十七日後
要はわたしの元に帰ってきた。
正直に言えば、浮気をしたことは絶対に許せないし、許すつもりもない。これからだってわたしより魅力的な女性が現れるかもしれないし、その度に毎回こんな思いをしていたら、秋穂ちゃんの言う通り、病気になってしまう。
要は、《《わたしだけのもの》》だ。
お昼の約束をして、寒いので図書館のエントランスで待ち合わせをする。今日は秋穂ちゃんと待ち合わせだ。
冬になっても図書館前の大きなクスノキは葉を緑色に茂らせて、吐息の白くなる冬を一瞬、忘れさせる。
てぽてぽとムートンの暖かいブーツを履いて歩いていると、向こうでひらひらと手を振る人がいる。誰かな、と考えたけど、あんな風に手を振るのはあの人だけだ。
「久しぶり、元気だった?」
隣にいた見知らぬ男の子が「誰?」と聞く。
「わたしから元カレを奪った子」
「嘘だろ?」とその男の子は笑っていた。わたしも曖昧に笑う。
「じゃあ、彼とランチなの。またね」
振られた手に、もう赤いネイルは塗られていなかった。
「要するに『倦怠期』だったんじゃないの? 一緒にいる時間が長いと、そういう時もあるよ」
「秋穂ちゃんもある?」
「あるある」
そうなのか、そういうものなのか。あんなにツラいことを何回も越えていくのか。ちょっと無理かも、と怖気づく。
「浮気されちゃうとかは今のところ、わたしはないけどね。……でもさ、よかったね。大島玲香にわたし、謝らないとなぁ。あの人、いいところもあったんだね」
秋穂ちゃんは視線を外してそう言った。
購買に向かって歩いていく、原田くんと要に出会う。
「由芽ちゃん、聞いたよ。何もかも上手く行ってよかったね」
「原田! オレより先に由芽に声かけるなよ」
二人は元の二人に戻ったようだ。
「でもさ、僕とつき合った方が良かったかもよ? 外見いいし、背も要より高いし、おまけにやさしかったでしょう?」
最後の言葉に赤くなる。やさしかったと言うか、思ったより押しが強かったと言うか……。とても要の前では言えそうにないので黙っていた。
「原田……由芽に何した? 自爆って何したんだよ?」
「え、キスしただけだよ」
要は怒っていたけれど、自分のことがあるので怒るに怒れなかったようだった。
「由芽、原田とキスしたなんて言ってなかったじゃん」
まだそのことを怒っているのかと思う。今日は一年で一度の日なんだから、もうちょっとロマンティックに過ごしたい。
「ねぇ、そんなことより」
「うん、わかってるよ」
要はいつものダウンジャケットを着込んでマフラーを巻く。今日は手袋も両手。
「じゃあ、恋人のために寒い中、買い物に行くよ。何か他に買うものがあったらスマホに送って」
「うん、よろしくね」
彼は軽く手を上げるとドアがバタンと重い音を立てた。わたしはまたキッチンに戻る……。
その夜はオニオンスープとポテトグラタン、たっぷりのグリーンサラダを作って、チキンは要に買ってきてもらった。それから、チョコレートクリームのかわいいデコレーションケーキは、要が予約してくれたものだ。
普通、プレゼントは互いに用意して贈り合うものなんだけど、わたしたちはお互いに、お互いのものを二人で話し合って決めてあらかじめ用意してあった。まだ包みは開けていない。
料理をたらふく食べて、小さくてかわいいケーキも食べる。そうして、その後に互いのプレゼントを交換して包みを開ける。同じ包みの小さな箱がふたつ。……中身も同じ。
それは互いの名前の入ったリングだ。くるりと円いリングには切れ目がない。ふたりの気持ちが離れないおまじない。おまじないが効くといいけど、そんなものが必要なければそれがいちばんだと思う。
「メリークリスマス」
(了)
最後までお読みいただきありがとうございます。
いろいろ思うところがおありかと思いますが、また作品を投稿したいと思っていますので、その時にお付き合いしてくださるとうれしいです。
またご縁がありますように。
読了ありがとうございました!




