128 リトの正体、そして考察と
「マリー。アルー。おまたせ、だよ~」
リトと一緒に『猫車』に積んだ鶏糞を運んできて、これから放り込む窪地で待っていたマリアベルとアルキメドの姉弟に声をかけたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
今日は2回目の『畑起こし』。
1回目は、冬眠していた害虫を掘り起こして、寒さで駆除したと教えて貰ったわ。
そして、温かくなるこれからに向けて、畑に栄養を与えるのが今日のお仕事なの。
窪地で発酵させた堆肥を撒きながら、掘り起こした畑に混ぜるのよ。
1回目に調子に乗って『道具スキル』ではしゃいでいたナーガは、今回はしっかり丁寧に掘り起こしているのよ。ギャップがあって可愛いわ。
だけどもやっぱり、真剣になのるかな。だって、気を付けないと堆肥の煙を被っちゃうからね。
落葉半分、鶏糞半分って所かな?
鶏舎の掃除をして来たわたしが言うのもなんだけど、やっぱり『んこ』は被りたくは無いし、吸い込むなんて以ての外だもの。真剣になって当然よね。
だけど、宴と云うか、お祭りと云うか、年に2回の大きな祭典の疲れが抜けないまま、畑作業をさせるとか、過剰労働じゃないの。
子供虐待はんた~い!
…なんてね。
ぼちぼち『お手伝い』という依頼が届き始めてきたから、早々に冬の仕度を片付けましょう。ってシスター・レミアが教えてくれたのだったわ。
鶏も放し飼いに出来るから、当分は鶏舎の掃除を休んでも大丈夫だもんね。
え? どうして冬は放し飼いをしないのか? ですって。
チューチュー鳴く小動物が冬眠しちゃうから、縦長な瞳の獣が鶏を襲ってしまうのだそうよ。だから、冬は鶏舎で大事に育てるの。
温かくなってきたから、動物はみんな冬眠から覚めるので、これでやっと放し飼いに出来るって訳なんだって。
動物と言えば、この国には稲荷じゃなくって、麦荷の社があるとかなんとか?
稲作じゃなくって麦作だからね。「豊穣を祈るなら麦荷神社とかあってもおかしくないよな」ってリトがふざけて言っていたかな。
なにより、礼拝堂の入り口には、違和感でしかない賽銭箱が有る位だから、妙に納得しちゃうよね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「リト~。クレハ~。着替え終わったの?」
アリアの声が聞こえてきたわ。
「は~い。アリア~。おわったよ~」
「アリア。もう少し待ってて。今片付けてる所だから」
体を拭った、元厨房な物置を片付けて、外で待ってくれていたアリアへ洗濯物を手渡したの。
「はい。お疲れだったね。もうお休みして大丈夫よ」
「ねえ、アリア。お手伝いする事ないかな? みんな、まだまだお仕事してるのに、僕達だけ休むのは、ちょっとさ…。悪い気がするし…」
「何を言っているのかしら。みんなが嫌がる掃除をしてくれたのよ。当然の事だと思うの」
「そ、それじゃ、せめてその洗濯物は僕達が洗うから」
「ありがと。リトは優しいね」
アリアの微笑みに頬を赤らむリト。何を照れてるのかしら? それとも、こんな惚れっぽいキャラだったかしら?
