126 会月(えづき)の刻(とき)春
~ 暑さ寒さも会月まで ~
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何処かで聞いた事の有るフレーズを耳にしながら、今日は秋の刻と同じ様に、西門を超えた墓地の近くで宴が行われるの。
今日は、大きなお月様と、小さいお月様が重なる、特別な日なのよ。
年に2回。半年の決まった日に月が重なる事や、この現象をどうして「会月」とか「合」って呼ぶのか分からないけど、リトがとても不思議がっていたわ。
天文学なんて、さっぱりだから、こんな難しい事を考えるのはリトに任せるわ。
わたしとしては、春分・秋分の日みたいな時期って認識で充分なのよ。
そういえば…
春分・秋分の日って『お彼岸の日』だったわ。
『彼岸(あの世)』と『此岸(この世)』が重なる日だった気がするけど、詳しくは分からないわ。
とりあえず、どちらも『ご先祖様に感謝する日』って覚えてるから、これで良いよね。
それでね。
え~と、教えて貰った話しでは、『会月の刻』は、幽霊というか魂が、ちゃんと帰るべき所へ還る事を祈るお祭りなんだって。
亡くなった方を敬う意味では、お彼岸と似てるな~って思ったの。
それからね、秋の刻の体験だけど。
この宴は、幽霊というか、光の魂が、ぶわ~って沢山、いっぱい、広がるって天へ舞い上がって凄く綺麗だったのよ。
愛する家族へ別れの挨拶を告げる為に、萃まり寄りつどう光景は感動的だったわ。、
そんな感動的な光景も、リトの異変で余韻に浸る余裕なんてなくなっちゃった。
今回も、リトが気を失ってしまったらどうしようって、とても心配なの。
リトなりに考えが有るって言っていたけど、大丈夫なのかしら。
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さぁ。これから宴の準備を始めるわ。
秋の刻は見学だったけど、今日はリトと一緒に『お勤め』なの。
宴の準備は、孤児院にお世話になっている、わたし達の栄誉ある『お勤め』なんだって。
『栄誉』なんて言われたら、何となく嬉しく感じるよ。
だけど、「言い換えれば、半ば強制的な裏方作業って気がする」ってリトが言ってたね。
口が悪いというか、ひねくれているというか。
リトらしいと言えば、その通りだけど、気を引こうとして悪態をついちゃうのって、まるで子供みたいね。無意識なのかしら? それとも余計な事を考えちゃう癖が有るのかしらね?
さてと、これから始めるけども…、
長い時間、荷馬車でユラユラと揺らされて、時にはゴットン、バッタンとお尻を叩かれて来たから、お尻が痛いわ。
宴の荷物を運ばなければならないから、仕方ないのは分かるけど、枕をクッションの代わりにしたって、辛いのは辛いのよ。
だけど、みんなしっかりしてるんだもん。わたし達も頑張らなくっちゃ。
そういえば、乗り物酔いが酷いナーガなんだけど、馬車の操車の隣に座らせて貰えたの。
景色が見えれば酔い難いのは分かったけど、幌の後で過ぎ去る景色を眺めるのでは長くはもたなかったのよ。
それでね、
先頭の操車席からだと、流れ過ぎ去る光景に夢中になって大丈夫だったの。よかったねナーガ。
その代わり、幌で囲まれた外側だから、クッションが使えなくて、腰も辛いみたい。
まぁ、気持ち悪くて寝込むよりは良いんだよ。
秋の刻は寝込んで、役立たずだったから。
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シスター・テレサ中心になって、ナーガとハン・セルの3人で宴の舞台を用意しているわ。
杭を打って縄を張って、サークル状の囲いを作っているの。
四角を重ねた囲い。リトが言うには「八芒星結界の様だ!」だそうよ。
ドヤ顔で『結界』とか、ちょっと厨二病を拗らせてるって感じだよ、リト。
四方八方。全ての方角。世界の全て。で良いじゃない。
…って言ったら、「これが世界の縮図だ」って感じになるのかな? わたしもリトに感化されちゃったみたいね。
わたしとリトは、シスター・レミアとアリアと一緒に、演奏の楽器の準備なの。
楽器はね、箏なの。柱があるから琴じゃないけど、興味が無い人にとってはどっちも同じで良いと思うわ。だって両方とも『こと』なんだから。
奏者はブリーイッドと呼ばれていて、今はたしかレグとメグとベルの3人よ。
ブリーイッドの方の希望で、わたしとリトが案内役に任命されちゃったのよ。どうして私達なのかしら?
まぁね、好意を持たれるのは嬉しいけど、理由が皆目見当がつかないのは気になるわ。
準備が終わった頃を見計らった様に馬車が到着したの。
アリアと一緒に、客車からレグとメグとベル、それぞれの手を引いて楽器の所へ案内するお役目。
わたしは、目に光を失ったメグの手を取って歩くの。
メグはね、ブリーイッドのリーダーなんだよ。
ただね、日が暮れ始めてきたから暗くて、何度も躓いてしまったの。
その度にメグは転ばない様にとしっかりと手を握ってくれたわ。
まるで、わたしの方が案内されてるみたい。
折角のご指名なのに、役立たずみたいで、何か悔しい…。
案内した後、リトが
「盲目だから、暗闇には慣れているんだろうな」
なんて失礼な事を口にしたけど、説得力が有って、不意にも頷いちゃったじゃない!。
もう、リトのバカ。
そんなリトは、案内したベルも盲目だから凄く気に掛けて歩いていたわね。緊張していたのかな?
ぎこちない歩きだったんだよ。
声が出せないレグを案内したアリアは、どうやってコミュニケーションを取ったのかしら?
