにがだ?」


「その……」

 

 マリーは、教室の外へと視線を向けた。

「……なんとなく、ですけど」


 曖昧な言葉。


 だが――


(……?)

 

 ユウリは、ほんの一瞬だけ違和感を覚える。


 すぐに消える程度のもの。


 気のせいだと言われれば、それまでの――


「気にしすぎだろ」

 レオナルドが切り捨てる。


「実戦前に怯えるのは勝手だが、周囲に伝染させるな」


「っ……ごめんなさい……」


 マリーが再び俯く。


「おい、言い過ぎだろ」


 ガルドが不満げに言うが、


「事実を言ったまでだ」

 レオナルドは動じない。


「――いい」

 ユウリが軽く手を上げる。

「気にするな、マリー」


「……はい」

 小さく頷く。


(……違和感、か)


 ユウリは、もう一度だけ考える。

 

 だが――


(考えすぎか)


 そう結論づけた。


 この時は、まだ。


 ◇


 昼の食堂は、いつも以上に騒がしかった。

 課外授業の話題が、あちこちで飛び交っている。


「で、そっちはどうだったの?」

 トレーを置きながら、リナが尋ねる。


「まあ、普通……ではないな」


 ユウリは少し考えてから答えた。


「普通じゃないって何よ」


「前衛二人、後衛一人。あと俺」


「……大丈夫そうだけど?」


 即答だった。


「一応、形にはなってる……と思わない奴もいてな」


 ユウリはポケットから多面体結晶を取り出す。


「ピクルの能力は分かりにくいからね」


 リナはため息をつく。


「そっちは?」


「悪くないわ」


 リナは腕を組む。


「前は私とフィオナ、後ろにマルク。テオは……ちょっと不安だけど」


「ちょっとで済んでるあたり優しいな」


「だって、何を考えてるのか分からないし」


 完全には安心していない顔だ。


「ラグナは?」


「当たりだな」


 即答だった。

 向かいで肉を頬張っていたラグナが、口元を拭いながら笑う。

「前衛に俺、後ろにキャスター、索敵もいる」

「理想形だ」


「ずいぶん機嫌いいな」


「そりゃそうだろ」

 ラグナは肩をすくめる。

「実戦だぞ?」


 その目は、どこか楽しげですらあった。


「……変わらないわね」

 リナが呆れたように言う。


「当たり前だ」

「戦うために来てるんだからな」


 迷いがない。


「シャオは?」


「んー」


 隣で静かに食べていたシャオが、顔を上げる。


「少し偏ってるね」


「やっぱりか」


「前衛多め。火力は出るけど――」


 一瞬、言葉を切る。


「崩れたら一気に終わりそう」


「縁起でもないこと言うなよ」

 ラグナが笑う。


「事実でしょ」

 シャオはあっさり返した。


「グレイン先生だし」


「あー……」


 何人かが納得した顔をする。


「放任主義ね」

 リナが断言する。


「放置されるね」


 軽い会話。

 だが、誰も否定しない。


「まあ、死ななきゃいい」

 ラグナが軽く言う。


「軽く言うな」


「軽く言ってるわけじゃねえよ」


 ラグナは少しだけ真顔になる。


「そのラインは、絶対に越えねえ」


 一瞬だけ、空気が締まる。


「……そうね」

 リナも小さく頷いた。

 

「――ま」


 ラグナが立ち上がる。


「どうせやることは一緒だ」

「目の前の敵を倒すだけ」


「シンプルね」


「それが一番強え」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


(……本当にそうか?)


 ユウリは、心の中でだけ呟く。


 その答えは――


 まだ、出ていない。


 ◇


 食堂を出た廊下。


 すれ違いざまに、上級生の声が耳に入る。


「なあ、聞いたか?」

「北東の調査、学院OGのノエルさんが行ったらしい」


「は? あの人Bランクだろ?」

「いや、なんか最近“魔海がおかしい”とかで――」


「魔影の出現場所とか量が、不安定って話だ」

 

 そこで声は遠ざかった。


(……魔海が、おかしい?)

 

 ユウリは、わずかに足を止める。

 

(……場所や量? それは――)


 思考が、そこで途切れる。


「ねえユウリ――」

 リナの声。


 その声の元へ、すぐに歩き出す。


「今日も放課後に演習場で特訓するの?」


「ああ、止める理由は無いだろ」


 日常はいつものように流れていく。

 

 ――違和感を置き去りにしたまま。

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