まぁ、見ていて愉しいからどちらでも良いけどね。
「…でも、大丈夫だからね。まだ水は冷たいの。一緒だとクレハが凍えちゃうでしょ。可哀想よ。だから洗濯はわたし達に任せて、ゆっくりと休んで良いからね」
「クレハを気遣ってくれてあるがとう。でも何か悪いし…」
は~ぁ…。わたし達だけが休む居心地の悪さに気が引けてるのか、それともアリアと一緒に居たいのか。
こう、グチグチし始めると堂々巡りになっちゃうのよね、リトは。
このままだと、かえって邪魔してるみたいじゃないの。
ここは、アリアのお言葉に甘えましょうよ。
「アリア、やさしいね。あたし、だいすきよ」
本当はこの勢いで抱きつきたい所なんだけど、もう洗濯篭を抱えちゃったから、その手を軽く握る程度で気持ちを伝えたの。
「わたしも大好きよ、クレハ」
「ほんとう。 うれしい。 さぁ、リト。おはなしして、じゃましちゃだめだよ。さぁいこうよ」
そう言って、リトを押し出したの。
「ちょっと、まてって。そう押すなよ」
「アリア~。ありがとう。またね~」
「ええ、夕飯の準備のお手伝いはよろしくね」
「おいおい、本当に休む気かよ。サボってるみたいで、みんなに悪いじゃないか。何か手伝おう。今回の掃除はそんなに汚れてなかったら、疲れて無いんだし」
まだネチってるリト。ここまでになると見事だわ。
「この社畜星人! 休む時は休むのよ。 変な気遣いが邪魔をしているって気付いてないの?! リトは」
「うっ…。社畜星人とか、そこまで言うか?!」
「社畜じゃ無いなら、アリアのお尻を追いかけたいって云うの?!。この恋猿は」
「この…。ストーカー呼ばわりは不愉快です~ぅ!」
口先を尖らせて、精一杯不満な顔するなんて、ほんと、お子様よね。
まぁ、ここまで言えれば、気持ちは変わったかしらね。
「そんなに、みんなの視線が気になるなら、図書館のお掃除しよ。 もともと、掃除が終わったら図書館に行こうって言ってたじゃないの。 どう?」
「図書館の掃除か。それなら気兼ねしなくても良いかもな」
「そうよ。さぁ行きましょう」
~ 本当に、世話が焼けるわね ~
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
寂しがり屋の木枯らしが煙突からモクっと顔を出している炊煙を連れ添って、隙間からこっそり忍びこんではクルクルと踊っていたのでしょう。
まるで斑雪の様な淡い足跡が薄らと。
普段から締め切られてる図書館だけど、窓の隙間から煤けた埃が忍び込んだのでしょう。
窓枠を指でなぞって、フッって息を吹きかけたくなるわね。
それとも、床をキャンバスにしてお絵かきしようかしらね。
真新しい「板挟み」の本がいくつが収められてる3階から煤払い。
これでリトの気が済むなら良いけど、どうなのかしら。不安が紛れると嬉しいわ。
この3階の書物は、国の帳簿とか日記みたいな記録が残されているそうなのよ。
全部読めば国の歴史とか分かりそうだけど、流石に量が多いと読む気になれないわ。誰かが要約してくれたら嬉しいけれど、きっと誰も覚えていないし知らないでしょうね。
この「板挟み」の本は、紙を板で挟んで紐でくくりつけるだけだから、本とは言いがたいし、何より固く結ばれていて解く事が出来ないのよ。
そうね、新聞紙や雑誌を回収して貰う為に、紐で強く縛ったってイメージをしたら良いのかしら?
余程の事件が無い限り、過去を振り返ろうとは思わないでしょうね。
だから、誰も知らない記録になってると思うのよ。
ボロ布を乱暴に巻き付けた『ハタキ棒』で埃を払いながら、わたしは問い掛けるの。
「ねぇリト。会月の刻の事は覚えてる?」
「もちろん覚えているさ。光の柱と、姫様の剣舞に合わせて踊る光。それに、姫様の持つ剣の名は神楽鈴剣ってテレサから教えて貰ったけど、それがどうかしたのかい?」
「それじゃ、気を失ったのは覚えてるの?」
「気を失ったかどうかは分からないけど、記憶が飛んでいるのは、何となく実感がある…かも」
「夢は見なかった?」
「夢? 見た様ないない様な…。そうだなぁ、なんとなく嫌な感じは残ってるというか、その程度かな」
「そうよね。夢なんて起きたら直ぐに忘れてしまうよね。 それでも思い出して。どんな嫌な雰囲気だったのか」
「突然、思い出せ! って言われても無理だよ。無理」
悪夢だからこそ忘れたい。そんな思いがあるのかしら?