わたしとリトでは、会話が出来ないと、どうして良いのか困惑してしまうのに、アリアは極自然に振る舞うのね。
面倒見の良いアリアならでは、かしらね。
ひとまず、
役目が終わった後に、わたし達は墓地の奥に在る墓守の小屋に背を預ける事にしたの。
「人気の無いココなら、私に何かがあっても騒ぎにならないだろう」って、リトの提案。
小屋の番人は薄ら寒い瞳の人だからか、墓地の景色もあって、それなりの雰囲気を醸していたの。わたし達が居ても気にしていない様で何よりだわ。
気が付けば国の人々が、もちろん全員じゃないけど、沢山集まってきて、マリーとアル、それと少女3人組が誘導とか整列をしていたわ。
修道士の2人は篝火というより焚き火の番をしていたわね。
まだまだ寒いからね。
暖を取る人達が集まっていたよ。
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さあ、これから宴の始まりよ。
八芒星結界の中央で胸元に短剣を掲げたシスター・テレサが秋の刻と同じ祈りが始まったの。
「今宵は2つの月が会し連なりて、常世と隠世も会す『春の合』。我はここに四大英霊精霊を呼びたもう。生きと死、生けるモノへ、常永久に温もりと安らぎを白す」
そして携えた短剣を掲げ東西南北という順に周りながら、短剣は空に何かを刻み祈りを奉る。
「幸いあれ:
東を守護し風の王シルフィード。汝の風なびく衣は命ある全てを御包む慈愛がごとし」
「幸いあれ:
西を守護し水の王ウィンディーネ。汝の戯れ集いし水面は万物を洗い清めるがごとし」
「幸いあれ:
南を守護し火の王サラマンダー。汝の息吹は塗れた障り穢れを打ち消す雷炎がごとし」
「幸いあれ:
北を守護し地の王ノーム。大地を支え恵みをもたらすは生きとしモノへ源泉がごとし」
「あらゆる災厄近寄る事なかれ! 我、四大精霊に守護されたれば、なり!」
シスター・テレサの声は澄んでいて、離れた小屋にまで響き渡ったわ。
唱え終わり、短剣を胸元に戻すと、八芒星結界が淡く光り、天へと立ち上る。
そして同じくして、豪華な客車からシスター・レミアに手を引かれて姫様が舞い降りたの。
墓石の隙間からでも、姫様の姿はハッキリと見えたの。八芒星結界と月の光を束ね、光芒を放つ様に輝いていて、とてもステキで、とても綺麗。
御姿だけなら『マジ天使!』なのよ。
ただね、わたしとリトは、姫様が何となく苦手なの。
…あらら? そういえば、どうして苦手意識を持ったのでしょう? リトなら覚えているかしら?
「クレハ。ぼーっとしてどうしたんだよ。もうすぐ始まるよ。近くの『特等席』じゃないけど、ここからでも充分によく見えて良かったな」
そうね、リト。
それでは、国民の皆様とは反対側からだけど、心静かに宴の舞を眺めましょうか。
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姫様はシスター・レミアから手渡された、柄の兜金に神楽鈴をあしらった2振りの剣を構えて、シスター・テレサを入れ替わり中央に立ち入った。
姫様が神楽鈴剣を振り構えて宴は始まった。
その剣の柄の先には、兜金の代わりに神楽鈴が装飾され、
その兜金に垂れる露紐には、代わりに鈴緒がたなびき、
その剣先には、銛や矢尻を連想させる、本来は鞘の先に拵える石突打ち付けられていた。
シャシャンと舞降る鈴の音に添い従うポロロンっと弦を撫でる箏の音と、弾くブリーイッドの唱は連なる月光と伴に夜空を染め上げる。
「永遠の安息を、彼のモノ達に与えたまえ。かしこよりこの世に降り立ち、この世の為に勤しんだモノ達よ。かしこへ還りませう。この世は皆を讃えます。己が行いに悔いるモノよ怯えるなかれ。この世は皆を赦しませう。此処に光を照らし標を掲げませう。畏まるることなく迎えられませう」(※せう=しょう)
箏と唱の響きは祝詞であり、神楽鈴剣を振りかざす姫様の姿は神楽舞。
音と唱と舞が少しずつ高く速く鋭くなるに合わせて、八芒星結界の光が天高く輝きを増し、何処からともなく光の魂が浮き上がる。
== 光は、蛍の様に漂い、花火の様に打ち上がり、雪の様に降り注ぐ。 ==
この幻想な光景。
そう、この宴は鎮魂歌。
和楽器で洋楽、神楽鈴に西洋剣、奉納の舞は云ってしまえばヨサコイ祭り踊りに近い。
色々と混ざりに混ざった宴は突っ込み処が満載だけど、なにより幻想で神聖な場景は、そうそうに崇められない。
ジャジャン!!
宙を舞う神楽鈴剣が地面に突き刺さり、奏でが止んだ。
「さぁ。かりそめなりし今宵、おもふるがままに」
姫様がそう言って両腕を軽く広げると、光の魂の幾つかは集まった人々の元へと流れて行った。
萃まった魂は、集まった人々の元へ別れのを告げるために、漂いなびく。
そして周囲からは喜怒哀楽な感情が広がった。
シャシャンと鈴の音が鳴り響き箏の音と伴にブリーイッドが唱い語る。
「この世を支えた彼のモノ達よ。常永久に安らぎを求むれば、光の柱に委ね委ねて、かしこへ還りたもう。見送る者達よ、志を身に纏い詞を継ぎ伝えたれ。さぁ皆を称えたまえ讃えたまえ」
姫様が神楽舞を再開すると、八芒星結界の光の柱はより輝き、より煌めき天空高く立ち上った。




