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126 会月(えづき)の刻(とき)春

 ~ 暑さ寒さも会月(えづき)まで ~


  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 何処かで聞いた事の有るフレーズを耳にしながら、今日は秋の刻と同じ様に、西門を超えた墓地の近くで(うたげ)が行われるの。



 今日は、大きなお月様と、小さいお月様が重なる、特別な日なのよ。

 年に2回。半年の決まった日に月が重なる事や、この現象をどうして「会月(えづき)」とか「(ごう)」って呼ぶのか分からないけど、リトがとても不思議がっていたわ。

 天文学なんて、さっぱりだから、こんな難しい事を考えるのはリトに任せるわ。

 わたしとしては、春分・秋分の日みたいな時期って認識で充分なのよ。


 そういえば…

 春分・秋分の日って『お彼岸の日』だったわ。

 『彼岸(ひがん)(あの世)』と『此岸(しがん)(この世)』が重なる日だった気がするけど、詳しくは分からないわ。

 とりあえず、どちらも『ご先祖様に感謝する日』って覚えてるから、これで良いよね。


 それでね。

 え~と、教えて貰った話しでは、『会月(えづき)(とき)』は、幽霊というか魂が、ちゃんと(かえ)るべき所へ(かえ)る事を祈るお祭りなんだって。

 亡くなった方を(うやま)う意味では、お彼岸と似てるな~って思ったの。


 それからね、秋の刻の体験だけど。

 この(うたげ)は、幽霊というか、光の(たま)が、ぶわ~って沢山、いっぱい、広がるって天へ舞い上がって凄く綺麗だったのよ。

 愛する家族へ別れの挨拶を告げる為に、(あつ)まり寄りつどう光景は感動的だったわ。、



 そんな感動的な光景も、リトの異変で余韻に浸る余裕なんてなくなっちゃった。

 今回も、リトが気を失ってしまったらどうしようって、とても心配なの。

 リトなりに考えが有るって言っていたけど、大丈夫なのかしら。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さぁ。これから(うたげ)の準備を始めるわ。

 秋の刻は見学だったけど、今日はリトと一緒に『お(つと)め』なの。


 (うたげ)の準備は、孤児院にお世話になっている、わたし達の栄誉ある『お(つと)め』なんだって。


 『栄誉』なんて言われたら、何となく嬉しく感じるよ。

 だけど、「言い換えれば、半ば強制的な裏方作業って気がする」ってリトが言ってたね。

 口が悪いというか、ひねくれているというか。

 リトらしいと言えば、その通りだけど、気を引こうとして悪態をついちゃうのって、まるで子供みたいね。無意識なのかしら? それとも余計な事を考えちゃう癖が有るのかしらね?



 さてと、これから始めるけども…、

 長い時間、荷馬車でユラユラと揺らされて、時にはゴットン、バッタンとお尻を叩かれて来たから、お尻が痛いわ。

 (うたげ)の荷物を運ばなければならないから、仕方ないのは分かるけど、枕をクッションの代わりにしたって、辛いのは辛いのよ。


 だけど、みんなしっかりしてるんだもん。わたし達も頑張らなくっちゃ。



 そういえば、乗り物酔いが酷いナーガなんだけど、馬車の操車の隣に座らせて貰えたの。

 景色が見えれば酔い(にく)いのは分かったけど、幌の後で過ぎ去る景色を眺めるのでは長くはもたなかったのよ。

 それでね、

 先頭の操車席からだと、流れ過ぎ去る光景に夢中になって大丈夫だったの。よかったねナーガ。

 その代わり、幌で囲まれた外側だから、クッションが使えなくて、腰も辛いみたい。

 まぁ、気持ち悪くて寝込むよりは良いんだよ。

 秋の刻は寝込んで、役立たずだったから。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 シスター・テレサ中心になって、ナーガとハン・セルの3人で(うたげ)の舞台を用意しているわ。