でも、わたしは覚えているの。
わたしは『観た』のよ。リトの手を握りしめた時に浮かんだ、乱れた光景。
それはかつて、リトの中から眺めていた光景そのものだったのだから。
ハタキ棒をリトに突きつけて『観た光景』を詠む様に問い掛ける。
「無理でも思い出して。
油で敷き詰められた大地を。
石で閉じ込められた部屋を。
錆び鉄の棘が天を突き刺す様に伸びる樹林を。
石柱を繋ぐ張り巡らされた、黒い蜘蛛の巣を。
馬が無くとも吠え唸りながら駆け走る馬車を。
鳥より高く、鳥より速く、鳥より大きな鳥を。
光の魂に降り注がれて、リトは見たはずよ。知っているはずよ。
それは、かつての外つ世の物語なのだから」
「まるで『予言詩』みたいな事を聞かされて、思い出せって言われても、分かる訳無いじゃ無いか。だいたい光の魂を身に受けるなんて事態が有り得ないだろ。
…いや、待てよ。
そういえば突然、光が刺さる様に眩しく輝いたけど、もしかして、この輝きの事なのか?!」
そっか。わたしからは光がリトに向かって飛んでいった様に見えたけど、リトの目からは光が大きくなる様に見えたって事なのね。
視点の違い、リト風に言えば「観測地点が違えば、見え方は違って当然」という訳かしら。
あれま。問い掛けの方法、間違えちゃったわ。
謎かけ風に問うのが好きなリトだから、同じ様に言えば伝わるかと思ったけど響かなかった様だわ。
わたしは、わたし。無理に真似する必要は無かったね。
「そうよ、リトには輝く様に見えたみたいだけど、わたしからは、光の魂が吸い寄せられる様にみえたのよ。それで、その後の事は思い出せたかな?」
少し考え込んだ後、リトは口を開いたわ。
「思い出した。…いや、覚えていた。と言うべきかも?
そうだよ。高度成長期は兎も角、大戦前の事なんて覚えている訳がない。
だって、生まれていないのだから。
見聞した事は、テレビや映画、ネット映像で観た記憶と思い込んでいたんだ。
だから、気にしていなかったんだ。
もしかしたら、光の魂の記憶なのか? 夢を見たような感じだけど、これは他人の記憶なのか?」
「そうよ。多分だけどね、リトが取り込んだ魂の記憶だと思うの。夢の様に儚いのは、多分だけどね、リトがリトでいる為だと思うわ。記憶が残ったらリトじゃ無い誰かになってしまう。と思うもの」
「魂を取り込むとか、ちょっと待ってくれよ。それじゃ何か? 私は昆虫ホイホイ改め『魂ホイホイ』かっ! って云うのかよ」
「プププッ!」
『魂ホイホイ』なんて、リトらしい揶揄ね。失笑しちゃったじゃ無いの。もう。
「なんだよ。真剣に考えてるのに笑う事無いだろ」
「あはは、ごめんね~。リトが面白い事を思いつくから悪いんじゃないのよ~。リトも気をつけてよね~」
真剣に! 何て言うけど、嬉しそうじゃないの。『魂ホイホイ』なんて珍妙を思いついて、わたしが笑ったのが嬉しいんでしょ。それで照れてる。
本当に、子供らしい反応するのね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
しかしまぁ、『そこに居るだけで魂を集めるモノ』なんて特異な存在は、魂を集めたい悪魔にとって、垂涎の宝…、じゃないわね、道具だよね。
吸収する発動条件は分からないけど…、
放置するだけで大丈夫。暫くして汲み上げれば魂がザックザクに大漁とか、鳥もちかタコツボみたいな道具は、ガチャ風に云えば『超々激レアアイテム』って感じかしらね。
ただなんとな~く、やっすい商品説明をしている広告のキャッチフレーズっぽいのが、胡散臭さ満載だけどね。
執拗にまとわりついて、甘言虚言、未来を知っているチートな人生を与えてでも籠絡したいという気持ちは、分からなくもないわね。
良くも悪くも、誕生し直すと記憶が隠れてしまう鈍さのお陰で翻弄されずに済んだけど、流石に5回も繰り返して同じ人生が、違う意味でも凄いわよ。
それで、メフィストは痺れを切らして、わたし達の混ざり合った2つの魂を無理に引き離すというの強硬手段を取った訳だけどね。
わたしとしては、こうして体を手に入れて人生を歩めるのだから、嬉しいわ。
でも、その代わりにリトは悪魔契約という使い魔の様な立場になってしまったのよね。
この事について、どう思ってるのかしら?
知りたいし聞きたい。
でもこれはとても、とても難しい問題。嫌われていたらと思うと脚が痺れてしまうの。
恋の告白以上に恐いの。
家族から『要らない子』として捨てられるのが恐いから。
仮初めでもいいから、現状維持に努めるべきだと、恐れて弱い心に何かがそそのかす。
『今のままで良い』そんな甘言にそそのかされたい。
下手に荒波を立てたくない。
こんな甘えにすがりたい。
でも、どうしてかしら? そんな考えをすると胸が苦しいの。潰れてしまいそうで苦しいの。どうして…
…多分これは私の奥底の心が訴えてる。リトに偽るなって、諭してる。
そうよ。メフィストの間というあの世で「わたしの魂は誕生する前にリトに取り込まれた」と教えられ、わたし達は無理矢理2人に別けられたのよ。
この事実を目の当たりにして、リトは凄く悲しんでいたわ。
もしかしたら『双子の姉が生まれる機会』を、自分自信の特異性が奪ってしまったのだ!と、自責の念に駆られていて凄く苦しそうだったのを覚えてる。
だから、リトは願ったの。
=★☆『わたしに平和な人生を与える事』☆★=
その願いの対価・代償で、メフィストが求める『両手で数えられる程の魂を集める』という、悪魔契約をする事になってしまったの。
両手で数えられるっていうから10人分かと、軽く考えていたら、なんと1000人超えるそうよ!!
どうやって数えればそうなるのか分からないけど、悪魔は一瞬たりと油断してはいけない存在だと思い知ったのもこの時だったわ。
思わぬ苦役な契約を交わされて、リトは何と思っているのだろうかしら?
「拾わなケレバ良かった」と捨てられはしなだろうか。
リトが与えてくれた、この『命』。始めは、リトになら奪われても構わない。そう思っていたの。
そうなのに、今となっては別れが辛く苦しい。
アリアにハン・セル。レミアとテレサ。その他の修道院のみんなと、『お手伝い先』の見知った方々。
優しいみんなともう会えないかも知れないと思うと、辛く寂しい。
ちがうよ。違うわよ! 「わたしのクレハちゃん」!!
大切にしたいのは、わたしじゃないのよ。わたしの幸せを願ってくれたリトよ、リトが大切なのよ。
そうよ。リトの気持ちが知りたいの。
「リトの気持ちが、どう思っているのか知りたいのよ」
「うっわ~、ビックリした~。考え込んでると思ってたら大きな声を出すんだから焦った~」
「あ!・ぇ・ゐ・う・を・あ・お・ぉぉぉ…」
うわ~声を漏らしちゃった~。おねしょするより恥ずかしいわ!!!
「それで、私の気持ちが何だって?」
「あ、それね…。リトはアリアの事をどう思っているのかな~って考えていたのよ。良い雰囲気じゃ無いの」
「そうなのか? 良い雰囲気~って実感ないし、アリアは私の倍近い年(肉体では)だし、年長だから、頼れるお姉さんでお母さん。って感じだから、あまり実感がねい、と思う」
あーもー。この鈍チン男め。私視線ではバレバレなんだよ~。期待しなさいね。
声を殺して「フフフ」と笑いこみ上げた。
ちょっと? 失言しちゃったけど、落ち着いたよ。
そうよ。アリアもまんざらじゃないんだし、リトとくっつけちゃえ。
それでリトが幸せになれるなら、わたしは嫌われてもいい。
この体を与えてくれて、今まで愉しい生活を過ごせたんだもの。お礼が出来れば、この体がもう動けなくなっても良いんだ。
リトの幸せを眺めて終わるなら、それでも良いの。
なにかしら? だんだん勇気が湧いてきたの。 これはチャンスだわ。 この勢いで聞いてみようじゃないの!!