 杭を打って縄を張って、サークル状の囲いを作っているの。

 四角を重ねた囲い。リトが言うには「八芒星結界の様だ!」だそうよ。

 ドヤ顔で『結界』とか、ちょっと厨二病を(こじ)らせてるって感じだよ、リト。

 四方八方。全ての方角。世界の全て。で良いじゃない。

 …って言ったら、「これが世界の縮図だ」って感じになるのかな? わたしもリトに感化されちゃったみたいね。



 わたしとリトは、シスター・レミアとアリアと一緒に、演奏の楽器の準備なの。

 楽器はね、(こと)なの。()があるから(こと)じゃないけど、興味が無い人にとってはどっちも同じで良いと思うわ。だって両方とも『こと』なんだから。


 奏者はブリーイッドと呼ばれていて、今はたしかレグとメグとベルの3人よ。

 ブリーイッドの方の希望で、わたしとリトが案内役に任命されちゃったのよ。どうして私達なのかしら?

 まぁね、好意を持たれるのは嬉しいけど、理由が皆目見当がつかないのは気になるわ。


 準備が終わった頃を見計(みはか)らった様に馬車が到着したの。

 アリアと一緒に、客車からレグとメグとベル、それぞれの手を引いて楽器の所へ案内するお役目。


 わたしは、目に光を失ったメグの手を取って歩くの。

 メグはね、ブリーイッドのリーダーなんだよ。


 ただね、日が暮れ始めてきたから暗くて、何度も(つまづ)いてしまったの。

 その度にメグは転ばない様にとしっかりと手を握ってくれたわ。

 まるで、わたしの方が案内されてるみたい。

 折角のご指名なのに、役立たずみたいで、何か悔しい…。



 案内した後、リトが

「盲目だから、暗闇には慣れているんだろうな」

 なんて失礼な事を口にしたけど、説得力が有って、不意にも(うなづ)いちゃったじゃない!。

 もう、リトのバカ。


 そんなリトは、案内したベルも盲目だから凄く気に掛けて歩いていたわね。緊張していたのかな?

 ぎこちない歩きだったんだよ。


 声が出せないレグを案内したアリアは、どうやってコミュニケーションを取ったのかしら?

 わたしとリトでは、会話が出来ないと、どうして良いのか困惑してしまうのに、アリアは極自然に振る舞うのね。

 面倒見の良いアリアならでは、かしらね。



 ひとまず、

 役目が終わった後に、わたし達は墓地の奥に在る墓守の小屋に背を預ける事にしたの。

 「人気の無いココなら、私に何かがあっても騒ぎにならないだろう」って、リトの提案。

 小屋の番人は薄ら寒い瞳の人だからか、墓地の景色もあって、それなりの雰囲気を醸していたの。わたし達が居ても気にしていない様で何よりだわ。



 気が付けば国の人々が、もちろん全員じゃないけど、沢山集まってきて、マリーとアル、それと少女3人組が誘導とか整列をしていたわ。

 修道士(モンク)の2人は篝火(かがりび)というより焚き火の番をしていたわね。

 まだまだ寒いからね。

 暖を取る人達が集まっていたよ。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 さあ、これから(うたげ)の始まりよ。


 八芒星結界の中央で胸元に短剣を掲げたシスター・テレサが秋の刻と同じ祈りが始まったの。


「今宵は2つの月が(かい)し連なりて、常世(とこよ)隠世(かくりょ)(かい)す『春の(ごう)』。我はここに四大英霊精霊を呼びたもう。生きと死、生けるモノへ、常永久(とことわ)に温もりと安らぎを(まお)す」

 そして携えた短剣を掲げ東西南北という順に周りながら、短剣は空に何かを刻み祈りを奉る。

「幸いあれ:

 東を守護し風の王シルフィード。汝の風なびく衣は命ある全てを御包む慈愛がごとし」

「幸いあれ:

 西を守護し水の王ウィンディーネ。汝の戯れ集いし水面は万物を洗い清めるがごとし」

「幸いあれ:

 南を守護し火の王サラマンダー。汝の息吹は塗れた障り穢れを打ち消す雷炎がごとし」

「幸いあれ:

 北を守護し地の王ノーム。大地を支え恵みをもたらすは生きとしモノへ源泉がごとし」

「あらゆる災厄近寄る事なかれ! 我、四大精霊に守護されたれば、なり!」


 シスター・テレサの声は澄んでいて、離れた小屋にまで響き渡ったわ。


 唱え終わり、短剣を胸元に戻すと、八芒星結界が淡く光り、天へと立ち(のぼ)る。


 そして同じくして、豪華な客車からシスター・レミアに手を引かれて姫様が舞い降りたの。

 墓石の隙間からでも、姫様の姿はハッキリと見えたの。八芒星結界と月の光を束ね、光芒を放つ様に輝いていて、とてもステキで、とても綺麗。

 御姿だけなら『マジ天使!』なのよ。

 ただね、わたしとリトは、姫様が何となく苦手なの。


 …あらら? そういえば、どうして苦手意識を持ったのでしょう? リトなら覚えているかしら?


「クレハ。ぼーっとしてどうしたんだよ。もうすぐ始まるよ。近くの『特等席』じゃないけど、ここからでも充分によく見えて良かったな」


 そうね、リト。

 それでは、国民の皆様とは反対側からだけど、心静かに(うたげ)の舞を眺めましょうか。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 姫様はシスター・レミアから手渡された、柄の兜金(かぶとがね)に神楽鈴をあしらった2振りの(つるぎ)を構えて、シスター・テレサを入れ替わり中央に立ち入った。


 姫様が神楽鈴剣(かぐらすづるぎ)を振り構えて宴は始まった。


 その(つるぎ)の柄の先には、兜金(かぶとがね)の代わりに神楽鈴が装飾され、

 その兜金(かぶとがね)に垂れる露紐(つゆひも)には、代わりに鈴緒(すずのを)がたなびき、

 その剣先には、(もり)矢尻(やじり)を連想させる、本来は鞘の先に(こしら)える石突(いしづき)打ち付けられていた。


 シャシャンと舞降(まいふ)る鈴の音に添い従うポロロンっと弦を撫でる(こと)()と、弾くブリーイッドの(うた)は連なる月光と伴に夜空を染め上げる。


「永遠の安息を、()のモノ達に与えたまえ。かしこよりこの世に降り立ち、この世の為に勤しんだモノ達よ。かしこへ還りませう。この世は(みな)を讃えます。己が行いに悔いるモノよ怯えるなかれ。この世は(みな)(ゆる)しませう。此処に光を照らし(しるべ)を掲げませう。(かしこ)まるることなく迎えられませう」(※せう=しょう)


 (こと)(うた)の響きは祝詞であり、神楽鈴剣(かぐらすづるぎ)を振りかざす姫様の姿は神楽舞。


 ()(うた)と舞が少しずつ高く速く鋭くなるに合わせて、八芒星結界の光が天高く輝きを増し、何処(どこ)からともなく光の(たま)が浮き上がる。


 == 光は、蛍の様に漂い、花火の様に打ち上がり、雪の様に降り注ぐ。 ==


 この幻想な光景。

 そう、この(うたげ)鎮魂歌(レクイエム)



 和楽器で洋楽、神楽鈴に西洋剣、奉納の舞は云ってしまえばヨサコイ祭り踊りに近い。

 色々と混ざりに混ざった宴は突っ込み処が満載だけど、なにより幻想で神聖な場景(じょうけい)は、そうそうに崇められない。



 ジャジャン!!

 宙を舞う神楽鈴剣(かぐらすづるぎ)が地面に突き刺さり、(かな)でが止んだ。


「さぁ。かりそめなりし今宵、おもふるがままに」


 姫様がそう言って両腕を軽く広げると、光の(たま)の幾つかは集まった人々の元へと流れて行った。


 萃まった魂は、集まった人々の元へ別れのを告げるために、漂いなびく。

 そして周囲からは喜怒哀楽な感情が広がった。


 シャシャンと鈴の()が鳴り響き箏の()と伴にブリーイッドが(うた)い語る。


「この世を支えた()のモノ達よ。常永久(とことわ)に安らぎを求むれば、光の柱に委ね委ねて、かしこへ還りたもう。見送る者達よ、()を身に(まと)()を継ぎ伝えたれ。さぁ皆を称えたまえ讃えたまえ」



 姫様が神楽舞を再開すると、八芒星結界の光の柱はより輝き、より(きら)めき天空高く立ち上った。



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